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第13話 エピローグ

 あれから数週間が過ぎ、すべてを消せる僕の、守らなければならない日常が始まった――


 火事は大雨のせいもあって大事には至らず、数日もすると街の機能は完全に復帰していた。ニュースで見る限りでは、奇跡的なことに死傷者はいなかったようだ。それは単なる偶然なのか、それとも日野はそうなるように(あざな)を使っていたのか……。知る由もなかった。

 ゆかりさんはあいかわらずずっと休んだままだった。僕の孤独な生活も変わらず、教室の中ひとりでいつも同じパンを食べ、本の世界に没頭する。


 校舎からの帰り道、あの日と同じように街路樹の影で待っていたゆかりさんと再会した。今日の彼女は学生帽をかぶってはいない。色々なことが起こったが、彼女はだいぶ回復して元気になっているように見えた。

 ゆかりさんが静かな声音で尋ねてきた。


「髪の毛、染めたままなのね」

「ああ……」


 僕は髪を染めて自分を隠して、普通の人間の振りをしているのだろうか?

 いつもしていたように、駅までの帰り道を二人で並んで歩く。彼女は話し始める。


「あのね、あのあと彼、放火の罪で自首したんだよ」


 (あざな)の力が法で裁けるのかどうか、僕にはわからない。けれども彼の想いはよくわかる気がした。


「今ではいろんなことが間違ってたんだってわかる。でも私、彼のこと待ってみるつもり……」


「そうか……」


「ごめんね、私、忍君に迷惑ばかりかけちゃったね……。それと」


 ゆかりさんは一筋の涙をこぼすと、ぎこちなく微笑んで言った。


「本当にありがとう」


 いつのまにか、駅の階段前まで来ていた。僕とゆかりさんはそのまま別れる。僕は彼女の背中をいつまでも見送っていた。


 僕の恋は終わった。

 正しい世の中の影で、傷つき泣いている人がいる。だけれど人はもっと優しくなれるはず、もっと愛を出せるはずだと信じたい。

 なぜなら花を愛するのも人間だけなのだから。

 そして僕は39段の階段をのぼりながら、ほんの少しだけ泣いた。


<了>


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