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理不尽な!?  作者: kususato
84/148

84. 進路選択 (1)

84話目投稿です。

 暫く私の家に寝泊りして仕事をしていたマイク兄が、騎士団宿舎に荷物を持って帰って行った。


 城の騎士団宿舎に帰らずに、街の巡回勤務だけに従事していた理由なんて判らないけど、色々何かを考えていたのは知っていた。

 ここにいた間のマイク兄は、別段腐る訳でもイラついていたわけでもないから。

 でも、ちょっと退屈そうには見えていた。


 ”俺、騎士団辞めちゃおうかな?”なんて言いだした事もある。


 でも荷物を取りに来た時は、うんざりした様子を見せながらも楽しそうにも見えた。

 何があったのか、魔力を吸収する魔道具なんか付けていたけど。


 最初は耳にアクセサリーなど付けて、色気づいたのかと思ってしまった。

 耳の側面を挟むタイプの物で、色は琥珀色。

 瞳の色に合わせたかのように、マイク兄の容色に溶け込んでいる。


 「似合ってるね。」

 と褒めたら急に眉を八の字にして、

 「ああ!俺の魔力が吸われちゃう、吸われちゃうよう!」


 とか言って大袈裟に悶えて、何だか気持ち悪かったので”洗濯”しておいた。


 マイク兄の付けてる魔道具は、内包できない溢れ出た魔力を吸うように陣が刻まれていたので、普段は吸われているはずがない。


 多分、気分的な問題なのではないかと思う。気のせい、気のせい。

 マイク兄が捨てられた仔犬のような瞳でこちらを見ていた気がする。

 それも気のせい、気のせい。



***************************

 


 ロガリア学院では、学院祭の名残りは多少あるが、生徒の気持ちは既に冬季休暇に行きつつあった。

 夏期休暇が2週間に対して冬季休暇は1ヶ月と期間が長いので、実家に帰る生徒が多いのだ。

 

 がしかし、冬期休暇はまだ1ヶ月ほど先である。



  

 現在は、授業と授業の合間の休み時間のようで、教室で友人とお喋りしている者、外の空気を吸いつつ体を(ほぐ)している者など様々に過ごしている。

 その中で数人の女生徒が楽しそうに相談しながら、次の授業への為か足早に廊下を歩いていく。


 「ねぇねぇ、今日は教室の方にいるかしら?」

 「運が良ければいるかもしれないわ。」

 「そうね、図書館の方かもしれないけど・・・・どちらに行く?」

 「授業が終わったら、すぐ教室に行って、いなかったら図書館でどう?」


 きゃっきゃっと通り過ぎる女生徒たちの目当てに心当たりがある人物が、彼女らの会話を聞いて嘆息する。

 しかし、あいつらなら大丈夫!臨機応変に何とかするさと思うだけで、そのまま廊下を歩いて教室に入っていった。

 

