57. ロガリア学院 学院祭 3日前 (1)
57話目投稿です。
国立ロガリア学院の学院祭が3日後に迫ったこの日、ヴィーは魔道具科1年主任教師パスカルに朝から呼び出されていた。
呼び出しを食らうほどの失敗を何かやらかしただろうかと考えながら、今回はパスカルの研究室ではなく職員室に向かっていた。
職員室とは生徒にとって何もしていなくても、入るだけで微妙な緊張感を生むものだ。
ヴィーも例に漏れず訳もなくちょっとドキドキしていた。
「魔道具科1年、リヴィオラ・ショーノです。失礼いたします。」
職員室入口で名乗り、礼をしてから入室する。
「おー、ヴィー、おはよう。よく来たな、こっちに来ーい。」
自分を呼び出したパスカルの間延びした声と手招きしている姿に、少し緊張が解け安心する。
「おはようございます、パスカル先生。何か御用ですか?」
「あー、うーん・・・そのなぁ・・・」
言い淀んでいるパスカルに、何だか嫌な予感がしてくる。
「・・・・ナンデショウカ?」
警戒度が段々上がるにつれ、何かを疑っている目でパスカルを見つめ言葉までカタコトになってくる。
「えーと、ヴィーは学院祭の武闘大会・・・出ないか?」
「出ません。」
「即答か!」
「私は学院の武闘大会に出場申請はしていませんし、魔道具科ですから参加の強制も出来ないはず、ですよね?パスカル先生?」
「う・・・そうなんだが・・・やっぱり出ないか。」
「出ません。嫌です。拒否します。」
「またもや即答!容赦がない。付け入る隙が見えない!」
ヴィーは全力でお断りしたい。
というか拒否する!
騎士科や魔術科でもない、ましてや出場申請していないのに出る義務はない。
そう、別に自分の戦闘能力を試してみたいとか高めたいとかの戦闘欲求もないし、学院側に認めて欲しいと思っている訳でも無い。
出たくもない武闘大会に出てケガでもして、冒険者ギルドの仕事が出来なくなったら死活問題に成りかねないのだ。
自分が進んでやらかした結果のケガであれば、自業自得なので仕方がないが。
「他に御用が無ければ失礼させていただきます。では。」
用はすんだとばかりにさっさと退室しようと、パスカルに礼をして職員室から出ようとした時に他から声がかかった。
「まあまあ、待ちなさい。えーと・・ヴィー君だったかな?」
「そうだよ、もう少し話しを聞いてくれないかな?」
声をかけてきたのは、騎士科1年主任教師ガユーザと魔術科1年主任教師リュート。
ヴィーはゆっくりと2人に体を向き直す。
「何でしょうか?ガユーザ先生、リュート先生?」
「ああ、話は他でも無い。君に学院祭の武闘大会に出て貰いたいのだよ。」
「お断りします。」
「勝てば、とても名誉なことなんだよ?」
「お断りします。出るつもりはありません。」
ガユーザとリュートは、顔を見合わせて困ったもんだと苦笑した。
その様子を後ろから見ていたパスカルが済まなそうに再びヴィーの声を掛けてきた。
「すまん、ヴィー・・・学院祭でのロベルトたちの協力の許可を騎士科と魔術科に取った時に1つだけ向こうの要請を聞くと約束しててなー・・・で、こういう事に。」
「パスカル先生?分かりません。きちんと説明していただけますか?」
パスカルとガユーザとリュートの話によると今年の学院祭の武闘大会への出場申請が1年生だけかなり少ないらしい。
原因は言わずもがなの第6回実地訓練。
自信喪失した者が数多く未だ立ち直ってない者が多い。
せめて、実地訓練に合格した30人だけでも参加しないと困ってしまうとか。
人数は30人でも武闘大会は班単位なのでそれでも7つの班しかいない。
内訳は、3人組の班が3つに5人組の班が4つだ。
あとは、単独参加したヴィーのみ。
それで30人。
「ちょっと待ってくださいよ。それじゃあ、私は多数対1人で闘かう事になって非常に不利ですよね?しかも、3日前って準備も録にできないし、ケガする前提ですよね?酷くないですか?ケガしたら責任取ってくれますか?」
打診してくる時期完全に間違えているだろう!他の班は1ヶ月も前から学院祭の武闘大会を意識して来て参加するのだ。
ヴィーの憤りも当然と言える、というか怒るのは当たり前だ。
「予選で落ちても良いから、参加だけしてくれないか?ケガは薬師と治癒師を学院で毎年用意してるから大丈夫だ!」
「参加だけ?賑やかし?賑やかしですか?そうですよね?というか私ではなく、他の人を説得して下さいよ!」
「ヴィー、すまん!お願いだ!余興に協力してもらった手前、俺には断わりきれないんだ!魔道具科のために、予選落ちしてくれ!」
(おのれ!パスカル先生!それが本音か!!)
「しかも予選で負けるって決め付けてるし!もし、間違って本選行っちゃったらどうするんですか?!」
「「「それはそれで良し!」」」
「・・・・・・・・・・分かりました、参加します。でも、武闘大会に出るとして私の主武器は弓ですよ?相手を弓で射っちゃっていいんですね?」
「武闘大会の予選は基本、木剣だ。魔術は、自分で扱える魔術なら何でも大丈夫だがな。」
自分の主武器ではない、慣れない木剣での戦闘を数人相手しなくてはならない。
これは本当に自分を人数合わせ的な意味で参加させたいのだろうとヴィーは呆れていた。
「どうなっても、知りませんからね?後から文句を言わないでくださいね?」
「「「わかった。」」」
(わかったって、安易な!私は同級生相手に模擬戦闘だってしたことないのに・・・・全然加減が分からないじゃないか・・・)
同じ世界の話しで違う話を書き始めました。不定期更新になりますが、そちらも良ろしければ読んでみてください。恋愛ものを目指しています。




