44. ヴィーとクラウスと弟組 (2)
44話目投稿です。
「落ち着いたか?クラウス?」
そう声をかけるのは手のひら大の氷の塊を顔面に受け仰向けに倒れたクラウスを踏んでいるスイゲツ。
クラウスを見下ろす声は冷たく、視線も冷たい。
いつもと違ってかなり怒っているようだ。
スイゲツのいつもの可愛らしい印象はなりを潜め、口調まで違うとなればまるで別人のよう。
妖しい色気まで漂ってきそうだ。
流石は多数の変態的信者?を持つイザヨイの弟といったところかもしれない。
「いい加減にしろよ?自分を見失ってヴィーを怯えさせるな。見ろ、ヴィー半泣きじゃないか!」
「えっ!?」
(泣いてないよ?!ちょっと涙目になっただけだよ!?)
「まだ泣いてないぞ?」
「そうだな、泣いてないな・・・・・泣きそうではあるが。」
ロベルトとルーフェスは見たままを述べた。
「それがどうした?ヴィーを怯えさせた、泣きそう?それだけで充分だ。まだ足りないか?クラウス?」
さっきと言っていることが違っているが、スイゲツは気にしていないようだ。
ここまで冷たい声と態度のスイゲツをヴィーは見たことがない。
(こ、今度はスイゲツが!スイゲツが怖いし!いつもと違う!でも、でもでもー!)
スイゲツに足蹴にされているクラウスは、しばらく黙って呆けていたが、ゆっくりを目線を左右に彷徨わせると溜息を吐き、スイゲツに視線を向けた。
「・・・・・・取り乱した、すまんスイゲツ。もう平気だ。ヴィーもすまなかった。」
スイゲツが足を退けるとクラウスは起き上がって、ヴィーに謝った。
「あ、うん・・・・落ち着いたなら良かったよ。」
「ああ、氷を喰らったせいかな?すっきりした。何か、し過ぎなくらいすっきりした。」
「うん、本当に落ち着いたようだな?クラウス。」
「そのようだ、良かったな。」
「ほんとーだよ!もう!自重してよ~!」
唐突にスイゲツが元に戻っていた。
いつものスイゲツだ。
「・・・・・・・」
ヴィーは、クラウスが落ち着いた事より、スイゲツが普段通りに戻った方が安心した。
(何かさっきのスイゲツ・・・どきどきしちゃった・・これって・・・ヤバイ傾向なのでは?え?うそ!?まさか私M?M気質持ってる?!)
クラウスは本当に落ち着いたようで、何か少し考える仕草のあと、ヴィーに問いかけた。
「ヴィー、一つ聞きたいんだが。」
「・・・・・・・え?!あ?何?クラウス?」
自分の新たに目覚めそうな気質にあわあわしていたヴィーは、クラウスの声にちょっと反応が遅れた。
「お前の魔道具の魔石・・・・名前は?」
「・・・・名前?・・・名前・・・・・・は、まだない。」
「やっぱりか、評価提出するなら名前つけとけよ?それと、刻んである魔法陣で気がついたんだが、映像を観るだけならあれだけで事足りるだろうが、映像と音声を取り込むには他にも一緒に使わないといけない物があるんじゃないのか?」
「うおう・・・・ご明察。いきなり頭がまわってきたね、クラウス。」
「俺にも使い方教えろよ?」
「え?何で?」
「学院祭の余興で使うから。異論はないよな?手助けしてくれるんだろう?ヴィー?」
「・・・・・・・・・・・・クラウス、踊るの?」
「踊るぞ!必要なら!!」
学院祭の余興に使うなら、学院の生徒、保護者や招待客も見るかも知れない、というか見てもらう為の余興だ。
自分が貴族なのを忘れているのか、忘れていないがそんなことは関係ないのか。
聞いたこともない曲と歌で、見たこともない踊りを躊躇なく踊ると断言するクラウス。
そんなクラウスにヴィーは否とは言えない。
なので、苦笑しながら答えた。
「もう、かなわないよな~クラウスには・・・・・・・了解、余興担当長殿。」
「僕も踊る!」
