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理不尽な!?  作者: kususato
91/148

91. 冬季休暇 (6)

91話目投稿です。

 半日走りっぱなしとか、どの位の高さか判らない絶壁を登るだとか、今までこんな強行軍な道程の旅などあまり経験がなかった。

 全くないとは言わない。

 仮にもウィステリア家の生まれだ、弱音など吐けない。


 「当たり前じゃん!!ちょー怖かったよ!!」


 ヴィーは本気で怒鳴っていた。

 疲れてもいるし本気で怖かったと怒っていた。

 あいつも怖かったんだ。

 あいつもクタクタだったんだ。

 

 無茶な事でも飄々と淡々とこなしているのかと思っていたから。

 でもそれは、懸命に考えに考えて事前準備をしているからだと気がついた。

 怒鳴っているヴィーに、俺もスイゲツもロベルトも安心してしまっていた。

 気持ち的に俺たちとそんなに、ズレはなかったんだと。

 ちょっぴりの空元気が入っていたんだと気がついて。


 体力的には育ってきた環境が違うから、今は差があるだろう。

 だが、ヴィーと俺の体力的な差なんて、わずかなものだ。

 魔術の操作は、断然ヴィーの方が上。

 戦闘技術は、俺の方が上。

 野営技術は、断然ヴィーの方が上。

 戦闘における知識は・・・判らない。


 最後には、スイゲツと”本当に怖かったよねー!!”と吐露し合って抱き合っていた。

 やばい!そこへマイカさんの教育的指導が入るのでは?と思ったが微笑ましそうに笑っていた。

 怖い笑顔ではなかった。

 何故か、マイクさんなら教育的指導が入る気がしたのでマイカさんもと、思ったが違うようだ。



 少し気が楽になったところで就寝することになったが、疲れて汚れていては気持ちよく眠れないでしょ?と言って”洗濯”された。

 意外にもとても気持ちが良かった。

 これが最新版か!そう言えば、イザーク兄上たちも気持ちよさ気だったな。

 その後、ヴィーが崖下で待っている間の刈ったシープの羊毛を寝床として広げてくれたが、これがまた心地よかった。


 不寝番の順番はマイカさん、俺、ヴィーの順番にする事になり、スイゲツとロベルトは体力と魔力を完全回復させるためにしっかり休むことになった。

 

 シープの羊毛に包まれ、ウトウトしながら「絶対ヴィーに頼られるくらいに強くなってやるんだー」とスイゲツが呟いていた。

 


***********************


 俺は、北区と東区の境界線の北区側にいる。


 「無表情でずっと仕事を正確にこなしていく、お前がめちゃくちゃ怖ぇんだよ!周りが怯えて仕事になんねぇよ!魔道具で抑えてるはずなのに何か漏れてきてんぞ!もう!有給使っていいから気になることに決着つけてこい!2週間で発散してこい!解決させるまで帰ってくんな!わかったか!?」


 とか訳のわからない理由で有給休暇を強制的に取らされた。

 今回は、ダグラス団長も同意見だとも言われたし2週間と期限つきなので、それじゃあとヴィーたちの目的地である”男に厳しい掟がある”精霊の街を目指して、その日のうちに準備して王都中央を旅立った。


 それから3日たった今現在、東区と北区の境界線近辺をヴィーたちを探しながら、ついでに精霊の街も探していた。

 ヴィーたちは見つからなかったのに、精霊の街にぶち当たってしまったらしい。


 (マイカの奴、いったいどのルートを取ったんだ?まさか、直接東区から陸伝いに来るルートじゃないだろうな?あの絶壁を登らせてんじゃないよな?陸伝いでも、海に近い方からなら時間はかかるが前者ほど過酷でもないし・・・・と思ってそのルートを辿って来たのに・・・)


 「遭わなかったし!」


 「さあ!我ら精霊の客人となる為の試練を受け入れるか?それともこのまま去るか?選択しませい!」


 目の前には、ごっつい体格の口ひげをこんもり生やしたおっさんが叫んでいる。


 これが精霊?

