75. 冬支度 (5)
75話目投稿です。
「まずは、ごめんなさい!」
「・・・・?何がですか?」
「えっ?」
何を驚いているんだろう?
何をこのちび魔狼は謝っているのだろう?
今日、執拗に私をつけ回したことかな。
ストーカー行為?ストーキングを許せと言っているのか?
「しつこいストーカーは、駆逐してやります!」
「違う!・・・・昨日、あんな事をしたのに怒ってないのか?」
昨日・・・・?あんな事?私を組み敷いた事?叩き飛ばした事?
「何言うんですか、怒ってますよ?一歩間違ったら死んでましたし。当たり前じゃないですか。」
「だから!それを謝ってるんだろが!!」
「?・・・・例え私を殺したとしても、あなたが謝る必要ないでしょう?」
「・・・・何でだよ?」
何をこのちび魔狼は言っているのだろう?
ええ?どうして?とまるで異星人を見るような目で見るな。
互いに友好関係にあるならいざ知らず、基本的な立ち位置としての私たちは、狩る者と狩られる者だ。
どちらの位置に立つかは、その時次第。
私が生きてくためにこの国の魔獣を狩るのと変わらない行為を魔獣にされただけだ。
謝れても困る。
例えそれが生きるためではなく、嬲るためだったとしても。
嬲られたとしても、仕返しは機会があればするが。
魔狼が私1人を殺しても、さして問題にはならない。
この国がラヴィンター皇国に文句くらいは言うだろうが、多分ラヴィンター皇国は意に介さないだろう。
でもそれは、魔狼が非がない国民を殺した場合だ、その証明だってかなり難しいし、証明出来ないなら冒険者で学生でもある1人が魔獣に殺されただけのことだ。
これが逆だった場合は、違う。
まかり間違えば、国際問題に発展してしまう。
それは魔狼がこの国の魔獣ではなく、ラヴィンター皇国で神聖視されている高位の魔獣だから。
だが魔狼を単独で殺せる人間はそうはいないし、逆の可能性の方がはるかに高い。
死にたくなかったら、こちらは必死で対策するしかないのだ。
そう懇切丁寧に教えてあげたら、目を見開いて茫然としていた。
この国では、自分がどういう風に認識されている存在かわかっただろうか?
暫く黙り込んでいた、ちび魔狼が顔を上げて言った。
「それでも、昨日やった事は自分が悪かったと思ったから謝りたいんだ。言い訳にしかならないけれど、狩りに興奮して、いつもより余裕を無くしてて、自分の力がこの国の人間よりもずっと強いことを忘れてた。昨日、お前を捜していたのは本当だけど、あんな事をするためじゃなかったんだ。」
「・・・・・」
「お前は、魔狼はラヴィンター皇国では神聖視されてる高位の魔獣に分類されてるような事を言ったけど・・・・それはほんの一部の国に関わってる魔狼のことだよ。あの国でだって、害と見なされれば討伐対象になる。俺は・・・違うよ。」
「・・・・でも、この国の人間の多くは私がさっき言ったように思ってるってことは、わかったんですか?」
「・・・・わかった・・・俺がこの国では、”高位の魔獣””魔狼全部がラヴィンター皇国で神聖視されてると思われている”って・・・・でも、本音は強くて手に余るただの魔獣扱いなんだろ?」
やや拗ね気味だ。
でも、その通り。
高位の魔獣だけあって、頭も良いんだな。
私の言いたい本質をちゃんとわかってる。
しかし、そんな事を気にするあたり・・・変わった魔獣だなとは思う。
魔狼ってこういう魔獣なのかな・・・?
私のイメージだと、もっとこう・・・プライドが高くて、ものすごく上から目線で人間を見てる感じを持っていたんだけど。
「それを理解したうえで、昨日の事をまだ私に謝りたいのですか?」
「そうだ、それでも謝りたい。じゃなきゃ、本当に”強くて手に余るただの魔獣”になっちゃうだろ!もしかしたら、お前には俺の気持ちなんて理解できないのかもしれないけど・・・俺はそんなの嫌だ。」
気持ち的には分かるさ、ただ信用出来ないだけだよ。
私は、あんたのことを何にも知らないし。
あんただって、その意見をいつか翻すかもしれないでしょ。
でも、こんな事を言ってもこの魔狼は納得しないんだろうな。
どうする?どうするのが良い?
