98. 冬季休暇 (13)
98話目です。
ザクッザクッザクッと雪道を突き進んでいく。
かれこれ3刻ほど経っただろうか?
不思議なことにこれまで一度も北区の魔獣を見かけていない。
往路は戦闘になるかは別としても、結構な頻度で見かけていたのに。
原因は多分、マイカさんとマイクさんが僕たちの周囲に2人して結界を張っているからだ。
魔獣との戦闘などせずに、少しでも早く精霊の街から距離を置こうとしているようだ。
マイクさん達が精霊の街を出立する前に、ヴィーの体が軽くポンポンとされていたのを見たのが、ショックだったのは判る。
でも、マイクさん⇒マイカさん⇒ロベルトの順に、休憩を取るごとにヴィーの両の脇下を持って、体重の確認をするのはやめてあげてくれないだろうか?
特にロベルトは、やめろ。
判っているのかいないのか、その度にヴィーの機嫌が悪くなっているのに。
更に2刻ほど雪道を進み、6人は北区の一番奥まった場所に行き着いた。
一番奥まった場所ではあるが、陸路では一番安全に東区まで抜けることが出来る路があるそうだ。
マイクさんが、子供を連れていくならこのルートであろうと目星をつけて往路として使った場所。
これ以上進むのは時間的に無理があると判断し、野営をすることになった。
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魔術で土を盛り上げ、6人が寝ても余裕がある広さの野営場所を設営した。
その場所一面に往路で使った、シープのフワフワの毛を敷き詰め、竈を二つ作り火を起こす。
ヴィーはニコニコしながら、スパイシーな香りのするスープを温めている。
食欲を刺激する香りが、辺りに漂う。
ヴィーの動きを目で追っていたマイクが言った。
「ヴィー、白飯はダメだよ。」
マイクから白飯禁止令が!
「ええっ?!な、何故?!私はカレーはご飯が良いよ!」
「ダメ!」
「マイカ姉まで?!何で?!」
カレーにはご飯派のヴィーは、ちょっと涙目で抗議。
「大丈夫だと俺たちが判断を下すまで、精霊の街で採れた米は禁止だ。」
眉間に皺を寄せて、真剣な顔で指示する。
「そ、そんな!米・・・・禁止・・・!!」
口を片手で覆い、目を見開いてブルブル震えてショックを受け、がっくりと膝をつく。
まさにorz。
「あ!ちゃんと!ちゃんと訳を話すから!そんなにがっかりしないでくれよ!な?ヴィー?」
あまりの落胆ぶりに、慌ててフォローを入れるマイク。
米?白飯?何それ?なスイゲツ達には、ヴィーとマイクのやり取りはさっぱり判らない。
それは心配する場面?笑う場面?それすらも判断つかないので、傍観するしかない。
「取り敢えず、食べようか?パンはあるんでしょ?ヴィー?」
「うん、判ったマイカ姉。パンを配るよ~」
マイカの声に、さっきまで半泣きな顔と悲壮感を漂わせていたヴィーは、ケロッとして笑顔で魔道具のバッグからパンを取出し配っていく。
必死でフォローしようと構えた状態で放置されたマイクは、ちっと小さく舌打ちした。
何、この人達。
入る隙がない。
スイゲツ達は、ショートコントのようなヴィー達の小芝居をジト目で見ていた。
食事を終えた後のお茶を飲みつつ、マイクが性急に精霊の街を離れた理由を話す前提として、ヴィーに確認を取った。
「ヴィー、スイゲツ君たちに話しても良いのか?」
「帰ったら学院にも申請しなきゃならないんだから、良いよ?」
「・・・そうか、両親には?」
「そのうち会うことになると思うから、両親にはその時に話そうと・・・・あ、逆のが良いかな?両親なら言えば判るだろうし。それに学院に説明する時何で判ったのかも言わないといけなんじゃないかな?検査で判るわけじゃないみたいだし・・・・精霊の街の事まで話さないといけなくなると困るんじゃない?」
「・・・・そっか、そうだよな。それだと、ここからジオターク村は逆側になるな・・・判った。ジオタークには、俺とヴィーで行こう。マイカはスイゲツ君たちを王都中央まで連れて帰ってくれる?」
「・・・・了解。」
そして、精霊の街で判ったことをマイクは説明し始めた。
ヴィーには先祖に精霊がいたようで、先祖返りらしいこと。
そのため、現在は女でも男でもない中性な存在であること。
性別は成人を境に自身で選ぶことになること。
精霊の土地は未成年には少なからず影響を与えるが、精霊の血が入っており尚且つ先祖返りのヴィーにはかなりの影響を及ぼしていた。
あのまま精霊の街に居続け、精霊の加護の強い食事を採り続けたらヴィーの中の精霊の血が活性化し、ヴィー自身が精霊化する危険があったと。
既にふわふわと気を抜くと浮いてしまったり、体が透けてくる状態は精霊化する初期の段階らしかった。完全に精霊化すると元の人間に戻るのにかなり時間がかかる。どうかすると、戻れなくなるかもしれなかったと。
かなり危機的状況だったことに、ヴィー本人も心なしか顔色が悪い。
精霊化初期段階を目の当たりにしていたスイゲツ達は、少し肝を冷やした。
