80. 王都中央騎士団 (1)
80話投稿です。
王国魔道士長カルタスは、顔を顰めて書類を見ていた。
それはロガリア学院祭初日の余興の映像を見て目を付けた魔道具と、製作した生徒の今回の評価提出の結果だった。
年に一度の評価提出は、何もロガリア学院に限ったことではなく、ラフューリング王国の存在する全ての魔道具科、薬学科がある学校から評価申請が来るのだ。
そのため学校毎に担当を決めて任せてあり、実際にカルタスが実物を見るのは、学校の最終学年の生徒のものだけだった。
それだけでもかなりの数の物を検分し、評価を下すことになる。
「ミルトル」 作成者 魔道具科 1年 リヴィオラ・ショーノ
魔道具科評価 15 (20点満点中)
薬学科評価 10 (20点満点中)
騎士科評価 10 (20点満点中)
戦士科評価 10 (20点満点中)
ロガリア学院長評価 15 (20点満点中)
特別評価 0 (20点満点中)
(ラフューリング王国魔道士長代理 ジェイド・タイ・ル・リーズン)
総合評価 60/120
寄りにもよって、”0”とはどういうつもりだとカルタス魔道士長は、ロガリア学院担当のジェイド・タイ・ル・リーズンに問うてみた。
「私は、これはと思った生徒の魔道具には、いつも最初に最低評価を下します。次回には、更に改良を加え、国のために使うと言う視点から熟考され提出されることになるでしょう。この生徒が2年生になった時は「ミルトル」はどのようになっているでしょうね?そのためには名前を変更して、新たに評価提出に出す形になると思いますが。」
そうなのだ。
魔道具や薬学を学び始めの者の最初の評価提出は、軒並み低い点数なのが常例。
はっきりいってあまり使い物にならないものが多い、もしくは同じ用途の物が既存しており、そちらの方が性能も良いからだ。
新しい物が出てくるのは歓迎するが、国の評価提出の目的は提出者の腕の向上が主だ。
多くの者が国に認められようと切磋琢磨しているのだ。
認められたいなら、国が何を求めているのかを熟考し、改良して、名前を変えて必ず評価提出をする。
それが、普通だ。
評価する側が、生徒の奮起を促すために最初に辛口評価を下す方法をとるのは珍しくない。
ただこのジェイド・タイ・ル・リーズンは、それが顕著だった。
「来年のロガリア学院の評価提出が楽しみですね。」
ジェイドの説明を聞いて、そうかこいつも「ミルトル」の可能性には気づいていて、尚且つあの生徒の更なる奮起を促すつもりのこの評価であったかと納得したカルタス魔道士長は、顰めた顔を緩めた。
自分の作った物を国側には利用されたくないと、制度を逆手に取る学生がいるなどとは思ってもいない。
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王都中央の街の巡回を終え、王宮に戻って執務をとっている副騎士団長セルゲイの手伝いをしていたマイクは、書類管理の煩雑さに辟易し、更に整理整頓されていない状態にうんざりしていた。
声には出さないが、内心でぶつぶつ言っていた。
(何でこんなにバラバラなんだよ・・・仕分けするとか、用向き分けとか色々やりようがあるだろうに・・・・ファイリングしろよ!)
「・・・・・・」
無言・無表情で書類を仕分けしていくマイクに、少しビクつきながら書類をこなしていくセルゲイ。
人当たりの良い巨大な猫を被っている事を知ってから、暫く事あるごとに啄いてからかってきたが、その鬱憤が段々と蓄積され、一層猫に磨きがかかっての事なのか、マイクは感情をセルゲイの前では出さなくなっていた。
もちろん仕事はちゃんとこなし、会話もする、態度が悪いわけでもないので、その事に関して注意など出来ない。
実の所マイクは、セルゲイのからかいにムカツキ過ぎて何かの拍子にまた素をセルゲイに曝け出しそうなので、表情筋を極力動かさないようにしているのだ。
(ちょおっと、からかい過ぎたかな?どうしたものか・・・・?)
