63. ロガリア学院祭 (4)
63話目投稿です。
ロガリア学院祭初日は、どうにか終了となった。
魔道具科1年の余興が思いの外、人気を博し、あわや明日もか?と思われた。
が、そこはやはり学院側というか学院祭実行委員会事務局が由としなかった。
進行とか場所の問題とか諸々事情があるということで。
だが、今日のように対応に追われるのは嫌なので、お断り看板を作成・設置するようだ。
学院長の名を出して”学院祭初日の魔道具科1年の余興の要望はお受け出来ません。”と。
当たり前だ。
余興だって、いくら要望があってもやりすぎは厳禁。
引き際を間違えて、やりすぎれば鬱陶しいものに変わってしまう。
2日目以降は魔道具科の先輩達に任せるが吉。
先輩たちだって、自分の担当日に向けて、準備をしているはずなのだ。
自分たちの領域にまでしゃしゃり出て来られては、先輩たちが1年生にいい印象を持つ訳が無い。
そして、ロベルト達に今日の昼過ぎから、付いて回っていたプチストーカー予備軍(学院祭の間だけだったので)の熱が冷めるかどうかは、明日の本選次第なのではっきりとはいえない。
ヴィーも”若くてカッコよくて強くて、踊りも上手くて素敵だと大変だ~。はははは”とか言っていたのだが、彼女にもプチストーカー予備軍は付いていた。
ただ、こちらは距離を取りすぎていて、本人に最後までそれと気づかれなかっただけだった。
それはある意味、お互い幸せなことかもしれない。
****************************
色々頑張った、良く頑張った自分!自分で自分を褒めて。
お風呂に入り夕飯を食べ、テーブルに頬杖を付きながらお茶を飲みつつ、今日一日を振り返ったりなどして、まったり過ごしていると扉をノックする音の後、声がする。
「マイクだけど、ヴィー帰ってる?」
(他の誰かだったら今日は帰ってもらったけど、マイク兄ならいいかな?)
「今日はお疲れ様、頑張ってたね?。」
(今日は誰にも褒めて貰えないと思ってたから、自画自賛していたのに。
マイク兄が家に来て褒めてくれた。頭も撫でてもらっちゃった。
えへへへっ嬉しい!何だか、嬉しくて顔がニヤけてしまっている。)
「いらっしゃい、マイク兄もお疲れ様。夕飯は済ましたの?」
「ああ、うん。今日は済まして来ちゃったんだ。」
(あれ?マイク兄の様子がいつもと違う。何だか視線を明後日に向けてモジモジしてる。)
「厠ならあっちだよ。」
「何でトイレって断定するの?!」
「お金なら貸さないよ。」
「世知辛い!でも違う!」
「子供でも出来た?」
「彼女もいないし、結婚もしてないよ!」
「それでも、出来る時は出来る。」
「キャー!何てこと言うのこの子は!」
「19歳にもなって、カマトトぶってるの?マイク兄。」
「13歳のヴィーが言って良いセリフじゃないと俺は思う!誰がそんな事教えたの?!」
「前の記憶とうちの母親の職業、忘れた?」
「・・・・もしかして実家で?」
「あそこにはお医者さんも治癒術師もいないから、母さまが担ってた。それで時々出産のお手伝いを・・」
「子供に何させてるんだシェリル――――――――――!?」
一頻り、挨拶代わりの掛け合いを済ませて、マイクはお茶を入れてくれるように頼んだ。
今日のはちょっと重かったのか、少し萎れている。
「実は聞きたいことっていうか、確認したいことがあってさ。」
「何?」
「ロガリア学院の魔道具の評価提出って結果出たんだよね?」
「出たよ。でも、1ヶ月くらい前だよ?」
「え?そんな前なの?!」
「うん、前回の実地訓練前だもん。」
え~?そんな前なの?最終報告遅!これだからお役所・・・じゃない!宮仕えか?とかブツブツ言っている。
「で?評価提出がどうかした?」
「・・・”ミルトル”出したんだよな?結果を教えて貰っても良い?」
ヴィーは僅かに視線をそらしながら、書棚の紙束から1枚を取り出しマイクに渡した。
マイクはドキドキしながら、紙を受け取ってそろそろと見た。
「ミルトル」 作成者 魔道具科 1年 リヴィオラ・ショーノ
魔道具科評価 15 (20点満点中)
薬学科評価 10 (20点満点中)
騎士科評価 10 (20点満点中)
戦士科評価 10 (20点満点中)
ロガリア学院長評価 15 (20点満点中)
特別評価 0 (20点満点中)
(ラフューリング王国魔道士長代理 ジェイド・タイ・ル・リーズン)
総合評価 60/120
「ギリギリ!?えっ?!特別評価って、国側の評価だよね?!ゼロ?ゼロなんて評価あんの?!」
結果を見て思わず紙とヴィーを交互に見る。
「あるんだよ。私は貰ったよ”ゼロ”。」
「・・・・・・・・・・・・・すげぇ・・・!」
「ソレハアリガトウゴザイマス?」
マイクは体の緊張が一気に抜けたように、評価結果の紙をもったままヘナヘナとテーブルに突っ伏した。
その後、ふう―――――っと長い息を吐くとゆっくりと顔を上げた。
「・・・・今日のヴィーの魔道具科の余興を観て、武闘大会の予選を観て。”ミルトル”と1年生の”単独1”に興味を持った人が2人いたよ?」
「・・・誰?」
「俺の上司、王都中央副騎士団長セルゲイ様と王国魔道士長カルタス様。」
「1年生の私に?・・・・・・何かマズイの?それ?」
まだ、まずい事になった訳ではない。
セルゲイに関しては、ヴィーの予選の闘い方を観て騎士としてどうかな?と思っているだけだからと。
この国では、女性騎士はいるが、仕事が女性要人警護が主なので、貴族出身者のみ。
平民女性はいくら強くてもなれないのだ。
理由は、身元がしっかりしていないと起用されないから。
失礼な話だが、仕事内容が関わっているようだ。
だから、ヴィーが女性である事が分かればセルゲイは手をひくとマイクは言う。
警戒しなければならないのは、王国魔道士長カルタス。
”ミルトル”と”ヴィー”自身にも興味を抱いたようだったと。
王国魔道士、王国魔術師、王国魔道具士には、才能があり国に認められれば、平民の女性でも起用される可能性がある。
「でも”ミルトル”に関しては、評価結果を見る限り心配皆無じゃん!すげぇ!」
すげぇすげぇといい笑顔で言われた。
マイクが純粋に驚いて、ヴィーが希望していたように国側に利用される心配がなくなったと純粋に喜んでくれているのもわかっている。
分かってはいるのだが、微妙に嬉しくないヴィーだった。
そして、王国魔道士長カルタス始め、王国魔道士関係にはくれぐれも気をつけるようにと言い含め、明日の武闘大会本選頑張ってねと機嫌よくマイクは帰って行った。




