30. 弟組
30話目投稿です。いつもより、ちょっと長めです。
兄達は奇襲を仕掛け、夕食を共にし、散々弟たちを弄っていった。
その後に久しぶりに会ったのだから3人で酒でも飲もうと学院寮を去って行った。
学院寮に残った弟たちは、撃沈していた。
「もう、兄上達には当分会いたくない。」
「そうだね・・・・・」
「はあ・・・・・・」
ちょっと油断をしていると兄達の興味の矛先が自分に向かってくる。
そんな状態に翻弄されて、怒り心頭、意気消沈、疲労困憊・・・。
兄達には適わなかった。
全然だ。
「結局、何をしに来たのかな?・・・・あの人達・・」
「さあ?考えたくもないな・・・」
「はあ・・・・・」
「ルーフェス、お前、大丈夫か?」
「・・・・・ダメかもしれない」
ルーフェスは、かなり消耗していた。精神的に。
「ったく、兄ってロクなことしない!明日も早いの・・・・・あっ!」
眉間に皺を寄せて怒っていたスイゲツは、突然何かを思い出し自分の部屋に行ったかと思ったら、紙袋を持って戻ってきた。
「スイゲツ?」
「あっ!」
ルーフェスは、それが何か理解したのかお茶の用意を始める。
ロベルトには何が起きたのかわからない。
「ロベルト、疲れた時は甘い物を食べよう?」
先ほどとは打って変わってニコニコと嬉しそうだ。
ルーフェスもお茶を入れつつ、何かを期待しているような顔だ。
「・・・夕食をさっき食べたばかりだろう?それに、俺は甘いのは苦手だ。」
「そう言わずに、一口味見してよ。」
「ダメだったら、俺が引き受けるから。」
「ルーフェスが?お前だって、甘いのは苦手なはずだろう?」
「2人がだめなら、僕が責任取って食べるから!ね!」
「・・・・そこまで言うなら・・味見だけだぞ?」
「わかったわかった。」
ロベルトに適当な相槌をうちつつ、繊細な容姿の割に結構乱暴、いや大胆に紙袋をビリビリ破いていくスイゲツ。
破った紙袋のままテーブルに広げるが、誰も気にしない。
皿に移し替えたり、せめて布巾に移し替えたりないのか?
「なんだ?これは?」
「甘いパンだって!」
「甘い?パンだぞ?」
「昼のよりは小振りだな、6つあるから1人2つずつだな。」
スイゲツとルーフェスは1つずつパンを取り、そのままかぶりつた。
ロベルトは不振そうに1つパンを取り、一口大に簡単にちぎれた事に驚いてから、恐る恐る口に入れた。
「「「リンゴだ・・・」」」
一言呟いて、1つ全部食べ終わるまで誰も喋らなかった。
ルーフェスが入れた紅茶を飲み、ふ~と息を吐くとスイゲツは感じ入ったように言葉を発した。
「疲れた時は、やっぱり甘い物だよね~!」
「そうだな、身に染みるな。」
「なあ、これ・・」
「え?やっぱりロベルトはダメだった?残念だな~。」
「違う、このパン・・」
「じゃあ残りは僕が貰うね?」
「違う!」
「スイゲツ、半分こにしてくれ。俺も貰う。」
「聞けよ!」
「ルーフェスも気に入ったんだね?いいよ、半分こだね!」
「違うって言ってるだろ!」
「ロベルトはお茶のおかわりいるか?」
「あ、僕にもお茶おかわり頂戴?」
「違うって・・・!そうじゃなくって・・・・・・・・・・う、うう~・・」
ロベルトが泣き出した。
今日は3人の兄達のせいで、精神的に限界突破してしまったのか、滅多に泣き言など言わないロベルトが泣いてしまった。
ルーフェスは結構泣く。
ロベルトとスイゲツと3人でいる時だけだが。
一番図体がデカイのに泣き虫さんなのだ。
スイゲツは適度に小爆発を起こす。
感情のコントロールが一番長けているのか、学院に来て以来まだ泣いたことはない。
いつもいつもグズグズと泣くのは鬱陶しいが、1人でズルズル色々溜め込み過ぎて感情の大爆発を起こしたり、精神が不安定になるのは、互いの不利益につながる可能性が大だ。
そんなことになる前に泣く。
俗にいうストレス発散だ。
泣く事で溜めこんでいたもののガス抜きになるなら、たまには泣いてしまえ!。
今のうちだ!
