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理不尽な!?  作者: kususato
95/148

95. 冬季休暇 (10)

95話目投稿です。

 僕に名前の話しを唐突に振ってきた”イズモ”は、急に黙り込んで俯いてしまった。

 その俯いた頭をヴィーは首を傾げながら撫でてる。


 どうするんだ?この空気。

 何か、すごく重いんですけど。


 困って、ロベルトとルーフェスの方を見たけど、2人とも困って困惑してるだけだ。

 この魔狼が僕たちに敵意を持って何かをするような感じは、今の所ないみたいだけど。

 いくら仔狼の姿が可愛いからって、何でそんなに警戒心がないんだよ!

 魔狼なんだぞ!喋ったりしてるけど!



 「イズモは、前に成獣になったらやりたい事があるって言ってたよね?今、スイゲツに話した事って何か関係あるの?」


 ヴィーが、魔狼の頭を撫でながら静かに(たず)ねている。

 何となくそうじゃないかと思っていたけど、やっぱりここに来る前にこいつに会ったことがあるんだ。


 何時、どこで魔狼と会ったのか?

 僕はそんな話し全然聞いてないんですけど!

 しかも、何だよ。

 膝抱っこして、頭なでなでなんかしてさ!

 いや別に、僕にして欲しいとか、嫉妬とかじゃないけどね!

 何か腑に落ちないというか・・・・面白くないというか・・・・

 

 「関係あるって言えばあるし・・・ないって言えばないかもしれない・・・」

 「情報が欲しいなら、まずは何の情報が欲しいのか相手に伝わらないとお互いに困るだけだよ?」

 「信用もないのに、教えてくれるとは思えないし。」

 「隅から隅まで全部話せなんて言ってないよ?それとも、この話題事態を終わりにしたい?なら、もう聞いたりしないよ?」


 ヴィーってば、相変わらずサクッと切るよな。

 あんな風に言われちゃうと、もっと突っ込んでみても良いような気もするんだから不思議だな。


 「なんじゃ?イズモ?聞くだけ聞いてみたらどうじゃ?この街に来るまで、お主はあまり人間と話せる機会がなかったのじゃろう?」


 チャーさんの言葉に、はっとしたように魔狼は顔を上げて彼を見た。


 そう言えばいたんだ、この人、いや精霊か。

 デカいのに存在を忘れていたよ。


 精霊の街の来るまで人間と話したことがない?

 そりゃそうだろ、僕だって他の土地で魔狼に会っても全力で逃げると思うし。

 と言う事は・・・・ヴィーは逃げなかったのかな?

 なんて思っていたら、奴が何やら決心したみたいな目をしてこちらを見た。


 「・・・・笑っても良いから、俺の話しを聞いてくれ。」

 そう言って、魔狼は話しだした。


******************


 

 驚いた。

 仰天至極。


 今の自分になる前の記憶を持った、所謂”記憶持ち”のことは僕も話には聞いたことはある。

 でも、それは本の中の人物だったり、どこかの誰かという遠い存在だった。

 記憶持ちがどこかにいることは理解してはいても、実際に目の当たりにしたのは生まれて初めてだ。


 しかもそれが、この魔狼?

 地球という星の・・・・星?星って夜空にあるあの星か?

 日本とういう名の国の普通の人間(・・)だったって?

 ちょっと理解が追いつかない。


 そして、何より驚いたのが、僕の名前と魔狼の呼び名。


 ”水月”と”出雲”。


 冷めたお茶に前足を突っ込んで、ちょっと出した爪で器用にテーブルに書いてみせた”漢字”。

 

 何故、魔狼が知っている?

 この漢字というのは、僕たち一族特有の物なはずだ。

 ホルド家一族に代々伝わっているこの漢字は、本来かなりの数があると聞いているけど、今は生まれた子供の名前にしか使われていない。

 しかも世間では認識されていないから、暗号のような扱いをたまにする程度だ。


 「・・・・何で、知ってるんだ?”漢字”を。」


 「”日本”で日常的に使ってたんだ。漢字全てを使っていたわけじゃないけど・・・全部ってどのくらいあるのかな?常用漢字だと1945字くらい・・・だったかな?他の漢字圏の国のを合わせたりしたら、もう判んないな。」


 「常用漢字?1945字・・・・・?」


 自分の家特有の物だと思っていた、秘密とも言える事柄が魔狼の前世が関わっている?

 

 地球という星?日本という国?

 僕に知らされていないだけで、父も母も兄の知っていることなのだろうか?

 魔狼に対して僕はどう答えたらいいのだろう?

 僕には答える術がない。

 

 「ごめん、僕はあまり良く知らないんだ。」


 僕にはそう答えるしかできない。

 魔狼は僕をじっと見ていたけど、怒ったりはしなかった。

 ただ、「そっか・・・・」と言っただけだった。


 「それで?結局イズモは何を聞きたかったの?」


 ヴィーは、僕にみたいに動揺してないから普通に話を続けるんだな・・・・

 


 「・・・・俺みたいな記憶を持つ奴と話しがたいんだ、ほんの時々で良い、実のある話しなんかで、なくて良い。下らないことでも良い、懐かしさを共有出来る、相手を見つけたい。だから、そういう記憶を持った者の情報が欲しいんだ。知らなくても怒ったりしない・・・・それこそ駄目で元々なんだ。知っていたら教えて欲しいんだ。」