 精霊って、もっとこう・・・全体的に美し系なんだと思っていた。

 ちょっぴり期待していた俺に謝れ!


 周りを見渡しても、むくつけしおっさんばかりが20人程。

 でも、気配が人間じゃないのは判る。


 これは、ヴィーが泣いて嫌がるな。

 泣きながら暴れるかもしれない。


 どんなに強面でも、筋骨隆々でガタイがでかくても、ヴィーは平気だ。


 でも、モジャモジャした必要以上にあるモミアゲとか、ゴワゴワしたサックリと刺さりそうな硬い感じの(ひげ)とかが異常に嫌いなんだ。

 多分、ヴィーの祖父で俺とマイカの師匠である爺のせいであることは知っている。

 昔、何やらヴィーにトラウマを植え付けたらしい。

 今では爺は「清潔第一じゃっ!」と言って、髭もモミアゲを生やしてない。




 「お兄ちゃんとしては。」

 

 この世界で一番大切な妹弟子のために、少しでもこういう輩を排除しておいてやるか。



 「我ら精霊の客人となる為の試練を受け入れるか?それともこのまま去るか?返答せい!否か応か!」


 「応っ!」


 初動作は体勢を低く構える。

 1人1人向かって来るのを待つつもりは毛頭ない。


 両足に足に風を纏わせ、左手に魔術を発動待機させて、空かさず飛び上がって斜め前にいる奴に速さを加えた足蹴りからの魔術を放つ。


 「鎌鼬(かまいたち)。」

 「ぐおっ!!」


 意表をつかれたのか、攻撃をまともに受けた奴の声が響き、正面に来ていた奴が驚いた顔をする。

 その間も時間など空けずに、回転しながら、四方八方に”鎌鼬”を放つ。


 「「があっ!」」

 「「うっ!」」

 「「ぐあっ!!」」

 さすがに全員はこれでヤラレはしないか。


 「何と!総当りを望むか!ならば!!」

 グダグダ言ってるなよ。

 「「我らを舐めるなよ!!」」


 前後左右からの攻撃の気配を察知して、ニヤつきそのまま風を全身に纏い、風に勢いが増す。

 「「「「!!」」」」


 それに気がついた奴らが離れようとする前に、左に待機させていた魔術を発動させ同時に放つ。

 「雷電鎌鼬(らいでんかまいたち)。」


 バチバチバチバチッッ!!!


 俺を中心に螺旋状に風と共に相手を切り裂く鎌鼬が、稲妻を纏わせ360度に無数に放出。

 バタバタバタと倒れる11人。

 それをも(かわ)して、こちらに向かってくる3人を視認。

 

 瞬時に術を消し、両手両足に別の魔術を発動待機させ、両手をバッっと左右に突き出し衝撃波を放ち、両サイドの奴らが吹っ飛ばす。


 最後の1人を足からの衝撃波と共に蹴り上げて吹っ飛ばした。

 そのままバク転して、続く攻撃に備えて構える。


 「・・・・・・」


 攻撃は来ない。

 視認出来る位置には誰もいない。

 しかし、警戒は解かない。

 

 後ろからの気配に即座にジャンプし、

 「オーバーヘッドキック!」

 なんつって!と思いながら、後ろからの奴にかました。


 「ギャウンっ!!」

 「えっ?!」


 着地して衝撃波を含んだ蹴り技を見舞った相手を見ると、真っ白い大きな犬が飛んでいた。

 が、くるくると体を回して衝撃を和らげて地面に降り立ったその姿は、


 「・・・・フェ、魔狼(フェンリル)・・?!」

 「ガルルルルル・・・・」


 敵意を剥き出しに威嚇してくる魔狼。

 こいつも試練とやらの一角なのか?


