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理不尽な!?  作者: kususato
65/148

65. ロガリア学院祭 (6) 

65話目投稿です。

 

 明日の決勝戦に駒を進めたのは、1年7班のロベルトたち。


 ロガリア学院祭数年ぶりに1年生が決勝にいったと、生徒も観客も興奮して大賑わい。

 準決勝も面白くて見ごたえがあったと好評だったが、決勝でどちらかと当たる事が決まっている3年生たちは何故か青い顔をしていた。




 ロガリア学院祭2日目が恙無(つつが)く終了しました。



 恙無くといっても、武闘大会本選終了後は、結構ごたついたのだが。

 お客も帰り、生徒も粗方、学院寮なり自宅なりに帰っている。


 しかし、陽が陰り始めた武闘大会会場舞台に向かう、数人の人影が見える。


 「別に手伝ってくれなくてもいいよ?私一人で大丈夫だから。」


 「だが、ヴィー、さっきルーフェスの剣を受けて飛んだだろう?平気そうにしているが、どこか痛いとか異常はないのか?」


 ロベルトの言葉に、うんうんとその通りだとルーフェスとスイゲツとクラウスがヴィーを見る。

 実は4人とも、治療を受けようともしないヴィーを心配していた。

 異常を隠しているのではないかと。


 「え?もしかして、心配されちゃってますか?私?すみません、平気ですよ?ルーフェスとやり合う前に、肉体強化の魔術も発動させてたので。」

 「あの最中に?肉体強化まで?・・・・・お前、そんな強いなんて・・・隠してたのか?」


 ロベルトが不機嫌そうになって聞いてきた。



 強い?とキョトンとした顔で4人を見た。


 「あ~・・・・今までいた中では自分が一番弱かったし、魔術の操作も一番下だったので・・・考えたこともなかったんですよねー・・。」


 ヴィーは、昨日今日と対戦した1~3年生を思い出しながら、困ったように答えた。


 確かにロベルトたちとギルドの仕事をした時はあるが、戦闘となるとロベルトたちが率先してこなしていたので、ヴィーが技を駆使して戦ったりはしなかったし、彼らの技量を自分と比べたりもしなかった。


 彼女の周り、それは父であったり、祖父であったり、マイク、マイカであったりした。

 つまり、ヴィーの周りの人間が高スペックで、かなりの強さなのだと分かる。


 

 

 ヴィーたちが学院祭2日目が終わったというのに何故ここに来ているのか?


 それは武闘大会本選が終了した後、学院祭実行委員会事務局に呼び出され、試合会場をドロドロにした事を叱られ、帰る前に掃除をするように言われてしまった。

 なので今日の催し物が終わった後に、掃除をしに来たヴィーだった。

 


 「やっぱり、一人じゃ大変だよ~?」

 「大丈夫だよ。さっきの魔法陣を使うから。」

 「げっ!もっと汚す気か?!お前は!」

 「失敬な、綺麗するんだよ。」


 付いてくるのは、スイゲツ、ロベルト、ルーフェス、クラウスとあと一人。


 「無駄口たたかんとサッサとやって、サッサと終わりにしてくれ。」


 見届け役として付いてきたのは、魔道具科主任教師、今は学院祭実行委員会事務局のパスカルだった。



 ヴィーは、布札を取り出して自分の魔力を鍵に、右手の前に魔法陣を発動させる。


 「集塵。」


 武闘大会の舞台上に巻き散らかしてあった砂の塊が、ヴィーに向かって集まり球形状になって行く。

 手をかざしながら、ゴソゴソと用意してきた麻袋の口を大きく開けて固定した。



 1枚目を持続させつつ、2枚目の布札を取り出して自分の魔力を鍵に、左手の前に魔法陣を発動させる。

 見ている5人が、2つの違う魔術を時間差とはいえ同時に操るヴィーに驚いていた。

 

 魔術の練度が高く、扱いに長けた者なら、同時に複数の魔術を扱うことができるが、13歳くらいでは1度に1つの魔術を操るのが精一杯なのが普通なのだ。



 「収納。」


 球形状になっていた砂と泥がザザザーッと麻袋に入っていく。

 入り終わると、2つとも術を解いた。



 次に3枚目で”洗浄”4枚目で”乾燥”を行い、武闘大会の舞台上は、すっかり綺麗になった。

 今日の本選前より、心なしかピカピカに見える。

 

 「パスカル先生ー、終わりました。どうですか?」


 「「「「「・・・・・・・」」」」」


 何事もなく、すんなりと数分で前より綺麗になった武闘大会の舞台上をみる5人は、何か腑に落ちない気持ちにさせられたが、どうにも出来ないのでそれを胸の内に飲み込んだ。

 

