68. ロガリア学院祭 (9)
68話目投稿です。
学院祭2日目で、スイゲツ達からの感想?苦情?を元に、帰宅してから”洗濯”魔術の魔法陣を改良した。
頑張った、私。
思いついた改良点を忘れちゃったら困るから。
多分、喜んで貰える仕上がりになっていると自負している。
一応自分でも試したけど・・・・気持ち良かったから!
でも、昨日のスイゲツ達の印象が強いと試して貰うまでが大変かな~?精神的に。
本当は、無茶な要求をしてきた、騎士科1年主任教師とか魔術科1年主任教師とか、今日までは学院祭実行委員会事務局の人間である先生方にお願いしようと思っていたけど、やめておく。
戦士科1年主任の先生も無茶な要求には、加わっていなかったようなので除外。
さっき、金銭の発生する仕事を貰ったことだし、ふふふふ。
スイゲツたちが汚しちゃった、武闘大会の舞台の清掃の仕事をね。
そういえば、まだ魔道具科1年主任教師が残っていたな・・・・。
しかし!其れはさておき!
その改良版”洗濯”魔術をかけてと、スイゲツ達から頼まれた。
笑い転げて止まらない彼らの兄達に。
引き受けましたとも!実験た・・・ゲフンゲフン。
協力してくれる人なんて、おいそれとは見つからないからね?
************************************
昨日は武闘大会を見に来た。
今日も武闘大会の決勝戦を見に来た。
昨日の試合運びはあまり面白くなかったが、学生ではあんな物だろうとも思っていた。
準決勝までは。
あれは、見ごたえがあった。
しかも面白かった。
やられた方は堪ったものではなかっただろうが、見てる方はかなり面白かった。
あははは!
「あははは!ではありません。セルゲイ様、思考は頭の中だけで展開して下さい。」
「む?マイク、お前、有能だとは思ったが思考まで覗けるのか?」
「はっきり口に出してましたよ?」
王都中央副騎士団長セルゲイとその部下マイクは、にっこりと笑ってお互いを見た。
「「・・・・・・」」
「今日は出ないかな?」
「出ません。」
「こう・・・余興的な感じで・・・」
「出ません。」
「優勝者に花束贈呈的な感じで・・」
「行きますか?セルゲイ様が?手配しますか?」
「行かない。」
「ですよね。来られても向こうが困惑してしまいます。」
「・・・・マイク、お前良い性格してるよな。」
「照れますね。」
「褒めてないぞ?」
「わかってますよ?」
(時々、王都中央副騎士団長ともあろう自分が、部下のマイクに手玉に取られている気がする。
俺を侮ったりしている訳でも、軽んじている訳でもないようなのだが。
人当たりがいい割に、どこか得体の知れない感じがしている。
有能には変わりはないが・・・・・。)
「ところで、セルゲイ様。誠に遺憾ながら・・・残念なお知らせがございます。」
「残念な知らせ?何だ?」
「ロガリア学院祭の武闘大会決勝戦なのですが、既に終了しております。」
「何だと――――――――――――――――っ!?」
「結果ですが、優勝は1年生7班だそうです。」
「ぬお――――――――――――――――っ!!!」
「もう?終わっているだと?!何故だ!」
「その訳ですか?聞きたいですか?聞きたいのですね?分かりました。良く聞いてくださいね?本日の試合は決勝戦のみだと、再三申し上げておいたのに。昨日どこかへ遊びに行かれて朝帰りなさって、いくらお起こししてもセルゲイ様が起きて下さらなかったからです。行く時間になっても。そして学院に着いてみれば、既に昼少し前。間に合いませんよ?間に合う筈ないじゃありませんか、終わってるのに。」
マイクはニコニコと微笑みを絶やさずに、試合を観れなかった理由を一気にセルゲイに突き付ける。
丁寧な言葉で言われると、より一層きついだろう。
「ぐお――――――――――――――――っ!!!悪かった!俺が悪かったから!!」
(くそお!事実だ、確かに全部事実!全くその通りなんだが!この優男風なマイクに丁寧な言葉で淡々と責められると、必要以上にダメージが来る!)
「では、もう用事もないことですし、帰りますか?・・・・おや?」
「すすぎ!脱水!柔軟仕上げ!爽やかミントの香り付き!」
少し離れた場所の方から、叫んでる声がした。
学院祭最終日で賑わっている中、いつもはあまり人気のない片隅で、数人の人間がいる。
しかもその一角で、魔術を発動させているではないか。
見ると、水流が3人の体を飲み込んでいるかのように見えた。
見覚えがある。
ものすごく見覚えがある。
つい昨日似たような光景を武闘大会の舞台で観たような気がする。
王都中央副騎士団長セルゲイとマイクは目を見開いて凝視した。
(ヴィー?!こんなところで何やってんの――――――――――――――――?!)