 「ヴィー、傷はどうなの?全くこの顔に傷をつけるなんて!」

 「フローラ、もう全然平気だし痕もほとんど見えないでしょ?」

 「完全に消えないとイヤ!」

 「・・・・・」


 魔道具科の教室に入ってみれば、クラスの可愛い系筆頭のフローラがヴィーの顔を両手で挟み、見下ろしている。

 膝の上に乗って。

 あとちょっと近づいたら唇が付きそうな距離。



 「近い近い近い近い近い近い近すぎるだろ―――――――――っ!!」


 ダッシュで2人に近づき、フローラの襟首を掴んで引き剥がして、床にそっと下ろした。

 襟首を掴むのは乱暴そうだが、その後そっと床に立たせている所をみると、クラウスなりに気を遣ったのが分かるので周りからは文句は出ない。

 微笑ましい視線は感じるが。


 「きゃっ!ちょっと!・・・・何するの?クラウス!!」

 「何するのは、こっちのセリフだ!近すぎだ!フローラ!」

 「近づかないとヴィーの顔の傷に、お(まじな)いのキスが出来ないじゃない!!」

 「キスする気満々かよ!」

 「唇にするわけじゃないんだから良いじゃない!!」

 「堂々と言うなよ!ちょっとは恥じらえ!!」


 不満顔のフローラに短い説教すると、今度はヴィーに向かって文句を言う。


 「ヴィーも笑ってないで何とか言え!」

 「女の子同士のちょっとした戯れなんだから、そんなに目くじら立てなくても・・・」

 「お前らのは、女の子同士のちょっとした戯れに見えないから!何か、桃色な雰囲気がダダ漏れてた!」

 「あははははは、酷いな。」

 「あはははじゃねーよ!」




 パンパンパンと手を叩く音がした後に、声がした。

 「おーい、先生はもうここにいるんだがー?席に付けよー。」


 いつの間にか、魔道具科1年主任教師のパスカルが教壇の上に陣取り声をかけた。

 どこから見ていたのか、座って頬杖をついていたが。

 クラス全員が席に着いたのを視認する。


 「さて、連絡事項が2つある。まず1つ目は、今年度の魔道具科1年生には落第者が1人も出なかった。おめでとう!」


 一瞬生徒全員が黙る。

 「「「「おおお――――――――――――――っ!!!」」」」

 歓声が湧き上がった。

 

 「よしよし!良くやったな!先生も嬉しいぞ!次に2つ目、2年生に進級するにあたって進路書類を提出して貰うぞ。このまま魔道具科2年に進級するか、他の科へ転科するか、諸々事情があって、進級せずに学院を辞めるか、選択して進路書類を出すこと。相談したい奴がいるなら、先生のところに来てもいいぞ?分かったな?」


 「「「「は――――――――――――――いっ!!!」」」」

 

 「良し、いい返事だ!では、授業を始める!」



******************************

   

 

 午前の授業が終わり皆が昼ご飯に出払うと、ヴィーは先ほど配られた進路書類を見ていた。


 いつもは1番前の席の生徒に渡して、順繰りに回して配る書類を、今回は授業の終了を少し早めてパスカル自身が一人一人に配った。


 「・・・・・」


 ヴィーに手渡された書類には、小さな付箋が添えてあった。


 『放課後に研究室に来い』


 あまり、いい予感はしない。



********************



 授業を終え、パスカルの研究室へと廊下を歩くヴィーは緊張していた。

 そのせいか、目つきが鋭くなり纏う雰囲気も若干硬質だ。

 向かい側からやって来る生徒が何故か道を空けるが、それに目もくれずに、歩いて行った。



 コンコン

 「パスカル先生、ヴィーです。」

 「・・・おう、入れ。」

 「失礼します。」


 パスカルの研究室の扉を空けて室内へと入ると、魔道具科1年主任教師パスカルの他に、騎士科1年主任教師ガユーザと魔術科1年主任教師リュートと戦士科1年主任教師がいる。


 進路書類の提出の話しの後に、この面子のいる場に呼び出されると言う事の意味を考えた。


 「良く来たな、ヴィー。まあ、その辺に座れ。」


 良く来たなという割には、パスカルの顔が緊張している。

 騎士科のガユーザは、こちらを見てるだけ。

 魔術科のリュートと戦士科の主任教師は、微笑んでいる。


 「・・・はい」

 その辺へ座れといっても、教師たちの真ん前しかスペースがない。

 ヴィーはそこへおずおずと座った。


 「何も取って食おうと訳ではない。そう固くなるな。」

 名前も知らない戦士科の教師が言う。


 「そうだよ?少し話しをしたいだけだからね。」

 「・・・・」



 教師4人対生徒1人なんていう構図では、全然説得力はない。

 だが、話しを聞かないことには、開放して貰えそうもない事は分かる。

 

