60. ロガリア学院祭 (2)
60話目です。
魔道具科の余興が終わると、あまり間を置かずに武闘大会予選が始まる。
先ほどの魔道具科の余興の余韻が残って浮き足立っていた観客たちも、そうだこれを見に来たんだと気持ちを切り替え始めた。
「これより、第32回ロガリア学院、武闘大会予選を開催する!日頃の鍛錬の成果を存分に発揮して欲しい!」
武闘大会開催の挨拶の後に、すぐ様審判が舞台に上がり大声を発した。
「1年生第1試合、23班対単独1!両者、舞台へ!」
呼ばれて23班の3人とヴィーが舞台に上がる。
3対1ということに観客は驚くが、それでも静かに見ている。
審判が開始の言葉と共に手を振り下げた。
「それでは、第1試合!23班対単独1!試合開始!!」
それを合図にヴィーは右手に持っていた棒を、来る来ると回しながら体勢を低くして走りだした。
相手の3人は木剣を慌てて構えようとした時、ヴィーは回していた棒を空高く放り投げた。
「「「えっ?!」」」
それに一瞬3人とも気を取られ、上を向いた時。
ヴィーの正面にいた者は、低い体勢から伸び上がってきた右手の掌底をくらってそのまま場外へと飛ばされ、その勢いのまま左側に回転してきたヴィーの回し蹴りを左側にいた者がくらって、やはり場外へ蹴り飛ばされた。
更に蹴り飛ばした足を地面に付き、反動をつけて右側にいた者を左足で場外へと蹴り飛ばした。
その後、来る来ると回りながら落ちてきた棒を再び右手で掴んだヴィーは、姿勢を起こして審判の方を見た。
審判は思わぬ事に呆気に取られていたが、すぐ様我に返り勝敗を告げる。
「・・・!じ、場外!23班は全員場外!し、勝者、単独1!!」
判定を聞くと、ヴィーは一礼して舞台を降りて行った後、しんと静まり返っていた会場内は、一瞬にして歓声に包まれた。
剣術が得意ではないヴィーは棒を武器に選んだが、短期決戦に持ち込こうと最初から考えていた。
自分の武器が使えない以上、長引けば自分に不利になるのは分かっていたから。
力を試したいとか、学院に自分の力量を示したいなどとは思っていないが、予選で負けるのは少し悔しいから、一応作戦なども考えていた。
1年生初戦とはいえ、案外呆気なかったなと思いつつも、別なことが気になるヴィーだった。
(私、もしかして試合の間中、単独1って呼ばれるのかな・・・・?)
「1年生第2試合、7班対45班!両者、舞台へ!」
呼ばれて7班の3人と45班の5人が舞台に上がると、実地訓練で毎回1位なのを知っているせいか、既に45班の5人、特に魔術科であろう女子2人が萎縮しているように見えた。
スイゲツ達は相手のそんな様子を見ても、表情を変えずに静かにそこにいる。
そんな生徒たちの事など意に介さず、審判が開始の言葉と共に手を振り下げる。
「それでは、第2試合!7班対45班!試合開始!!」
「それいけ!僕の氷の礫!」
開始の合図直後に、放たれたスイゲツの魔術の礫が無数に放たれ、相手の5人の足元に着弾すると、萎縮していた5人は悲鳴を上げて怯んだ。
「「きゃあっ!」」
「「「うわっ!」」」
間を置かずにルーフェスが突風の魔術を女子2人に放ち、2人は訳も分からず場外へと押し出され尻餅をついてしまった。
残った3人の男子は、ロベルト、スイゲツ、ルーフェスの木剣で反撃する暇も与えて貰えずに、各々舞台際まで打ち込まれ、そのまま場外へと出されてしまった。
「45班!全員場外!勝者7班!!」
第1試合と第2試合は短時間であっけなく終わってしまったが。
第3試合である16班対18班では、16班の3人の機動力に18班の5人が翻弄されてしまい16班の勝利に終わった。
第4試合である8班対30班は、お互い良い勝負だったが辛うじて30班が勝利した。
今年の1年生は出場者がかなり少なく、2回戦進出をもって本選へと出場が決まっていた為、2日目の1年生本選出場は、単独1、7班、16班、30班となった。
この後、2年生、3年生の予選も行われ、各学年4つずつの班が2日目の本選へと駒を進めたのだった。
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屋台が多く設置された敷地内の中央部分には円形状の舞台があり、それを囲むようにテーブルと椅子がいくつも配置されている。
今日の見所だった武闘大会の予選が終わり、生徒たちや学院祭に来ていた人々は学院内を見たり、屋台の物を食べたり飲んだり、また談笑したりと思い思いに過ごし、懐かしい顔を見つけては話したりと少しゆったりした時間を楽しんでいた。
そこに、パーッパーッパーッと武闘大会予選前の会場と同じような音が響き渡る。
最初の余興を見て知っていた者たちは、ワクワクしながら音のした円形状の舞台の方に注目し、他の知らない者も何だ何だと目を向け始めた。
先ほどと同じように、空中に文字が現れる。
第32回ロガリア学院祭
協力 騎士科 ロベルト 敬称略
戦士科 ルーフェス 敬称略
魔術科 スイゲツ 敬称略
初日余興担当
魔道具科1年生一同
文字が消え去った後に、少し暗めの光を放ちながら2人ずつ俯いて、背中合わせに片膝をついている人物が映し出されると。
低めの曲が流れ始める。
4人は曲に合わせてゆっくりと立ち上がり、顔は上げるが伏し目がちに少しゆるめに踊り始めた。
その姿は、ついさっき武闘大会予選で早々に本選出場を決めた1年生の4人だと分かると、観客から歓声が上がる。
突然、曲のテンポが早めに変わる。
1回目の余興の踊りと比べ歌も曲も動きも男性的だ。
なのに、なぜか少し妖しく色気まで漂ってくる雰囲気がある。
それぞれは個性的な表情で淡々と踊る。
魔道具科のマントを着た黒髪の小柄な者は、やや挑発的に。
魔術科のマントを着た淡い水色の髪の者は、軽く微笑み。
戦士科のマントを着た銀髪の者は、少し不機嫌そうに。
騎士科のマントを着た金髪の者は、無表情に。
映像を見ている者は、魅入られたようにただ見つめている。
曲が中盤に差し掛かった時のタイミングで、2人ずつ並んでいた者同士で顔を見合わせて一瞬笑い合った次の瞬間。
4人の衣装がマントも含めて全員黒い軍服のような物に変わった。
そして表情はそのまま、曲に合わせつつ踊るも時折、横目で観客を見たり、ウィンクをしたり、不意に微笑んだり、目を妖しく細めたりと飽きさせない演出を盛り込んでいた。
最後は4人とも観客に立ったまま背を向けた状態で曲と映像が消えていった。
そして再び文字が現れる。
魔道具科1年の余興はこれにて終了です。
ご視聴ありがとうございました。
この後も学院祭をお楽しみください。
魔道具科1年一同
それを最後に円形状の舞台には何も映し出されなかった。
映像が終了したのを今更のように認識した人々の大歓声と拍手がその場所に響き渡った。