「・・・・・うーん、わかりました。謝罪を受けますし、許しますよ?条件付きで。」
「ええっ?ほんとか?!って、条件つき?!」
昨日のちび魔狼の所業によって負った怪我の治癒費大銀貨3枚、その弁償を条件とした。
内訳は、両肩の爪痕、背中の傷、体中の打撲、あばら骨数本のひび。
説明をすると、魔狼もそれは当然だなと承諾した。
その他の裂傷は自作の薬で治療中なので良しとする。
「ところで、魔狼の成人って何歳なのですか?」
「16歳だ。この国の人間は?」
「同じ16歳です・・・・で、あなたは今何歳ですか?」
「もうすぐ16歳。」
「・・・・・・弁償の金額を引き上げます。」
「ええっ?!何で?!」
「あなた、成人直前じゃないですか!」
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弁償額を小金貨1枚に引き上げました。
ええ、手のひらを返したと言われてもいいです。
もうすぐ成獣になる奴に、年下の子供の私が譲歩してやる謂れは1ミリたりともない。
例え、形が小さな魔狼でもだ。
子犬サイズなのに、頭は16歳って一体どんなだ。
魔狼は、成長が遅いのか?
どうやって弁償すれば良いのだと聞いてくるので、換金できる魔獣を弁償金額分狩って貰うことにした。
前に魔術が使えていたから、索敵も出来るのかと思ったら、全く出来なかった。
昨日のレッドブルは鼻で探したらしい。
なので西区をちび魔狼の鼻と私が索敵しながらという妙な取り合わせで、獲物を探していた。
どちらが先に獲物の魔獣を見つけられるか、暗黙のうちに競争みたいになっている。
一生懸命い鼻をヒクつかせる仔犬な姿は、ネコ派な私にもちょっと可愛かった。
「あ、ブルだ!ブルが・・・えっと、5頭いるぞ!」
ちび魔狼の鼻に軍配が上がった。
「よし、行け!チビマロ!!」
私のかけ声を合図に、成獣の姿に魔術で変えて、走りだした。
「チビマロなんて変な名前でよぶなぁぁぁ―――――――っっ!!」
と叫びながら。
せっかく可愛い呼び名で呼んであげたのに、気に入らなかったらしい。
難しいな成人直前の魔狼は。
どどどどどどどどっっと土煙を撒き散らしながら、ブラウンブル5頭がこちらに突進というか、パニクって逃げてくる。
そうだよね、怖いよね。
昨日も思ったけど、獲物を追いかけてる魔狼の顔が、ものすごく凶悪そうなのだ。
「・・・・・」
私は、ブラウンブルたちの進行方向に捕縛の魔法陣を設置して、待機。
ギリギリまで待って、発動!!
「”捕縛”」
バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!と勢いよく、引っかかり捕縛完了。
その後に、自動的に電気麻痺の魔術が続けて発動しました。
私のはセットなんだよね、捕縛と電気麻痺。
麻痺している間に止めを刺そうと思ったら、数が1つ多かった。
魔狼も捕縛されて、電気麻痺で麻痺してた。
ブラウンブルは気絶しているが、さすがに魔狼は動きが鈍るだけで意識はあった。
「何べぇ・・俺ま・・べ捕縛しへ麻痺・・・まべかけ・・ふんだひょぉぉ・・!」
「え?わざと入ってみたわけじゃないの?じゃあ、避ければ良かったのに?上とかに。」
「・・・・うう・・・」
勢い余ってブラウンブルと一緒に突っ込んで、捕縛の魔法陣を避けられなかっただけのようだ。
昔、マイク兄が同じように私の捕縛の魔術に飛び込んできたことがあった。
マイク兄曰く”男には結果が分かっていてもやってみたくなる時があるんだ”と言って、やっぱり足腰が立たなくなって痺れていたから、てっきりチビマロもそうだと思っていたのだけど、違ったか。
今はまだ大きい成獣の姿なのに、痺れて腰が立たない魔狼はかなり格好悪かったので、見ないようにしてあげた。
ヘロヘロになっている魔狼をよそに、私はブラウンブルに止めを刺し、血抜きをする。
多分、ブラウンブル1頭分の肉で弁償の金額には充分達していることだろう。
あとの4頭をどうしよう?
「チビマロ、私の方はブラウンブル1頭で大丈夫だけど・・・・あと4頭はどうする?チビマロが食べる?」
「チビマロ言うなよ!なんだよそれは!」
「じゃあ・・・チビフェンのが良かった?」
「ちびちび言うな!成人の儀が終わったらすぐ成獣になれるんだぞ、俺は!」
「・・・・幼生から段々成長するんじゃなくて、いきなり成獣になるの?中間は?」
「ない!」
なんだと?子供から大人になる思春期がないってことなの?青い時代がないの?
自分の黒歴史をそれとは知らずに、むしろ積極的に増産していく期間がないのか?
「なんと情緒のない成長具合・・・・」
獣って、赤ちゃんの時はもちろんだけど・・子供から大人になる過程もすごく可愛いのに・・・・いきなり可愛くなくなっちゃうのかぁ。
残念・・・。
「ほっとけ!成獣になったらやりたいことがあるから良いんだよ!むしろバッチコイだ!」




