50. ロガリア学院 第6回実地訓練 (1)
50話目投稿します。
今日は朝からとっても良い天気です。
まさに、実地訓練日和。
今回の実地訓練は、専門科1年生のみ。
なので、今回参加人数は161人。
班数は39。(1班2~6人)
単独なのは5人。
2,3年生は学院祭後に実施される。
実地訓練が1~3年生一度に実施出来ないのは、何故なのかな?・・・・大人の事情だな、きっと。
第6回実地訓練は期限3日間、場所は東区。
前回までは、1人大銅貨3枚以上で合格だったが、今回から難易度が少しずつ上がって行く。
2,3年生になってくると指定素材・指定討伐になり、更に合格の難易度が上がる。
今回の合格基準値は1人につき、小銀貨1枚以上の価値のある物を採取または狩ってくること。
これは、1つで小銀貨以上の価値のある物を提示しても良いし、いくつかをまとめても小銀貨以上になれば良い。
換金出来る物としては、魔獣などの討伐証明部位、使える用途のある素材、食用としての肉、魔石、薬草関連の植物、鉱物といった風に様々あるのは今までと同じ。
違うのは、素材剥ぎ取りを自分たちで行わなければ査定金額から減額され、素材の状態の良し悪しよっても増減額されるようになった事。
なったといっても、これらの事は冒険者ギルトを始め世の中に出れば当たり前のことではあるが。
実は密かに監督する教師に混じって冒険者ギルドの査定の人間がいるのだが、ここでは生徒とギルドの人間は例え知り合いでもそんな素振りを互いにみせない。
知り合いだから贔屓したとかの下らないイザコザを避けるための基本だ。
今回の実地訓練監督教師の一人のパスカルが、実地訓練の開始を告げた。
「自分たちの力ではこれ以上は無理だと判断した時は、先に配って置いた緊急信号魔弾を空に向かって打ち上げること!今回は、そうすれば助けが入るようになっている。わかったな?!皆くれぐれも無茶はしないように。では、検討を祈る。実地訓練開始!」
参加者は一斉に四方に散って行った。
ヴィーは前に岩塩を取りに行った洞窟の方角を目指して行くことにするようだ。
開始場所から北東方面へしばらく歩く。
索敵魔術を構築展開、発動。
そして、胸元もポケットから身体能力向上の魔法陣が描かれた布札を取り出し、自分の魔力をスイッチにして発動させ、移動開始。
その走る速度は、通常のヴィーの1.5倍。
通常といっても、北区で冒険者の祖父と父とマイクとマイカに鍛えられていたヴィーの身体能力は低くない。ロガリア学院の実地訓練では、あまり発揮する機会がなかっただけだ。
今、ヴィーは時速60キロほどで走っている。
30分程度で、岩塩の洞窟の付近の森に着き、索敵によって森の中で飛んでいる物を探し、見つけては確認する。
(今日は、普通のハニービーを探しに来たわけじゃないんだよね。やっぱり、そう簡単には見つからないな。)
森の中を1時間ほど探しまわり、やがて目的のハニービーを見つけた。
トロリとした赤味の強い琥珀色の瞳を持つ、レッドアイハニービー。
赤い花の蜜のみを集める少し珍しいハニービー。
その蜜は独特の香りと甘みがある。
通常のハニービーの蜜より高級品扱いになり、500ccくらいの量で、大銀貨1枚ほど。
まあ!お高い!!
