51. ロガリア学院 第6回実地訓練 (2)
51話目投稿します。
現在、東区ではロガリア学院専門科1年生たちの実地訓練が行われている。
が、開始されてから3時間で既に三分の一に人数は減っていた。
実地訓練の合格基準値をクリアして減ったわけではなく、緊急信号魔弾を打ち上げ、密かに護衛にあたっていた王都中央騎士団の騎士に保護されて、実地訓練を棄権する形で減っていた。
前回までは、クリアした時間にこそ差はあったものの全員、全班が合格していた。
では、何故か?
一番の原因は、”素材の剥ぎ取り”。
自分の剣や魔術で魔獣を殺す事は何とかやって来れた者が、自分が殺した、もしくは仲間が殺した魔獣の牙や角などを切り取り、毛皮を剥ぎ、解体して血抜きをする事が出来なかったからだ。
それは、手際が悪く時間を取られ他の魔獣に襲われたり、殺しはしたものの怖くてそれ以上出来なかったなど理由は様々。
狩った全て魔獣の素材の剥ぎ取りをしなくてはならないわけではない。
初めから上手くは出来ないのは当たり前、だから経験を積んでいく。
出来る事はやっていき、後は、残り分の素材の剥ぎ取り額を差し引いて貰えば良いのだ。
最終的には剥ぎ取りを出来る出来ないではなく、するしないを状況によって選択するようになる事。
そのための実地訓練。
冷静さを欠いた生徒たちには、そこまで考えが及ばなかったようだ。
さて、高級な蜜を採取しようとレッドアイハニービーを追跡していたヴィーは、隱形の魔術と眠りの魔術で首尾よく600cc分ほどの蜜を手に入れていた。
半分ずつ瓶に小分けしたが、おそらく1瓶で合格基準値の額に達しているだろう。
そろそろ昼時なはずだと、森を抜けて、隱形の魔術を解く。
「ふう・・・・今のうちにお昼食べちゃおうかな・・・・」
辺りを索敵し、何も近くにいないことを確認しつつ、落ち着ける場所を探す。
見晴らしが良く丁度いい岩場を見つけて移動し、物理防御と魔術防御の2つの魔法陣布札を取り出して、発動させると、ようやく一息ついた。
こぽこぽこぽと水筒のお茶をコップに入れ、朝作ってきたおにぎりをウキウキとバッグから取り出す。
それは底辺と高さが20cmほどの女子にあるまじき大きさのおにぎり、それが2つ・・・。
中身は、鮭に似た魚を塩焼きにしてみを解した物。
「あ~・・・・・・美味しー・・・・」
うっとりと噛み締めながら、お茶と一緒におにぎりを食べ、しみじみ呟く。
「日本に生まれてよかったぁ・・・・・・」
違うだろ。
ヴィーは日本人といっても嘘にはならないが、日本で生まれてはいない。
そんなまったりした時間を満喫していると、目の端に信じられないものが映った。
木陰にいるのだが、茂っている葉の中に頭の半分が入っているために、その場所は木陰ではなくなってしまっている。
そこにいる、巨大な白っぽい生き物がヴィーを見ていた。
「・・・・・・・・・・!?」
ヴィーは器用に目の端だけで二度見した。
(何であれがラフューリング王国にいるの?エルフの国、ラヴィンター皇国にいるんじゃないの?しかも白いってことはかなり力の強い・・・・高位の魔獣だよね?え?何?フラグ?私、死亡フラグ立っちゃてるの?回避不可能状態?!)
ヴィーは力無く残念そうにおにぎりを包み直し、バッグにしまい、お茶を飲み終え、水筒もバッグにしまった。そして、胸元からゆっくりと身体能力向上の魔法陣の布札を取り出し、静かに発動させた。
「・・・・・・やだなぁ、私ったら・・編集し過ぎて眼精疲労が残ってるみたいだなぁ・・・・早く帰ってゆっくり休まなきゃだめだよね――――――――!!!」
と、突然ヴィーは、時速80キロで走り出した!!
走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る!!!
(そんな事ないとは!そんな事ないとは思うけど!!付いて来ないでね――――――――!!!)
しかしヴィーは回り込まれてしまった!
素早く方向転換して走り出した!
しかしヴィーは回り込まれてしまった!
再び素早く方向転換して走り出した!
しかしヴィーは回り込まれてしまった!
「はぐれメタルスライムか!?」
「魔狼だ。」
「やっぱり――――――――?!!」
「なぜ逃げる?」
「逃げないわけ無いでしょ?!敵わないでしょ?!死んじゃうだろが!!」
かなり混乱している様子のヴィーに、巨大な狼の魔狼は首を傾け、出来るだけ穏やかに話しをしようと試みる。
「お前が逃げたりするから無性に追いかけたくなってしまったではないか。」
ヴィーはイヌ科の狩猟本能を刺激したらしい。
「すみませんでした・・・・では、逃げないので追いかけないでください。では、ごきげんよう魔狼さん。」
挨拶をしてからゆっくりと徒歩でその場を立ち去ろうとしたヴィーの肩に、魔狼の左前足がかかった。
「・・・・・・何でしょう?」
緊張でドキドキしながら振り返れずに聞いてみた。
「殺しはしない。頼みがあるのだ。」
「・・・・・・頼み?」
「ああ、実は・・」
ヴィーは突然ある事に気づいて思わず叫んでしまった。
「って!普通に喋ってる――――――――??!!」
「ええい!やかましいわ!いい加減、黙って聞け!!」
べしっ!
話しを聞かないヴィーに業を煮やし、魔狼は左前足で軽く叩いた。
「あっ」
「ぐえっ!」
身体向上の魔術で運動能力は上がっていたが、体は強化されていたわけではないのでヴィーの体は勢い良く地面にのめり込んだ。
「・・・・・・・すまん、つい。」
繰り出した左前足を恐る恐る退けながら謝ってくる魔狼に、物理的な衝撃を受けたことで逆に冷静さを取り戻したヴィーは、ゆっくりと体を起こし、魔狼を見上げた。
「・・・は、話しとは何ですか・・・?」
「うむ、俺は腹が減っているのだ。」
「わ、私は食べても美味しくないし、食いでもないですよ?」
「わかっている。」
「失敬な!」
(ああ!つい!要らぬ突っ込みを!)
「・・・・話しを聞く気があるのか?お前は。」
「失礼しました、申し訳ございません、どうか続きをお願いいたします。」
「・・・・その・・・先ほどお前が食べていた物を俺にもくれないか?」
「・・・・・おにぎりを・・ですか?」
「オニギリというのか?あれは・・・・そうだ、それだ。」
まさか”おにぎり”を要求してくるとは思いもよらなかったので、素直に渡そうとしてハタっとヴィーは気がついた。
(どうやって食べる?地面に置く?いやいやいやいや、出来ないでしょ?!お皿?持ってないよ!)
などと考えていると、おにぎりは手元から無くなっていた。見ると、おにぎりを宙に浮かせて魔狼が食べている。
(おおう!魔術を使うんだ・・・!)
然う斯うしているうちに、食べ終わってしまった魔狼は礼を言い、ヴィーの顔をべろんとひと舐めして去っていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんとにおにぎりが食べたかっただけなんだ。」




