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理不尽な!?  作者: kususato
86/148

86. 冬季休暇 (1)

86話目投稿です。

 ロガリア学院の生徒の1~2年の進級に関する進路は決定した。

 基礎科の生徒と専門科3年生は、冬季休暇が明けてから進路を決定する予定。


 冬期休暇は、4日後に迫っていて各々に準備も始めている。

 実家に帰省する者。

 友人を実家に招待する者。

 友人の実家に招待される者。

 王都中央に残って休暇を過ごす者。

 と、予定は各々違っていたが。


 ヴィーは、北区の実家に帰省せず、王都中央に残って薬を作ったり、布札に使う魔布を作ったり、冒険者ギルドの仕事をしたりするつもりでいる。

 その為に冬支度として、冬越しするための食材、調味料、薬作りのための薬草、魔布を作るための材料などを買い込み、品質保存の魔法陣を刻んだ備蓄庫となっている納戸に入れてある。夜長のお供にと治癒術の本などを読もうと借りる本のピックアップまでやっていた。

 まさに備えあれば憂いなしの品揃え。

 どんと来い、冬!




 だが、つい先日マイカ姉が王都中央に帰って来た。

 帰ってきて早々、信じられない事を言った。


 「もうすぐ、ロガリア学院の冬季休暇だよね?一緒に”精霊の街”に行って、遊んだり農業したり精霊と戦闘したりしよう!」

 「うん、最初から最後までおかしいよね?マイカ姉?遊んだり農業したりはまだしも、無理だから、精霊と戦闘なんて。というか行けないから、人外魔境なところと抜けないと行けない”精霊の街”には。私は普通の人間だからね?」

 「大丈夫!」

 「マイカ姉?人の話しはちゃんと聞こうね?私は大丈夫じゃないよ?」

 「ヴィーなら何とか大丈夫!」

 「・・・・聞けって言ってんだろうが!マイカ姉!!」

 「行くから!決定だよ!」

 「・・・・・・もう・・」


 ”精霊の街”に強制連行のようだ。

 せめて、準備を怠らないようにしよう。

 冬支度用の物で転用出来るものも多いしね。

 マイク兄にも手紙で知らせておこう。

 ああ、もうしょうがないなぁ・・・・。

 


************************



 学院でも話しの種と言えば(もっぱ)ら冬季休暇のことだった。


 「じゃあ、フローラたちは実家に帰るんだねって、部屋を借りて家族とは別に暮らしてるなんて初めて聞いたけど・・・・王都中央に家があるのに何で?」


 魔道具科可愛い系筆頭フローラ、艶やか美人アデリア、清楚美人ウィンディアの3人は揃ってにっこり微笑んで、こう言った。


 「「「社会勉強。」」」

 「・・・・・へぇ?・・」

 (それはどんな社会勉強なのかな?想像できないなぁ・・・)

 「「「今度、遊びに来て?お泊りでもイイわよ?」」」

 「あ・・・うん、そのうちね。」

 「「「絶対よ?」」」


 美人な3人一度にずずいと迫られては、ちょっとビビる。

 だが、前回クラウスに怒られてしまった事を思い出したので、これ以上お互いの顔が近づくのを防ごうと一番危険度の高い、真ん中にいるアベリアの頬を両手で軽く抑えて、にっこり笑った。

 「分かった。」


 アベリアは一瞬目を見張って、カーッと顔を真っ赤にさせて、視線を泳がせた。

 両側にいたフローラとウィンディアも頬を染めて、手を口に添えていた。

 「「・・・・ヴィーったら・・・もう!」」

 と周りの女子が呟きながら、悶えていた。

 

 周囲のクラスメイトの男子は、引いていた。

 そして、一言物申したい。

 お前らは毎回女子同士で、いったい何をやっているのかと。

 ヴィーが女子に見えなくて、ハーレム野郎が侍らしてる女子とイチャついているようにしか見えなくて若干腹立たしいとか。

 何で女子連中は、毎回あんな風に悶えたりしているのかと。

 そして「・・・・ヴィーったら・・・もう!」のあとのセリフはどう続くかと。


 一言じゃなかった。

 しかし、やっぱり言えない。



 だって、怖いんだもん、女子たち。


 

 **********************


 偶然を装った女子による襲撃に、少しだけルーフェスが慣れてきた。

 その女子たちの襲撃も下火というか、冬季休暇が4日後となった今ではなくなっていた。

 

 「ぱったり来なくなったね?女の子たち。ざーんねーん。」

 あまり残念そうには見えない様子で愚痴るスイゲツ。

 「・・・・やっとルーフェスが慣れてきたようなのにな。」

 「・・・・もう、良いじゃないか。」


 少し思案顔のロベルトと、明らかにほっとするルーフェス。

 こちらの意図を汲んで逃げ出したりせずに頑張ったのも事実なので、冬季休暇を期に少しだけ休憩しても良いかとスイゲツとロベルトは話題を変える事にした。

 

