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理不尽な!?  作者: kususato
90/148

90. 冬季休暇 (5)

90話目投稿です。

 東区と北区の境界線にある、絶壁の崖のような山。

 この山がある為に、東区から北区へ行くのが困難。

 とういか普通は通らない。

 屈強な冒険者すら、余程の事情が無ければ足も踏み入れない。


 それなのに、なんで僕は今ここにいるのかな~・・・。


 マイカさんが登っていく後を辿って、マイカさん、ロベルト、僕、ルーフェスの順に登ってる。

 ヴィーは下からの補助のため、まだ登ってない。

 登る前に、絶対に下を見てはダメだと注意されたけど・・・・見る余裕なんかないよ!

 下から吹いてくる風の冷たさと強さで、時折登ってきた高さを想像させられる。

 

 考えるな考えるな考えるな!

 手をかける場所と足をかける場所に意識を向け、恐怖に囚われる前に手足を動かし体を上へと持っていく。



 どの位の距離と時間を登ってきたのか、崖の途中にある横穴に辿り着いた。

 その途端に、かけていた身体強化をマイカさんに強制解術させられて、急激にガクついて体がぐらついた。

 「はあはあはあ・・・・・」


 体を支えてくれたのは、先に着いていたロベルトだった。

 ロベルトも少しふらついていた。


 「ア、リガ、ト・・・ロベ・・」

 「無理して喋るな・・・・礼は、後でいい・・・」

 「・・・・・」


 「入口でいつまでもヘタってると、次の奴が上がって来れないよ。奥に行って。」


 マイカさんの淡々とした指示の声が響いた。

 洞窟?なのか?

 まだ周りを観察する余裕はない。

 ロベルトと2人で支えあって、奥へと移動する。

 まだ、ルーフェスとヴィーが登って来てるはずだから。 



 目を瞑って少しでも回復するように努めていると、ルーフェスが肩で息をして近づいてきた。

 「・・・はぁ・・・はぁ・・」

 言葉にならないのか、視線を交わすだけで僕たちの側にどかっと腰を下ろす。


 少し息が整ってきた僕は、洞窟の周囲を観察してみる。

 四方は、これといって特徴のないゴツゴツとした岩肌ばかりだ。 

 ここら辺は割と広めに感じるが、もっと奥にはどうなっているか判らない。

 登る前はこんな洞窟があるのは、下からは確認出来なかったな。



 ふと入口の方を見ると、マイカさんが光の玉の詠唱を(つむ)いでいる。


 「光球(ひかりだま)。」


 光の玉は放たれてもそれ程遠くへは行かず、マイカさんの手元の少し先に留まっている。

 それを暫くぼんやりと見ていたけど、何故か気が()いて立ち上がりマイカさんの所まで行ってみた。


 「お、おい、スイゲツ?」


 さっきよりは体が動く。

 ヴィーがまだ、ここにいない。

 光の玉が辺りを照らしているとはいえ、一人でこの薄暗い中を、今登って来ているんだ。


 「マイカさん、ヴィーは?!」


 僕の声に振り返ったマイカさんは、おや?という顔をして僕の顔を見たあと、微笑んで下方を指差した。

 いくら光の玉があっても、ここからじゃ見つけられない。

 「ヴィー・・・」

 

 バシュッ、ガッ、シュ―――――ダダダダダダッ。

 バシュッ、ガッ、シュ―――――ダダダダダダッ。

 バシュッ、ガッ、シュ―――――ダンダダダダッ。

 

 静寂の中、微かに音がする。

 これは何の音だ?


 バシュッ、ガッ、シュ―――――ダダダダダダッ。

 バシュッ、ガッ、シュ―――――ダダダダダダッ。

 バシュッ、ガッ、シュ―――――ダンダダダダッ。


 段々、音が大きくなる。

 いや、近づいてくる?


 バシュッ、ガッ、シュ―――――ダダダダダダッ。

 バシュッ、ガッ、シュ―――――ダダダダダダッ。

 バシュッ、ガッ、シュ―――――ダンダダダダッ。


 バシュッ!!ガッ!!


