94. 冬季休暇 (9)
94話目投稿です。
ぼんやりと意識が浮上してくる。
久しぶりにゆっくり寝れた・・・気がする。
ここ来るまでは寝れたと言っても、やっぱり何処かで気を張っていたんだろうなぁ・・。
「ふあ・・・」
向こう側には、ルーフェスがまだ寝てる。
じゃあ、その向こうに見えるのはロベルトか・・
あれ?ヴィーは?
視線をウロウロさせてちょっと下をして見て・・・・!!
「?!!」
魔狼・・・?!
え?なに?どうしてこんな所で、僕たちと一緒のベッドで寝てるんだ?!
ヤバイな・・・・気づかれないうちにこの家からでないと!何されるか判んないじゃないか・・・!
「~~~・・・ルーフェス。ルーフェス!」
出来るだけ小さい声で、魔狼を起こさないようにしないと。
「ルーフェス・・!起きて!ルーフェス!」
「・・・・?う・・スイゲツ?」
「シー・・・声を小さくして!」
まだ眠たげなルーフェスに、人差し指を口元にあて、喋らないように合図し、そして魔狼を指差して状況を教える。
「!!」
さすがにルーフェスでも驚いたのか目を向いていた。
そりゃそうだよな、驚かないはずがない。
つい先ほどまで、マイクさんと同等に戦闘していた魔狼だ。
僕たちでは敵わないのは、判りきっている。
「声を出さないで、あんまり大きく動かないで。ロベルトが後ろにいるから起こして・・・!」
ルーフェスが後ろのロベルトを首だけを動かして確認して、了解とばかりにこちらを見て頷く。
ヴィーがいないのが気になるけど、取り敢えず僕たち3人は仮眠を取っていた家から物音を出さないように細心の注意を払い、荷物を持って抜け出した。
家を抜けた後は、出来るだけあの家から離れようと走り出そうとした。
「おれ?スイゲツ?ああ、3人とも起きたんだね?良く眠れた?」
とか言う、暢気なヴィーの声が聞こえた。
ちょっと待て。
ヴィーは怖がってないみたいだな?
あのベッドで目が覚めたのは、ヴィーが一番最初だったはずだ。
ヴィーは知らないのか?あそこに魔狼がいるのを?
ヴィーが出て行ってから、入ってきたのか魔狼。
「ごめん。マイク兄とマイカ姉に呼ばれて、精霊の長の家に行ってたんだ。魔狼も3人もよく眠ってたし・・・起こすのも悪いなと思って起こさなかったんだ。・・・・所で魔狼は?まだ寝てた?」
知ってたのかよ!!
それなのに、そんな暢気に!
その声の調子にムカついて、つい詰めってしまった。
「どこ行ってたの?何で起こしてくれなかったの?何で1人でどっか行っちゃうんだよ!酷い!酷いよ!怖かった!怖かった!怖かったんだからな!!」
あたりまえだ!!
なーんーでー!そんな意外そうな顔をする?!
「?怖かった?・・・・・・何が?・・・・ああ!あの魔狼が?」
「おや?魔狼がそちらに行ってましたか?別な所で休ませておいたハズなんですがな・・・はて?」
こっちのおっさんまで!!暢気に!!
待て?!別な所にいた?!
それなのに僕たちの方の家に来て、更に僕たちと一緒のベッドで、わざわざ寝る意味はなんだ?!
考えてることは一緒の事らしく、ロベルトとルーフェスも顔を顰めて僕の方を見てきた。
その時、後方からバタンバタンという音が聞こえた。
ヤバイ!魔狼が起きて、僕らを追ってきたのか?!
ヴィーとおっさんが暢気にしているのが気になるけど、逃げ切れるとも思わないので、僕たち3人は構える。
バン!という音と共に魔狼が家の外に出てきた。
何かを捜すように、キョロキョロしている。
げ!こっち見た!
しかもこっちに来る!!
ひとっ飛びに僕らの近くまで来た。
正確には、ヴィーの正面だ。
「「「・・・・・」」」
何やってるんだ?あいつは?
ヴィーの正面に来て、ぴょんぴょんと跳ねている。
威嚇している感じではなく、どちらかというと・・・・嬉しくてはしゃぐ犬・・?
一頻りはしゃぐと、上目遣いでおっさんを見て、「くーん」と泣いた。
何かを強請っているようだ。
「・・・?おお!そうだった、そうだった!もう、言葉を話しても良いぞ?客人の試練は終わっておるからな。」
「「「はっ?!言葉?!」」」
「本当か?やった!!」
しゃ、喋った!普通に喋った!魔狼が!
そして「やった!やった!」と再び嬉しげにぴょんぴょん跳ねる魔狼を見て、僕たち3人はびっくりしてもう言葉が出て来なかった。
そして、魔狼はヴィーに向き直ると。
片足をやあ!という風に上げて、
「久しぶりだな!ヴィー!」
そう、言った。
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マイク兄と闘っていた魔狼は、やっぱり前に会った”イズモ”だった。
何となくそうじゃないかなと思っていたけど。
確信があったわけじゃなかった。
成人の儀を受けるために精霊の街に向かったのは、1ヶ月くらい前だったけど・・・まだいたんだ。
今のイズモは成人したのか?まだなのか?
