74. 冬支度 (4)
74話目投稿です。
怪我の方は、大きな爪痕と背中の傷と打撲と骨の方は治癒してもらった。
結構酷かったらしく、大銀貨3枚かかってしまったが、これはしょうがない。
本当は、もう少し費用がかかるはずだったのだけど、イル医師が治療よりも話しを優先させて気絶させたお詫びだと言われた・・・納得。
必要な部分があったとはいえ、怪我の具合の話しじゃなかったもんな、あれ。
もしかして、これに関してもっと怒って良かったのかな?
痛みで気絶するなんて・・・・久しぶりな気がする。
経過を診せに来いとベルナ医師に釘を刺されてしまった・・・おおう。
ベルナ医師は患者としては従わないと怖いのだ。
顔とか他の裂傷は、自作の傷薬で多分そのうち治るだろう。
痕に残ったとしても、どうにもならないし、それは仕方がないと諦めよう。
私がお嫁に行くなんてことは、まずないからね。
こういう顔でこんな性格だし。
独りでも暮らして行けるようにと、母様は薬学を私に伝授してくれた。
更に、自分でロガリア学院で魔道具について勉強している。
大丈夫、結婚なんかしなくても生きていける、っていうか生きてくし。
子供が欲しかったら、養子を貰ってもいいんだから。
昨日治癒術院から帰宅して、”洗濯”魔術を自分にかけて(もちろん改良最新版)、ご飯を食べた。
疲れてお腹が空いていると、気持ちがマイナス方向に行きがちになるから。
そして、睡眠だ!
寝ました。
もうぐっすりと爆睡しましたとも。
早起きしちゃったけどね!
魔術の改良とかに、時間は有効利用したよ!
だから、体調的には悪くはないんだ。
でも、緊張は取りきれない。
色々覚悟が必要だから。
思いもかけず、魔狼に遭ってしまったことで忘れるところだったけど。
冬支度も大事だ!
予定外の出費もしてしまったし、シープの毛は換金したらいくらになるだろうか・・・。
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冒険者ギルドでシープの毛を換金して貰ったら、思ったより良い金額が稼げた。
コーラルシープもブラウンシープも10頭ずつだったけど、やっぱり毛の量がかなり多かったようで倍の量だった。
これは嬉しい!!なので、換金の結果は。
コーラルシープの毛、20頭分X大銀貨2枚=40で、大金貨4枚。
ブラウンシープの毛、20頭分X小銀貨2枚=40で、大金貨1枚。
治癒術費を差し引いても、良い稼ぎだと思う。
でも、冬を越すにはまだ少し心もとない気がする・・・何があるか分からないし、来年度の学院費も考えないとな。
しかし、無理はしない・・・・ので、今日は西区あたりで薬草関係の採取に行くつもりだ。
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薬草は、西区の比較的王都中央に近い地域で採取できる。
ロガリア学院の初期の専門科1年の実地訓練でも、採取できるくらいには。
注意することは、根こそぎ採取しない事だ。
薬草自体がなくなっては事だからね。
1箇所につき平均2~3束が目安、群生していれば、5~6束くらい。
10箇所くらい回って、毒消し用のドーラ草を6束、体力回復用のビーダ草10束、魔力回復用のマビーダ草10束を採取した。
途中、ホーンラビット6匹が喧嘩を売って・・・いや、襲ってきたので第1段階”洗濯”で洗って倒しました。もちろん、解体して、血抜きして、拡張魔道具のバッグの中ですとも。
ところで西区に出て来てから、微かにミントの不吉な香りが香ってくる。
索敵では、小さなものがずっとチョロチョロチョロチョロチョロチョロ・・・以下略、してて鬱陶しい。
何か、時折小さな白い犬のような者が視界を掠める。
仔犬・・・いや仔狼?でも、索敵では親らしいものは引っかからない。
何がしたいのかな?
あ、出てきた。
とてとて歩いてくる。
私の前でお座りして見上げてきた。
真っ白な・・・・多分、狼の魔獣・・・ワンコにしか見えないが。
「くーん・・・。」
小首を傾げてこちらを円らな瞳で見ている。
「・・・・・・」
「きゅーん・・」
まだ見ている。
「・・・・・・」
「きゅうん?」
反対側に、こてんと小首を傾げてこちらを円らな瞳で見ている。
言って分かるかどうか分からないが、一応主張しておこうと思う。
「私は、イヌ派じゃなくて、ネコ派だ。」
「きゅうん?!」
がーんとショックを受けたような顔?をした、傷ついたらしい。
何故?
