第1話 プロローグ
あなたに世界を滅ぼす力があるとしたら、あなたはそれを使うことができるだろうか。
それは核兵器の発射ボタンでも何でもかまわない。
もし目の前に世界を滅ぼす力があるとして、果たしてそのボタンを押すことができる人はいったいどれほどいるのだろうか。
例え世界が狂っていたとしても、自分の命も、倫理観も、愛する人も――全てを捨ててしまうことができる人などいるはずもないんじゃないだろうか。
自殺志願者か、狂人か、それとも独裁者か……そんな今にもくずおれてしまいそうな人間ではなく、それでも世界を滅ぼしてしまおうとする人間がいたら、それは本当に純粋な、そして孤独な人間だけなのかもしれない――と、そう思っていた。
僕は字という、全てを消してしまう力を得た。
友達も恋人もいない孤独な人生で、そして人間なんか全て消えてしまえばいいと思って生きてきた。それが子供じみた物だとしても、辻褄の合わない正義で平然と人を傷つける、そんな人間なんかみんな、消してしまいたいと思っていた。
その方がよっぽど世の中は平和になるんじゃないかとさえ思っていたから。
けれど、それでも世界は滅ぼさなかった。
僕は世界を滅ぼしてしまえるほどに、純粋ではなかったから――
だけれど僕は今でも悩んでいる。全てを消してしまう力など僕には重すぎたとしても、それでもその重荷にずっと耐え続けている。
せめて誰かにひとつだけ願いを言えるとしたら、誰か一人だけでもいい、どうか倒れそうな僕に、ほんの少しだけ手を差し伸べて欲しいんだ。
僕が世界を滅ぼしてしまわないように――