93. 冬季休暇 (8)
93話目投稿です。
チャチャ・・・・殿から聞いた話しをヴィーにするかどうか。
ああ、むくつけしおっさん精霊の名として呼ぶのが辛い。
何でこんな可愛い呼び名にしたのかな?
抵抗はなかったの?!おっさん!
違うって!問題はそこじゃあない!
そう・・・問題は。
「どうすればいいんだろう?」
話すべきか話さないでおくべきか!それが問題だ!
「話しちゃえばいいよ。」
マイカ!他人事だと思って!軽く言うなよ!
今までの生き方を否定される気持ちを考えろよ!
「軽くなんて考えてやしないけど?今までの生き方なんて否定してるか?っていうか何でマイクが思い悩んでるんだ?あんたの事じゃないだろ?ヴィーの事なんだぞ?」
そうだよ!だからこんなに悩んでるんじゃないか!
この世界で一番大切な、可愛い可愛い・・・・妹?弟?ああ!どっち?!・・・・・弟子だ!
違う!違うぞ!性別なんか問題じゃない!
「私もそう思うよ、だから話した方が良いって言ってるんだ。」
何故、俺の心の声にまで、いちいち返答が返ってくるんだ?はっ!
「・・・・俺、口に出してた?・・」
「うん、全部。」
「うおおおおおおおおっっ!!」
「うん、混乱ここに極まれりって感じかな?」
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精霊の街に来て、住人の厚意で仮眠を取らせて貰い、すっきりして目覚めた。
だけども、この状況は何だろう?
少し間の空いた隣にスイゲツが寝ていて、反対隣にはルーフェス、ルーフェスの向こうにはロベルト様が寝ている。
所謂雑魚寝だ。
それは別に良い。
この場所にはでっかいベッドが一つきりだったから、仕方がない。
でも、私とスイゲツの間にいて、寝ている真っ白い狼・・・・マイク兄と闘っていた魔狼だろう。
何で私のお腹に頭を乗っけて、寝ている?
「・・・・・」
実害があるわけじゃないし・・・・いっか。
コンコンコン
控えめな小さなノックの音がしたので、スイゲツたちを起こさないようにこちらも小さく返事をした。
「はい、少し待って下さい。」
魔狼の頭をそおっと外し、これまたそおっとベッドから降りた。
皆、熟睡しているのか起きる気配がない。
足音を忍ばせて、扉を開けたらマイク兄だった。
何だか憔悴してる。
後ろにいるのはマイカ姉だった。
「!!」
声を上げそうだった私の口を手で抑え、身振りで外へ出るように言って来た。
私もこくんと身振りで答える。
精霊の街の長の住居である大きいログハウスに連れてこられた。
そこには、マイカ姉をずっと目で追っている綺麗な精霊?・・・あ、この人が長なんだ?
何でマイカ姉をうっとり見続けてんの?確かに女装してるマイカ姉は綺麗だけども・・・・
怖いよ。怖いって!
瞬きしてよ!
ドライアイになっちゃうよ?
それと、痛そうな髭とモミアゲを生やした体格の良いおじさん?もいる。
この人は、街の外でマイク兄と闘ってた1人だ。
名前は”チャチャ”さんというらしい。
いや断固拒否したい。これは郷に入っては郷に従えられない事項だ。
呼べません、”チャチャ”とは!なので、
「・・・・・チャーさん?初めまして、ヴィーと言います。」
「チャーさん?はははは・・・そういう呼ばれ方も良いのぉ。ヴィーと申されるか、宜しくな。」
マイク兄が、なにかびっくりしているが・・・何だろう?
「その手があったか!」とか何とか言っているが?
マイカ姉が、私だけをここに呼んだ訳を話してくれた。
そりゃあもう、ズバッと確信をいきなり!っ感じに。
言葉を濁すとかオブラートに包むなんてことは一切なく。
さすがはマイカ姉。
今まで自分の性別は女だと思っていたが、違っていたようだ。
実は、まだ女にも男にもなってなかった。これからなるんだと。
え?じゃあ、今まで乙女的な思考が、ほとんど湧き上がってこなかったのはそのせい?
ちょっぴり私に精霊の気を感じるとチャーさんが言う。
その理由が先祖の誰かが精霊らしく、先祖返りしたのだろうと。
へー、ほー、ふーん。
・・・・・・リアクションに困っちゃうな。
本当なら相当ショックなはずの衝撃の事実発覚なのに。
「ヴィー・・・・」
マイク兄は心配そうに見てくるが、自分的には・・・・
お得感満載かな!