 「?!」

 僕の目の前を下から上の方へと何かが素早く通ったと思ったら、細いけど硬質そうな糸?だった。


 ダダダダダダダッ!!


 足音?がしたと思ったら!

 「ちょおっ!スイゲツ?!どいてぇ!!」

 ヴィーが降ってきて、僕を踏み倒した。 

 



 「ごめん、スイゲツ・・・」


 そう言うなら、どいてくれよ。

 ヴィーに上に乗っかられたまま、そのまま下から睨んだ。

 バシュッカチッと音がした後に、ヴィーが僕の上から退いた。

 僕は何だか、遣る瀬無い気持ちになっていた。



 *********************


 辺りが暗くなったことだし、今日はこの横穴で夜を過ごすことになった。 

 こんな道程の野営はした事がないであろうスイゲツとロベルト様は、疲労困憊でクタクタだ。

 無理もない。


 東区と北区の境界にある、この絶壁の山の場所まで来るのにだって数日かけるのが普通だ。

 それを魔道具の補助を使ってとはいえ半日足らずで走って着き、更に絶壁の山を登って来たんだもの。

 正確にはどの位の距離を走って、登って来たかは判らないけど、相当なはずだ。

 私もクタクタだし、ルーフェスもクタクタだろう。

 一人だけ平常運行なマイカ姉がすごい。


 ただ、このままでは疲れと冷気にヤられて休むどころか凍死する。

 もう少しこの横穴の奥まで移動して、両側に結界魔術の布札と魔石を設置する。

 即席の(かまど)を2つ作り、薪に火をつけて食事を作る。

  

 バッグの中からブラウンブルの肉を出し、塩コショウを振りかけ表面をこんがり焼き、家で作り置きしておいた野菜スープを温める。

 各自持参してもらったカラトリーの皿に焼いた肉を切り分け、これまたバッグから取り出した大きめのパンを乗せ、スープをカップに注ぐ。

 皆に食事が行き渡ったところで、私も座って食べ始めた。

 

 「・・・・うまい・・」

 「・・・うん、美味しい。」


 強張(こわば)っていた雰囲気が少しずつ(やわ)らいできた気がする。


 特にスイゲツとロベルト様は、魔力も目減りしているせいかイライラしているようだったから。

 お腹が空いているとロクな考えが浮かんでこないし、ネガティブ思考になりやすいしね。

 体力と魔力を限界近くまで使った事なんて、あまりないだろう2人にはキツかったと思う。




 食事を終えて後片付けをし終えると、食後のお茶を飲もうとルーフェスが人数分のお茶を入れてくれた。

 何だかすごく意外だけど、いつも学院寮でお茶を入れるのはルーフェスなんだそうだ。

 そう言えば手馴れている。

 お茶のお供にと、バッグからお菓子を取り出してみんなに配った。

 疲れているから甘いものが嬉しいよね。

 

