番外編 ”抱っこ”の後 (1)
クロウ・ガク・ウィステリアこと俺が少年だとばかり思っていたヴィーは、ウィステリア家の元嫁候補の”リヴィオラ・ショーノ”だった。
それを知った時の衝撃は・・・・・・俺の中では凄かった。
あの子は男の子ではなかったのか―――――――――っっ?!
俺の目はどんだけ節穴なのだ―――――――――っっ?!
実際は、今の段階では女子でも男子でもない中性だということだったので、節穴説は俺の脳内で却下された。それでなくとも女性には接点がないのに(くっ・・・)、ヴィーが男女どっちでもでもないなら俺に判断つかなくて当たり前だから。
ここまでの経緯といえば、
ウィステリア家で一族の独身者たちが、嫁候補のマイカ嬢に無礼を働いた事件が起こる。
(何してくれてんだ!まったく、もう!・・・・である)
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やらかした独身者たちが、スイゲツ殿たちに厳しく指導される。
(運悪くそこへ帰ってきた俺も、訳もわからず強制参加させられた。)
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仕事で地元を離れていた俺に、ウィステリア家の野郎どものやらかした失態とかを書き連ねたウィステリア家当主、御館さまからの手紙を若様へ渡せと託される。
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今回の事件で、俺もそろそろ真剣に嫁を捜しはじめなければなと思った。
(うかうかしていると、本当に一生独身かもしれない。それはちょっと悲しい。)
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王都の冒険者ギルドでヴィーと出会う。
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ヴィーのギルド仕事を手伝いすることを条件に、ウィステリア一族の嫁問題についての悩みを聞いてもらう。(時間がもったいないので、子供抱っこというか腕抱っこして高速で移動した)
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自分(主に容姿)を怖がらない等の条件は一旦脇に置き、まず自分が好きになれる相手を捜せと、アドバイスを貰う。(目から鱗な気分だった)
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ウィステリア家当主、御館さまからの手紙を渡しに、若さま(イザーク様)に会いに北区の騎士団へ訪ねた。
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長いな・・・・中略。
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ヴィーの実家にて、先祖に精霊がいた影響でヴィーが現在中性であることが判明。後に俺がヴィーを腕抱っこしたことが気に入らなかった若さまが自分も抱っこしに行くと行動を起こす。(仕事はいいのですか?若様?)
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途中で魔狼のサイ殿と合流。
この辺は今回のことにあまり関わりがないので・・・・中略。
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若さま、ゴリ押しでヴィーを抱っこしまくり、満足したのか北騎士団へと走って帰還中。
(若さま、船で北区へと行くよりも走った方が早いと・・・・まあ、事実だけども。他の人はマネは出来ないだろう)← 今ここだ。
北区への過酷な道のりを若さまと走りながら流れに沿って思考する。(ああ、若さまと共にこのように走れるなんて!懐かしい・・・!)
そういえばとヴィーに対する気持ちが若さまにとってどういう種類のものか聞いてみた。
「・・・・・・・わ、若さま!それで!結論は出たの・・で、しょうか?」
「・・・・・・・・・・?何のだ?」
しばらく無言で北区への険しい道のりを走る。
「「・・・・・・・・」」
わ、忘れてる―――――――――――っ?!
何のためにざわざ短期休暇(2日間)の超特急で、王都中央まで行ってあの子を抱っこして来たんですか?!もしかして抱っこしただけで大満足してしまわれたのですか?!
大事なことを見極めにいったはずですよね?!
「ご自分の、ヴィーへの気持ちを確かめに、行ったんですよね?若さま!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう、だったな。」
「!!」
これは忘れてた。完全に忘れてた顔だ!
「ふむ・・・・・」
若さまは立ち止まって、その場で考え始めた。
――――――――え?
ここで立ち止まるんですか?
断崖絶壁ですよ?
考え事しちゃうんですか?
世間では春が近くなって暖かくなったとはいえ、この北区は極寒ですよ?
俺、体は鍛えまくっているとはいえ、物凄く寒いです。
ヘタすると風邪をひきますよ?
もしかすると風邪をひくなんてレベルではないかもしれません。
いや、問いかけたのは俺ですけどね?
時と場所は選んで考え事しても遅くはないと思うんですよ?ええ!絶対に!
わかってますか?凶悪な魔獣が多数生息している超危険地帯なんです!
この国で珍しくはない種ではあるけれど、この過酷な環境に適応し無駄にスペックが高くなった、最高ランクに分類される魔獣の気配がするじゃないですか?!
危険、超危険です!若さま!
か、囲まれてますよ?!もうもうもう!やばい、やばいですよ!若さま!!
気づいてください――――――――っっ!!
「・・・・・」
あれ?襲ってこないな・・・・・こちらを窺ってはいるが、襲ってくる様子がない。
なぜだ?
「・・・・・?」
よくよく気配を辿ってみれば、こちらを窺いながらジリジリと後退している?
警戒の対象は・・・・・・・・・・・・・・若さま?