男だからなんだ!
だって、まだ子供だもん!
大人になったら、泣く事は本当に容易ではなくなるのだ。
泣く場所は配慮する。
だから3人は我慢できなくなったら泣く。
それをお互いが許容している。
「ごめんごめん。悪かったよ、ロベルト、今日は皆もう限界だったものな。」
スイゲツはウーウー言いながら泣くロベルトの背をポンポンポンと軽く叩き、ルーフェスはロベルトの頭をなでなでしている。
「・・・・・もっと、なでろ・・・ひっく」
シャクリながら頭なでなでを要求。
スイゲツとルーフェスはにこにこしながら、2人でロベルトの頭をなでる。
頭なでなでが、クシャクシャになり、わしゃわしゃになる頃には、3人でじゃれあう形になって、何だか可笑しくなって、ゲラゲラ笑い出すことになって終了した。
「は~あ、・・・・ルーフェス、紅茶入れ直してくれるか?」
「ああ。」
「・・それと、2人とも・・・・ありがとう。」
ロベルトは、普通を装いながらも、小さく礼を言った。
スイゲツとルーフェスはにっこり笑った。
3人は仕切り直しとばかりに、テーブルにつき紅茶を飲む。
「あ、そうだ、ロベルト。明日はどうする?」
「明日?」
「うん、僕とルーフェスは明日もヴィーと一緒に冒険者ギルドの仕事をするけど。ロベルトも行くよね?」
「そっか・・・ルーフェス、お前も明日行くのか?」
「ああ、行くつもりだ。」
「う~ん、俺は明日はゆっくりすることにする。」
「あ~そうか・・・わかった。ルーフェスと2人で行ってくるよ。」
「そうだな、ロベルトはゆっくりしていてくれ。」
「ところで、さっきの甘いパンだが、どこの店のなんだ?」
「・・・忘れてたね。パン、食べちゃおうよ。」
「おい!」
「あ~、どこの店にもないと思うよ。」
「どこの店にもない?じゃあ、どうしたんだ?このパン。」
「ヴィーに貰ったんだ。試しの物だって言ってたから・・・多分売ってない。」
「ヴィー?・・・・」
「今日の昼ご飯にって貰った、具を挟んだパンがすごく旨くて食べ終わった後、ヴィーの家にスイゲツと行って明日の昼ご飯も頼んできたんだ。」
「今日の昼・・・俺の分は?」
「えー?昼ご飯の時、ロベルトが要らないって、後で文句も言わないって言ったんだよ?だから、ある訳ないよ、食べちゃったから。ね?ルーフェス?」
「あ、ああ・・・すまん・・・」
「・・・・・・・」
ロベルトは、うっすらと記憶にあるのか、何も言わない。
「もしかして、その甘いパン、気に入った?ロベルト?」
「・・・・初めて食べた・・・こんな柔らかくて、美味いの。」
「「フフフフ・・」」
スイゲツとルーフェスは嬉しそうに笑っている。
「やっぱり、俺も行く。」
「え?行くの?」
「ああ、ヴィーに明日の昼飯作ってくれるように頼んで来たんだろう?無駄にしたくないからな?」
「「・・・・・」」
ロベルトはニヤっと笑って聞いた。
「頼んでくれたんだろう?俺の分も。」
スイゲツとルーフェスも破顔しながら、答えた。
「「もちろん!!」」




