61. 閑話 魔道士長と王都中央副騎士団長
61話目 投稿します。
閑話です。
驚いた。
何が驚いたって、あの映像だ。
見たこともない聞いたこともない、曲と歌と踊り。
もちろんそれにも驚いたことは確かだ。
だが、あの鮮明な映像、いくつかの視点からの映像、何やら視点がそのまま動いている映像もあった。
今日見たものは、娯楽嗜好のものだろうが、使い方次第では娯楽だけでは留まらないだろう。
次回の魔道具科の評価提出が楽しみだ。
多分この魔道具の制作者は、これを提出するに違いない。
いやあ、初日に見に来て良い物が見られた。
あの映像の魔道具は1年が作ったものらしいからな、本選とか決勝だけ見に来ていたら見逃すところだった。
「あれ?カルタス魔道士長、来られてたんですか?奇遇ですね。」
げっ!王都中央騎士団の副騎士団長セルゲイではないか!?面倒くさい奴に会ってしまった!
「いやですね?今、面倒くさい奴に会ったとお思いでしょう?そんな事思ってると城に帰るまで護衛しちゃいますよ?」
「思考を読むな!付いてくるな!お前だって休暇を取って学院祭を見に来たのだろう?」
ははっ酷いな、なんて言って近づいて来るんじゃない!
「いえ?一応仕事の一環なんですよ?・・・・・まあ、青田買い?実力のある奴を学生の頃から目星を付けておこうか?何て、うちの団長が言うものですからね。」
は、早すぎだろう、お前ら・・・・って人のことは言えんか。
「それで?青田買いしたくなるような優秀なのがいたか?」
こいつ、にこにこ笑って答えやしない。
「カルタス様は休暇ですか?」
「・・・・・お前らと似たようなもんだ。休暇ではあるがな。」
「そうですか・・・・まあ、大きな声では言えませんが、北と東と西それに南まで、決勝戦は来るつもりらしいので、その前に見ておこうかな。という感じなんです。」
「どっちにしても早い気がするがな・・・・騎士は見習い期間が1年間あるんだ、その期間でも品定めは間に合うと思うがな?」
「フフフフ、違うんですよ。これは全地区騎士団の総意なんですよ。いい人材が冒険者とか他の職に就くのを防ぎたいってね?」
「まあ、騎士科所属の者が全員騎士に志願するわけじゃあないしな・・・。」
「あわよくば、戦士科、魔術科にも優秀な人材いないかなって?ことなんです。」
ああ、そうか幅広く人材を揃えたいということか。
さもありなん。剣だけ、魔術だけよりは、より使い勝手の良い者が欲しいわけか。
それは、こちらもそういうのがいれば出来れば有難いがな。
良いじゃないか、戦えて、魔術も出来て、新しい魔術を作ったり、魔道具を作れる人材。
是非、欲しいね。
「なら、私にも少しくらい教えてくれてもいいだろう?予選で目星をつけた奴でもいたのか?」
「・・・・まあ、いいか。明日本選見ちゃったら分かってしまうだろうし・・・実は・・」
セルゲイ王都中央副騎士団長の話に寄れば、2、3年生の方が試合が派手で印象に残りがちだが、1年生の予選で試合運びが早すぎて、すぐ決着がついてしまった、3人組の7班と単独で出場していた者に目をつけたらしく、これから素性を調べるらしい。
1年生?!青田買いにも程があるだろう!
全くもって、人のことは言えないがな!
「セルゲイ様!」
王都中央副騎士団長のセルゲイの姿を見つけて走り寄ってきたのは、セルゲイのところの騎士で、確かマイク・バンブーという名前だったはずだ。
セルゲイが気に入って側に置いているが、まだ配属されて2年目のはずの奴だ、よほど優秀なのだろう。
礼儀正しく、私に礼を取ってからセルゲイに向き直る。
「私に先ほどの4人を調査しろと言い放って、どこかに走って行ってしまうなんて困ります。あなたを見失ったら団長に私がお叱りを受けますから。」
こいつ部下を撒いて遊ぶつもりだったのか?
「いや、悪い悪い。カルタス様のお姿をお見かけしたので、つい、な。」
そんなはずがあるか!嘘をつくな!
「で?調べたのか?」
マイク・バンブーは、静かに人差し指を立てると遮音結界を私達3人の周りに素早く張った。
早い。しかも無詠唱。
こんな奴を騎士団に取られていたのか!
思わずセルゲイを睨んでしまったが、奴は自慢気にニヤリと笑い肩を竦めた。
「調べるまでもありません、知り合いですから。」
「「何?!」」
何だと?既に目を付けて、尚且つ知り合いだと?早過ぎも早過ぎだ!
「7班の3人。家名を聞けばセルゲイ様でもお分かりになりますよ?」
「家名・・・・どこだ?」
「フィルド家、ホルド家、ウィステリアです。」
「ロイナスとイザヨイとイザークか・・・・東と西と北に兄がいるのか・・!」
「はい、ロベルト・タイ・ル・フィルドにスイゲツ・ナイ・ル・ホルド、そしてルーフェス・ウィステリアです。」
兄繋がりで持ってかれそうだしな。
うむ、そこら辺はいらんな。
「ふむ、黒髪は?」
「・・・・・・・・・」
「マイク?」
「あの子をどうしようとお考えなんですか?」
「どうとは?」
「あの子は、騎士科でも、戦士科でも、魔術科でもありません。」
「は?あんな動きをみせる奴がか?どこの科だ?」
「魔道具科です。」
「魔道具科?」
「はい。」
腕はたっても騎士団のセルゲイたちとは畑が違いすぎるな。
ふむ、黒髪か・・・腕は、そこそこたつだろうことは分かった。
卒業の頃になれば成長もするし、今より強くなるだろう。
成績はどうなんだろうな?
あの映像の魔道具の制作者も興味深いしな。
ふむふむ。
「セルゲイ様、あんまりここにいると兄組に見咎められますよ?」
マイク・バンブーが辺りを何かを捜すように見渡しながら、セルゲイに伝えた。
「兄組?」
「はい。来てますから、あの人達。明日も来ますよきっと。」
「うむ、自分の弟たちが1年から目を付けられるのは・・・嫌がるか?」
「さあ・・・注意警戒はするのではないでしょうか?」
「そうだな。見るものは見たし後は明日にして・・・引き上げるとするか。カルタス様、我々はもう帰りますがあなたはどうなさいますか?一緒に帰られますか?」
「あ?いや、私はもう少し見て行くことにする。気にしないでくれ。」
「そうですか?ではくれぐれもお気を付け下しますよう・・・・そういえば、ジェイド様が先に行われたロガリア学院の評価提出の最終報告をセルゲイ様に見て頂きたいとここに来る前に仰っておりましたよ?」
「ロガリア学院の評価提出!?うむ、そうか!そうか!もうそんな時期か!仕事は溜めてはいかんな!良し、やはり一緒に城に向かう事にしよう。」
「おや?休暇だったのでは?」
「知らんな。行くぞ!」
ロガリア学院の評価提出は既に終わっていたとは、迂闊だった!




