66. ロガリア学院祭 (7)
66話目投稿です。
ロガリア学院祭最終日。
学院祭実行委員会事務局に、朝から呼び出しを受けたのはクラウスだった。
内容は”ミルトル”を再び設置するように。
クラウスは怒っていた。
またかと。
いい加減、しつこい。
しかも、また命令なのか?
ロガリア学院祭のためとか大層な事を言ってはいるが、”魔道具科1年の余興に関しての要望は受けない”と決め、学院長の名で看板を出したのではなかったのか?
1度決めた学院の指針を簡単にホイホイ変えても良いのだろうか?
前回は魔道具科1年の担当日だったから、再度の設置も受け入れた。
今回は、受ける義理はない。
というか、最終日は3年生の担当じゃないか。
3年生の先輩たちに対する配慮はないのか?
昨日の2年生の余興にしたって、好評だったはずだ。
そんな事を考えながら、上から命令してくる学院祭実行委員会事務局の人間(今回は知らない先生だ)の話が終わったの見計らい、クラウスは相手を見据えて答えた。
「本日の余興は、魔道具科3年生の先輩方の担当です。私達1年は既に終了いたしました。更に、次回はないとお約束を頂いて、担当日に何度も余興の映像を流しました。十分に学院に貢献したと思います。ですので、学院祭実行委員会事務局にこれ以上強要・・・いえ、命令される謂れはありません。この件に関してはお断り致します。」
そう、一気の話すと踵を返し、部屋を出て行った。
余談だが、今回の”ミルトル”再設置の話は、昨日の要望書の多さに驚いて焦った学院祭3日目担当の教師たちの独断であり、学院自体の判断ではなかった。
これで、クラウスが素直に命令を聞いていたなら、学院側が把握していない余興が催され、余興の映像を流す場所によっては、張り切っていた魔道具科の3年生との亀裂が生じたりする羽目になったはずである。
学院側と学院祭実行委員会事務局の間に生じた食い違い(意思の疎通の不備ともいう)があったと、世間に露見しなかったのは、クラウスの判断が良かったと後から学院側と学院祭3日目担当の教師たちに感謝されることになる。
それでもクラウスは肩をすくめただけだった。
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初日、2日目と学院祭を来ていたが弟に会いに行っていなかったロイナスたちは、3日目の今日は弟達に会うつもりで来ていた。
この日まで会いに行かなかったのは、理由がある。
初日、武闘大会の予選での闘い方にダメ出しをしてしまいそうだった事。
魔道具科主体の余興の踊りで自分たちの弟たちが真面目な顔して踊っていたのを観た事。
更には踊っている弟が得体の知れない色気のようなものを醸し出していた事にショックを受け、顔を合わせた瞬間に大笑いしてしまうのが分かっていたので、我慢したのだ。
2日目、本当は本選にて頑張っている弟たちに試合が終わった後、会いにいくつもりだった。
が、準決勝で試合には勝ったが、ロベルトとスイゲツは相手に完全に負けていた。
そして、何より”洗濯”魔術で翻弄される3人が兄たちの腹筋を容赦なく襲い、耐えられずに宿に帰らざるを得なくなった。
普段、大笑いなどしないイザークまでが堪えられなかったのだ。
結果、会いに行かなかったのではなく、会いに行けなかったのだった。
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学院祭武闘大会決勝戦。
1年生が決勝へ進んだのは数年前以来ということもあり、試合の舞台である武闘大会会場は昨日と同じく超満員である。
その中には、やはり昨日も観戦していた東西南北の各副騎士団長達。
今日こそは弟たちに声をかけるつもりのロイナスたち。
そして、昨日までは出場者だったが今日は高見の見物を決めているヴィーと、やっと気軽に学院祭を見て回れると安心したクラウスがいた。
周りの観客は、チラチラとヴィーを垣間見ていたが、そのうち審判の声が響き渡った。
「ロガリア学院祭武闘大会!決勝戦を始める!1年生7班!3年生8班!舞台へ!」
審判に呼ばれ、1年生のロベルト、スイゲツ、ルーフェスの3人と3年生の男子3人女子2人の5人が緊張した面持ちで舞台へ上がる。
審判が試合開始を手を振り下げながら、高らかに告げた。
「双方とも全力を尽くせ!それでは、1年生7班 対 3年生8班!試合開始!!」
試合開始の合図が下ると同時に、3年生女子2人が詠唱を始めた。
2人は魔術担当のようだった。
スイゲツが空かさず、苦無を牽制に5人に向かって放つ。
カッカッカッカッと4人の足元に刺さるが、それとと同時に4人は四方に飛び退る。
