58. ロガリア学院 学院祭 3日前 (2)
58目投稿です。
ロガリア学院祭にあたって、余興担当の魔道具科では変更せざるを得ない事柄が持ち上がった。
まず、初日の1回目の余興の女子たちの踊りの映像の入った「ミルトル」の設置が武闘大会の舞台から少し外れた場所に移った事。
そして、「ミルトル」の設置・操作・撤収させる者をヴィー以外にする事。
魔道具科の不正を防ぐ為というフザケた理由での学院側からの要請だったが、後から色々難癖を付けられるよりはと承知した。
「ミルトル」の設置・操作・撤収させる者をヴィー以外にする事、これには皆慌ててしまった。
開発者であり、一番「ミルトル」を理解しているヴィーが設置・操作・撤収も出来ない。
武闘大会のために魔力を少しでも温存しておきたいが、余興が失敗でもしたら本末転倒だ。
なので、ヴィーは悩んだ末、扱い方を一応一通り教えておいたクラウスに頼むことにした。
「クラウス、「ミルトル」の設置・操作・撤収は任せるから、もう一度徹底的に!扱い方を覚えようか?」
「ヴィー、決定事項みたいに言ってはいるが、俺は初耳だぞ?」
「何言うのクラウス、これは魔道具科のため、パスカル先生のせい、私のためだよ。」
「お前、段々俺に対して遠慮ってものがなくなってきてないか?」
「え?いる?クラウスは魔道具科1年の一員で、魔道具科1年の余興担当長で、パスカル先生の弟なのに?」
「・・・・・・・・・・わかった。俺の兄貴に対して怒っているのはわかった・・・やるから!だから・・・そんな目と顔で俺を見ないでくれ。」
(そんな目と顔とは、”何言ってんの?当然じゃない?やらないつもりか?じゃあ、クラウスが武術大会に出る?”という心の声がそこに具現化でもしていたかな?)
半強制的に「ミルトル」の扱いのお浚いをしながら、気にはなっていたが聞きそびれていた事をクラウスはたずねる事にした。
「ヴィー、魔道具科の余興のせいで学院祭の武闘大会に出るのは気の毒だとは思うが・・・大丈夫なのか?お前、何か策とかあるのか?」
ヴィーはクラウスの目を真っ直ぐ見るとはっきり言った。
「そんなものはない。」
「ダメじゃんか!後衛職のお前が無策で出場なんて、ケガをしに行くもんだろうが?!」
「ケガしたら薬師と治癒術師を学院が用意するから大丈夫だって、先生たちは言ってたけどね。」
「ケガする前提か!?」
魔道具科の余興のせいで自分たちの仲間がケガをするのを黙って見ていなくてはならないのかとクラウスは苛立つがどうすれば良いのかいい打開策を思いつけない。そんな自分に更に苛立つ。
「他の出場者の力量がわからないしな・・・闘い方を見たことがあるのなんて、バードフォルト様たちとスイゲツ達だけだし。そのうち参加するのはスイゲツたちでしょ?・・・・・とすると長期戦は絶対不利だから、短期決戦でとしか決めてないんだ。こっちは準備に時間をかけられなかったからさ~。」
当日の魔道具科の余興に関して手が出せないのなら、自分の出来ることをしようとヴィーは既に決めていた。
うだうだ考えていても埒があかないし、何より時間がない。
「だが、予選だけならまだしも、本選に出ようものなら本当に危ないんだぞ?予選は木剣だが、本選は自分の武器が使用可能になるんだ。無茶は絶対するなよ?」
予選は学年ごとに行われ、学院祭2日目の本選は1~3年入り乱れのトーナメント制だ。例え1年生が本選に出場しても大概はここで消えていく。
3日目の決勝に行くことは殆どない。
ヴィーにとっては、弓も投擲武器も使用出来ないので予選の方が不利なのだ。
だから祖父、父、マイク、マイカに習った闘い方と魔術を主流にやるしかない。
剣も使えないことはないが、あまり得意ではない。
魔術でも、魔力量がそれほど多い訳でもないので、節約したり、予め魔力を貯めている魔布に刻んである魔法陣を使ったりするのがヴィーの闘い方である。
