35. 兄組+α (3)
35話目投稿します。
マイクの発作のような笑いが治まったあと、報告書の内容について検討していく。
「しかし、何故変態的な性癖を持つ他の領主と一緒になって僕に近づいてきたんだろう?」
「加虐趣味が転じて被虐趣味になったとかではないだろうか?」
「む?そう言う事もあるのか?」
「なくはないけど、この場合はないと思うな。」
「何故、そう思うんだ?マイク。」
「だって長男ってば、我が儘でやりたい放題じゃん?諌めてくれる人を煙たがってる感じがするし。どこにも被虐の傾向がみえないよ。報告書を読む限り、多分ホルドに対する、妬みとか嫉妬とか僻みとかが原因じゃないかな?同じ年頃で、顔も頭も体格も身分も自分より数段優れてて、女性にも男性にもモテてるしね。そりゃあ、妬みもするし、嫉妬もするし、僻みもしちゃうってもんでしょー?何か長男てば自尊心強そうじゃん?」
「え?マイクは僕にそんな感情抱いてるの?」
「抱いてないよ?」
「でも、今・・」
「ああ、一般論だよ。俺はしないよ?俺は俺にしかなれないから。っていうか、俺は俺で良いのだ!」
「あーうん、君はそんな感じだよねー・・・・」
「それとは別に子爵夫妻には他に意図があるっぽい。」
「ぽい・・・?」
「そこは突っ込まなくていいよ?イザーク、キリがないから。」
ちょっと寂しそうなイザーク。
突っ込みたかったのか?
「・・・そうか、子爵夫妻に他に意図があるというのは?」
「うん、領民には良い領主として慕われてるらしい。でもこの長男に対しては違う、次期領主だろう長男を変に甘やかして、はいはい言う事をきいてるように見えてたんだよね?」
「ああ、実際僕にも、息子に答えてやってくれと言って来てる。前は、病弱な息子を不憫に思っての事かと思っていたんだけど、報告書を読んでみると・・・」
「そうだな、もう一人の息子を母親の実家に預けてある・・・長男と会わせないようにしてるようにも思えてくるな。」
「長男の失脚を狙ってるか?」
「そこまではどうか解らないけど、決定的なヘマをするのを誘っているんじゃない?それに、次男を巻き込まないように夫人の実家に預けてある。」
「決定的なヘマ?」
「そう、だから長男のホルドに対する行動を咎めないどころか逆に答えて上げてくれとホルドに訴えてきてる。」
「単純にイザヨイが我慢しきれずに、キレれて長男をぶっ飛ばすのを期待してるのはないのか?」
「おお、フィルド!多分それが一番正解に近いんじゃないかと俺も思うよ!」
「そ、そうか?」
ロイナス、イザヨイ、イザークは対象の子爵令息の名前を出さないようにしている。
マイクの笑いの発作を気遣ってのことのようだ。
「そうだな、長男を失脚させようとしてるというより・・・・そちらが可能性大か?」
「いくら自分の息子が好きだと言っているからって、その気のない伯爵家令息に・・・息子に答えて上げてくれって懇願するのは・・・・普通はできないし、やんないよな?いくらこの国が情熱的?な愛に寛容だからって、一方的なものは受け入れないじゃん?それにへタしたら、伯爵家の怒りを子爵家が被ることになるだろ?今だったら、ホルドは西騎士団の一騎士の位置にいるから、後から平謝りすれば辛うじて何とかなるかな?的なことじゃないかと思うんだけど・・・・どうよ?」
「そうだな、ホルド伯爵家は・・・・謝罪されたら何もしないだろうな、表立っては。裏では怒って僕の兄上あたりが暗殺しそうだけど・・・」
「うわっ!暗殺しちゃうのかよ!ホルド伯爵家、怖っ!」
4人で諸々話したが、ほとんど推測の域を出ない。
なので、イザヨイが知っている事実と報告書の内容を念頭におき、出来ることを話し合うことにした。
「まず、さっきも言ったけど、今回は長男を事故に見せかけて殺しちゃダメ!出来れば、体には傷一つ負わせないのが最良策!」
「今回・・・?」
「はい!次回は知りません。俺関わんないもの。」
何とも言えない微妙な気持ちが込み上げてきたロイナスとイザヨイとイザークは、顔をお互い見合わせる。
