88. 冬季休暇 (3)
88話目投稿です。
今日は空が高い。
典型的な冬の空だ。
気温はそれ程低くは感じないが、城の者にはかなり寒いらしい。
それって、城が石造りなのが原因の一つじゃないかと思うんだよな。
機密性がないからすきま風がふくし。
夏は割と快適なのに。
まあ、だから王宮以外は暖炉なんかを使ってるんだろうな。
機密性があって、暖炉なんか使ってたら、下手すりゃ一酸化中毒だ。
でも、部屋と廊下の温度差はすごいと思ったなぁ・・・配属された年の冬は。
北区の寒さに比べたら軽いけど、下から来るんだよ冷気が。
「マイク・・・・マイク・・・おいマイク!!」
「はい、何でしょう?セルゲイ様?」
「お前、無意識に書類を仕分けるのをやめろ。見てて怖すぎる!」
「単純作業なので、他の事を考えつつ作業しているだけですよ。」
「それは、宛先とか用件とか読まないとやれない仕事のはずだぞ?」
「そうですか?・・・間違ってはいないようですが?」
「・・・それが怖ぇんだよ・・・」
失敬な、ちゃんと仕事してるんだから良いじゃんかよ。
そんな怯えた顔しなくてもいいのに。
コンコンコン
「誰だ?」
「キースです。」
「入れ。」
わざわざここに来るということは、巡回中に何かあったのか?
執務室の扉を空けて人物を確認した後、キースに入るように促す。
「失礼いたします。」
「どうした?何かあったのか?」
「いえ、巡回勤務は滞りなく終了致しました。実は、マイク宛に預かり物を致しまして・・・」
「検閲は?」
「勿論、通しております。問題ありませんでした。」
「そうか。で、マイク宛の何だ?」
「手紙と家の鍵です。」
「・・・おいおいおいおいマイク?意味深だなぁ?」
ニヤニヤして何を勘繰っているのか、そんな事する人間の心当たりは1人だけだ。
「ロガリア学院の生徒で、黒髪の少年でヴィーと名乗っておりました。」
「ああ、なんだあの少年か、そういや知り合いだって言ってたな・・・渡してやれ。」
えっ?!少年?!あれ?あれあれあれ?!
黒髪の少年がヴィーで、実は女の子ってセルゲイ様にバレてないのか?
え~?・・・・ああ!そうか!ウィステリア家の嫁候補の話の時には、ヴィーの名前出してない!
イザークも・・・誰も口にしてない!
じゃあセルゲイ様は、黒髪の少年=魔道具科の武闘大会参加者単独1でも、俺の身内で女の子なのは知らないんだ。
名前は今、知られちゃったけど・・・・興味なさげだな。
「仕事も一区切りついた事だし、休憩がてら手紙を読んできたらどうだ?」
「よろしんですか?」
「そんな、手紙をじ――っと見てるってことは気になるんだろ?良いから行って来い。あ、ついでに厨房に俺のお茶頼んでおいてくれ。」
そんなに見つめてたかな・・・・まあいいや。
「はい、わかりました。では、お言葉に甘えます。」
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頬杖をつきながら、手を上下に振って”行って来い行って来い”と示し、見送るセルゲイ。
パタンと扉がしまった途端に手を下ろした。
ちらりと部屋に残っているキースを見やる。
「・・・で?ホントは誰だ?」
「・・・・はい?ホントは誰だとは、どういうことでしょうか?」
「ホントはこれじゃないのか?って聞いてるんだよ!あいつ、モテてるみたいだが浮いた話を聞かないし・・・・いるんだろ?城下に?」
これといって小指を立てて見せると、キースは「下品ですよ」と顔を顰めた。
「城下にいてもおかしくはないと思いますが・・・私は知りません。今日のは、本当にヴィーという黒髪の少年から預かったものです。」
「・・・いるはずなんだよ、ずっと被ってた猫をあいつがうっかり外しちまうくらい、大切にしてる娘がさ。」
(そう言えば、未成年って言ってたか・・・・情報が少ねーなー)
「気になるのでしたら、直接本人にお聞きになったらいかがですか?」
「素直に教えてくれると思うか?」
「いえ、全く。仕事以外の事は、あまり話しませんね。聞けばマイク自身の事は話しますが、事他の者・・特に身内が関わってくると濁してましたね。」
「身内のことをあまり話したがらない・・・・もしや、マイクは何処ぞの国の・・・王子、とか?」
「ありませんね。」
「即答かよ!」
「はい。あんな暴れん坊な・・・ごほごほ・・・”旋風の琥珀”なんて二つ名を持つ王子なんて、聞いたことがありませんし、いたりしたら嫌ですね。」
「”旋風の琥珀”?!あの年で二つ名持ちか?どんだけなんだよ。」
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厨房へ行って、セルゲイ様の執務室にお茶を持って行ってくれと頼んだあと、城の庭先へと足を進めた。
庭先といっても、花壇にはあまり花はない。
ちょっとうら寂しい感じだ。
もう少ししたら、全然なくなるのだろう。
近くの木に背を預けて、手紙の封を切る。
そう言えば、ヴィーから手紙なんて貰うのはいつ振りだっけ?