 「お話しとは何ですか?」


 「単刀直入に言おう。来年度、戦士科に来ないか?武闘大会での動き方・戦い方を見れば、君は戦士科向きだと思うんだ。特に予選で見せた体術と速さは、大いに成長が期待できる。本選での、魔術科のスイゲツの投擲武器に対する対処の仕方・・・・あれは俺でも驚いたぞ?放たれて地面に刺さった武器を足で蹴り上げ、それを相手にやり返すとはな。それにルーフェスと互角に戦えるんだ、それだけでも魔道具科に君を置いておくのは惜しいんだ。どうだろう?」


 結論を促そうとした、戦士科の教師を魔術科のリュートが止める。


 「待ってくれダメだよ、ダグラス。こちらにも話しをさせてくれないと。」

 「あ、ああ、すまん。つい・・・」

 

 戦士科のダグラス?と魔術科のリュートの間で取り決めがあるらしく、素直に会話を譲る。


 「さて、察してはいると思うけど、僕の方も君には来年度に魔術科に来て欲しいと思っている。武闘大会予選では確かに体術中心でやっていたけど、本選で見せてくれた魔術の構築・展開・発動の速さとその時の魔力操作の正確は素晴らしかった・・・・・あれは無詠唱だったよね?それに最後にルーフェスの剣で場外へ飛ばされた時、君は何をしたのかな?肉体強化?物理結界?どちらもかな?君は魔術科に来るべきだと思うんだ。」



 2人の話しを聞き終えて、まだ混乱しているヴィーはパスカルの方を見た。

 それに気がついたパスカルが、ばつが悪そうに頭を掻きつつ話してきた。



 「・・・転科の意思がお前にあれば、戦士科と魔術科では受け入れるつもりがあると理解してくれれば良い。今、結論を出せとは言わない。良く考えてみてくれ。」


 混乱しながらも、暫く思案してヴィーは教師たちに答えた。

 「考えてみますので、少し時間を下さい。」


 そう言って、パスカルの研究室を退室していった。



*******************



 「不満そうだね、ガユーザ?」


 転科を勧める話しをする訳でもないのに、パスカルの研究室に同席していたガユーザに声をかける魔術科のリュート。


 「・・・・入っていた5班の成績が優秀だったのもあって、魔道具科でありながら自ら実地訓練に参加している生徒を、俺だって気にはしていたんだ。前回の実地訓練にも単独参加して、ロベルトたち7班に次いで2番目に合格している。所属していた5班は棄権組・・・・優秀だったのはあの生徒だったということだろう?・・・何で、今年騎士科に来なかったのかと惜しむ気持ちもあったからな。」


 「・・・・しかも転科の勧誘は出来ないから、尚更惜しいか?」


 ダグラスの言葉に図星を刺されたのか、盛大に顔を顰める。


 

 「まあ、主武器が剣ではないから仕方がないと言えば仕方がない・・・・騎士科には転科出来ん・・・・・・・・・・何であいつが女生徒なんだ!詐欺にあった気分だ!」


 「そうだね、改めて生徒情報を見てビックリしちゃったよ。凛々しいよね~・・・全然気付かなかったし、実際見ても・・・・・」

 「タイプは違うが、そういうのが前にもいただろう?だが、あれに比べれば大人しい方だと思うが。」

 「ああ、いたねー・・・戦士科に。今は高ランクの冒険者みたいだよ?騎士科にいた片割れは、王都中央の騎士だろう?」

 「ああ、学院祭にも来ていたぞ?セルゲイ副団長と一緒に。何やら、ロベルト達に粉をかけに来たらしいがな・・・・・・早すぎだろ、全く。」 



 魔道具科のヴィーに個別にこっそり話したいからと言われて自分の研究室を提供したパスカルは、転科勧誘の話が終わっても、まったりと落ち着いてしまっている同僚たちに一言言い渡した。



 「用が済んだら、とっとと帰れ。」


 可愛い生徒に対しての暴言、本意ではない場を作らされた事への憤りなど、パスカルの地雷をいくつか踏んでいる事に遅ればせながら気づいた面々は、これ以上怒らせてはいけないと察したらしく大人しく研究室から出て行った。

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