「”洗濯”魔術か!?あいつか!!」
セルゲイは、何だか嬉しそうに走り出した。
マイクは焦ってセルゲイの後を追う。
ヴィーが布札を使い、嬉々として仕上げに入ろうとしていた。
「シワ防止!乾燥!」
あたりに暖かい空気と爽やかなミントの香りが漂ってきた。
「”洗濯”終了~!お疲れ様でした~!」
”洗濯”が終わったロイナスとイザヨイとイザークは、もう笑ってはいなかった。
頭がふらついたり、目を回したり、気分が悪いようにも見えない。
むしろ、スッキリとした顔をしている。
「何だか気持ち良かった・・・」
「うん、爽やかな気分だよ・・・」
「これは、良い。」
「「「えっ!?」」」
昨日の武闘大会準決勝で、ヴィーの”洗濯”魔術によって良いようにされた自分たちの姿を思い出して爆笑していただろう兄達にムカついた。
それなら同じように水に溺れそうになったり、頭がフラフラしたり、目が回ったり、精神的ダメージを受け、醜態を晒してしまえばいいんだ―――――――――――!
と、期待していたロベルト、スイゲツ、ルーフェスは当てが外れて叫んでしまった。
「何でだ――――――――――――――――!?」
「話が違う―――――――――――――――!!」
「ヴィー――――――――――――――――!?」
ヴィーは良い笑顔で答えた。
「昨日のルーフェス達の意見を参考に、早速改良しました!」
「「「早過ぎだろ――――――――――――――――!!!」」」
そこへ走り込んで来て勢い余ってザザザ―――――ッと足元を滑らしながら止まったセルゲイとマイク。
「待て待て待て待て――――――――――――――――いっっ!!」
「セ、セルゲイ様!?」
「マイク!?」
「・・・・・爽やかミントの香り・・・」
突然乱入してきた2人にギョッとしたのは、ロイナスとイザヨイだった。
若干1名は、気づいていないのか気にしていないのか不明。
訳が分からず、その場でポカンとしているスイゲツたち。
いつのまにかそこから離れ、近くの木の翳からこっそり様子を伺うヴィーとクラウス。
早い、素早いぞ。魔道具科組。
最近厄介事に遭遇することが多くなって、危機回避能力が上がったのだろうか?
「おや、武闘大会優勝の1年7班の子たちですね。」
「お?おおお――――――――――――――――っ!!!君たちが!」
そう言いつつ、さりげなくヴィーたちを背にするようにセルゲイを誘導するマイク。
そして、イザヨイに視線で意図を伝える。
どうもセルゲイにヴィーを会わせたくないようだ。
「良くみれば、彼らの兄君たちもいらっしゃいますね?」
「むっ?」
「・・・・どうなさいますか?出直しますか?」
「・・・・いや、この際だ、兄たちも交えて話だけはしておこう。」
「分かりました。」
マイクは、微笑みながらスイゲツたちに近づきセルゲイの意向を伝える。
「こんにちは、お久しぶりですね?武闘大会優勝おめでとうございます。出来れば少し、私たちとお話しを致しませんか?」
「こ、こんにちは・・!あ、ありがとうございます。お、お話しですか・・・?」
突然現れたマイクたちに話しをしようと誘われて、まごつくスイゲツ達。
その理由は、マイクと共にいる見知らぬセルゲイだが、明らかにマイクより立場が上の人間なのがわかったからだった。
「お、おい、マイク!」
驚いて制止の言葉をかけようとしたロイナスを手で制止し、スイゲツ達の不安はわかっているとばかりに、兄達に同席を勧める。
「宜しければ、あなたたちもご一緒にどうでしょうか?ホルド様?フィルド様・・・ウィステリア様?」
それに答えるのは、スイゲツの兄イザヨイだった。
「そうですね。同席させていただきます。良いよね?ロイナス、イザーク。」
弟たちだけで彼らと話しをさせるには不安が残るため頷き、了承する2人。
「では、立ち話もなんですから、場所を移しましょう。」
そう言って、ロイナス達兄組、ロベルト達弟組、セルゲイと一緒にマイクはこの場を後にした。




