81. 王都中央騎士団 (2)
81話目投稿です。
昨日、午後から休みをくれてやったのは、忙しすぎて自分の恋人にでも会えてなくて色々溜まっての、あのダダ漏れの何かなのかと思ったからだ。
ここの所、かなり仕事を押し付けた自覚が有るのも理由の一つだが。
「何か、食べたいとかほざいていたからな・・・・」
そう、あの時マイクから滲り漏れてくる何かに焦って、良く聞こえなかったんだよな。
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン・・・
「・・・・・・前よりノックが長い!!入れ!」
1人2人3人4人5人6人・・・・・・・
「いったい何人入ってくるつもりだ?!4人だけ残って後は外に出ていろ!」
はぁ~と溜息とつくと、執務室に残った4人を見渡した後、聞いてみた。
「今度は何だ?」
「花が飛び散っています。」
「秋も深まりつつあるこの時期に。」
「マイクの周りに春の如く。」
「空気までほわほわしております。」
「「「「ニコニコでございます。」」」」
もう!こいつら何言ってるんだ・・・・!
そういえば、こういう輩の対応もマイクに任せてんだったな。
防波堤がないと、こんなに疲れるもんなんだなぁ・・・。
「・・・笑っているなら結構なことではないか?」
命とか貞操の危機より、よっぽど安心していられるではないか?
ついでに俺に対して、もうちょっと優しくなってくれれば、何の文句もない。
「「「「大問題ですっ!!!」」」」
「・・・・・・・話してみろ・・・」
マイクは今朝、いつものように遅れず出勤してきた。
仕事もちゃんとこなしている。
だが、昨日以上にマズイことになっているようだ。
昨日の休みでマイクが満足を得たのは一安心なのだが、いつもは僅かに笑みを浮かべているが、今日は見るからにニコニコしているらしい。
仕事中にヘラヘラ笑ってんじゃねーよという事は、ちょっと横に置いておく。
気に入らない奴への応対も一歩間違えれば慇懃無礼の態度が一変、ニコニコと春の如く柔らかい雰囲気で接しているらしい。
廊下とか訓練場とかへの移動中にも、ニコニコしながら歩いているようだ。
前回、こっそりマイクを見ていた奴らを始め、城勤めのメイド・侍女、平民だからと蔑視・軽視していた爵位の高い騎士まで軒並みヤられて使い物にならなくなる者が続出。
呆けるとか腰が砕けるとか悶えてるとかうっとりしてるとかで。
なんだそれ、怖いじゃねーか!
何をどうやったら、ニコニコしているだけで城中の人間をそんな状態にさせられるんだ?
マイク、お前はどこの兵器だ。
っていうか、これ俺の案件か?
もう、団長に渡しても良いレベルじゃね?
え?北区に出張中?そうだったっけ?
いないのか・・・・じゃあ、仕方がない。
「・・・・・・マイクを捕獲して、ここに連れてこい。」
「「「「はっ!」」」」
再び、副騎士団長である俺の執務室に連れて来られたマイクは、キョトンとした顔で聞いてくる。
「今度はなんですか?セルゲイ様?」
「!!」
小首を傾げるんじゃねーよー!!
頬をちょっぴり染めてんじゃねーよー!!
困った風に眉を下げるんじゃねーよー!!
きゅるんきゅるんしてんじゃねーよー!!
訳わかんねーよ!俺もー!!
可愛いじゃねーかー!!!
こっち見んな!!
緊急警報発令!!再びだ!
「マイク、今から暫く王都中央の街の巡回を命ずる!!その状態が改善されるまで登城禁止だ!!」
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マイクは、突如登城禁止を言い渡され、王都中央の街を巡回していた。
これでは仕事が終わっても、騎士団の宿舎に帰れない。
荷物に関しては、同僚に頼んで街にある騎士団の詰所まで持ってきてもらえば良いのだが。
っていうか既に頼んである。
副騎士団長の執務室にいた同僚が、快く引き受けてくれた。
「うそん・・・」
何だこれ?どういう事?
全く、昨日から何だっていうんだ?
仕事でミス・・・はしていないはずだ。
人間関係?・・・・は微妙だな。
「・・・・え?マジ?これって、俺に対するいじめ?」
とうとうセルゲイ副騎士団長まで?団長が北区出張中でいない間に?