はい!とばかりに手を上げて主張するスイゲツ。
「というか、ヴィーと一緒に踊って映像に残る!」
「良し、スイゲツ踊れ!」
「やった!」
「え?!踊る?スイゲツが?!でも、でも!スイゲツ魔術科だよ?いいの?」
急に魔道具科の余興で自分も踊ると宣言してきたスイゲツと、それを即決了承したクラウスにびっくりしたヴィーは、2人を交互に見て聞いた。
「良いんじゃないか?出たいと本人が言っているんだ。他の科の人間の手を借りてはいけない決まりはないはずだぞ?他の種目ならわからんが、余興だしな。」
「そ、そうなんですか?ロベルト様?」
俄かに信じられずにロベルトに確認をとる。
「ああ。不安ならこちらでも後で確認を取っておく。うん、良し!俺も参加するぞ!いいよな?クラウス?」
「おう!ロベルト踊れ!」
「ええ~・・・?」
こっちもか?!と展開の速さに戸惑うヴィーは言葉もでない。
「考えてみろヴィー?魔道具科女子は可愛い・綺麗どころが集まっている、彼女達ならさっきの可愛い系?な踊りを踊っているのを見ていて楽しいだろう。男子は、こう言ってはなんだが・・・普通だ。その中にスイゲツとかロベルトが混じって踊ってみろ!一気に華やかさが出るはずだ。というか、スイゲツたちを如何にかっこよく映すかという裏方に徹しても良いと思うぞ!」
さりげなく”可愛い・綺麗どころの彼女たち”から除外されている事を感じながらも、そうかもしれないとも思ってしまうヴィーはクラウスに流されている。
ここは少しくらいなら怒っていい場面だ。
「ねえ、クラウス。熱弁を奮ってるとこ悪いんだけど、細かいところはそっちで詰めておいてよ。僕たちそろそろ自分の科に戻らないと、昼休み終わっちゃうから。」
「ああ、そうだな。移動にそれなりに時間かかるしな・・・わかった、決まったら連絡する。」
「うん。で、ヴィー?」
何やら、もじもじとちょっぴり頬を染めてスイゲツはヴィーに呼びかける。
「何?スイゲツ?」
「魔道具科の余興に協力するってことで、ヴィーの作った物で僕がまだ食べたことない物をご褒美に貰っても良い?」
「食べたこと無い物・・・?お菓子とかでも良い?・・・・リンゴパイとか?」
「リンゴパイ?それ美味しい?」
「う~ん・・・・リンゴを少し甘めに煮て酸味を少し加えた物を焼くとサクサクした食感になる生地で覆って焼くお菓子なんだけど・・・・・どうかな?」
「それでよろしく!!やった!リンゴパイ!楽しみー!」
原因は食欲か!目的は食べ物か!
「ヴィー、俺は甘すぎるのは苦手なんだが、その生地で覆った物は食べてみたい。」
「では、ロベルト様には肉パイではどうですか?細かくした肉を甘辛いソースで炒めた物をその生地で包んで焼いた物です。」
「良し!俺はそれで!」
ロベルトお前もか!
「ルーフェスは甘酸っぱいのは好き?」
「え?あ・・・・ああ、好き・・だが・・」
「じゃあ、ルーフェスにはベリーパイにするから、魔道具科の余興に参加してくれる?」
「え?俺が・・・・?」
ヴィーの申し出に戸惑うルーフェスに、心持ち声量を下げ訴える。
「そうだよ。スイゲツとロベルト様が突っ走ちゃった時、私じゃ止められる自信ない・・・というか多分無理。ルーフェスがいてくれた方が助かるんだ。無理強いはしないけど・・・ダメかな?」
「!・・・・・・・う、分かった、参加する・・・・・・・・俺のご褒美はベリーパイだな?」
「うん、そうだよ。よろしくね?」
2人を御するのは自分には無理と判断したヴィーは、同じ条件で、スイゲツとロベルトの保護者を確保した。
「スイゲツ、ロベルト、ルーフェス・・・・・お前ら、ヴィーに餌付けされてたんだな・・・・・」
(人聞き悪いな、クラウス!)