この国最高ランクに位置される魔獣に警戒されて相手がそろりそろりと逃げて行く?
若さま、あなたはここでで何をしちゃってるんですか?!
凶悪に強いとされている北区の魔獣たちに恐れられるって、どんだけですか?!
何それ?何それ?!
カッコイイ―――――――――――っっ!!
さすが!俺たちの若さまだ!!俺、一生ついて行きます!!
「ふむ・・・・実はな。」
あ、考えが纏まりましたか?若さま。
俺が若さまの強さと存在感の素晴らしさに打ち震えて感動し、喝采を脳内で叫んでいる間に結論が出たのだろうか?
「あ、はい。」
「・・・・・・・ヴィーは可愛かったし、楽しかったんだ。」
「・・・・はぁ・・・」
まあ・・楽しそうだったのは見ていてわかったが・・・・・可愛かった?あれが?へ―――・・・
「小さい頃からうすうすはそうではないかと思っていたのだが、確信が持てた事柄もある。」
「・・・・・何でしょう?」
「ヴィーは、俺の顔が”平気”なのではなく、”好み”なのだろう。」
「ええっ?!嘘っ?!」
「・・・・嘘?」
ああ!つい!
「あ!いえ!何でもありません!!」
「・・・・そうか。」
若さまの顔に関しては、”怖い”と恐れられることが多かったせいなのか慣れていらっしゃるようで、言われてもそれほど気になさらない。(いや、それもちょっとどうだろう?)
だが”好み”とは・・・・しかも疑問形ではなく、なのだろうって断定してますね。
確かにヴィーは、”抱っこしたい”という普通に考えたら即お断りな要求を躊躇いながらも受け入れていたな・・・・・・・・・・・・・・・ヴィーの美意識は特殊なのだろうか?
若さまは俺のうっかり失言に怒りもせず先を続ける。
「しかも、俺に下から見上げられるのにすこぶる弱いようだ。いやだなと思うことを願われても渋々でも了承してしまうくらいには・・・・・弱いことがわかった。」
嫌がっていたことは分かっていたんですね、若さま。
「あ~・・・確かに困惑してましたね、あの年で”抱っこ”は恥ずかしいし、遠慮したいでしょうね。」
「そうだ、ヴィーは涙目の視線がうろうろして、顔が真っ赤になって、ひどく動揺しているのが一目瞭然だった・・・・・・ふふふふ・・・・・あの時はひどく楽しい気分だったな。」
若さま、ドS。
「・・・・・それで、若さまのお気持ちはどうなのでしょう?」
俺のヴィーの印象は、飄々としながらも冷静に思考し行動できる冷静沈着な感じだった。
それが、若さまの前では少し変わる。
その意味は、やはり・・・・若さまの言う通りなのだろうか?
「・・・・・・・・・・・・・わからん。」
って何ですか?!それは――――――――っっ!!
相手からは嫌われてはいない、寧ろ好意を持たれていると感じた。
が、肝心の自分の気持ちは”わからん”!!
「・・・・・・・・って、それは当たり前かもしれません・・・」
そう・・・・だよな~・・・・
ふうぅっっとがっくりと力が抜けた溜息を吐いた。
「当たり前なのか?」
「若さま・・・・やはり何年も会わず、手紙のやり取りさえなくてですよ?今回数時間会っただけでは、気持ちなんか分かるなんて思えません。昔遊んであげた子に久しぶりに会って、懐かしいかったくらいではないでしようか?・・・・まあ、抱っこなんてモノを嬉々としてやってのけたことを思えば、もう少し若さまにも好意はあるようですが・・・・・・ですが、俺には恋愛的な意味までは行ってない気がしてなりません。」
「・・・・ふむ・・・」
「考えてみたら、若さま。若さまは、ヴィーと今までも数回しか会って話をしていないのではないですか?」
「・・・・・そういえば、そうかもしれん。」
「それで、恋愛的に好きか否かを判じるのは・・・・早計かもしれませんね。ヴィーの方もそんな感じかもしれませんよ?」
「・・・・・・なんだガク、お前急に恋愛に詳しくなったのか?」
「えっ?詳しくはないです!ただヴィーと若さまには・・・何というか・・・恋愛的な何かが育つには時間が絶対的に足りない感じがするのですが・・・・若さまはいかがお考えですか?」
そうなんだよな~、改めて考えてみると、初めて会ったのは数年前でも交流した時間が少なすぎると俺でも思うんだ。
「俺は、そろそろ会えばわかると思っていた。」
「・・・・・は?え?何故ですか?」
「祖父さまも父上も、一度会っただけで相手が自分の伴侶となるべき相手だとわかったと言っていた。そう感じた相手からは、求婚を断られたりにげられたりしたことは今までないそうだ。それは祖先から受け継がれてきたウィステリア家直系の証であり、銀髪銀目の者には例外なく具わっているものだと。」
え?・・・・・何ですか!その都合のいい能力。




