39. マイク (2)
39話目投稿です。
来た来た来た来た来ましたよ。
さっきの子たちの兄たちが。
朝から無駄に瞳をキラッキラさせた全体的に色素の薄いフィルド侯爵家長男、東騎士団所属のロイナス・タイ・フィルド。
朝から無駄に何かがダダ漏れ(男の色香?色香なのか?)のホルド伯爵家次男、西騎士団所属のイザヨイ・ナイ・ル・ホルド。
朝から無駄に顔も雰囲気も怖ぇなあ、おい。ウィステリア家の長男、北騎士団所属のイザーク・ウィステリア。
あ、向こうもこちらに気づいたな。
まずはにっこり笑って先制だな。
「おはようございます、皆さん。昨夜は失礼いたしました。」
「え?あ、おはようございます?え?マイク?」
フィルド、その容姿でマヌケ面は笑える。
「おはようございます。昨夜と随分雰囲気が違うんだね?」
ホルド、ああ、俺の地がどっちか分かってるって感じだ。
「おはよう、マイク。昨夜はちゃんと睡眠が取れたようだな。」
「ええ、久しぶりに熟睡出来ました。」
イザークは言わずもがな。
「ここでは、冒険者ギルドを利用される方の邪魔になってしまいます。少し移動しましょう。」
今のヴィー達が来る可能性のほとんどない王都中央西門へ誘導する。
ホルド達もこちら方面に行くんだし、何ら問題無い。
西門脇の警ら隊の詰所の一角を借りることにする。
「おはようございます。お仕事お疲れ様です。」
「おや、マイクさんどうした?」
「ああ、西の騎士団に行く方々に少し説明をしようと思いまして。すみませんが、詰所の隅を借りても良いですか?」
「ああ、そうか、今はロガリア学院の生徒が西区にいる件ですね?分かりました、どうぞどうぞ。」
詰所の長机の隅に座るとフィルドが切り出してきた。
まあ、気になるか。
「マイク、随分昨夜と態度が違うな。どうしてだ?」
「どうしてと問われても、こちらが私の通常ですよ?フィルド様?」
猫を被った状態は崩さない。
「!!・・・・・何か腑に落ちないぞ。」
「外では、色々あるってことだよ、ロイナス。」
「そうだ、要らぬ厄介事は避けるように行動するのは悪いことではない。」
「・・・・・どっちが地なんだ?」
「どっちも私です、根本は一緒ですよ。いつも騎士としての言葉使いと態度を心がけているだけなんです。昨夜は、私も色々限界がきてましてね、ご容赦ください。」
困ったように笑い、詫びを入れる。
「・・・・・・・」
フィルドは不満顔だな。
あとの2人は納得してるのに、面倒なやつだ。
・・・・・・・・・・・・・しょうがないか。
溜息を一つ吐き、遮音の結界を4人の周りのみに構築し、展開、発動させる。
「遮音。」
「さてと。じゃあ昨夜、話した”音と映像を記録する魔道具の魔石”について、俺からも一応説明する?それとも説明書だけで分かる?」
そう言いながら、ヴィーから借りてきた魔石と取り扱い説明書を渡す。
「いや、とても丁寧に使い方が書いてあるから大丈夫。ありがとう。」
「大事に使ってくれよな?で、終わったら速やかに俺に返却してくれ。」
「大事にするよ・・・・返すのは君で良いのか?マイク。」
「それを借りて試用するのは俺とマイカとその子だという事に学院ではなってる。だから、公の場に出す場合はその前に俺に早めに必ず知らせてくれ。そうでないと俺とそれを貸してくれた子の信用がガタ落ちになる。もし、そうなったら俺はあんた達を許さないからな?念のため作成者の名前は教えない。だから、返すのは俺宛てでよろしく!」
俺はこれだけは守ってもらわないとならない事を言葉と視線で伝えた。
「・・・・了解した。」
ホルドの真剣な表情と返して貰った言葉を今は信用するしかない。
俺も頷くことで返す。
そうしたら、やっぱりきましたよ、フィルドが。
「・・・・・・やっぱりお前、そちらが地か!?」
「そうだよフィルド。でも、さっきも言ったけど、根本は変わらない。俺は俺なの。対外的には丁寧な方が受け入れ易いし、余計ないざこざも避けるのにも有効だから、そうしているだけ。気がついてないだけで、皆そうだろ?フィルドだって、ホルドだって、イザークは・・・・・・わかんないな。」
「俺が、何時ころころ態度を変えた!?」
「えー?あんた、女性とか上司とか目上の貴族とか国王陛下とかに対して、態度とか言葉使いを変えたりしないの?時と場所とかも関係なく常に一貫してるんだ?そりゃあ、すごい、命知らずじゃん。でも、それならあんたの批難と憤りは享受するよ?」
「!!・・・・・・う。」
「くすくすくす・・・ロイナスの負け~。」