「・・・・・イザークたちがたどり着きそうだった案を少し使おうか?」
「というと?」
「相手の要求に答える形にする。でも、長男に当てちゃだめ。寸止め、もしくは当てても長男の近くの物にする、この際当たった物が長男に当たるのもだめだけどな。」
「つまり、脅す、威嚇するという方向か・・・?」
「そう、あまり遠すぎても効果が薄い可能性があるから、なるべく長男の近くで・・・長男が座っている椅子とか蹴って粉砕しちゃえ!脅しなんだから、大袈裟に見える技とか使ってさ!・・・・・ホルド、出来るよね?」
マイクは挑戦的な目をして、イザヨイに問う。
イザヨイも受けて立つように艶然と微笑んで答える。
「出来るよ、まーかせて。でも、粉砕しちゃったら転んで尻餅くらいはつくかもしれないよ?」
「そのくらいは許容範囲だろ?子供でも尻餅くらいでケガなんかあんまりしないって。その際、重要なのが、ホルドの放った蹴りとかが、長男に触れてもいないことを証明する事。」
クスクス笑いながら楽しそうに話すイザヨイとマイク、2人は性格が似ているのかもしれない。
「そうだな、あとから難癖を付けられて西騎士団なり、ホルド伯爵家なりに迷惑がかかるのは避けたいものな。」
「そう、その通り。なんだ、わかってるじゃないか?フィルド!」
「ああ、うん。」
「そのイザヨイが長男に触れてない証明するのは、ロイナスと俺でいいのか?」
「出来れば第3者が良いんだけど・・・・・・・これに関してちょっと俺に案があるんだけど、聞く?」
「ここまでお前が進めているだろう?今更何だ?」
「もう一人別の人間が関わることになるから・・・まあ、あっちには内容と意図は伏せるけど。」
「聞くだけ聞くよ。話してくれ。」
「うん、俺の知り合いにロガリア学院の魔道具科に所属してる子がいてね?次回の魔道具の評価提出、魔道具科の試験みたいな物なんだけど、それに映像と音を記録する魔法陣を組み込んだ無属性の魔石を提出しようと開発したんだ。実際もう完成してて、ちょっと手を加えたいだけらしいだけど。」
「音と映像を1つの魔石?別々の魔石ではなく?・・・・すごいな。でも音と映像両方取り込めても、音が切れ切れだったり、映像がボケたり霞んでは、証明に使うのは無理だろう?精度はどうなんだ?」
「・・・・体でちょっと壁を作ってくれる?今見せるから。」
ある人物が曲と共に流れる歌声に合わせて踊っていた。
貴族たちが踊る舞踏とは全く違うもので、ロイナス、イザヨイ、イザークが見たことがないものだった。
とても新鮮な踊りだったのだ。
そして、流れている曲も歌声も切れ切れになることなく滑らかに流れ、動作に合わせて揺れ動く髪、顔の表情、指先など細かなところまで鮮明に映し出される映像。
3人は考えることを一時忘れ、それに見入っていた。
それは、音、映像共にとても精度の高いものだった。
「あ、この子、今日昼過ぎに東区の森近くで会った子だ。魔道具科だったのか。」
「え?何でそんな所で会ったのさ。」
「この子が弓で射た鳥に俺が当たって、ちょっと・・・・転んだ。」
体裁が悪いのだろう、事実をちょっと端折った。
「ロイナス・・・・君、何やってるの・・・」
「なかなか、面白い出会い方をしたな、ロイナス。」
「はははははははは!なにそれ!笑える!」
反応はそれぞれだった。
そして魔道具の魔石に映し出され踊っているのが、2年前に会ったリヴィオラである事には、ロイナスもイザヨイもイザークも、気づかなかった。
結論として、これからイザヨイたちがやろうとしている事の事実の証明にこの魔道具の魔石を使うこととなった。
但し、今ここにあるものは使えないので、同じ魔道具の魔石を使用方法などと一緒にマイクが借りてくることになり、明朝、冒険者ギルドで待ち合わせることとなった。
2年前にちょっと会った子の事は覚えてないですよね・・・。
名前はともかく、顔はなぁ・・・私は覚えてられない・・。
皆さんはどうでしょう?