ロガリア学院に入ってからは、会おうと思えば会えちゃうからな~・・・
マイカに至っては、どっかに行って突然帰ってきて宿舎に突撃かましてくることが多いから、騎士見習い期間くらいかな?手紙のやり取りって言っても、メモ書きみたいな短いやつ。
それも1,2度だけだったはずだ。
どんだけ?どんだけ筆不精なの姉貴!
さて、なんて書いてあるのか・・。な。
『前略 マイク兄へ
マイカ姉とスイゲツとロベルト様とルーフェスと私で、
冬季休暇を利用して”男に厳しい掟のある村”へと行ってきます。
一応準備は万端にしたつもりですが、いつ帰って来れるか判りません。
なので、家の鍵を預かってください。
今回、ルーフェスがいつになくヤル気に満ちています。
スイゲツたちの親御さんからは許可を貰ってあるので大丈夫です。
では、宜しくお願い致します。
ヴィー・ショーノ 草々』
嫌な汗が背中から湧いて来る。
いいか~落ち着け~落ち着けよ?俺。
ふふふふふふ・・・・ヴィー・・・
誰に見られるか判らないから、肝心なところを暈したのはえらい!
褒めてやる!
でも、そこって”行ってきます”って軽くすまして、行く場所じゃあないと思うのは俺だけなの?
”マイカ姉と”って、マイカか!何考えてんだ!マイカ!!
ヤバイ、手が震えてきやがったぜ。
「ぬおおおおおおおォォォォっっっ!!!」
城の廊下は走ってはいけません。
そんな決まり事があるため、俺は猛然と右足と左足を交互に出して移動中だ!
周りがびっくりして避けているが、歩いているんだ!
文句は言わせない!
歩いて歩いて歩いていたらセルゲイ様の執務室の手前で、チャリンと預かった鍵を落としてしまった。
はっとして立ち止まると、暫くなんとも言えない気持ちで鍵を見つめてた。
「・・・・・・」
そのままにしておく訳にもいかない。
ゆっくり近づいて膝を折りながら、鍵を拾った。
解ってるんだ。
マイカが、ヴィーを万が一にも死なせたりしない事は。
先に俺に相談でもしよう物なら、絶対反対するし。
事前に知っていたら、阻止してた。
コンコンコン!
「誰だ?」
「マイクです。」
「?入れ。」
さっきとは逆にキースが俺を確認し、執務室の中へと促す。
「失礼します。」
キースとセルゲイ様が俺を見てギョッとしているが、構わない。
耳の魔道具が、どんどん俺の魔力を吸ってる感覚があるが構わない。
吸いたきゃ吸うがいい!
「セルゲイ様、お先に休憩を頂きました、ありがとうございます。仕事に戻ります。」
悔しいが、スイゲツ君たちが一緒ならどのルートを行くか予測出来ない。
俺は、帰って来るのを、待つしかない。




