4. ロベルト(4)
4話目投稿です。
すっかり気分が切り替わった母上が、皆のお茶を入れ替えるようにメイドの指示を出し、ジオセット男爵夫人とエリエンヌと会話をしている。
僕は、それを目の端で捉えつつ、父上とジオセット男爵に聞いてみた。
「父上、少しお聞きしたいことが有るのですが宜しいですか?」
「ん?なんだい?ロベルト。」
「”平民は、貴族に会ったら、貴族の許可なしでは話しをしてはいけない”という法律は、この国にありますか?」
僕の直球な質問に、父上とジオセット男爵とロイナス兄上は、キョトンとしていた。
「「「は?」」」
大人3人揃っての(いや、ロイナス兄上は成人前だけど・・・)そういう顔は、笑えるな。
ここでは、笑わないけどな。
後で思い出して笑うとしよう。
「それを守らないと、本人と其の者の家族全員が死刑になるという罰則があるらしいのですが?」
「いやいやいや、ロベルト。そんな法律はこの国にはない。」
「では、条例・・・でしょうか?」
「そんな条例もこの領地では制定していない。」
「・・・・ジオセット男爵領は、いかがですか?」
「!私の領地でもそのような条例はありませんよ。ロベルト様」
あ、慌ててる。
「ロベルト、どうしたんだ?あるはずないだろう?そんな、理不尽すぎる法律や条例なんて・・・」
ロイナス兄上は、何か気がついたように考え込んだ。
気付かれちゃったかな。
もうちょっとだから、黙っててくれ。
「本当にないんですね?」
「ああ、法律や条例はない・・・たまに勘違いをした、傲慢でバカな貴族が言ったりして、自領民から反発されたり、陛下の耳に入って、お叱りしを受けたことはあるがね。よりタチが悪いと粛清されたりしたな。」
勘違いした傲慢でバカな貴族ね・・・・。
「良いかい?、ロベルト。我々貴族は、民に養ってもらってると思いなさい。彼らが、土地を耕し、作物を育て、家畜を育て、税を払ってくれるからこそ、貴族は生きていけるのだ。確かに貴族には権力はある。でも、それは、国を守るため、権力のない者を守る為にこそ振るわなければならないものなんだ。決して民を下にみたり、蔑ろにしてはいけない。」
「・・・・ジオセット様もそうお思いですか?」
「も、も、もちろんですとも!」
カミカミだな。
「・・・そうですか。良かった!解りました、父上。僕は彼らを蔑ろにしたりいたしません。どこかに、そんな事を言ってる人がいるようだと小耳に挟んだものですから。不安になってしまっていたんです。友達と接する時にいちいちそんな決まり事のせいで、仲が悪くなったり、敬遠されるのも嫌ですから。」
しばらくすると、お茶会はお開きとなり、ジオセット男爵夫妻とエリエンヌは帰って行った。
帰り際のジオセット男爵は顔色が青かった。夫人はニコニコしていた。エリエンヌは、挨拶はするものの面白くなさそうな顔をにしていた。
あれは、全然反省してないし、わかってないな。
果たして、”ジオセット男爵は、勘違いした、傲慢でバカ貴族”なのだろうか?それは、父上の仕事の一つが終わるのを待つしかないな。
結果、教えてくれるかな?父上。
夕食前に父上の執務室に呼ばれたので行ってみたら、ロイナス兄上もいた。
「ロベルト、昼間はなかなか頑張ったね。」
兄上が瞳をキラキラさせながら、訳知り顔で言ってきた。
・・・・・うざい。
「ミルドレーゼのお気に入りの子が、今日に限って話さなかったのは、エリエンヌ嬢が原因か?」
母上が傍にいない時の父上は、冷徹さが滲み出ていて・・・少し怖い。
「はい、そうです。」
「ふむ・・・ロベルトは、その場にいたのか?」
「はい、父上。」
「・・・・その場でも、茶会の席でも、エリエンヌ嬢を糾弾しなかったのは感心だな。」
「・・・そうですか?我がフィルド領にはなくても、ジオセット領ではあのような条例があるのかもしれない。あの場で”うちには、そんな決まりはない”などと言ってエリエンヌ嬢に恥をかかせる形になると、父上の仕事に迷惑がかかるのでは・・・と思ったからです。守るべき民であるあの子を僕は庇えなかったのにですか?」
「・・・感が良いなロベルト。まあ、私が考えていたものとは違う形になりはしたが、男爵の言質はとったことになるな。あのような条例はジオセット領にはないと、はっきり言っていたからな。・・・まさか、娘の方からとっかかれるとは思いもしなかった。まあ、こちらの話しは彼女には聞こえなかったようだが・・・ふふふ」
「・・・・・・」
「ミルドレーゼのお気に入りの子には、悪いことをしてしまったな。そちらは、私からそんな決まり事はないことと、怖い思いをさせてしまった詫びをしておこう。だから、ロベルトが気に病むことはない。」
「ふふふ、良かったな、ロベルト。・・・ところで、母上のお気に入りの子って可愛かったかい?」
「申し訳ありません、兄上。あまり憶えてません。」
・・・・・・・兄上、うっざ!
もしかしたら、あの子が周りに”平民は貴族に会ったら、貴族の許可無く話してはならない。守らないと家族全員死刑になってしまう”決まり事が出来たと言ってしまっていることも懸念していたが、そんな事はなかった。
しかし、母上のお気に入りのあの子の家族は、あんな決まり事などない旨と詫びが届く前に別の土地へと引っ越してしまったらしく、母上に”嘘つき!”と泣かれて、父上は相当困っていたようだ。
余談だが、ロイナス兄上もその時期とても落ち込んでいた。