85. 進路選択 (2)
85話目投稿です。
授業終了の度に女生徒の偶然を装った襲撃を何度か受けているロベルト・スイゲツ・ルーフェスは、4日に一度のお弁当の日である今日、昼食を魔道具科の教室で食べていた。
ロベルトは通常通り、スイゲツも通常通り、ルーフェスは疲弊して机に突っ伏していた。
ルーフェスを、恋愛的要素を含ませた好意を向けてくる女子に慣れさせるために、わざと女子との遭遇を避けないでいるようだ。
避けようと思えば避けられるが、敢えてしない。
結構スパルタな状態。
「何で、クラウスも一緒になってヴィーのお弁当を食べてるのかな?」
「それは、俺もヴィーに弁当を頼んだからじゃないかな?」
確かにクラウスもヴィーに弁当を頼んだが、ロベルトたちと一緒に食べたいと言った覚えはなかった。 別に不満があるわけではないが、一応聞いてみることにした。
「俺は、別の日でも良かったんだぞ?5人分も作るのは大変じゃないのか?手間とか、量的なことも含めて・・・」
「一緒の方が良いと思ったんだよね、クラウスの為にも。」
「俺のため?」
クラウスの為とはこれ如何に?
どゆこと?
ロベルト・スイゲツ・クラウスは、首を傾げた。
ルーフェスは疲弊していて、反応しない。
ヴィーは食事を続けながら答える。
「スイゲツ達と一緒の時でもないと、私がお弁当をクラウスに渡しているのを見られたりしたら・・・・誤解されるかもって思って。」
「「「誰に?」」」
「クラウスの事を密かに想っている女子とか男子とか・・・・・フジョシトカ?」
「男子はないだろが!」
クラウスはすぐ様否定したが、ロベルトとスイゲツは黙ってクラウスを見ていた。
フジョシトカは意味が判らなかったようで、スルーした。
「可能性はゼロじゃないんだ!」
何故か、拳を握り締めて言う。
確かにこの国では有り得なくはない。
もしかしたら、クラウスはそちら方面の人かもしれないと・・・・・・思っている。
マイクに対する反応から考えるに・・・・可能性はゼロではないと。
「「「「・・・・・」」」」
微妙な空気が4人の間に流れる。
クラウスは目線を逸らした。
ヴィーはちょっと期待を目に宿して、クラウスを見ている。
ロベルトとスイゲツは、お弁当も食べないで疲弊したままのルーフェスを気にしている。
否定しきれない何かが・・・!
「ねぇよ!そんなキラキラした期待した目で見るな!」
打ち砕かれました。
ヴィー、ちょっとがっかり。
しかしそんな事を言いながら、一応女子な自分に手を出すでもなく足を出すでもないクラウスに、笑顔を向けつつ言う。
「でも、密かにクラウスを見つめちゃってる女子がいるかもよ?」
途端に赤面しながらも、キョロキョロ教室の外などへと視線を彷徨わす。
彷徨わせて、帰ってきた目は居心地悪そうにヴィーを見たあと、もう一度視線を戻し小声で伝える。
「教室の外にロベルトたちを見ている女子に混じって・・・・・・兄貴がこっち見てる。」
4人は顔の向きはそのままに、視線だけをクラウスの見ている方角に送る。
「ほんとだ、見てる見てる。」
「誰を見てるんだ?」
「ヴィーを見てるみたい。」
某野球漫画の主人公のお姉ちゃんのように、物影からこっそりと心配そうに見てる。
「どうしたんだ?あれ?」
「どうするの?あれ?」」
「ヴィー?」
「放置で。」
「「「え~・・・・」」」
「放置で。」
怒っている様子でもなく淡々とだが、パスカルを放置すると譲らないヴィー。
このままでは食事が終わらずにお昼休みが終わってしまうと、ルーフェスに強制的に食事をさせ始めるロベルトとスイゲツ。
何かあったのかと、兄のパスカルとヴィーをこっそり交互に見やるクラウスは、自分も食事を優先させることにした。
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気になって気になって、仕方がない。
気に病んでも仕方がないが、気になるものは気になるのだ。
昼休みに魔道具科の教室で昼食を取っているヴィーたちを偶然見つけて、つい見守ってしまった。
相談してはくれないのだろうか?
もしかして、魔術科か戦士科に転科すると決めて、どちらにするかを悩んでいるために、自分に相談出来ないでいるのだろうか?