ちなみに通常のハニービーの蜜は、500ccくらいの量で、小銀貨1枚ほど。
こちらもそれなりに高い。
(レッドアイハニービーはとても気配に敏感な魔獣だ、すぐ見つかって警戒・攻撃される。しかも、普通のハニービーより数段強い上に数で襲われたら大変なんだよね)
ヴィーは静かに隱形の魔法陣を発動させ、レッドアイハニービーを慎重に追跡する。
本来はハニービーは獣ではなく、魔力を持つ大きい昆虫なのだが、区別するのも面倒なのか、この国では魔獣と呼んでいるようだ。
変わってこちらは、ロベルト、スイゲツ、ルーフェスの3人は、方角こそヴィーと一緒だが、ヴィーが居る位置よりもかなり手前にいて、既にワイルドボア1頭とホーンラビット2頭を仕留め追え、素材を剥いでいる最中だった。
「仕留めるのは簡単でも、素材を傷つけずに剥ぐのは大変だな。」
ロベルトがホーラビットの角を切り、毛皮を剥ぎながらボヤいた。
「そうだな、慣れないとこれに時間を取られてしまうが、やらなければ慣れない。それに、やらないと素材の剥ぎ取り作業に金がかかるから、減額される。」
ルーフェスもワイルドボアの剥ぎ取りをしながら答える。
実際は、剥ぎ取りに時間がかかり過ぎると素材が劣化したり、血の匂いに釣られて他の魔獣が寄ってくる可能性があるのだが、慣れているルーフェスがいるスイゲツたちはあまり心配はない。
「ヴィーは、剥ぎ取りすごく早かったよね?」
スイゲツは武器を持ちつつ、索敵したまま話しに加わる。
「そうだな、手際が良かった。あれは、相当こなしてるな。」
「・・・・ねえ、血抜きもするんだよね?全部でどの位時間かかるかな?」
「そうだな・・・ワイルドボアもあるから、少くとも半日はかかるな。」
「えー・・・面倒くさいなー・・・」
思った以上に時間がかかる事実にやる気が失せてきたスイゲツに、ルーフェスが仕方がないなとばかりに提案してみる。
この場所で一晩過ごすつもりならまだしも、肉を含めた素材全て持ち歩き続けるのは、ワイルドボアの肉だけでも5~60キロあり、嵩張りもするので、得策とは言えないからだ。
「では、肉は諦めるか?それなら、そこまで時間は取られないし、実地訓練の合格基準値は満たしていると思うが?」
「そうなのか?」
「ああ。ホーンラビットの角が2本で、大銅貨約2枚。毛皮が2体分で、大銅貨約6枚。ワイルドボアの牙1対で、小銀貨約1枚、毛皮で約銀貨2枚。肉を外して、大銀貨3枚と大銅貨3枚になる。ちなみにホーンラビットの肉は2頭分で大銀貨1枚、ワイルドボアは1頭大銀貨2枚だ。あくまで素材が良い状態の時の値段だが。」
「うわぁ・・・・剥ぎ取りしないで持っていった方がいい金額になるんじゃない?」
「そうだな。だが、こういう獲物で剥ぎ取りに慣れておかないとこれから困る事になるのは、自分たちなんだが?実地訓練の意味わかってるか?スイゲツ?」
「わかってるけどさ・・・」
分かってはいるが、面倒くさいものは面倒くさいのだろう。
「ふむ・・・そうすると、やはりヴィーが優秀であり、尚且つあの魔法陣と魔道具がかなり便利で有益だということだな?」
以前に冒険者ギルドの仕事を一緒にしていた時はあまり気にしていなかったが、ここに来てヴィーが便利で有能である事を実感しているのかロベルトが感心している。
「そうだな・・・・随分と効率が上がることは確かだし、素材を選り好まず持って行けるものな。」
「うんうん!一家に・・・いや、一班に一人ヴィーが居てくれるとすごく助かって良いよね~?」
何か良い事を思いついたように、嬉しそうにスイゲツは笑った。
「・・・・・・・その言い方はちょっとどうかと思うが・・」
「スイゲツ、ヴィーは仲の良い友人ではなかったのか?」
ルーフェスとロベルトは怪訝そうにスイゲツを見ながら、疑問をなげかける。
「え?何言ってるの?ヴィーとは仲良いよ!・・・・・・褒めたつもりなんだけどな、僕。」
本気でそう思っていたのか驚いた様子で答えるスイゲツに2人は真顔で声を揃えて言った。
「「褒めてない。」」




