53. ロガリア学院 第6回実地訓練 (4)
53話目投稿です~。
第6回実地訓練を終えて学院の寮に帰ってきていたロベルト、スイゲツ、ルーフェスは風呂に入り身奇麗にしたあと、例の如くロベルトの部屋でルーフェスの入れた紅茶を飲んで一息ついていた。
しばらくすると、人の声はしないが、大勢の人間の気配と足音が聞こえてきた。
そんな大勢が自分たちと大差ない時間で実地訓練を終えて帰ってきたのかと驚いたが、部屋から出て見てみると帰って来た者たちの様子がおかしい事に気がつく。
声をかけるのが憚れる状態だった。
みんなが無言で自室に入っていくのを3人も黙って見ていた。
「おわっ!?何だ?どうしたんだ?!」
学院から寮に帰って来たらしい、誰かの驚いた声が響いた。
だが、誰もその声に反応を示さない。
驚いた声を発した主が、無言で自室に入っていく者たちを黙って見ていたロベルトたちに気がついて周りを気にしつつ近づいてきた。
「ロベルト、スイゲツ、ルーフェス。」
「クラウスじゃないか、そちらは終わったのか?」
今回1年生担当の教師は軒並み実地訓練の監督に駆り出されているため、学院で自習をしていた魔道具科1年のクラウスだった。
「ああ、俺の方は自習だからな・・・・なあ、あいつら実地訓練をもう終えて帰ってきたのか?にしては様子が何だかおかしいが・・・・?」
「俺たちは終わって帰ってきたんだが。あいつらは・・・・わからないな。」
クラウスの問いに答えたのはルーフェスだが、思案顔だ。
ぞくぞくと帰寮してくる者たちをまだ見ていたスイゲツとロベルトは、彼らの描写をしていた。
「すっごく項垂れてる。頭が床につきそうだよ?」
「意気消沈?」
「あっドアに頭ぶつけた!痛いっあれは痛いよ!」
「茫然自失?」
「あっ崩れ落ちた!部屋が目前なのに力尽きた?」
「疲労困憊?」
「「・・・・・・」」
無言で見つめてスイゲツとロベルトを諌めるクラウスとルーフェス。
されどこの状況、気にはなるが事情を聞ける心当たりもない4人は、お互いの顔をどうする?と見ていた。
「ヴィー・・・帰って来てるかな?」
ぽそっとスイゲツ呟いて他の3人を見た。
「「「・・!」」」
3人はハッとして一斉にスイゲツを見る。
「こ、こんな時間に自宅に行ったら、し、失礼にならないかっ?」
「うん、大丈夫じゃないかな?まだ夕方だよ?」
クラウスはちょっと焦って上擦って聞いてきたが、スイゲツは笑って答えた。
「何故そんな事を気にするんだ?別に関係ないだろう?相手はヴィーだぞ?ご婦人じゃないんだ。」
「それはそうだが、あまり遅い時間の訪問は迷惑には変わりないからな、行くなら早めに行った方がいい。実地訓練からまだ帰ってないなら、それはそれで仕方がないだろうしな?」
ヴィー自身は、男子と思われようが気にしていないようであるが、それはいちいち間違いを正すのが面倒なだけで殊更男子として振舞っている訳でもないことをクラウスは知っていた、なので結構仲良くなった彼らには言っておいた方が良いだろうと思った。
「勘違いしているようだから言っておくがなお前たち?ちょっと見、いやかなり凛々しいと女子から人気はあるが、ヴィーは女子だぞ?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」」
ロベルトとルーフェスはそれっきり、ウンともスンとも言わずに固まったままとなった。
思ってもいなかった事実を突然教えられて、2人の脳の処理が追いついていないか、もしくは受け入れを拒否したのかもしれない。
スイゲツとクラウスは固まったままの2人を観察していたが、暫くするとそれに飽きてしまいロベルトの部屋に放り込んで、ヴィーの家を訪ねるために出かけることにした。
ヴィーの住んでいる家に着くと、すでに帰宅しており、訪れたスイゲツとクラウスに驚きながらも迎え入れ、暖かいお茶を入れた歓待した。
「で、珍しい組み合わせで何の用なの?」
ヴィーの早速の問いにスイゲツが訳を話し始めた。