文官も真っ青な速さで、書類が仕分けられ、セルゲイの机の前には5箱が並んでいる。
内訳は緊急の物、未処理の物、返却の物、処理済みの物、その他だ。
「セルゲイ様、返却・処理済みの物を担当箇所に届けてきますが、他に御用はございますか?無ければ、私も訓練の方へ参加いたします。」
仕事を終えたマイクは淡々とセルゲイに報告をする。
「あ?ああ、他には・・・用はないな。」
「分かりました、では失礼致します。」
一礼し、書類を抱えると副団長執務室から出て行った。
それを目で追いつつ、書類仕事の手は休めない。
「・・・ふう、ホント、どうしたもんかなぁ。」
カッカッカッカッとブーツの音を響かせて、城の廊下を迷いなく歩く。
書類を各部署へと返却ないし、届けていく。
ふと、外を見てみれば秋も深まった色合いが目に飛び込んでくる。
落ちる色づいた葉を見つつ、短く嘆息する。
傍から見れば、何を憂いているのかという切なげな顔に映ることだろう。
「・・・・・・・・白い飯が食いたい・・・」
最近何かと忙しく、ヴィーの家にある米を食べていない日々が続いていたマイクは、白いご飯を渇望していた。
(塩おにぎりでも、卵かけご飯でもいいよぉ・・・出来れば味噌汁も飲みたい!炒飯も捨てがたいけど、白い飯!!)
「・・・・・・・はぁ・・・・」
そんな白飯に思いを馳せるマイクを、物陰からこっそりと見ている人影があちこちにいくつもあった。
廊下の物影、マイクの見ている木々の影、近くの部屋の窓、廊下外の壁際等等。
「ああ・・・憂い顔が良い・・!」
「ああ、あのままこちらに目線くれないかな・・」
「吐息がヤバイ・・・」
「お持ち帰りしたい・・!」
コメントが気持ち悪い人達だった。
それは、王国魔術士だったり、王宮近衛隊だったり、王国魔道具士だったりした。
そしてこれらの人間に危機感を持った同僚騎士たちもいたりした。
この人たちは、何故このタイミングでこの場所にいるのだろうか?仕事は良いのか?
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コンコンコンコンコンコンコンコン・・・・・
「ええい!いつまでノックしている!入れ!!」
しつこく鳴り止まないノックにセルゲイは、座ったまま怒鳴った。
(自分の執務室で大人しく仕事をしているというのに、誰だ!ふざけた事をするやつは!)
「「「「し、失礼します。」」」」
「あ?」
ゾロゾロ入ってくる自分の部下たち総勢4人。
(何だ何だ?雁首揃えて、ガタイがでかいから広い執務室も急に窮屈になった感じがするぞ。誰か窓を開けろ!息苦しいわ!)
「何だ?何のようだ?お前らはこれから訓練だろうが?」
執務室に入ったものの、直立不動で4人横一列の並んでいた。
皆一様に真剣な顔つきだ。
4人は顔を見合わせて頷くと、同時に喋りだした。
「「「「副団長!何とかして下さい!!」」」」
「は?何をだ?」
「「「「マイクです!」」」」
「マイク?・・・・どうかしたか?」
(王都中央騎士団は貴族が断然多いからな・・・・。
前は笑顔を貼り付けて対応していたみたいだが、今は・・・・。
あの無表情な顔で接せられて、慇懃無礼だと誰かキレたか?)
4人は顔を再び見合わせて頷くと、今度は順番に喋りだした。
「憂い顔です!」
「儚げです!」
「切なげです!」
「色気です!」
訳が分からない。
「・・・・マイクがなんだって?」
「憂えているのです!」
「消えてしまいそうに儚いです!」
「泣き出しそうに切なげです!」
「放っておくと襲われそうな色気です!」
「「「「何とかして下さい!!」」」」
(何言ってるんだ、こいつらは。)
このままでは埒があかないので、代表者1人に話しを聞くことにした。
ひと仕事終えたりした時のわずかな休憩時間の度に、外の景色を見て溜息をこぼすマイクを団員、王国魔術士、王国魔導具士他多数が見かけている。
というかわざわざ見に来ているらしい。
どこからそんな情報を手に入れているんだ?