 「うわ・・・美味しい・・これは?」

 「え?ドーナツ。片手で食べられて甘さの調節も割と出来るし、数を作るのも楽なんだよ?」

 「ああ、甘すぎなくて俺でも美味しく食べられる。」

 「数?・・・・まだあるのか?」

 「いっぱいあるけど・・・食事の後だしね。1つくらいが適量だと思うけど?油で揚げてあるからさ。ルーフェスは、まだ食べたいの?」

 「・・・・出来れば、もう一つ・・・欲しいが・・」

 「ふーん、食べられるなら後一つぐらいは良いと思うけど・・・みんなもいる?」

 「「「「くれっ」」」」

 「マイカ姉もか・・・わかった。」


 ドーナツをもう一つずつみんなに配る。

 スイゲツは2個目のドーナツを見ながら、何やら考え込んで溜息を吐いた。



 「・・・どうしたの?やっぱりよす?」

 「ううん・・・食べる・・・なんかさ、情けないなぁと思っちゃたんだ・・・」

 「え?ドーナツが?!」

 「違うよ!ドーナツが情けないって何なのさ・・・・あのさ、僕はもっと、自分が色々出来ると思ってたんだよ。」


 「?」


 「それが体力的にも技術的にも精神的にも・・・何もかもヴィーとこんなに差があるなんて思ってもみなかったんだ。」

 「差?」

 「この横穴の下まで走って来たし、絶壁を登っても来たけど。どちらもヴィーにはそれ程負担になってないだろ?僕はクタクタなのに。しかも、、絶壁を登ってる間なんか・・・怖くて仕方がないのをずっと感じないように目と心を背けてたんだ。」

 「それは、スイゲツだけじゃないぞ?俺もだから。情けなさもな・・・・」


 スイゲツとロベルト様は、自嘲気味にお互いをみて笑う。

 何を言っているんだこの2人。

 ルーフェスもびっくりしてるよ、マイカ姉は・・・・大あくびしてる。



 「何言うんだろうね?スイゲツたちは。体力的に私とルーフェスが有利に感じるのは、昔からそんな風なことを経験しているからだと思うよ?ねぇ、ルーフェス?」

 「そうだな、物心つく以前からウィステリア家の男子は、大人に引っ張り回されて戦闘や訓練を受けている。そういう環境で育ってきたんだ。早々に体力的に追い越されては、こちらの立つ瀬がないぞ?」


 「・・・・・」

 納得出来なさ気だな、スイゲツとロベルト様は。


 「物心つく以前?それはすごいね・・・・・聞いたでしょ?私たちは育った環境が違うんだよ?違って当然だよ?逆に社交的なダンスとか優雅な所作とかは私には無理だな、習ってないもの。スイゲツたちはそんな事、身構えなくても出来るでしょ?」


 「・・・・そりゃぁ、叩き込まれるから。」


 「うん、だから育った環境の違いなんだって。それでも、こうやって着いて来れてるんだよ?そっちの方がすごいと思うけどな、私は。」


 「崖を登るのが怖いのに目を背けても?」


 「それこそ何言うの!だよ!はっきり言って私だって怖かったよ。怖いに決まってるじゃん!こんな崖登るの初めてなんだから!でも、”怖い”って感情に飲まれちゃったら登れなくなっちゃうでしょうが!私だって”怖い”に蓋をして登ってきたよ!それが正解かどうかは知らないけどね!」



 思わず拳を振り上げて、力説してしまった。

 スイゲツもロベルト様もルーフェスも、口を開けて目を見開いてこっちを凝視してる。

 何だ?意外なのか?

 酷い!みんなが登って行く間、何かあったらフォローしなくちゃならないから、登り切るまで下で待ってたのに!

 その間、ただ待ってるのが落ち着かなくて、上を見ながら薪を拾ったりしてたのに!



 そんな事してたら、前に毛を刈ったシープたちの群れらしき物に囲まれてた。

 私の事を覚えていたかどうかは判らないけど。

 どうもモコモコになり過ぎた仲間を連れて来て、さあ!刈れと言わんばかりに巨大な毛玉が何頭も迫って来るし!

 刈ったけども!

 刈った後に、フン!とか鼻を鳴らしてシープの群れはどこかに行っちゃった。

 そこに残された刈った毛を、洗濯して貰っちゃったけどね?


 

 やっと、マイカ姉からの登ってこいよの合図の”光球”が見えた時には、辺りは薄暗くなってるし!


 周りがよく見えないのに、初めて使う魔道具を使って崖を登るのがどんだけ怖かったと思ってるんだ! 脇目も振らずに登っているのに、いつまでも着かないから途中から泣きそうだったのに!


 

 「「「・・・・・ヴィーも、怖かったんだ・・・?」」」


 何故そんな意外そうに、3人で口を揃えて言うんだ!


 「当たり前じゃん!!ちょー怖かったよ!!」


 人の事を何だと思ってんの!

 

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