まあ、元々あの人も俺の事好きじゃないみたいだしなー。
俺も好きじゃないけど。
すぐ自分の仕事を俺になげるし、要らぬ手間かけさせられるし。
自衛のためと仕事のためにかぶっていた猫が発覚して以来、ネチネチネチネチ嫌味言ってきやがる!
でもこのまま、巡回だけの仕事しかやらせて貰えないのはなぁ・・・ちとヤダな。
昨日久々にヴィーの家でお腹いっぱいに白飯とかお味噌汁とか食べて、米禁断症状から抜けて出せて気分最高だったのに。
いつもだったら嫌な奴に会ったら早めに会話を切るところを、今日はにこやかに応対していたというのに、この仕打ち。
”その状態が改善されるまで”っていつまでなんだ?っていうか、その状態って何?
う~む・・・・これって、転属願い出した方が良いレベルなのかな?
行くとしたら・・・・北区かな。
王都中央から他の地域に行っちゃうってなると、ヴィーの兄弟子としては・・・・。
「いっその事、騎士団やめちゃうか・・・・?」
ヴィーが学院卒業するまで、冒険者稼業に転職する?
今までの給料とか結構溜まってるし、これといって使い道もなかったしね。
ギルドで仕事をこなしていけば、ヴィーが卒業する頃には王都中央でも他の地域でも、店舗付きの住居とか買えるくらいにはなるかな・・・・。
共同で住むってのも、有りかな?
「有りかもしれない・・・・」
前方に騎士服を着た2人が、何やら紙を持って思案中だ。
あれ?騎士服は着てるけど・・・王都中央の人じゃないな。
何やってるんだ?
一応、声はかけておくか・・・。
「失礼、何かお困りですか?」
あ、こっち向いた。
東騎士団の徽章が、ついてるじゃん。
あれー・・・・知り合いだ。
何やってるんだ、ケルトと・・・シャーロック様。
向こうも俺に気がついて驚いてんな。
「マ、マイク!」
久しぶり!ていう感じにこっちに顔を向けたケルトの隣に物凄い形相のシャーロック様。
えっ?!何?何でそんな敵意に満ちた目で、俺を睨むんだ?シャーロック様は。
何か俺、最近嫌われオーラとかが出ているのか?
「シャーロック様!若い良い男に会う度に毎回威嚇するのはやめましょうって、昨日ミーティングしたでしょう!!」
何、そのミーティング。
「うっ!そ、そうだったな・・・すまん、ケルト。」
「・・・・・・・何かお気に触りましたか?」
ケルトの話によると、ウォルンタス男爵家の末妹が2ヶ月ほど前に自立して家を出たが、具体的な職場を知らないためにシャーロック様と一緒に探しているらしい。
ええ~?それ怪しすぎる。
男爵家といっても貴族だ、その娘が家を出て自立?・・・・・まあ、兄弟姉妹が多ければ全くない事ではないとは思うけど・・・・。
でも具体的な職場を知らない?
妹と何のトラブルも無ければ、知らないということはないはずだ。
その妹が、家族またはケルトを嫌っているか、ルーズな性格でない限り。
しかも何故、その妹探しにシャーロック様がいる?例え、ケルトの親友でも・・・おかしくないか?
これは、詰所までおいで頂かないといけないな。
「申し訳ありませんが、詳しくお話しを伺いたいので詰所まで御足労願えますか?」
ケルトは、内心色々思考を巡らしているようだけど、こうなることは受け入れたらしい。
シャーロック様の異論はないらしく頷いてくれてるし、強制連行にならなくて良かった。
*************************
王都中央の街を巡回中に見つけて騎士団の詰所までつれてきた、東騎士団のケルト・マイ・ル・ウォルンタスとシャーロック・サイ・ル・ファーガスを一応な応接室?に通す。
いくら何でも、取り調べ室には通せない、今は。
粗茶ですがと、お茶も出しておく。
他の詰所にいる騎士には少し話しをするからと暗に誰も通さないでくれるようにと、含みを持たして言っておいた。
彼らの態度からして、個人的な事情が多分に絡んでいるようなので、遮音結界を張っておく。
「遮音。」
さあ、きっちり話しを聞こうかな?
