45. 魔道具科 (4)
45話目投稿です。
5人の周りの遮音結界を解いて、スイゲツたちが帰ってしばらくすると魔道具科1年のみんなも昼食を終えて教室へと帰ってきた。
「あら?ヴィーとクラウスは昼食取らなかったの?」
2人が話し合っているのを見て、魔道具科1番の可愛い所のフローラが聞いてきた。
ちなみに魔道具科1番の綺麗所は他にいる。
「昼食は教室で取ったんだ。それよりももう全員戻ってきたのか?」
「え~と、ああ、ええ全員戻って来たみたい。」
それを聞くとクラウスは教壇の場所にヴィーを伴い移動したあと、みんなに向かって話を始めた。
それと同時にヴィーは教室の四隅に設置した遮音結界の魔法陣を発動させた。
教室くらいの大きさなら、魔法陣なしでも遮音結界の構築展開は可能だが、魔道具科の人間は結構魔力の多い者が多い、その15人の魔力が一気に溢れたりしたら、ヴィーの魔力のみで構成された結界など壊れてしまうかもしれない。気のしすぎだとは思うが余興のネタバレは楽しさ半減だ。
「みんな、聞いてくれ。今年の学院祭で魔道具科が余興担当になった件についてなんだが、こちらから1つ案がある。もし、他にも案がある者が居れば、今言ってくれるか?それも含めてみんなと検討したい。」
先生から今年の学院祭で魔道具科が余興担当になった事を聞いたのは今朝なので、具体的な案は他からはこれといって出なかった。
ヴィーの映像と音声を取り込む魔道具の魔石を使って、2種類の踊りを記憶させ、学院祭の魔道具科1年担当日は設置、作動、回収するという主な流れが決まっている事。
踊る曲・歌・2種類の踊りも既に出来ている事。
更に聞いたことのない曲と歌、見たことのない踊り、それにみんなが興味を持った事。
当日は、魔道具の設置、作動、回収のみで、他の仕事が発生せず、学院祭を楽しめる事。
これらの理由からクラウスから提案された案は、これから評価提出に向けて時間を割かなければならない彼らにとっても有益なのだと判断された。
決定打は、確認を取ることが前提だが、余興の踊りに騎士科のロベルト、魔術科のスイゲツ、戦士科のルーフェスが参加する事だった。
3人が参加する意思がある事を伝えた時、魔道具科の教室は阿鼻叫喚・・・・いや観天喜地な状態に陥った。
教室のあちこちで魔力は迸って、破裂音はするわ火花はバチバチいうわ光が点滅するわで見た目にもちょっと凄かった。
あまり周囲の人間を気にしない魔道具科の人間にまで3人の人気が高かった事に、逆にクラウスとヴィーの方が若干ビクついた。
そう、女子どころか男子まで。
女子は純粋に狂喜乱舞。
男子は、自分があまり目立たずに済む事への安心と打算が多分にあるようだが。
みんなの興奮が徐々に落ち着いていくのを横目にヴィーは遮音結界を解術し、教室の四隅に仕掛けておいた魔法陣を回収して行きながら呟いた。
「張ってて良かった遮音結界。」
(備えあれば憂いなし・・・・・ってね。)
余談だが、今、薬学科と魔道具科は評価提出が終了するまで、午前中は自分の研究に時間をあて、午後に通常授業を行うことになっている。
なので、学院祭の話は一先ず明日の午前中に持ち越しとなり、クラウスは魔道具科の余興の内容は他言無用とみんなに厳命し、その後魔道具科の生徒はそれぞれ授業の準備を始めるのだった。
午後の授業が終わると、クラウスとヴィーは、魔道具科1年主任教師パスカルの元に報告に来ていた。
ロガリア学院には全体の職員室もあるが、教師は職員であると共に研究員でもある場合がある。この場合は、学院から個別に研究室を宛てがわれている。クラウスとヴィーはそこを訪れていた。
「お?もう、学院祭の余興の内容を決めたのか?早いな。」
「はい、ヴィーの魔道具の魔石を使う事になりました。」
「・・・ふむ。具体的には何をやることになったんだ?」
「見てもらった方が早いだろう。ヴィー、魔道具の魔石を出してくれ。」
2つの映像を見終わったパスカルがヴィーとクラウスに聞いてきた。
「踊るのか?」
「踊ります。」
「誰が?」
「一応、魔道具科のみんなで・・・・実際は、明日詳細を決めるんですが。」
「・・・・・へぇ、面白いな。種類的には2種類か・・・」
「考えているのは3つです。」
「3つ?」
「はい、1つは女子、1つは男子、1つは全員で、です。ただ、3つめは魔道具科の打ち上げ用にと思っているので、学院祭で使用するのは2種類です。」
「うんうん、良いんじゃないか?」
「パスカル先生、確認したい事があるんですが良いですか?」
「ん~?何だ?」
「この余興の踊りに参加してくれるという他科の生徒がいるんですが、大丈夫でしょうか?」
「他科の生徒?そんな酔狂な事を言ってくる奴がいるのか?・・・・ふむ。この魔石を使うという事は、学院祭当日には余興の為に拘束する必要はないんだろう?良いんじゃないか?禁止事項ってわけじゃないしな。どこの科の奴だ?そちらの科の先生に話を通しておいてやるよ。」
「魔術科のスイゲツ・ナイ・ル・ホルド、騎士科のロベルト・タイ・ル・フィルド、戦士科のルーフェス・ウィステリアの3人です。」
「はあ!?」
パスカルは素っ頓狂な声を上げた。
かなり意外だったらしい。
「・・・・・・・・何でその面子なんだ・・・?いや、3人は実地訓練で一緒の班なのは知ってはいるが。」
「ヴィーが餌付けしてました。」
「餌付け!?」
「クラウス!酷いよ!ちょっと縁があっただけだよ。」
「餌付けだろう?一人一人に自作の料理を褒美にしてたじゃないか?」
「ルーフェスはともかく、スイゲツとロベルトは貴族だろう?それを餌付けか・・・・やるな!ヴィー!」
「餌付けじゃあ・・・」
「「餌付けだろう?」」
パスカルとクラウスが声を揃えて言う。
「・・・・・」
「「餌付けだろう?」」
再びパスカルとクラウスが声を揃えて言う。
「・・・もう、良いですよ。餌付けで・・・間違ってもいないこともないこともないし。」
「「餌付けだ!!」」
パスカルとクラウスは、2人とも髪が金茶、瞳もダークブルー、顔立ちも似ている。
どうやら、性格も似ているようだ。
(だからと言って、12歳も離れてるのに、そんなところまで似なくてもいいじゃん・・・・)
ヴィーは深い溜息を吐いた。
観天喜地・・・天地に対し歓喜する意。非常に喜ぶこと。




