7. リヴィオラとロイナス(3)
7話目です。
「何のつもりだ?それは。」
至極真っ当な問いだ。
それは、間違いない。
間違いないのだが、知り合いにも、うっかりそんな行動を取らせてしまうほど彼の容姿は怖かった。
「・・・・魔力を感じるな・・・・リヴィオラ、何か魔術を発動待機をさせているのか?術を解け、持続させているうちに魔力切れを起こして倒れてしまうぞ。」
「え?魔力?」
「あ、本当だ。」
「!!・・・」
リヴィオラは、庇おうとしてくれていた2人の脇を走り抜け、前方の恐怖の魔王に向かって行った。
このままでは、リヴィオラは彼の足に突進していくことになるが。
彼は、片膝をつくとリヴィオラを抱きとめた。
「「!!」」
「さあ、リヴィオラ、魔術の発動待機をし続けたままでは、お前が危ない。解くんだ。」
リヴィオラは、小さく頷くと目を閉じた。
(・・・・解術)
すぐに微かに魔力が霧散した気配が漂う。
(え?なぜ?なぜだ?怖くないのか?なんで、あいつに抱きつく!?)
(無詠唱で、魔術構築、発動待機、解術・・・?こんな少女が、そんな魔力操作を?)
ロウナスとイザヨイは、驚愕していた。
内容は違っていたが。
「・・・よし。体は怠くはないか?・・・そんなにあいつらが怖かったのか?」
うんうんとちょっぴり涙目で頷き、彼にぎゅっと抱きついたままのリヴィオラ。
恐怖の魔王改め、彼の名前はイザーク・ウィステリア。
歳は、なんとロイナスとイザヨイと同じ17歳。
彼らと同じ国立ロガリア学院騎士科を卒業後、国の騎士団に入団した騎士である。
イザークは2人より1日早くここジオターク村に着いており、リヴィオラは母シェリルから直接イザークを紹介されていた。
片や貴族のようで、イケメンでも帯剣した初対面の2人、片や恐怖の魔王が如く怖い容姿でも、親から直接紹介されてから1日とはいえ知っている人。
どちらを信用するか?
もちろん、後者だろう。
イザークは抱きつくリヴィオラの背中をポンポンと宥めるように叩く。
「さて、リヴィオラ。淡い茶髪で、無駄に目がキラキラして鬱陶しいのは、ロイナス・タイ・ル・フィルド、畝った黒髪で何だか漏れ出しているのは、イザヨイ・ナイ・ル・ホルドだ。」
ものすごく、わかりやすい的確な紹介の仕方だった。
身も蓋もないともいう。
「「おいっ!!」」
ロイナス(名前)・タイ(爵位ー侯爵)・ル(子)・フィルド(家名)となり、この場合、フィルド侯爵の子供のロイナスという意味になる。
イザヨイ(名前)・ナイ(伯爵)・ル(子)・ホルド(家名)は、ホルド伯爵の子供のイザヨイになる。
ちなみに、爵位の階級は、サイ(公爵)、タイ(侯爵)、ナイ(伯爵)、ハイ(子爵)、マイ(男爵)の順である。
爵位の次は、爵位を持つ者との関係を表す、男女の区別なく子供は”ル”、伴侶は”ゼ”と名乗ることになる。
「怖くはないぞ?俺と同じロガリア学院の卒業生でもあり、同僚だ。」
2人の名前を聞く限り、やっぱり貴族だった。
同卒、同僚でも平民のイザークは、普通に2人と話している。
そして3人は、母シェリルの客。
「リヴィオラ?どうした?」
「・・・私が話しても、私や父様や母様や弟たちが死刑になったりしない・・?」
「!?死刑?何故、お前が話すとお前とお前の家族が死刑になるなどと?」
「・・・貴族の人の許可がないと平民は話しちゃだめだって、守らないと家族全員も死刑なっても文句はいえないって、貴族の女の子に言われたことがある・・・から・・」
「俺は話しているが、そんな罰則を受けたことがないな・・・。バカな貴族の根拠のない戯言なら腐る程聞いたことがあるが・・・ロイナス、イザヨイ、そんな法律や条例があるのか?」
「いや、そんな法律や条例・・・ないはずだよ。ねえ、ロイナス。」
「あ、ああ。」
(確かにそんな法律や条例はないが・・・・あれ?何か引っかかるな?なんだろう?)
「・・・それじゃあ、あの貴族の子達は私に嘘をついたの?ただの意地悪だったの?・・・・・」
「ふむ。そろそろ、帰ろう。シェリル達も心配しているかもしれん。」
そう言うと、イザークはリヴィオラを軽々と掬い上げ、立ち上がって2人に声を掛けた。
「ロイナス、イザヨイ、行くぞ。」
リヴィオラを俵担ぎにして。
((行くぞって、お前。いいのかそれ?子供とはいえ、女の子なんだぞ。))
「うふふふふっ、たかーーい!」
「そうか?面白いか?」
「うん!イザーク兄様!」
リヴィオラには不満はないようだ。
「・・・口が利けないわけじゃなかったんだな・・・・」
リヴィオラの楽しげな様子に、複雑な心境のまま2人は後に続いて行った。