出来ればこのまま魔道具科にいて進級して欲しいが、自分からはそんな事は言えない。
それは、生徒自身が決めなければならないからだ。
確かに戦士科のダグラスが言うように、ヴィーの戦い方は戦士科向きかもしれない。
魔術科のリュートの言うように、魔術を行使する、魔力操作には目を見張るものがある。
「でもでもでも・・・・おおおおおおおおお!」
「うっさいわ!!」
ドカッ!
バンッ!
自身の研究室で、狼狽えて騒いでいたパスカルを後ろから蹴り倒したのは、弟のクラウスだった。
時刻はすでに放課後、一応自分は生徒なのでノックはした。
聞こえてきたのはせかせかと落ち着きのないカッカッカッカッとした靴音と先ほどの雄叫び。
業を煮やして入室したが、一人で騒いでいて気がつかない兄を後ろから蹴り倒した。
足はまだ、上げたままだ。
「何やってんだよ?パスカル兄貴?」
「ク、クラウス・・・」
たまに色々勘違いしているところはあるが、パスカルは魔道具科1年生の自分の生徒達が可愛くて仕方がない。
今年の1年生は人数が少ないこともあり、一人一人と接する機会が多い事もそれに拍車をかける原因になっていたがそれはさておき。
「で?何があったんだ?何でヴィーをこっそり見てたんだ?」
「えっ?何でそんな事を知ってるんだ?こっそりと見つからないように見守っていたのに?!」
「こっそりしてても、バレバレだったから、ちなみにロベルト・スイゲツ・ルーフェス・ヴィーも知ってるからな。」
「ヴィ、ヴィーもか・・・・」
そう言って、床に座ったまま項垂れるパスカル。
「ヴィーがどうかしたのか?・・・・また、何かヴィーに無茶ぶりしようとしてんじゃないだろうな?」
「・・・・・」
「兄貴?!」
「別に無茶ぶりなどしていない・・・・ふう・・・」
疲れたようにソファーに腰を下ろし、クラウスにも座るように促した。
本当は生徒には言ってはいけない事だろうがと、前置きをしてパスカルは弟に話して聞かせた。
ヴィーには、戦士科と魔術科の2科から転科しないかと話が来ている。
学院祭での戦い方を見れば、戦士科のダグラスが言うように、ヴィーの戦い方は戦士科向きかもしれない。
魔術を行使する時の魔力操作力を見れば、魔術科のリュートの言うように魔術科に行くべきかもしれない。
大概の事はその場で即答するヴィーが、答えるのを躊躇い、考えるから時間をくれと言っていた。
「・・・・・・」
話しを聞き終えたクラウスは、はあ~と溜息をつくとパスカルを見やった。
「何で兄貴が思い悩むんだ?それはヴィーのやる事だろう?」
「それはそうなんだがな・・・・どう、答えを出すか・・・気が気じゃないんだ。」
「・・・・・・それ何時話しがあったんだ?」
「・・・3日前かな、進路の書類を配った日だ。」
この3日間の学院でのヴィーを思い起こしてみても、思い悩んでいる様子はなかったと思う。
だが、そんな事を言ってみても始まらない。
生徒を可愛がっているパスカルには、ヴィーの答えを待つことしか出来ない。
分かってはいるのだろう。
分かっているから、自分の研究室みたいな所でウダウダしていたのだ。
そんな兄に、クラウスはこう言った。
「今日はもう、家へ帰って飯食って風呂入って寝ろ。」
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翌日、朝一番にヴィーは進路書類をパスカルに提出した。
その書類には、魔道具科2年へと進級を希望する旨が記してあった。
パスカルはそうか、と微笑んだ。
内心は喜びと安堵で一杯だったろうが。
魔術科のリュートと戦士科のダグラスは、残念そうだったが何も言わなかった。
何となく結果は察しがついていたクラウスは、ヴィーに聞いてみた。
「何で、すぐに提出しなかったんだ?」
「魔術科と戦士科とか他科の先生が関わってくると、即答する方がロクなことにならないし、意図しない方向に話しがいくから。だから、今回ちょっと考える振りして時間を空けてみたんだ。そうしたら、熟考した結果のように見えるでしょ?大体、武闘大会の時ことを言われても困るんだよね、自分から出た訳じゃないし。それに魔道具科の生徒の魔道具に対する情熱を舐めてるよね?そりゃあ、もうちょっと強くなりたいなぁとは思っているけど、転科なんてするわけがないじゃんか。」
と言って笑った。
ヴィーはちょっと策を弄してみただけのようだ。
クラウスは、然もありなんと肩を竦めた。
このあと2~3日投稿をお休みします。
では、また。