5人目は前に出て、苦無を剣でスイゲツの方へと弾き飛ばした。
女子は詠唱を終え、術を放つ。
「我らの敵を焼き払え!炎狼!」
「我らの敵を凍結せよ!氷狼!」
狼を象った炎と氷がロベルト達に襲いかかる。
「それいけ!僕の氷の矢!」
スイゲツの放った氷の矢が何本も炎の狼を貫き消滅させた。
ロベルトは剣に炎を纏わせ、氷の狼を両断する。
「無詠唱!?」
「1年生のくせ!生意気ね!」
放った魔術をすぐさま粉砕され、それが相手の無詠唱で発動させたものだったことに驚く。
が、相手に不足なしとすぐに不敵に笑う。
ルーフェスは他の男子3人を相手に、剣戟を交わしていた。
ロベルト達が相手の魔術を破ったのを機に、相手にしていた3人を自分の大剣を振り払い、後退させる。
ロベルトとスイゲツがこちらに走ってくるのを確認し、ルーフェスが大剣を背にしまいながら走り出す。
ロベルトとスイゲツ、ルーフェスの軌道がクロスしさっきとは逆の相手に向かって行った。
ルーフェスは両手を広げて、次発の魔術の詠唱をし始めていた女子2人の口を片方ずつの手で塞ぎ、そのままの勢いで場外へと放り出した。
「!」
「ぐっ!」
「”風纏”」
放り出された勢いのまま地面に激突しそうな女子2人に、ルーフェスは魔術で風を纏わせ、衝撃を軽い尻餅程度に軽減させた。
「「えっ?」」
地面に叩きつけられるのを覚悟していた2人は、殆どやってこない衝撃に唖然とする。
「8班!2人、場外!」
審判の声で我に返り、自分たちが戦線離脱させられたことに気づき、悔しそうに顔を顰めた。
素早く2人に怪我がないのを視認し、ルーフェスは試合に戻っていく。
昨日、ヴィーを加減なしにすっ飛ばしたのを結構気にしていたようだ。
「ちっ!魔術を使うやつを先に場外にしたか!」
「舐めるなよ!1年!」
そうロベルトたちが相手をしていた2人が叫ぶと、離れていた1人が魔術を発動させた。
「我が剣に宿り給え、雷精!」
バチバチバチと剣に火花を纏わせた者が、構えて向かってくる。
「雷・・雷剣か!」
ロベルトが呟く、近くでスイゲツが自分も魔術を発動させた。
「土遁”砂塵”!」
いつものふざけた発動キーワードは使っていない。
砂塵が渦巻き、雷剣を持った者にだけでなく、舞台上に残っている3人に向かっていく。
単体相手ではない、多人数対象魔術、込める魔力も多いが規模も大きい。
余談ではあるが多人数対象魔術、これは昨日ヴィーも使っていた。(洗濯とか・・・)
観客側には障壁結界が教師によって張られているため、そちらには被害はでない。
「「「ぐわっ!!」」」
火属性と水属性の魔術では、対抗できない。
かと言って迂闊に剣を受ければ感電してしまう。
スイゲツは土属性の魔術を使った。
「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」」」」
舞台上の攻防に歓声を上げて、見入っている。
その中で、クラウスとヴィーだけがぼそっと呟いた。
「あ~あ・・・また、汚れるな・・」
「せっかく、綺麗に掃除したのに・・・」
砂まみれになる3年生を見るに付けちょっと切なくなってしまった2人だった。
魔術は発動したものの、攻撃を押さえ込まれ砂で雷を散術されて、更には砂塵によって、目は開けられないわ口の中が砂だらけだわで動きも鈍くなったところを、追撃された。
「昨日の僕たちの気持ちを思い知れー!”回転水流”!!」
水流でグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルされた。
見ている観客も酔いそうになった。
3年生の3人は武器を持ったまま、錐揉み状態。
明らかに昨日より回転が早い。
「お、おい、スイゲツ!限界だ!やめてあげてくれ!!」
味方のはずのロベルトが、相手の状態を見て慌てて叫んだ。
え~?と少し不満そうだが、素直にスゲツは術を解く。
「・・・・”解術”」
術を解いた途端、3人がビタビタビタン!と地面に倒れた。
砂はついていないが、全身ずぶ濡れで気絶しているようだ。
審判が確認して、勝敗を告げた。
「8班、3人気絶により戦闘不能とみなす!勝者!1年7班!!」
わあ―――――――っと、観客が一斉に大歓声を上げて、立ち上がった。
武闘大会の優勝者が決まり、周囲が興奮で湧き上がる。
拍手喝采の嵐。
その中でクラウスとヴィーだけが再びぼそっと呟いた。
「優勝したのは喜ばしいが・・・水浸しだな・・」
「そんなに嫌だったんだ・・・洗濯・・」
濡れ鼠のような3年生を見るに付け、何だかやるせない気持ちになった2人だった。
厨二的な何かに、突っ込みはなしの方向で・・・・お願い。




