67. ロガリア学院祭 (8)
67話目投稿です~。
ロガリア学院祭の武闘大会は、1年生7班、ロベルト、スイゲツ、ルーフェスたちの優勝で幕を閉じた。
数年ぶりに1年生の優勝ということで盛り上がった観客だが、興奮冷めやらずの状態で、学院祭最終日を満喫するために、方々へとゆっくりとだが散っていった。
1~3年ぼ騎士科、戦士科、魔術科の其々から英雄さながらの祝福を受けて時間が暫く過ぎ、教師たちからも祝福を受けた。
特に喜んだのが、騎士科1年主任教師ガユーザと魔術科1年主任教師リュートと戦士科1年主任教師だった。
学院の皆から盛大に祝福を受けたが、武闘大会で優勝したからといって副賞があるとか賞金がでるということは全くない。
成績にも関係ない。
武闘大会に優勝したという名誉のみ。
ここら辺が、ヴィーが武闘大会参加に後ろ向きだった理由だ。
もし、賞金が出るということであれば、出場が決まった時点でもう少し前向きに頑張ったことだろう。
ただ、今回は青田買いを目論んでいる騎士団の面々から、目をかけてもらえる特典は密かにあった。
それを、本人たちが望もうと、望まなかろうと。
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ヴィーとクラウスは武闘大会の決勝戦も終わったことだし、混んでくる前に屋台で早めのお昼にしようと歩き始めた。
食べられる時に食べておかないと、何かあったら食いっぱぐれるかも知れないと思っていた。
何やら、予感でもしたのだろうか?
そういう予感は的中するものだ。
「おーい、ヴィー!クラウス!」
声をかけてきたのは、学院祭前から敵とみなしても良いんじゃないのと思うくらいに厄介事を持ち込む、学院祭実行委員会事務局パスカルだった。
そばには騎士科主任教師ガユーザと魔術科1年主任教師リュートと戦士科1年主任教師がいる。
「・・・何かヤな予感がプンプンするな。」
「そうだね、先生たちが妙にニコニコしているのが胡散臭いね。」
教師たちがニコニコと胡散臭い笑みを浮かべて近寄ってくるのを、無表情で見つめる2人。
「「・・・・・・」」
「実は、ヴィーに頼みたいことがあるんだが・・」
「「お断りします。」」
「即答か!って、何でクラウスまで答えてるんだ?関係ないだろう?」
4人をジト目で見やるヴィーとクラウス。
2人の視線に怯む教師たち。
ちょっと情けない。
「何やらまた、ヴィーに尻拭いをさせるつもりじゃないですよね?先生方?そうなら、ひくわけにはいきません。」
ヴィーを庇うようにクラウスが前に出る。
クラウスが背が高いのも手伝ってか、こんな風に庇われた事のないヴィーは、ちょっとドキドキしていた。
(お?おおう!これは!か弱い女の子になった気分だ!)
実際女の子なのだが、か弱くない自覚があるのか?
それとも自分が女の子である事自体を忘れているのか・・・・・後者なら、不憫。
図星をさされたのか、うっと言葉に詰まる4人の教師。
「ク、クラウス?あのな?」
「今回の学院祭で、魔道具科1年生としてかなりの負担をヴィー一人に強いてしまっているんです。それは先生方も学院祭実行委員会事務局側も、良くご存知ですよね?」
にっこりとクラウスは微笑んだ。
目は笑ってないが。
言葉にこそ出さないが、ヴィーに負担を強いると余波が俺にも来るんだよ?分かってんのか?あ?という、今まで我慢してきて溜まっていた怒りがクラウスの背中に黒いモヤとなっている、錯覚さえ見える。
「いや・・・・その、何というか済まない。」
身に覚えがあるパスカルが撃沈。
「その、話だけでも聞いてくれないかな?」
「僕達に関わり合い無い事でしたら、断固お断りいたします。リュート先生?」
「うっ・・・」
リュートが黙った。
どうにも教師たちの態度が弱気だ。
1年生の騎士科、魔術科、戦士科の教師がここにいることで、頼みたい内容にも見当は付いている。
そうすると、全く関係無いわけではない。
無いわけではないが、あるとは言い切れない。
しかし、その件では既に無茶振りしている自覚があるから、強引には頼みづらいのだろう。
他人の尻拭い的な仕事をするのに、無料でなんか引き受けたくはない。
それでなくとも、とヴィーは思う。
学院祭のため魔道具科のためと、今回は結構都合の良いように教師たちに利用されている。
「仕事に見合った料金頂けるなら、考えてもいいですよ?」
「「「「「!!」」」」」
教師たちとクラウスの呆気にとられた顔が、ヴィーを一斉に見た。
(料金の発生する仕事なら、やるに決まってるじゃん。生活がかかってるんだから!!)
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本日の英雄なロベルトたちは、現在不機嫌に顔を顰めている。
すでに周りには、祝福に湧いていた観客はいない。
今ロベルトたちの目の前にいるのは、やはり優勝を祝福しにやってきたロイナスたちだった。
「あははははははははははははは・・・!」
「ふふふふふふふふふふふ・・・・・っ!」
「くくくくくくくくくくく・・・・・っ!」
まだ、祝福の言葉は受けていない。
ロベルトたちの顔を見た途端に、ロイナスたちが笑い出して止まらなくなったから。
それが約半刻ほど前。
今現在も続いている。
「ロイナス兄上・・・・・」
「イザヨイ兄様・・・・・」
「イザーク兄上まで・・・」
会ってすぐに兄達が笑い出してしまったので、何が原因なのかが全くわからない。
だが、普段大笑いなどしないイザークまで笑っているのだ。
もしかして、何か悪い物も食べたのかと、少し心配になってきていた。
そこへ、ひと仕事終えたヴィー達が通りかかった。
手には、屋台で仕入れたらしい食べ物を持っている。
「あれ?スイゲツ達?どうした・・・・・どうしたの?これ?」
これと笑いが収まらないロイナス達を指差す。
声に気づいたロイナスとイザヨイとイザークは、ヴィーに顔を向けるが、状態は更に一層ひどくなった。
「あははははははははははははは――――――!」
「くははははははははははははは――――――!」
「くくくははははははははははは――――――っ!」
人の顔見て更に笑い出すとは、何事?と困惑するヴィーとクラウス。
イザヨイが笑いながら発した言葉の一部だけが聞き取れた。
「クハははは・・%$&#・・センタク・・・はははははっ!」
「!!」
その言葉を敏感に聞き取り、兄達が何故笑い転げているのかを悟ったスイゲツは。
「ヴィー!イザヨイ兄様たちを”洗濯”しちゃって!」
「ええっ?!で、でも!」
「やっちゃって!!」
眉間にシワを寄せ真っ赤になって、兄達を指差し叫ぶスイゲツと焦るヴィー。
状況を把握したロベルトもすぐ様迎合する。
「そうだ!ヴィー!”洗濯”してしまえ!」
困ってルーフェスを見ると、ルーフェスさえもしかめっ面をして言い放つ。
「遠慮はいらん!存分にやってくれ!ヴィー!」
「・・・・・あとで叱られるのは嫌だよ?」
「「「大丈夫!悪いのはあっちだ!やれ!!」」」
「・・・・存分に?その言葉忘れないでね?」
ヴィーの目がキラーンと輝いた。
料金が発生しない仕事でも、自分にメリットがある時はやるらしい。
もはやクラウスは呆れて見ているだけで、口を挟むことはしなかった。
「「「おうっ!!」」」