と、席についた。
「聞いてくれマイク。私は、些細な事で嫉妬し、8年間愛する人を散々傷つけてきた。いつでも会いたくて、顔を見たくて、声が聞きたいのに、会って私の口から出るのは彼女を傷つける言葉ばかりだった。その言葉が貴族とういう身分を捨てさせ、平民として生きることを決意させてしまった。いつの頃からかは判らないが、平民として生きる為の努力もしてきたようだ。先日彼女から東騎士団にいる私に、初めてくれた手紙にそう書いてあった。初めての手紙が決別の手紙だった!・・・そして、これからは自力で働いて平民として生きていくから、私を煩わすことはないので安心してくれと・・・・そんな事を思わせていたなんて思ってもなかったんだ。このまま何もせずにいたら、私は彼女を垣間見ることさえ出来なくなってしまう・・・・・・・・・・そんなのは堪えられない!」
うわぁ・・・・重っっ!
砂吐きそうなくらい甘いのに、重いったらないな!
急に話し出したと思ったら、そんな一気の畳み掛けるように吐露しなくてもいいじゃんか!
というか8年間て・・・甘くて重くて、その上、長っ!
取り敢えず、その話し本当か?とケルトを見たら、ケルトもびっくりしたのか目を見開いてシャーロック様を見てた。
俺の視線に気がついたのか、はっとしてこちらを見て少し逡巡してから、観念したように今度はケルトが話しだした。
「・・・・とまあ、シャーロック様と一緒に王都中央に探しに来たわけなんだよ。この街にいる事は分かってるんだけど、職場はわからないから。妹が出来る仕事っていったら、ロガリア学院で修めた薬学関係くらいかなと思ってね。さっきは2人で薬を扱う場所を、順に訪ねて回っていたところだったんだよ。」
手間がかかることを・・・もしかして、相手方はシャーロック様に対して怒ってる?
まあ、当然か、自分の所の娘を傷つけてきた相手だもんな。
「そう・・・ですか・・・で、誰を?」
「だから、俺の妹を。」
これは複雑、友人の妹か・・・・ケルトは板挟みってとこかな?
勝手にやってくれてもいいんだけど、この街で問題起こされるのは勘弁願いたいね。
俺が話しを聞いちゃったことだし。
「・・・・・探し出して・・・どうするつもり?」
「どうって・・・」
「まずは、謝りたいのだ!傷つけてきたことを!ヴィヴィアンナに!」
シャーロック様が、真剣そのものなのは分かる。
でも、その勢いで行ってもこじれそうな気がするぞ、いや絶対する。
「・・・・・・・」
例え見つけても、シャーロック様にはすぐに会わさない方がいい感じがするけどな。
だって何か余裕がなくて、危機迫ってて怖いし。
相手からは、多分嫌われてる可能性もあるのに。
・・・あれ?ヴィヴィアンナ?どっかで聞いたような・・・・って、夕べ聞いたんだっけ、ヴィーに。
亜麻色の髪に水色の瞳のヴィヴィアンナ・・・・イルベルナ治癒術院の新しい薬師兼受付の16歳。
その子のことかな?
ちょっとシャーロック様を放置して、ケルトに確認しておくか。
「ケルト様、少し良いですか?」
「あ、ああ。」
ケルトも、シャーロック様を気にしつつ少し離れる。
ケルトたちが探しているヴィヴィアンナ嬢の容姿を確認して、やっぱりかと確信した俺は、その子の職場について伝えておいた。何故知っているんだと驚いて聞いてきたけど、王都中央の街は俺たちの管轄だから情報を得る伝手はいくつかあるんだと言うに留める。
そして、シャーロック様に向き直った。
「約束してほしい事があります。それを守っていただけますか?」
「守れば、このまま探しても良いのか?!」
「ダメです。」
「何故だ?!」
「・・・・探されてるのは、ウォルンタス男爵令嬢のヴィヴィアンナ様ですよね?」
「そうだ!」
「平民としてこの王都中央の街で働いて暮らしていると。」
「そうだ!」
「そんな風に暮らされている方を、あなたのような貴族が探していると広まれば、良からぬ事を企む輩が出てきてもおかしくはないんです。」
「「!!」」
「聞けば、世慣れするには自立していくらも経っていないようですし、危険に晒したいんですか?」
「・・・・・そんなつもりは・・!」
俺は、一言伝えた。
「では、あらゆる事を想定して考えて、人の話しに耳を傾けて行動して下さい。」
ケルトとシャーロック様は、言葉に詰まったように俺を見ていた。
そのまま微笑んで、暇乞いと開放を告げた。
「ご機嫌よう。シャーロック様、ケルト様。」
”それって恋なの?~”の9話目とリンクしております。宜しければそちらも読んで下さいね。




