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理不尽な!?  作者: kususato
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97. 冬季休暇 (12)

97話目投稿です。

 精霊の街を拠点にして、マイクさんとマイカさんの助言を受けつつ、北区の魔獣相手に戦闘を学んだ。


 はっきり言って、要求することが半端なくレベルが高い。

 最初は言っている意味すら判らなかった。

 意味が判っても、全然体が動かなかった。

 ルーフェスが辛うじてついて行けてる。


 腹の立つことに、ヴィーはそれを淡々とこなしていく。

 というか、(むし)ろ調子が良いように見える。


 「はあはあ・・・はっ・・」

 「大丈夫か?スイゲツ?」

 

 ヘタって戦前離脱している僕に声をかけてくるのは、先日の夜以降に悩みなんかすっかりどこかにすっ飛ばしたかの様な、元気いっぱいの魔狼ことイズモ。

 現在はずっと人型のままだ。


 ここは見渡しても、雪と雪に覆われた木々と岩ばかりの場所。

 強力な結界の中なので魔獣はやって来ないが、雪で足が取られて思うように動けないから体力が削られる削われる。


 「ヴィーは何であんなに動けるのかなぁ・・・精霊の街に来る前よりずっと動きが軽やかに感じるだけど・・・・イズモから見てどう?」

 「え?ああ、うん。軽やかっていうか、滑らかだよな。精霊の土地の影響をモロに受けてるんだろな。スイゲツたちだって受けてるだろうけどさ。」

 「・・・・うん。」


 そうなんだ。

 確かにマイクさんとマイカさんの指示通りに動くのはきついけど、以前だったら要求されても出来ないことが出来るようにはなっているんだよな。

 それは実感出来ているのだ、ほんの少しずつだけど。

 これがイズモのいう、精霊の土地の影響なのかな?

 ヴィーはよっぽどこの土地との相性が良いって事か?


 「スイゲツ。」


 サクッサクッサクッ

 雪の上を歩いてくるヴィーの足取りも、軽い音しかしない。

 僕たちより体重が軽いのはわかっているけど、こんなに違うものなのだろうか?


 「そろそろ、今日の訓練を終わりにするって、マイカ姉が言ってる。」

 「・・・・ああ、うん、判ったよ。」


 まるで少しも疲れてなどいないように、ふわりと微笑んでいる。

 髪がユラユラ(なび)いているのは、少し風があるからだろうか?

 肌なんか透き通るように白く見える。

 不安が心をよぎり、自分の顔が険しくなっているのが判る。


 「・・・・・・」


 ねえ?どうしたの?ヴィー?

 雰囲気まで違って見えるのは、気のせいなのか?

 王都中央に戻れば、いつもの飄々として、ちょっと毒舌っぽい君に戻るよね?

 ここに来てから、時々変な不安が浮かんでくるんだ。


 イズモに言って仕方無い事だし、この得体の知れない物を感じてるのは僕だけなんだろうか。

 マイカさんとマイクさんに聞いてみても良いだろうか?



 


 「え?ヴィーの様子がおかしい?」

 「どこがおかしいとは、はっきりとは言えないんですけど・・・雰囲気というかなんというか。」


 早く変な不安を取り除きたくて、帰り道にマイクさんへと切り出してみたものの、具体的な何かを提示出来るわけでもなかった。

 でも、笑ったりせず、僕の気のせいだとも言わないで、真剣に聞いてくれている。

 マイクさんも何か感じていたのだろうか?



 「・・・・・すみません、うまく説明できなくて・・・」

 「・・・・」


 「イズモの話しとかだと、精霊の土地の影響を僕たちも受けてるだろうけど、ヴィーはモロに受けてる様な事言ってましたけど・・・・そのせいもあったりするのかな?」


 「えっ?!何?それ?どういう事?!土地の影響?初耳だよ?俺!」

 「そうなんですか?僕もさっきの訓練の時にイズモにちょっと聞いただけなんですけど・・・」


 そういうと、マイクさんは急に険しい顔つきになって「チャーさんに確認してくる」と言って、自分たちには借家に先に帰るように指示すると、マイカさんを連れて足早に去っていった。




 借家に帰る道すがら、ヴィーとイズモは楽しそうに雑談している。


 精霊の土地は、外の世界の季節に関係なく常に春のような感じで、花なんかも色取り取りに咲いている。

 周りにいる実体化している精霊も、ふわふわと半透明の精霊も、すれ違い様に僕たちに挨拶してくれたりしている。

 その時に、ヴィーとイズモにも笑いかけたり、頭を撫でていったりと、親しく接してくれている様子を見るに付け、何でもないような気にもなってくる。


 自分が気にし過ぎなのか?

 でも不安は拭いきれないと、歩きながらも話している2人を横目で見る。

 視線を少し下に向けた時、


 「!!」


 浮いてる?

 地面に足がついてない?!