「ヴィー?どう思う?」
マイカ姉が聞いてきたけど、つい・・・
「ふふふふふふ・・・・」
笑ってしまった。
「どう思うも・・・・これから自分の意思で性別が選べるなんて、お得だよね?!」
「はぁ?!ヴィーはショックじゃないのか?」
「え?ショックはショックだけどね?嬉しいショックかな?」
「嬉しい?」
「うん!だって、普通は生まれ持ってくる性別を自分で選択できるなんてさ!だって、女子としての自分は多分このまま結婚もしないで、そのうち弟子でも取って生きていくんだろうなぁって思ってたのに。」
「えっ?!」
「選択肢がいくつも増えてお得感満載だよ!すっごい嬉しい!」
「選択肢?」
「例えば~・・・1.女になることを選択して結婚しないで、良きところで弟子を持つ。
2.男になることを選択して結婚して、子供を持つ。
3.男になることを選択して結婚しないで、良きところで弟子を持つ。
4.どちらも選択しないで、このまま生きていく。 とかね?」
呆気に取られているマイク兄をよそに、ツラツラと思いついた選択肢を並べていく。
「ね?他にも色々ありそうでしょ?お得だよね?」
マイカ姉とチャーさんは、にこにこ笑って頷いている。
「・・・・・・」
複雑そうな顔をマイク兄は、あっちこっち視線を彷徨わせた後、盛大に溜息を吐いた。
「ヴィーがそれで良いなら・・・・・・もう良いや。」
と言って、仕方ないなぁと笑った。
ただ、性別を選ばずに中性のまま行くと人間の中で生活する上で、もしかしたら支障が出てくるかもしれないから、その時はこの精霊の街に相談に来いとチャーさんに言われた。
来ます。
来さしてもらいますとも!
余談だけど、チャーさんみたいな痛そうな髭とかモミアゲのオヤジは苦手だったんじゃないの?とマイク兄に聞かれた。
「会って話しているだけなら平気になったよ?至近距離まで顔を近づけられたら、蹴っちゃうかもしれないけどね。」
え?蹴られてはたまらんな!と笑うチャーさんを尻目に、マイク兄は知らない間に随分と色々成長したんだなと、寂しげに肩を落としていた。
色々ってなんだ?
成長するさ!成長期だもの!!
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そろそろスイゲツ君たちが起きるだろうと、ヴィーは案内も兼ねたチャーさんと長のログハウスを出て行った。
うん。”チャ”が一つになっただけで、懐かしいコメディアンなグループの一人の様な呼び名になって、呼んでも辛くない!良かった!良かった。
「事も無げに受け入れたよね?」
「・・・・そうだな・・そんなものなのかなぁ・・・」
「色んな事が全部判ってるわけじゃないけどさ、何も知らないままで、思い悩むのよりは良いと思ったんだ?」
「どういう事?」
「ん~・・・どう言ったらいいかな?もし、自分が精霊の血によっての先祖返りなんだって知らないまま女の子としての成長が全く出来ずにいたら、もっと別の方向に悩んでいたかもしれない。もしくは仕方ないと受け入れてしまったかもしれないけど。周囲と比べて、体は大きくなるけど第2次性徴が来ないってかなり不安になるんじゃないかな?」
「第2次性徴って?」
「具体的に言うなら、胸が全然膨らんでこないとか体が丸みを帯びてこないとか・・・・生理が来ないとかさ。」
「マ、マイカ!お、お前、もちっとオブラートに包んでくれよ!」
「そんな言い方したら、マイクに判んないだろ?」
「・・・・・・」
だからって!だからって!!もう!
「こんな事で動揺すんな。マイクだって聞いただろ?ヴィーは結婚する気ないというか、出来ないと諦めてたみたいじゃないか?多分、恋愛とかもするつもりもなかったよな?あの言い方だとさ。そっちの方面を全部諦めてたみたいだった。」
「そ・・・そんな。」
「自分の中で、何かが違うと勘付いていたのかもしれない。」
「・・・・・・」
「でも、原因が判って、自分の選択次第で色々変わってくるわけだよ?それを実感出来るようになったら・・・ヴィーだっていくつも上げてたじゃないか取れるであろう選択肢をさ。選びとる時は思い悩むだろうね、きっと。」
女か男か、はたまた中性か。
いったいどの道を選ぶんだろうな?
「マイクは、どうして欲しいのさ?」
「えっ?・・・どうって、決めるのはヴィーだろ?」
「へぇ~・・・そう?私は取り敢えず後で、ヴィーに言っておくけどね?男以外が良いなって。」
「何で?」
「・・・・師匠みたく、ムキムキ筋肉の、髭が濃くて、すね毛でありんこが作れるようになんか・・・ヴィーになって欲しくない・・・・!」
「!!」
そ、その可能性もあったんだな・・・!両親はそんなでもないけど、先祖返りだし、爺みたくならないなんて保証はどこにもない!
「「・・・・・・」」
そ、想像しちゃった。
泣ける・・・。
「俺も・・・それは嫌かも・・・!」
「だろ?」
「・・・俺も後でヴィーに言う、男以外でお願いって。」
「ところで今までスルーしてきたけど、長をいつまであんな感じに放置しておくんだ?」
俺とマイカが、ずっとそこに居た精霊の長の方をそっと見てみる。
見てました。
うっとりと今だにマイカを見てました。
よく飽きないな。
俺の顔を見て、マイカがきっぱり言った。
「知らない。」
放置?!うわ、マジっすか!