魔布とは、魔石を粉にしたものと魔力を入れ込んだ特殊な液を布に塗って作る魔道具の一種だが、作り手によって効力の差が大きかったり、持続時間が違ったりと、更にはこの魔布をつくるのが難しいため、あまり作る者がいない。
ちなみに魔布に魔法陣を刻んだものを”布札”と呼ぶ。
だが、上手く作ることが出来たり、質の良い魔布に魔法陣を刻めれば、魔法陣の構成の仕方しだいで無詠唱、更に少ない魔力で発動できる。
質の良い物が完成すればとても使い勝手の良いものだが、やっぱり作るのがとてつもなく面倒くさいため普及していないのが現状だ。
「ヴィー、すまん。お前にケガをしてほしくない。だが俺には何も出来ないんだ!魔道具科のために、予選落ちしてくれ!」
「兄弟だからって言う事はやっぱりそれか!似ているにも程がある!」
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学院祭が3日後に迫った来たことで、学年毎に班での訓練が主になり、魔術科と騎士科と戦士科、一部薬学科入り混じって自由合同訓練をしている。
騎士科1年主任教師のガユーザが声を張り上げて生徒たちに告げる。
「我がロガリア学院の学院祭が3日後に迫っている!学院祭の花形である武闘大会に向けて、出場申請を締め切った!1年生の出場者は30名!前回実地訓練の合格者全員だ!今回武闘大会に出場しない者も、心して訓練をし、予選の戦闘を自分の糧としろ!わかったな!!」
「「「「はいっっ!!!」」」
「では、本日の合同訓練を終了する!!解散!!!」
「「「「ありがとうございました!!!」」」
自由合同訓練を終えた160人の生徒が、訓練場を疲れてはいるが活気を失わずワイワイと去っていく。
その中で、スイゲツが顔を強ばらせて立っていた。
歩き出そうとしたロベルトとルーフェスがそれに気がつき、声をかけるが周りの喧騒に飲まれ聞こえない。
スイゲツは突然走りだし、ロベルトとルーフェスも慌てて後を追っていった。
走り出したスイゲツは魔道具科の教室に入るなり、帰り支度をしていた人物に詰め寄った。
「クラウスのバカ――――――――――――――――――――――!!!」
「いきなり来て何なんだ!!」
「だって!ヴィーいないし!クラウスはいるから!」」
「何だその理不尽な八つ当たりは!?」
ぎゃいぎゃい言い合う2人を追いついてきたロベルトとルーフェスが間に入って止めさせた。
いきなり魔道具科の教室に走り込んできて、今だに怒っている様子のスイゲツを宥めようとルーフェスが話しかける。
「落ち着け、スイゲツ。一体どうしたんだ?話を聞くから一旦落ち着こう?な?」
「・・・・・・・・・・・わかった・・・・・・」
話しをするためにスイゲツは数回深呼吸を繰り返した。
吸ってー吐いてー、吸ってー吐いてー、スーハースーハー。
「・・・・クラウス。君はヴィーが何で学院祭の武闘大会に出ることになったか訳を知ってる?」
「「えっ!?」」
ロベルトとルーフェスは驚いてスイゲツとクラウスを交互に見た。
「ああ、そのことか・・・知ってるぞ。」
「何で?!ヴィーは出ないって言ってたのに!というか怪我したらお金稼ぐのに大変になるから出るわけ無いって思ってたのに!」
「お前、ヴィーを守銭奴みたいに・・・・・・否定はしないが。」
「理由を知ってるなら教えて!」
学院祭の余興でスイゲツ達の協力の許可を得るために、魔道具科1年主任教師パスカルと騎士科1年主任教師ガユーザ、魔術科1年主任教師リュートとの約束で、第6回実地訓練合格者の1人であるヴィーが武闘大会出場を出なくてはならなくなったと話した。
ちなみに戦士科1年主任教師はこれには関与していない。
ヴィーが武闘大会に出なくてはならなくなった理由を聞き終えると3人の怒号が響いた。
「「「先生のバカ――――――――――――――――――――!!!!」」」