スイゲツたち3人と私とイズモ、そしてチャーさんは、私たちが仮眠を取っていた家に再び入り、お茶を飲んでいる。
寝起きで何も口にしていなかったのもあって、喉も乾いていたので丁度良かったけど。
居心地は今ひとつだ。
だって、スイゲツたちは、訝しそうにこちらを見ているし、イズモはイズモで私の横で、何故かお行儀良くお座りしてご機嫌だ。
「なあ、チャチャ?試練が終わった客人はどこ行ったんだ?マイカにそっくりだったし・・血縁だろ?」
「ああ、マイカ嬢の双子の弟なのだそうじゃ。お前も形無しじゃったなぁ?」
「そうだなぁ、強かった!もっと思いっきりやり合ってみたいぞ!ところで・・・ヴィーたちは何でここに来たんだ?」
「おいおい。その前に呼び名を聞かんとな。皆さん、ここでは名は重要な意味を持つゆえ、自分の呼んで欲しい名で呼び合うんじゃ、もちろん名でも構わんが、己を表す全ての名を言ってはならん。真名になってしまうからな。人間で言う所の愛称のようなものを名乗られるが良い。儂の呼び名は”チャチャ”と言うが、ヴィーは儂を”チャーさん”と呼んどる。儂はどちらでも良いぞ。」
スイゲツたちは、それぞれ家名は名乗らずにスイゲツ、ルーフェス、ロベルトと呼び名を決めた。
そして、私たちはマイカ姉の連れで尚且つ未成年であるため、精霊の街の掟の試練は課せられない。
なので正式な客になったわけではなく、仮の客人と言う事になると説明を受けた。
「俺は”イズモ”と呼んでくれ。」
そう言って、イズモは私の方を見て目を細めたかと思ったら魔術を使い、人型へと姿を変えて見せた。
白い髪に真っ青な瞳、褐色の肌を持ち背が高く、細マッチョな体つきの美丈夫がそこにいた。
そう言えば成獣になったら、人型になれるようなことを言っていたっけ。
という事は、もうあのチビマロの姿は見れないのか・・・・・可愛かったのに、残念。
「・・・・・」
「何だよ・・・不満か?俺の人型。」
ちょっと拗ね気味の声で言われた。
「ううん・・・成人したんだね?・・・おめでとうございます。」
と言って頭を下げて「もう、チビマロには会えないんだな、ふう~」と、つるっと呟いてしまいました。
「・・・・・もう~・・・判ったよ!」
と言って、再び魔術を発動させたかと思ったら、白いフワフワな仔狼になってくれた。
小さくもなれるんだ!
と空かさず抱き上げてナデナデしてしまった!
「ふふふ!久しぶり!可愛いな!」
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久しぶりに会って、挨拶もそこそこに仔狼の姿になってヴィーの膝に抱っこされてる俺はちょっと情けないかもしれない。
前の姿を可愛いなんて言われて嬉しいかというと、微妙だ。
折角、人型になれるのを見せたのに、リアクションが無いばかりか、ああもあからさまに落胆されてしまってはなぁ・・・
まあ、膝抱っこしているこいつが満足しているなら、まあいいか。
俺としては、向かい側に座っている人間に興味がある。
名前は・・・・金髪がロベルト、銀髪がルーフェス、水色の髪がスイゲツ。
3人の中では、比較的小柄なスイゲツ。
外見的には、判らないけど。
名前からして、多分、近親者か本人か・・・近くに日本の関係者がいる可能性が高い。
でも、俺の呼び名の”イズモ”には反応しなかった。
それとも気がつかない振りをしているだけか?
「えっと、スイゲツ?って名は、俺には珍しい響きに聞こえるけど、何か意味のある言葉なのか?!」
「えっ?!」
自分に話しを振られるとは思っていなかったのか、スイゲツはぎょっとして声が裏返った。
「・・・・そうだな・・・この国でも、多分僕の一族特有だと聞いているけど・・・名前の意味は、水に映った月を表してるって聞いたことがあるけど。詳しくは判らないよ?っていうか何で意味があるって、思ったのかな?」
やっぱり。
近親者かな?いや、一族って言ったな。
何代か前の人が、日本の関係者かな?
「・・・・俺の”イズモ”って呼び名は、難しくて由来とかは判んないけど、俺がずっと昔に住んでいた場所の名前なんだ。言葉事態の意味は、”出でる雲”、”スイゲツ”っていう言葉の響きが、そこを思い出させる・・・だから、すごく気になったんだ。」
「・・・・ずっと前に住んでたって・・・ラヴィンター皇国じゃないのか?それとも、皇国にそんな名前の場所があるのか?」
スイゲツに、ものすごく怪訝そうな顔をされてしまった。
両隣の2人も眉間に皺が寄ってる。
急ぎすぎた?
訳を話したら、自分の一族の事を教えてくれるだそうか?
会ったばっかりで、こんな事言っても不審に思われるだけか・・・・
この世界にトリップしてきた人でも良い。
俺と同じように記憶を持って、生まれ変わった人でも良い。
何代か前の人が、そうだったでも良い。
”日本”を知っている人と話しがしたい。
それこそ、人でなくても全然構わない。
俺だって、もう、人じゃないし。
「・・・・・・ないよ。」
成獣になったら、そういう相手を探しに行くつもりだった。
この世界にいるかどうか判らないけど。
俺みたいな記憶を持つ奴と話しがたいんだ。
高位のすごく強い魔獣の魔狼に生まれ変わったけど。
今だって父や兄弟姉妹はちゃんといる。
いるけど、この、前の記憶のせいか、時折無性に孤独になる。
誰に話しても、埋まらない。
寂しくて哀しくて、たまらなくなるんだ。
だから、話しが出来る仲間が欲しいんだ。
ほんの時々で良い。
実のある話しなんかで、なくて良い。
下らないことでも良い。
懐かしさを共有出来る、相手を見つけたい。
ずっと、このまま孤独は、嫌だ。