 ふうん・・・なら、容赦なんてしない。

 ヤバイな、復活しちゃいそう・・・・厨二病が。



*********************



 横穴をそのまま奥に進んで、地上に出るとそこはもう一面雪景色だった。


 地上に出る前に、ヴィーから言われて用意した雪山装備を身につけたが、通常よりも軽装だ。

 それは(ひとえ)にヴィーの魔道具のおかげで、寒さに凍えなくて済むからなのだが。



 王都中央を出発してから既に、今日で4日目だ。

 その間に遭遇した、北区の魔獣の強いのには驚きだ。


 ホーンラビットが、ただのホーンラビットじゃないんだ。

 目つきからして凶悪だったし、早さも攻撃も他区の奴らよりも段違いに早いし強い。

 最初は、1頭にも苦戦してしまった。


 それは、ワイルドボア、シープまでもだ。

 弱点は一緒なのだが、その弱点を中々狙わせて貰えない。

 狙って当てても、打たれ強いのだ。


 更に、他区にはいない雪を保護色とした白蜥蜴(しろとかげ)は、ルーフェスとスイゲツと俺の3人で1匹を倒すのがやっとだった。


 まだまだ遭遇していない強い魔獣が、北区にはいるのだという。

 マイカさん、マイクさん、そしてヴィーは北区でこんな魔獣たち相手に、冒険者ギルドの仕事をこなしていたのか・・・・それは強くなくてはやってはいけないだろうし、強くなって行くだろうな。


 ヴィーの環境が違うという言葉を、今改めて実感しているようだ。




 今日も索敵をしつつ、マイカさんについての行軍だ。

 目的地が何処にあるのか判らないのは不安ではあるが、それはマイカさんに任せて俺たちは着いて行くしかない。

 連れて行ってくれと頼んだのは俺たちの方なのだから。

 暫く歩いていたら、マイカさんが歩みを止めた。


 「ありゃ?」

 気の抜けたマイカさんの声に、俺たちも前方を注視する。


 「・・・誰か戦闘中?」

 「何か、多数対1のようだな・・・あっ!・・間を置かずに次々相手を倒してるみたいだ、凄い。」

 「マイカ姉?」

 「うん、先客がいるみたいだ。あれは精霊たちだよ。」

 「先客・・・・・あれ?あれって・・・・」

 「うん、マイクだね。何であそこで戦闘中なのかは、判んないけどね?」


 バチバチバチバチバチっ!!

 と音が響いた後、立っているのは1人だけだった。


 すごい。

 何人の精霊と闘っていたのか判らないが、10人は下らないだろう。

 止まっていた歩みを進めて、マイクさんのいる方角へと移動した。

 

 もう少しでマイクさんの元へと辿り着きそうになった時、1匹の大きい白い犬?がマイクさんの背後から襲いかかった。


 「あっ!!」

 と思ったら、マイクさんが後ろを向いたまま飛び上がって、その白い奴を蹴り飛ばした。

 白い犬もダメージは受けたものの、衝撃を逃がしながら、着地する。


 「何あれ・・・・もしかして魔狼(フェンリル)じゃないのか?何でこの国にいるんだ?」

 スイゲツが呟いた。



 魔狼(フェンリル)だって?!


 大きい白い犬じゃなかったのか?

 いや、マイクさんと同等に闘っている時点で、普通の犬ではない事は判って良いはずなんだが。


 魔狼が風を纏ってあちこちに飛び回り、マイクさんを牽制している。

 何てことだ!魔狼って魔術も使えるのか?!

 マイクさんも風を纏っているせいか、1人と1匹の攻防を目で追うのがやっとだ。


 その時、魔狼が大きく跳躍してマイクさんに襲いかかったが、またしてもバシンっ!と弾き返された。

 と思ったら、魔狼がこちらの方に吹っ飛ばされて来るのが見えた。


 飛ばされる軌跡を辿る先には、ヴィーがいた。


 

メリークリスマス♡

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