 魔術を使ってる・・・ようには見えない。


 「ヴィー!体が浮いてるよ!?」

 「えっ?・・・・・・あれ?ほんとだ。」


 ふわりふわりと確実に浮いている。

 見間違いじゃない。

 ヴィーの周りに柔らかな風がそよいでいるかのように髪が揺れ、体が時折、透けて見えた。

 

 僕は、ヴィーの手を取って借家まで走っていた。



 **********************

 

 宙に浮いていた私を見て驚いて焦ったのか、スイゲツがいきなり手を掴んで、借家までノンストップで走り抜けた。

 呆気に取られていたルーフェスとロベルト様も私たちの姿を見て、2拍くらい遅れてついてきた。

 イズモは、「また後でな~」とのほほんと手を振っていたので、振り返しておいた。


 借家に着いて、少々乱暴に扉を開けて4人が中に入ったのを確認すると、勢い良く閉めた。


 「もうもうもう!もう!何なの?それ?どうしたんだよ?!何で浮いてんの?!」

 「え~・・・私にもさっぱり・・・・スイゲツ達は何でもないの?」

 

 私の問いに、スイゲツ、ルーフェス、ロベルト様はお互いの顔を見て確認し合うが何ともないらしい。

 私の目にも異常は見て取れない。

 とすると、

 「私だけ?」


 そう言うとゆっくりと地面に降りた。

 「・・・・・自分の意思で浮かんでいたんじゃないのか?」

 ロベルト様が言う。

 「いえ、今は意識して地面に足をついてます・・・・でも、気を抜くと・・」

 再びふわりと体が浮く感じがする。

 「あ・・・・!」


 無言で、ルーフェスが浮き上がる私の体をガシッと掴んだ。

 そのまま片腕に乗せる形で支えた。

 所謂子供抱っこ・・・!

 体格差があると言ったって、いくらなんでも片腕一本では普通は無理なはずだ。

 ルーフェスも驚いて私を凝視している。


 「ヴィー・・・・お前、羽のように軽いぞ?」


 これだけ聞いていれば砂吐くセリフだが、ルーフェスの表情はまるで未知の生物を見る顔だ。


 スイゲツが焦った顔をして、ルーフェスから私を奪う形で抱き抱えた数瞬後、顔色を青に変えて聞いてきた。


 「・・・!!」

 「体重をどこへ忘れてきたの―――――――?!」


 いやいや、何言ってんの?!

 どこにも忘れてないよ。忘れられる物でもないよ。


 「そんなに軽いのか?どれ、俺にも試させろ。」


 あんたも何言ってるかな?

 両手を広げて、さあ来い状態で待機するロベルト様の顔は、好奇心が全面に出てワクワクしている。


 それに対してスイゲツは、

 「ロベルトは抱っこしなくて良いよ!」

 「何だと?ルーフェスだって抱っこしたじゃないか!俺だけ仲間外れはずるいぞ!」


 抱っこ抱っこ言うなし。

 っていうか、仲間外れって・・・・何か違う。


 「・・・・そんなに言うなら、はい。」


 えっ?!はいって、渡すのか?!

 渡しちゃうの?スイゲツ?!

 予期しない出来事に、冷静な判断を下せてないのか?

 それとも、混乱してる振りして、遊んでいるだけなのか?


 「おおお~っ!軽い軽い!全然力を入れていないのに、ポンポン跳ねさせられるぞ!」


 ロベルト様は、絶対後者だ。

 さっきまでは心配していたのだろうスイゲツとルーフェスもちょっと、おお!という顔で見ている。

 お前たちの心配は持続しないのか・・・?



 そんなこんなで焦ったり困惑したり遊ばれたりしているうちに、マイク兄とマイカ姉が帰ってきた。

 相当急いで走ってきたのか、2人とも肩で息をしている。


 家の扉を開けた途端に、私がロベルト様にポーンポーンと軽く飛ばされる光景を見て絶句していた。


 何をしているかは問わずに、真剣な顔で言った。


 「支度が整い次第、ここを立つ。皆、準備をしてくれ!」

 


 マイク兄の言う通り、荷物を整え、数日間お世話になった礼と暇乞いを精霊の長たるキミドリ様にした後に街を出た。

 その際、急な出立の知らせと別れに、悲しそうにマイカ姉を見つめるキミドリ様とその内会いに行くからなーと元気に手を振るイズモとの対比が酷く印象的だった。


 キミドリ様はやっぱりマイカ姉にご執心なのだろうな、わかりやすいもんなあの人と思ったり、イズモには多分匂いで捜される事になるのかなぁとかと思ってはいたが、私もイズモに「待ってるよ~」と手を振り返した。

 

  

 精霊の街から離れるに従って、徐々に体が浮くことはなくなってきた。


 だからといって、自分の体が重く感じることはなかったが、ロベルト様に残念そうにこちらを見られるのは若干鬱陶しい。

 そんなに人をポンポンするのが楽しかったのか!

 ルーフェスもこっそり手をわきわきさせるな!

 スイゲツは安心したのか、雪道でもニコニコしていた。

 やっぱり友達だよね!スイゲツ!



 気になるのはマイカ姉は笑ってはいないけど、こちらを観察しているみたいな事。

 マイク兄に至っては、ずっと眉間に皺が寄っていて顔が強張っていた。


 それは北区の雪道と魔獣を警戒しているだけではないように感じたから。

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