その姿が憂いていて、実に切なげで儚げなのだそうだ。
そこから垣間見える色気にあてられて、放っておけば誰かに襲われかねないという事らしい。
「アホかっ!マイクだって騎士団の一員だぞ?そう簡単にだな・・」
「「「「副団長!」」」」
「限界なのです!」
「抑えておけません!」
「守りきれるかわかりません!」
「確保してください!」
(守りきるって・・・どこのお姫様だ!
だが、事情ぐらいは聞いておかないと俺が団長に叱られるか・・・。)
「・・・・・わかった、ここへ連れてこい・・・」
「「「「はっ!!」」」」
連れてこられたマイクは、無表情ながら訝しげだ。
「私はこれから訓練に参加するつもりだと申し上げたはずですが。」
「俺は他の団員からの要望を受け付けただけだ。」
「要望?私が何かしましたか?」
マイクを連れてきた4人は、マイクが視線を送るとビシッと姿勢を正した。
姿勢は正したが、目が泳いでいた。
(何で頬を赤らめる!やめろ、可愛くない!)
「休憩時間の度に、外の景色を見て溜息をこぼすお前が、憂いていて切なげで儚げなのだそうだ。そこから垣間見える色気にあてられて、放っておけば誰かに襲われかねないし、守りきれるか分からないから確保してくれってさ。」
「は?襲われる理由がわかりませんが、例えそうでも自分の身は守れます。」
「襲われるの意味が違うんじゃないか?」
「命を狙われるにしても、貞操を狙われるにしてもどちらの意味でも大して変わりません。」
「お前っ?!貞操狙われたことがあるのか?!」
「最近は少なくなりましたが・・・・前は頻繁に?」
(何てことだ!知らなかった!そんな事になっていようとは!)
見れば4人も握り拳を作ったり、目を瞑ったりと悔しそうだ。
実はマイク、王都中央騎士団内で後ろ盾がないからと、いじめられるとか無碍に扱われるというこはなく、逆にアイドル化していた。本人は知らないが。
かなり前に有志での話し合いの場が設けられ、常にシフトを組んで交代でさり気なく護衛していたらしい。ちなみに同僚はほとんど参加している。
今回そのシフトでは、守りきれないと判断したために自分たちの上司であるセルゲイに相談・・・・助けを求めてきたようだ。
(城内で騎士を常に護衛・・・・?なんだそりゃ?そこまでするほどの事か?・・・本当のことなら確かに迂闊だった。ここには貴族が圧倒的に多く、マイクには後ろ盾が無いのに・・・俺の失態か?)
「何でこちらに訴えてこないんだ?!」
「・・・・キリがないので、一応私も騎士の端くれですし。」
(それはそうなんだが、剣の腕だけではどうにもならない場面も多いだろうに。
だが、覚めた物言いだ、対処方法を既に見出しているということか?・・・・取り敢えず、状態が悪化した原因の究明が先決か。)
「・・・・・この際だ、何を思い悩んでいる?言え。」
「?別に悩んでません。」
「嘘つけ!悩みじゃなくても何かあるだろう!!」
「何か、ですか?・・・・そうですね、すごく欲しいものはあります・・それを思うと切なくなります・・・」
「「「「「!!!」」」」」
ぶわっと何かが、マイクから滲み出た。
潜めた眉、伏せた瞳は潤んで、唇からは切ない溜息、何かを切望しそれを堪えている。
(こ、こ、これか!?色気って、これか――――――――!!これはヤバイ!ヤバイって!!緊急警報発令!緊急警報発令!!ああ!他の4人は、腰砕けで悶えていて使い物にならん状態に!!)
溜息と共に、ポツリとマイクが呟いた。
「ヴィーの(作った白い)ご飯が食べたいんです・・・・・」
王都中央副騎士団長は、自分に降りかかってきそうなマイクの色気?を必死に手でしっしっと振り払いながら叫んだ。
「休みをやるから、さっさと食ってきやがれ―――――――――――っっ!!!」