 「パスカル先生?」


 呼ばれて我に返り、掃除は滞りなく綺麗に終わったので、

 「あ?ああ、うん、綺麗になったな。ご苦労だった、ヴィー・・・帰っていいぞ・・・・」

 と言うしかなかった。


 「は~い、ありがとうございます。」


********************************




 掃除も終わり、帰るために魔道具科の教室の戸締りなどをしながら、何となく流れでそのまま教室まで付いてきたロベルトたちにヴィーは質問した。


 「ねえ、ちょっとスイゲツたちに聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」

 「え?何?」


 3人はやることがないので、ヴィーに顔を向ける。

 クラウスは、時間が勿体無いと戸締りを続けながら、耳だけ傾けた。


 「今日の”洗濯”された感想を聞かせてくれる?」


 スイゲツとロベルトは、”洗濯”された時の事を思い出し、顔を(しか)めた。

 お気に召さなかったらしい。


 「「最悪っ。」」

 「え~?」

 「え~じゃないよ!ヴィー、(おぼ)れるかと思ったよ!」

 「グルグルグルグルされて、目が回って頭がフラフラしたぞ!」

 「そうだな、体を回されると目が回って、少し気分も悪くなったかもしれない。」



 「一応、呼吸とかをあまり阻害しないようにしてたんだけどなぁ・・・そうか、最悪かぁ。」


 なら、水の方を回すようにした方がいいかな?顔と頭は別に洗った方のが良い?などと3人の意見を聞いて改善策を考える。



 「・・・それと、”薔薇の香り”は俺には合わないから、他はないのか?」


 ルーフェスからの前向きな要望に、途端にぱあっと嬉しそうな顔をしてヴィーは色々聞いてきた。


 「じゃあ爽やかな”ミント”はどう?”オレンジ”もあるよ?そのまま”石鹸の香り”は?」


 目が回ったり、頭がフラフラしたり、体がぐるぐるしたりしなければ、野営などの時に結構便利だと、ルーフェスは”洗濯”されながら考えていたらしい。



 ヴィーの話では、”洗濯”を体験しているのは、人間では自分自身と兄弟弟子のマイクとマイカ。

 時間がない時とか、疲れてどうしようもない時はすごく助かると2人には好評だったとか。



 気になる言葉があった、人間(・・)では、どういう事なのだろうか?

 ちょっと勇気を出して、ロベルトが聞いてみた。


 「ヴィー・・・つかぬ事を聞くが、人間(・・)ではと言ったがもしかして人間以外の生き物で試したのか?」

 「うん、人で試す前にですね、冒険者ギルドの仕事のついでに東区とか西区の魔獣で試しましたよ?」

 「・・・・結果は?」

 「う~んと、一番最初は・・・東区でジャンピングスパイダーを”洗濯”したら・・・呼吸が出来なかったのか、死んじゃいました。」


 (ジャ、ジャンピングスパイダーを仕留めてしまう威力だったんだな?!最初は!!怖い!怖すぎる!!)


 「で、呼吸を阻害しないように改良して、次に西区の草原狼で試した時は、生きてたし毛艶も良くなってふっかふっかになりましたよ?・・・・・目を回して気絶しちゃいましたけど。」


 (き、気絶?!改良したのに、魔獣を気絶させたのか?!)


 「だから、回転を弱めたりして更に改良して、今度はホーンラビットで試してたら、そりゃあ綺麗になったんだけど逃げられちゃいました。でも索敵して追跡して行ったら、仲間のホーンラビットになんだかもててたな・・・・・で、人に使っても大丈夫かなと思って、次に私とマイク兄とマイカ姉で試しました。」



 でも自分たち3人だけでは、基準が分からず、他の人はどうかなと試す機会を狙っていたらしい。

 確かに、王都中央騎士団の騎士とAランクの冒険者を基準にされては困るだろう。



 そこまで聞いてロベルトとスイゲツとルーフェスは思った。


 良かった・・・!初期段階で試す検体に選ばれなくて!

 良かった・・・!第2段階でも試す検体に選ばれなくて!

 良かった・・・!人で試せる段階まで改良してから試してくれて!


 そして狙われて、今日ルーフェスたちが体験したわけだが、まだまだ色々改善点が見つかったとヴィーはホクホクしていた。


 楽しそうに”洗濯”について話し合うルーフェスとヴィーを、体中はピカピカなのに疲労を滲ませたスイゲツとロベルトは、遠い目で眺めていた。



 そんな様子のロベルトとスイゲツを戸締りが済んだクラウスは、同情の目で見ていた。

 そして、自分は絶対ヴィーの”洗濯”の魔術は受けまいと心に誓っていた。




 戦闘にも使える”洗濯”魔術、超怖い。

 

 

 


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