 「”地球”という星?の”日本”という国の記憶を持つ、記憶持ちの情報が欲しいって事でいいんだな?」

 「ああ。」

 「ルーフェスは、知っているか?」

 「そこまで具体的な話は・・・・俺には聞いた事がないな・・・。」

 「そうか・・・イズモ、ルーフェスは聞いてのとおりだ。残念だが、俺も同じなんだ。すまんな。」


 ロベルトとルーフェスはついて行け無さ過ぎるのか、口も挟まないなと思っていたら、ちゃんと聞いていたみたいだ。


 「・・・・いや、ちゃんと聞いてくれて・・・・答えてくれてありがとう。世界中を回ってでも、見つけるから!」


 「・・・・・・話しをしたいだけなんだ・・・?」


 ヴィーがそう呟いた時、家の扉をノックする音と共に声がした。

 「ヴィー?みんなは起きたのか?」

 「・・・・・」

 僕たちが遅かったからなのか、マイクさんがこちらの様子を見に来たようだ。

 「ヴィー・・・?いないのか?」

 「いるよ!皆ももうおきてる。入ってきて良いよ!」


 扉を空けるとマイクさんが入ってきた。

 マイカさんは・・・いないな。


 「あれ?マイカ姉はどうしたの?」

 「長を何とかするように言って、置いてきた。」

 「・・・・まだ、機能停止してたんだ、長。」

 「ああ、3人が起きたんなら、精霊の街の長に挨拶はしておかないとな。」

 「・・・・そうだね。」 


 そうだった!

 迂闊!

 この街の(ちょう)に挨拶もしないでここに寝かせてもらったんだった!


 

 ******************


 スイゲツ、ルーフェス、ロベルト様はマイク兄とチャーさんに連れられて、精霊の長のところへ挨拶に行った。

 既に挨拶を済ませている私は、この家にイズモと一緒に待つことにした。

 さっきのスイゲツとの話しで、少し落ち込んでいるいる様子のイズモに聞いてみる。


 「ねえ、イズモ。記憶持ちってさ、その人によって記憶の度合いが違うって知ってる?」


 「記憶の度合い?」


 「そう、前世(まえ)の記憶を鮮明に覚えている人とかは稀で、ほとんどが断片でしか覚えていないんだ。それこそ、人それぞれなんだ。どこの国の生まれで、どこで育ったかっていう自分自身のことは覚えていないくて、生きてきた経験で得た知識しかなかったり。」


 「生きてきた経験で得た知識?」


 「うん、例えば”歌”だったり、”踊り”だったりとかだよ。イズモは、前世をほとんど覚えているの?前の自分事も?」

 「・・・・全部覚えてるとは言えないけど・・・かなりの事を覚えてる。自分の事も含めて。」


 そうか、前の自分の事も覚えて転生してきたんだね。

 そりゃ寂しくもなるか。哀しくもなるよね。

 体が違うだけで、頭の中身はほぼ元のままなら、異世界転移というかトリップしたのとそう変わらないんだものなぁ・・・。 

 

 前世の自分自身のことはまるっきり覚えていなくて、経験で得た知識は結構持っていても、それは小さい頃から見ていた夢の中の出来事として蓄積してきた私では、本当の意味では多分理解出来ない。

 この前世の記憶だって、マイク兄とマイカ姉と話して初めて前世の記憶なんだと認識したくらいなんだもんな。

 

 

 でも、イズモは話しがしたいだけなんだよな?

 だったら、私でも大丈夫かな?


 それとも、記憶持ちではなく、異世界転移してきたマイク兄とマイカ姉とか・・・・・ああ、父様みたいな人の方がイズモには嬉しいだろうか?


 

 ・・・・・どっちでも良いかな。

 

 郷愁の想いには、私自身は共感する事は出来なけど、他愛ない話しなら、みんなですれば良いんだものな。


 「なあ、イズモ。イズモの言う条件には当てはまらないかもしれないけどさ”地球”の”日本”ことについてだったら、私とマイク兄とマイカ姉と話そうか?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・・はっ?」


 イズモの体が一瞬硬直したあと、恐る恐るという感じに見上げてきた。


 「あれ?聞こえなかった?あのね、”地球”の”日本”ことについてだったら、私とマイク兄とマイカ姉と話そうかって言ったんだよ?」


 「・・・・・・・・・・・・・・・えっ?」


 見上げたままの姿勢でもう一度聞き返してきた。


 「耳の通りが悪くなったかな?さっきまでは普通だったのに・・・・・・”洗濯”してみる?」


 「!!けけけけけ、け、結構です!ご遠慮申し上げます!!・・・・って、ヴィー!!」

 「何?」


 あれ?イズモが面白い顔をしてる。

 笑いたいのか、泣きたいのか、怒りたいのか・・・・どうしていいのか判らなくてグチャグチャしてるような・・・・・顔。

 狼の顔なのに・・・・・


 「随分、器用な顔を作れるんだね?イズモは。」


 「~~~~!!!#%;:@、m;:、、@¥!!!!!」


 「何言ってんのか判らないぁ・・・あ、一つ言っておくけど、寺社仏閣とか出雲大社については知識がないから語れないよ?」


 「!!!!!!ぎゃおおおお――――――――――――ん!!」


 ドタドタン!バダン!

 「えっ?!」


 「ぎゃおおおおおおおお――――――――――――ん!!」


 雄叫び?いや、遠吠え?とにかく喚きながら、壁とかテーブルとかあちこちに体をぶつけたりして、家から飛び出して行っちゃったけど。


 ・・・・・・・・・・・・・・・一体、どうしたのかな?イズモは。

 

年末お掃除とか、ちょっと多忙になってきました。

3、4日お休みします。皆様、良いお年を~。

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