42. 魔道具科 (3)
42話目投稿です。
クラウス・タイ・ル・トルス、13歳、トルス侯爵家四男、髪は金茶、瞳はダークブルー。
魔道具科1年主任教師パスカルの弟でもある。
「おこ?」
「おこ?」
「おこ。」
「クラウス、おこ。」
「うん、怒ってるね。」
魔導具科のみんなは、こっそりざわざわしていた。
クラウスが目を覚ました時、自分の周りの状態に驚愕した。
それはそうだ。
自分以外が全員倒れていたら誰だって驚くだろう。
クラウスは怒っていた。
例え、昨日自分の魔道具の研究が佳境に入り、ほぼ貫徹した状態で学院寮から教室に来て、うっかり寝てしまったのだとしても。
教室で熟睡し、先生が来ても、連絡事項を話しても周りがどんなに騒がしくても起きなかったのは自分なのだとしても。
「確かに学院の教室に来て、うっかり寝てしまった俺も悪いがな、だからと言ってみんなが一緒になって昼まで寝ることはないだろう!!」
クラウスの周りで死体に扮してうっかりみんなで寝入り、更に最後に来たヴィーまで一緒に寝入ってしまったのだった。
そう、魔道具科1年生全員で。
朝から昼までスヤスヤと。
「ヴィーも最後に教室に来て、どうしてそのままみんなに混ざる選択をしたんだ・・・・」
クラウスは悔しさのせいか、俯き膝の上の両手を握り締める。
みんなの中に自分も混ざるか。
みんなを起こして、クラウスを放置するか。
クラウスだけ起こして、他を放置するか。
見なかった事にして教室を出て行くか。
確かにヴィーは迷った。
迷った末に皆に混ざることを選んだ。
一応ヴィーは、クラウスに気を遣って死体に扮するのではなく、自分のブーツに蹴られて気絶というシュチュエーションを取ったのだが理解されなかった。
多分、誰にも理解されないのではないだろうか。
ヴィーもそれは分かっているのか、そこには触れない。
「いや~・・・あんな風にして寝入っちゃうってことは、クラウスもみんなも疲れてるんだな~と思ってさ。そういえば私も結構疲れが溜まってるなと思ったら、ついフラフラっと混ざりたくなったんだよね。」
「なら!俺を起こしてから混ざれよ!!」
がばっと顔を上げ、必死な顔で叫んだ。
「「「「・・・クラウス・・・」」」」
「・・・ごめん、クラウス・・・・そんなに混ざりたかったんだ・・・」
「当たり前だろう!!何で俺だけ寝てるだけなんだよ!つまんないだろ!混ぜろよ!!」
「分かった!次は必ず!」
「本当だな!?ハブるなよ!?約束だからな!!」
「了解!みんなも分かった?」
「「「「了解~!!」」」
「よし!」
確かにクラウスは怒っていた。
自分を起こさず時間を無駄にしたことではなく、起こさない事で、似非屍累々状態に混ざれなかった事に。
今期のロガリア学院魔道具科1年生16名は、こんな感じの生徒が大多数。
極一部の、貴族出のクラウスも例外ではなかった。
そんな感じの方向のノリと協調性に富んでいた。
「ところで、朝パスカル先生からクラウスの手助けをしてやれって言われたんだけど・・・どうする?」
「は・・・・?手助け?何のだ?」
「え?・・・そうか、寝てたもんな、知らないか。」
ヴィーは朝廊下でパスカル先生に頼まれたので、クラウス本人に聞いてみたが知らないようだ。
何かを察したフローラがみんなを代表するかのように話しだした。
「今年のロガリアの学院祭、魔道具科が余興担当なの。3日間の学院祭初日が1年生、2日目が2年生、最終日が3年生ですって。」
「「ふーん・・・・で?」」
「で・・・、1年生の余興担当長がクラウスなの。これは、クラウスとヴィー以外の総意よ。」
「手助けって・・・その手助け?」
「そうね。ヴィーが今朝この教室から出た後に、パスカル先生に会ってそう言われたのなら。」
フローラが微笑んでそう答える。
ヴィーは頷き、そのままクラウスを見る。
「・・・・・ふむ、そうか、今年は魔道具科が余興担当か・・・わかった。ヴィー、手助け頼めるか?」
と、笑顔でクラウスはヴィーへと問う。
悪ふざけ的な遊びには関われなかっただけであれだけ怒ったのに、勝手に学院祭の余興担当長された事には、異を唱えるでもなく事も無げにクラウスは受け入れる。