だから、あんなに性急にあの街を出てきたのかと納得し、ヴィー自身も体が安定するまでは、精霊の加護の強い米を控えることを了承したのだった。
一通りの話しを終え、明日から二手に別れるということで、食料などを人数換算し、二つに別けその一つをマイカに渡す。
明日からマイカたちと別れるにあたって、気になっていた事をヴィーは聞いてみることにした。
「ねぇ、マイカ姉?もしかして長のキミドリ様に求婚とかされた?」
ぶ――――っと含んでいたお茶を吹き出したのは、マイカではなく、ルーフェスだった。
何で、ルーフェスがそんな状態になるのか判らない、ヴィーとマイカは一瞬そちらを見たがすぐに話題に戻った。
何となく事情が判ったスイゲツたちは、ゲホゲホとむせているルーフェスの背中をさすったりしていた。
多分、ウィステリア家の嫁候補が一度に2人いなくなってしまう事に焦ったのだろうと察する。
ヴィーは仕方がない、事情が事情なのだし、今は無理なのはどうにも出来はしない。
だがマイカの事は、ヘタすると兄のイザークが話す前に嫁入り先が決まってしまうかもしれないからだ。
「長には、求婚はされてないよ?万が一されてもなぁ・・・だって、あの人はまんま精霊じゃない?人間の私とは無理でしょ?」
「でも、精霊の血が流れてる私がいるんだし、実際いたじゃない?混血の人たちが。」
「あれは、実体化出来る精霊の話しみたいだよ?実体化出来ない精霊もいるって言ってた。」
「長は・・・・実体化出来ないの?」
「・・・・さあ?」
マイカ自身は、あまり長には思い入れがないらしい、不憫。
そんなヴィーとマイカの会話を聞き、これは兄のイザークが話しを持って行くまで待っていてはダメだと危機感を煽られたルーフェスは、意を決して自分がマイカに話そうと思った。
「マ、マイカさん!お願いがあるんですが!」
いつになく大きい声を上げたルーフェスに皆が驚く。
「い、一度王都中央にロベルトたちを送った後で、お、お暇がありましたら!ぜ、ぜ、ぜひ、我がウィステリア家に起こし頂けないでしょうか?!マイカさんは、イザーク兄上を怖がられないと伺いました!ウィステリア家には!マイカさんのような女性がひ、必要なのです!我がウィステリア家に、マイカさんのお眼鏡に適う男子がいるかは不明ですが!ぜひ!一度!一族の独身の者に会っていただきたいのです!失礼は!重々承知していますが!我がウィステリア家を助けると思って、一族の男子にマイカさんにお会い出来る機会をく、く、下さい!!」
つっかえながらも、間を置かずに一気に言いたい事を言い切ったルーフェスはそれだけで息も絶え絶え状態。顔を真っ赤にして、はーはーと肩で息をしている。
「えー・・・?要約すると、ウィステリア家に行って一族の独身の男の人に会えって事?」
ルーフェスの急な申し出に、意味を判ってるのか判ってるのか、キョトンとして答えを返すマイカ。
はっきりとした目的を言わなかったので、肝心な事は伝わっていないようだが、多分ルーフェスは気がついていない。
「・・・・・・・是非!お願いいたします!!」
「「「「「!!!」」」」」
勢いのまま、ルーフェスはその場で土下座をした。
「会ってくれってを頼むだけなのに、土下座しちゃうの?ルーフェス。」
「何か、必死だな。」
「でも面白そうだよ。」
「どーすんの?姉貴?」
自分の事ではないためか、周りのマイクたちの反応は通常運行。
マイカはマイカで、ウィステリア家の独身の男子限定で、手合わせでもしてくれるのかな?
それは、ドキドキワクワクするかもしれない!とか考えていそうだ。
「判った。次の仕事のことがあるから、あまり長居は出来ないけど・・・それで良いかな?」
「はい!勿論です!!」
他にかっさらわれる前に、一族の独身男に会って貰える機会を自分で勝ち取った喜びで、笑顔全開なルーフェス。
(やった!やりました!イザーク兄上!俺は頑張りましたよ!)
「なら、王都中央に一旦戻るなんて時間の無駄だ。このままウィステリア家に行けば良い。俺たちも行くぞ!良いよな?ルーフェス!」
「勿論、僕も行くからね?」
「・・・・え?俺の家は構わないだろうが・・・実家に帰らないでいいのか?」
「「良いんだ!!」」
((面白そうなのに、見逃してたまるか。))
何やら、ウィステリア家に皆で行くことが決まったらしい4人の様子に、そちらの方が面白そうだなと思いながら、マイクも気になるのではとチラっとマイクを盗み見るヴィーに、
「こちらの優先順位はヴィー自身の事だ!マイカの事は、後で聞きなさい。」
と叱られてしまった。
自分のために余計な手間を取らせることに罪悪感があるし、時間をかければ一人でも家に帰れるだろうと思ったので、マイクをあちらへ同行するように促そうと思った。
「マイク兄?私だったら、一人でも実家に帰れるから・・・マイカ姉の方・・・」
「ヴィー。」
遮られた。
「俺の優先順位は、こっちだ。判ったな?」
「・・・・・うん、判った。」
マイクの真剣な眼差しと言葉に気圧されて、それ以上反論は出来なかったヴィーは頷いた。