「人はそれぞれ立場があるからな。だが、こうやって対外に対する顔と素の顔の差を俺たちに見せてるのは、マイクの俺たちに対する誠意だと思うぞ?」
「誠意?」
「そうだよ、ロイナス。彼は、一方向な顔だけで対処しても良かったんだ。でも、どちらも見せてくれたんだよ?姉と一緒にかなりの無理をさせてしまったのに。気がついているかい?姉で冒険者のマイカには報酬が出ているが、マイクは無報酬なんだよ?」
「あ!・・・・・・」
「イザークにはご褒美的な約束は貰ったけどね?」
「セルゲイ副団長からの言葉もあったろうけど・・・ここまでしてくれるのは、どうしてだか聞いても良いかな?」
そうなんだよなー・・・。
昨日は昨日で、疲れてたから~で押し通しても良かったんだよな。
実際、疲労困憊だったわけだし。
でもね。
「・・・・スイゲツ君への感謝の気持ち・・かな。」
「感謝?スイゲツに?」
「・・・・大切な家族ともいえる子の友人でいてくれる事へのね。その子の話を聞くとスイゲツ君の存在にかなり救われているみたいだから。」
「へぇ・・・スイゲツが・・・」
12歳で家族と離れて1人でロガリア学院に入学したヴィーの気持ちなんて、ヴィー本人にしかわからない。
でも、不安だったと思うんだ。
俺にはマイカがいたけど。
ヴィーはたった1人だったから。
きっとホルドやスイゲツ君自身が思っている以上に、ヴィーはスイゲツ君を大切に思ってる。
いつもヴィーの側に居てやれるわけでもない俺とマイカはスイゲツ君にとても感謝してる。
だからさ。
「実は今回やった仕事であんたに恩でも売っておこうかなぁなんて思ったりもしたんだけどやめた。スイゲツ君がホルドの弟だって気づいちゃったし。」
違うな。
やめたんじゃなくて。
できないなって思っちゃたからかな。
俺はヴィーのお兄ちゃんなんだよ。
ねえ?
スイゲツ君のお兄ちゃん!
「何時気づいたの?」
「ついさっき。うちの子に紹介してもらって会った。」
「「え!?ついさっき?会った!?」」
「あんたたちが来るほんの少し前に、冒険者ギルドの前で。いや、いい子だね!スイゲツ君。」
「ギルド?スイゲツたちが?何のために・・・?」
「4人でギルドの仕事をするって言ってたよ?」
「何でだ?・・・・金には困ってないはずだけど・・4人?スイゲツとロベルトとルーフェスと・・・誰?」
「だから、うちの子。うちの子は学院が休みのうちに稼ごうとしてるんだと思うけど・・・・スイゲツ君たちは・・・暇なんじゃないの?っていうか、実践的にもっと動きたいとか?」
「実践的にとはなんだ?」
「うちの子曰く、今の1年生の実地訓練の内容じゃ物足りないくらい3人とも優秀だって話だから。」
「そうか!やっぱり、優秀か!ふふふふっさすが俺の弟!」
あ~はいはい。良かったね。
「マイク、先程からうちの子うちの子と言っているけど・・・・スイゲツと友人なんだろう?名前は教えてくれないのか?」
「え?ホルド、スイゲツ君から聞いてないのか?それともスイゲツ君てば、ギルドの仕事を一緒にするくらいの平民の友達がたくさんいるのか?・・・・・それはそれで、感心だな。」
「・・・・・いや、良く手紙に書いてきたりするのは1人・・・・・え?!ヴィー?ヴィーなのか!?」
「その通り~、なんだ知ってるじゃん。って、やばい!俺もう行かないと仕事に遅れるから行くぞ。」
「あ、ちょっとマイク!」
「詳しい事はスイゲツ君に聞けば?そこら辺は俺も詳しくは知らないからさ。」
「マイク!一つだけ!教えてくれ!お前じゃないと答えられない事だ。」
「あ~?何?」
今度は、フィルドかよ。
「昨夜、遮音結界内で話してた俺たちの内容を最初はわからないが、結論に至ったのは知っていた。結界外のお前に聞こてたのか?」
「聞こえるわけないじゃん、聞こえたら遮音結界が不完全ってことだぞ?そんなヘマした覚えがあるのか?」
「ない、ある訳がない!だから聞いている、何故俺たちの会話の内容がわかった?俺たちの知らない魔術か?」
「・・・・・魔術じゃあないよ。強いて言うなら・・・技術かな?」
「技術?」
「詳しくは・・・・・・・次回!!解術。」
「あ、おい!マイク!!」
俺が出来るのはここまでだ!
あとは自分たちで頑張ってくれ!
俺は風の如く走り出した。
肉体強化魔術絶賛発動中!!
仕事に遅れるって言ったじゃんか!マジなんだよ!
仕事の統括担当が遅刻ってシャレになんねーんだよ!!
でも、警ら隊の人達への挨拶はちゃんとしたよ!