「実はね、実地訓練に出掛けた連中がさっき大勢帰って来たんだけどね、様子がおかしかったんだ。」
「様子がおかしい?」
「うん、意気消沈したみたいにすっごく項垂れて頭が床につきそうだったり、茫然自失してるのか頭をドアに思いっきりぶつけたり、疲労困憊して自室の前で力尽きたように崩れ落ちたり・・・・そんなのが大勢帰ってきたらどうしたんだろう?って気になっちゃって。でも、僕たちには訳がわからないしさ・・・・ヴィーが実地訓練から帰って来てるなら、何か知ってるかな~と思って来てみました!」
とても具体的な話しを聞いているうちに、先ほどの疲れた様子の実地訓練監督担当教師たちの様子が頭に浮かんだ。
でも同時に、それで帰って来た人たちの様子がおかしいのか?という疑問も浮かんでくる。
「・・・・推測というか、憶測というか・・・はっきりそれが原因とは断言出来ないけど、良いかな?」
心当たりがありそうなヴィーを相槌を打つことで促す2人。
「今回から始まった”素材の剥ぎ取り”が原因かなって。」
「「素材の剥ぎ取り?!」」
「うん。私が実地訓練の素材確認をした時に、実地訓練監督担当の先生たちがすごく疲れていててさ。その時パスカル先生が担当してくれたんでちょっと聞いてみたんだ。”何かあったんですか?”って。」
「うん。」
「そうしたら、”実地訓練6回目が専門科1年生にとって洗礼的な回なのは、毎年のことだけど今年数が多くて先生たちちょっと疲れちゃってんだ”って。」
「それで?」
「それから”棄権者が多いんだって。棄権していないのは、お前を含めて30人。あとの131人は既に棄権して、学院寮なり自宅なりに帰っている”って言われた。」
「ええ~?30人?!少な!」
「で、実地訓練を終えて帰ってきたのは、7班のロベルト様、スイゲツ、ルーフェスの3人、それと私だって。後の26人はまだ帰ってきていないとも言われたよ。どうしてそんな事になってるんですか?って聞いたら”お前みたいに素材の”剥ぎ取り”に慣れている者が少ないって事だよ”って・・・・だから、それが原因かなっと。」
「十中八九それが原因だな!」
ビシッと指を差し、クラウスが断言した。
クラウスの指先を見ながら考える。
”素材の剥ぎ取り”を生活の一部として生きてきたヴィーにとっては今更ではあるが、分からないでもない。
それは、自分も通ってきた道だから。
でも、出来るだけ廃棄せずに素材として活かし、肉だって出来るだけ食べる。
それは倒した魔獣に限ったことではないが。
「しかしそれならどうすれば良い?俺たちは何かした方がいいのか?」
「・・・う~ん。それが原因なら、私たちには何もできないな。」
「・・・どうして?」
「”素材の剥ぎ取り”に関してはかなり始めの方で講義をされてるはずだし、再度実地訓練の前にも合ったはずだよね?だから、あとは経験を積んで慣れていく事と、自分の心の問題だと思うから。他人があれこれ言っても、こればっかりはどうにもならないんじゃないかなと思うんだ。」
冷たいようだが、こればっかりは自分で乗り越えなくてはならない事だとヴィーは言う。
寧ろ学院の進め方は過保護のようにも見受けられる。
実地訓練では遭遇した魔獣を殺しているのだ。
それが、身を守るためであろうと、経験を積むためであろうとも。
魔獣を倒して素材を剥ぎ取る、本来は抱合せで覚えて行くはずのものだと。
やらなければならない事を習っている。
出来なければならない事を訓練している。
そうでなければ、先へは進めない。
まあ、そういう事なのだろうとは、理解は出来るのでスイゲツとクラウスはそれ以上は何も言わなかった。
「ところでヴィー?」
「何?クラウス?」
「ロベルトとルーフェスがお前を男子だと勘違いしていたようだから、”ヴィーは女子”だと言っておいたぞ。」
「へ~そうなんだ、ありがとね。」
「おう!」
「ヴィーったら、反応薄すぎだよ・・・・・・」
何でもないことのように流すヴィーとクラウスに、スイゲツは脱力してテーブルに突っ伏した。