下手に構って親御さんに出てこられては面倒なので、身体能力向上の魔術とついでに身体強化の魔術も発動して、走・・・らず早歩きしてその場を去る。
早歩きでも相当の速さがあるが、走ってないので、イヌ科の狩猟本能は刺激していないはずだ。
しかし、ヴィーは回り込まれてしまった。
空かさず、反対方向へ踵を返して早歩きする。
しかし、ヴィーは回り込まれてしまった。
空かさず、反対方向へ踵を返して早歩きする。
しかし、ヴィーは回り込まれてしまった。
空かさず、反対方向へ踵を返して早歩きする。
しかし、ヴィーは回り込まれてしまった。
「・・・・やな感じーぃ・・・」
前にも同じ事があったと、思い出す。
そして、この仔狼からミントの香りがするのだ。
あの魔狼の子供?
絶対この仔狼には関わりたくないし、関わってはいけない。
「第2段階”洗濯”・・・」
「ま、待ってくれ!”洗濯”は勘弁してくれ!!」
まさか、魔狼?
本当は仔狼だったりしたら、目覚めが悪いので確認を取ろうと思います。
会話の合間に魔術を準備しておく。
「昨日お会いした魔狼さんですか?」
「そうだ。」
即答。
「昨日私を組み敷いた魔狼さんですか?」
「う・・そうだ。」
ちょっと言いよどんだ。
「昨日私を前足で叩き飛ばした魔狼さんですか?」
「・・・・・・・そうだ。」
視線が泳いでいる。
決定だ。
それだけ聞ければ十分。
確認が取れて、昨日の魔狼だと分かったので、第1段階”洗濯”に切り替える。
何故小さくなっているのかなんて、理由は知りたくない。
「第1段階”洗濯”、終了まで全自動!」
「ええっ?!ま、待って・・!」
「問答無用、発動。」
躱す暇を与えぬように、発動速度も上げておいた。
「きゃいんきゃいんきゃいんきゃいんごぼぼぼ・・・きゃいんきゃいんきゃいんごぼぼぼ・・!」
終了まで全自動なので、布札を近くに貼って置いておく。
昨日のように、最後まで見ていることもしない。
一瞥しただけで、スタスタと早歩きでその場を去った。
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あの後、魔狼は私を見つけては近づいて来たので、その度に第1段階”洗濯”全自動の魔術をかけてやった。
回数にして、1回目を合わせて計6回。
でも、前回と違っていきなり襲っては来ない。
何故・・・?
はっ!もしかして!
「そんなに好きか?第1段階”洗濯”全自動の魔術!」
「そんな事ある訳無いだろう!!この鬼畜!」
「失敬な。」
「可愛い仔狼に、問答無用にあんな凶悪な魔術を何回もぶっぱなすなんて!鬼畜だ!」
「私は、ネコ派です。」
「訳わかんねーよ!」
「・・・・・・」
改めてじっくり魔狼を見てみる。
最初に遭った時の印象がかなり薄い。
こんな大きい形して、もしかしてこいつはまだ幼生なのか?
「な、なんだよ!急に黙んな!怖いじゃんか!」
変なの。自分の方が強いくせに、何故私に怯えるんだ。
「・・・・・・もしかして、あなたまだ本当に幼生なのでは?」
「ギクッ」
「今ギクッってしましたね。」
「え?何でわかった!?」
「口で言いましたよ”ギクッ”って。」
「!!俺のばか―――――!!」
幼生だってバレたのが余程ショックだったのか、伏せって前足でバシバシ地面叩いている。
尻尾なんかぺったりだ。
まだこんなちびっこい幼生の魔狼に、一歩間違えたら殺されてたなんて分かってしまった私の方がよっぽどショックだ。
なんでも、この国の奴らに舐められないように、自分を成獣に見せる魔術をかけていたんだそうだ。
成獣になったら、あれぐらいになるんだと威張っていたのでつい踏んでしまった。
不可抗力です。