「了解、クラウス。」
そんなクラウスに、ヴィーも笑顔で了承した。
「さて早速、余興の内容について話し合いたいのは山々なんだが・・・・腹減ったな。先に昼食をとってきてくれ、みんな。」
と、クラウスが魔道具科のみんなに言い終わるとドタドタと走る音が教室の外から聞こえる。
そんなに走らなくても食事は逃げないのにね~とワイワイみんなが言いつつ、教室の外に出て行く。
ロガリア学院では、昼食を食堂で取る者、自宅から弁当持参の者、学院に出入りしている業者の物を購入する者と人それぞれの食事を取る。
「ヴィー、お前は今日も弁当持参か?」
「うん、だからここで食べるけど、その前に・・」
「ヴィー、お昼持ってきてくれた?!」
「まさか、忘れたなんて言わないだろうな?」
「2人とも!廊下を走るなと言われただろうが。」
人に弁当頼まれているので、届けてからと続く言葉に被せて、ドタバタと教室に入ってきた者がいる。
「え?あれ?こっちに来たの?待っててくれれば配りに行ったのに。」
欠食児童のように急かすのは、スイゲツとロベルト。
「待てない~!お腹が空いたんだよー!」
「そうだ、ぺこぺこなんだ。」
常識人っぽく2人を諭し、謝るのはルーフェス。
「スイゲツ、ロベルト・・・・・・ヴィー、すまん。」
「え?ロベルトとスイゲツ?・・・それに、ルーフェスじゃないか?・・・ヴィー?」
突然、騎士科と戦士科と魔術科の3人現れ、状況が分からないため困惑するクラウス。
「ああ、うん。この3人に今日の昼食を頼まれて作ってきたんだ。今、持ってくるから少し待ってて?」
そう言って、自分の荷物を取りに行くヴィーを横目で追いながら、クラウスは3人に事情を聞くことにした。
「どういう事なんだ?どうしてヴィーがお前たちの昼食を?」
「ああ、ちょっとスイゲツ繋がりで、一昨日、昨日と冒険者ギルドの仕事を4人でしたんだが、それでヴィーが作った物を食べる機会があってな。それがとても美味くて、また作ってくれるように頼んだら、こちらの材料費を出してくれるならと承諾してもらったんだ。」
「ルーフェス・・・お前がそんなに一気に喋るの初めて聞いたぞ。」
「そこは、突っ込まないで流してくれないか・・・クラウス・・」
「・・・で、わざわざ頼むくらい・・・美味いのか?」
「「「美味いっ」」」
「・・・・・・・そんなに美味いなら、俺にも味見させてくれ、スイゲツ。」
「僕はやだ。僕の分が減るじゃないか。」
「・・ロベルト・・」
「断る。」
「ルーフェス・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すまん、嫌だ。」
「どんだけ逡巡!?しかも断るのか?」
そんな話をしている内に、自分の荷物をヴィーが持って戻ってきた。
「お待たせ。はい、同じ数だけ入ってるから。今日の費用は1人大銅貨1枚ね。持ち帰って食べる?ここで食べるなら野菜スープも付けるよ?持って帰るなら野菜スープは無しで、・・」
「「「ここで食べる。」」」
「・・・ああ、うん、わかった。野菜スープ付きね。」
「ヴィー、俺にもくれ。」
「あとは私の分だよ。」
「俺にも味見させろ。」
「クラウスはいつも食堂でしょ?」
「俺も食べてみたい。」
クラウスはスイゲツ、ロベルト、ルーフェスの方を指し示しながら尚も言い募り、引く気がない。
「え~・・・じゃあさ、評価提出する物をどっちにした方が良いか、ちょっと助言してくれる?」
「評価提出?もう出来てる上に2つもあるのか?・・・・・まあ、助言に出来るかどうかわからないが、見るだけなら。」
「良し、交渉成立だね!昼食は私の分を半分上げるよ、スープ付きで。でね、2つは2つなんだけど、同じ魔道具なんだ。提出するとしたらどっちが良いか決めかねてる。食べながらで良いから見てみてよ?」
「ああ、そういう事か。分かった。評価提出する上で、受けのいい方を見極めて欲しいってことだな?」
「そういう事!」
いつのまにか5人だけとなった魔導具科の教室で、なぜか5人で昼食を取ることになったようだ。




