56. ロガリア学院 第6回実地訓練 後日談 (3)
56話目です。
昼休み中の生徒を縫うように避けながら魔道具科の教室目指し、早歩きで移動する魔道具科1年生クラウス。
貴族出の割には、雑な性格だがやはり所作は叩き込まれているらしく、急いでいても颯爽と歩いていく。
魔道具科1年主任教師で実兄のパスカルに良く似ていることから、少年パスカルとかコパスカルなどと不本意であろうあだ名で密かに女生徒の間で呼ばれている事をクラウスは知らない。
ちなみに他にも”ちびパスカル”というあだ名もあったが、”ちび”と称されるには語弊があるほど高身長のため封印されたようだ。
魔道具科の教室についたクラウスは、教室内に食事中のヴィーを見つけるとスタスタと近づいていき、声をかけた。
「何で、お前らはまた魔道具科で昼食を取ってるんだ?スイゲツ!ロベルト!ルーフェス!」
暫く魔道具科に姿を見せなかった3人が当然のように居て、更には昼食を取っているのを見て、我慢できずに先に突っ込んでしまった。
「クラウス、お帰り~。ここで食べてるのは、今日はヴィーのお弁当の日だから~。」
と暢気に返すのはスイゲツ。
「お弁当の日?」
「そうだ・・・もぐもぐ・・毎日ではヴィーに負担になって・・もぐもぐ・・・しまうからな、・ごくん・・・・4日に1度にしたんだ。」
クラウスの質問に答えたのはロベルトだが、食べながら喋るのはやめて欲しかった。
聴き取りづらい。
それに先日、ヴィーが男子か女子かであんなに騒いだのに!
何だったんだ、あれは!と詰め寄りたくなるほどにすんなりと友達付き合いを再開しているロベルト達に呆れつつ、はっと本来の目的を思い出したクラウスはヴィーに先ほどの事を伝えることにした。
「そうだ!そうだった!ヴィー!来る来る来る来るぞ!あいつら来るぞ!すぐ来るかどうかは分からないが、必ず来るぞ!」
「クルッポー?」
声を上げてしまったのは、普段そんな事は言いそうにもないルーフェスだった。
皆は黙って真顔で、ルーフェスを見る。
「「「「・・・・・・・」」」」
ちょっと強面で精悍な形のルーフェスのその失態に、誰も突っ込みを入れない。
ありえないスピードでみるみるルーフェスの顔が真っ赤になっていく。
「す・・・すまん!」
何故そんな言葉が自分の口から出たのか分からないが、慌てて手で赤面した顔を隠した。
ボケたくてボケた訳ではないが、突っ込み無しは居た堪れない。
「で?」
「何が来るって?」
ルーフェスの不意打ちのボケを冷たくスルーして、ヴィーとスイゲツはクラウスに聞いてきた。
横にいたロベルトは、”し、しっかりしろ、傷は浅いぞ!”とか言って慰めている。
慰めてはいるが、顔は笑いたいのを堪えているのは丸分かりなので効果はほとんどない。
というか逆効果かもしれない。
「お前ら・・・ルーフェスが可哀相だろ・・・・」
「何言うの?ここは突っ込んじゃいけないところだよ。」
「そうだよ。思わぬ自分のボケに赤面するルーフェスを堪能するところだよ?」
「・・・・お前ら、いい性格してるよな?」
「「良く言われる。」」
「・・・誰に?」
サっとお互いを指差す、スイゲツとヴィーにクラウスの溜息がこぼれた。
話しを元に戻し、食堂で偶然聞いてしまったバードフォルト達の事を掻い摘んで伝えた。
事情をある程度スイゲツから聞いていたロベルトとルーフェスも一緒に聞いていた。
話しを聞き終えたヴィーは、何でも無い事のように笑顔で答える。
「あの人達が前の事を謝って来るなら、謝罪は受けるけど・・・・5班に戻る気は全然まったくサラサラないから。でも、知らせてくれてありがとう、クラウス。もう来ないだろうな~なんて油断してる所に来られるよりは、余裕を持って対応出来るよ。」
そうか心配は無用か、と4人は安心し、また他愛もない話しに戻って昼休みを過ごした。
*************************************
ヴィーに謝罪し、班に戻るように説得しようと意気込んでいたバードフォルト達4人は、日中は通常授業と学院祭準備に追われ、授業後は追加講義を受けなくてはならず、しかもその後では既にヴィーは学院にいないわ自分たちも疲れきった状態になるわで、説得の時間と機会を得ることが出来ないどころか1日をこなして行くのが精一杯の状態だった。
そんな日々を過ごしていくうちに、ヴィーに関することなどすっかり頭の中からポロリと抜け落ちたように忘れてしまった。
ヴィーの方は、いつバードフォルト達は来るのかな?と思いながらも、こちらも通常授業と学院祭の準備の追い込まれて、やはり彼らの事はスコーンと抜け落ちてしまっていたが、ある時不意に思い出した。
あれ?そういえばあれから結構日にち経つけどあの人たち来ないな~?と。
え~?もしかして忘れちゃってる?
以前は構えていた為か少し拍子抜け感が込み上げて来たが、ただそれだけだった。
(まあ、来ないなら来ないで、いっか~。)
国立ロガリア学院、年に1度の学院祭は間近に迫っていた。