 「ロベルトとルーフェスは、冬季休暇どうするの?」

 「実家に帰るつもりではいるのだが、あまり長居したくない・・・」

 「どうして?」

 「今家には、ロイナス兄上も俺もいない。多分、母上がな・・・退屈しているんだ。」

 「それで?」

 「下手に長居をするとお茶会と称して、見合い(まが)いのことをさせられそうな気がする。そんな事はロイナス兄上が結婚してからにしてくれれば良いのに!・・・・・お前のとこは平気なのか?スイゲツ?」

 「うっ・・・・・・・・・・・ないとは言い切れない。」


 2人が帰省後を想像して、気持ちがうんざりと下降する。

 取り敢えず自分の事は棚に上げて、ルーフェスに水を向ける。

 「ルーフェスはどうするの?」

 

 「俺も実家に帰る予定だが、休暇中ずっといる心算(つもり)はない。ギルドの仕事もいくつかこなそうと思っている。」


 ルーフェスのところは、気軽に他所のお嬢さんを呼んでお茶会など出来ない家庭環境であると思い出した。

 幸か不幸か、呼んだとしても来てくれるお嬢さんがいない。

 なので、スイゲツやロベルトが危惧するような目には合う確率が限りなく低い。

 いっその事、この冬季休暇をルーフェスの家に押しかけようかななどと考えた。

 ああ、そう言えば・・・。


 「そっか・・・・・ヴィーは今年はどうするのかなぁ?」



***********************


 冬の訪れの足音が聞こえ始めた王都中央、ロガリア学院も例外ではない。

 葉の落ちた木々、冷えた地面がそれを告げている。


 それは過酷な冬季休暇の幕切れが間近に迫っていることを示している。

 ヴィーは大きな溜息をついた。

 借りようと思っていた治癒術の本・・・・無事に帰って借りることが出来るだろうか?

 いや、帰るよ?帰るけどね?


 「ヴィー!」


 アンニュイな気持ちで佇んでいると、スイゲツたちがヴィーの姿を見つけて近づいてきた。

 「どうしたの?もう、帰寮の時間じゃないの?」

 「ヴィーは冬季休暇どうするの?!」


 挨拶もヴィーの質問もすっとばして、直球で聞きたいことを聞いてきた。

 そんなに元気よく尋ねられては、アンニュイ気分も吹き飛ぶ。

 いや、よく見ると焦っているようにも見える。

 何をそんなに焦っているのか分からないが、スイゲツたちには隠すつもりもないので答える。


 「マイカ姉と・・・・・・武者修行?」

 「何?その猛者的休暇は・・・!」


 噂に聞くAランクの冒険者との武者修行・・・?!

 予想外の答えに3人は一歩後ずさる。


 

 『一緒に”精霊の街”に行って、遊んだり農業したり精霊と戦闘したりしよう!』と強制参加が決まっていると説明した。


 「準備はしっかりしてあるよ?そうでないと、マイカ姉と違って普通の人間な私は確実に帰ってこれないからね~・・・・頑張ってくるよ。」



 ”精霊の街”?!それって、そんなに簡単に言っていい情報じゃないだろ―――――!!


 ロベルトとスイゲツとルーフェスは、あまりにあっさりそれを口にするヴィーに驚愕する。

 だが、それはマイカからスイゲツたちなら言ってもいいと許可が出ていたからだと聞いてちょっとほっとした。

 自分たちはヴィーの保護者的立場な人に認めてもらっていると、ちょっと嬉しかった。

 が、次に聞いた内容に違うかもしれないと思い直した。


 例え他の誰かが聞いていたとしても、超過酷な人外魔境な場所を抜けて尚且つ、精霊に歓迎されなければ街を見つけることすら出来ないらしいと。



 「「「・・・・・・・」」」


 言葉を失くす3人。


 しょうがない姉弟子だよ~と諦観の篭った顔で笑うヴィーを見て思った。


 このままでは、ぶっちぎりで置いていかれると。

 何に対して置いていかれるかは判らないが、そう思った。


 「俺(僕)も行く。」


 気がついた時には、そう言っていた。



 え?そうなの?というヴィーは少し考えた後に、冬季休暇を実家に帰らなくても良いという親御さんの許可を貰ってくるという条件を出し、自分は引率のマイカに聞いてみるよと言った。

 そして、最低限必要な物を教えて貰った。

 

 

 この国にそんな街が存在する事も、世間では知らないはずなのに。

 まるで”精霊の街”に行くことが、簡単な事のように淡々と。

 いや、ちゃんと準備しないと普通な自分は帰って来れないと、危機感を煽る言葉は言っている。

 言ってはいるが感情が伴っていないせいか、酷く簡単に聞こえたのだ。


 何か、妙なズレをヴィーに感じるスイゲツ・ロベルト・ルーフェスだった。


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