番外編 勘違い?乙女ゲーム (6)
ちょっと、長めです。
昨日からの実地訓練で身も心もすり減らし、RPG的に言えばHPなんて1あるかどうかの状態でロガリア学院の先生方の待つ王都中央の門へとやっとのことでたどり着いた。
気持ち的には、終着点が分かっている分往路よりいくらかマシではあったけれど、体力的には限界を突破している。
その前に、実地訓練終了の報告と合否選定をしなければならないらしい・・・・
あぁ!早く帰って、お風呂に入って、爆誕したい!!・・・・違う!ドーンって生まれてどうすんの?!爆睡だ!爆睡!!思いっきり心置きなく睡眠を貪りたい!!
「お疲れさまでした、皆無事ですね。安心しました。」
にこやかにそんな言葉を投げかけてきたのは、ロガリア学院魔術科のリュート先生。
ボクたちの!このへろっへろのこの姿を見て無事と称しますか?!
肩の荷がおりましたよ~なんて言ってる。
そうですかそうですかそうですか・・・・・・目医者に行けよ―――――っ!
確かに怪我はあちこちの数箇所の切り傷程度とシープに食らった頭突きによる打ち身だけですがね。
大怪我なんてしてませんが・・・・
精神的には満身創痍なんですけど!もう少し、もう少しでいいから労って欲しかった・・・!
それはさておき実地訓練を終了するためには、合否を決めてもらわなければならないらしい。
実地訓練の合格基準は、小銀貨1枚分の素材を提出することだった・・・が。
はて?何をどのくらい提示すればいいのか検討もつかない。
そうか、ボクたちは素材の基本的価値すら知らないじゃん。
なんて思っていたら、ヴィー様が先生とギルドの人の前にブラウンシープの毛を12頭分ほど出し、検分してもらってサラッと合格をもらっていました。
流石に何十頭ものシープの毛刈りなどに関われば1頭分の毛の量くらいはわかるというもの・・・・覚えようと思って覚えたわけではなく、経験だよね・・・。
ふふふふ、これがこの先何の役に立つというのやら・・・・!
覚えちゃった物は仕方がないけれど。
え?それで、人数分小銀貨8枚分ですか?全部提出したりはしないんだーそうなんだー。
というか、ギルドの素材価格を結構正確にヴィー様は把握しているのかな?
・・・成績とか先生方の印象等を鑑みて大目に提出したりはしないんだ?
・・・・・・・・・・・・・・残りの素材はどうするんだろう?
なんて・・・・・・・頭の中で考えていたら、どんどん視界が狭まって思考がゆっくり閉じていくのを
感じたけど、どうすることも出来なかった。
ああ、これって、ばったん、きゅー・・・・・って気絶かな。
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気がつけばいつの間にやら滞在しているロガリア学院の寮のベッドの上。
目が覚めたのは、実地訓練が終わった翌日の昼頃だった。
「・・・・・・・」
リビングに行ってみたら、同室のララが昼食を持って来てくれていたのでお礼を言って一緒に食べた。
実地訓練の疲れは、ララには残っていないようでちょっと記憶が怪しい昨日の部分について教えてもらった。
ボクは今人生初の気絶を体験してしまった。
ロガリア学院の専属の治癒術師の先生によれば、極度の疲労によるものだったそうです。
精神的に?肉体的に?・・・・・両方です。
ぐっすり眠れば大丈夫と診断されて、早々にベッド運んだと・・・・・
疲れてはいてもボク以外はそんな状態にはならなかったみたい・・・・精神力・体力が無さすぎということだろうか?
ううううう・・・・・
いや、貴族令嬢だってことを考えても結構、かなり頑張った方だと思う。
でもロガリア学院にはボクよりももっと上の身分に令嬢もいて、実地訓練こなしてるんだよね?
初心者だってことで・・・・大目にみてもらえるかな~って、別に誰に文句を言われたわけではないんだけど。
しかも、気絶したボクをロガリア学院の滞在している寮まで運んでくれたのが、ルーフェス様だったって聞いて顔から火が出そうだった!
ララ!そこんとこ!詳しく!詳しく教えて!!ララがルーフェス様狙いなのはわかっているけど、状況は把握しておきたいじゃない?ね?
まさか、まさかまさかの姫抱っこで運ばれた?!きゃー!恥ずかしい!!
なんて悶えていたら、肩に担いで運んだとか。
よっこらせと米俵を運ぶ農家の方々の映像が脳裏をよぎった・・・・・俵担ぎじゃん!
がっかりだよ!!
通りでちょっとお腹のあたりが痛いはずだ。
・・・・・・・・酷い!乙女の純情をなんと心得る!!
ララの説明によると、ルーフェス様は女の子はこうやって運ばれると”たか~い”と言って喜ぶと言って譲らなかったらしい・・・・・誰?!そんな嘘をルーフェス様にすり込んだのは!!
そんなので喜ぶのは小さい子供くらいだよ!というか、気絶してるボクに対してそんな風にしか運ぶ手段を思い浮かばなかったの?!姫抱っことまではいかなくても、もっと他にあったでしょうに!!
そうか!だからか!ララが気にしているルーフェス様に運ばれたというのに、嫉妬や羨望ではなく哀れみというか可哀想な人を労わる感じでボクに接しているんだね?そうなんだね?ララ!
くっ!居た堪れなじゃないか!!
ちなみに他の運び方の候補としては、おんぶとか担架とか荷車とか・・・・だったらしい。
なんて残念な思考持った人達なんだ!ロマンチックの欠片もない!!
しかし、結局意識のないボクを運べたのはルーフェス様だけだったらしく、ロベルト様たちも諦めたらしい。(意識のない人間って重いもんね!決してボクが特別重かったわけでは・・・・ないはずだ!)
ちなみに荷車は、荷車自体がなかったので採用されなかったそうだ。良かった!気絶しているだけなのに荷車に乗っけられて街中を走るなんて羞恥プレイを敢行されなくて・・・!そこだけはありがとう!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大きな溜息も出るってもんだよね。
「はぁ~~~~~~・・・・・。」
そしてボクが脳内で気にしていた残りの素材は、ヴィー様が昨日ロガリア学院の寮に帰る途中で冒険者ギルドに寄って換金して、今朝その配当金をボクらにもくれたそうだ。
実地訓練では合格最低限の提出して、残りは自分の取り分にするためにギルドで換金なんてしてちゃっかりしてるというかなんというか。ロガリア学院側が何も問題視していないってことなんだよね?何か、こう・・・・・実力主義的?いや、実質的とでもいうのだろうか・・・・う~ん。
あれ?ちょっと待って。
ということは、もしかしてあの直後にルーフェス様達と別行動したの?
気絶したボクを彼らに任せて?そこは、心配して皆で付き添ってくれる場面ではないの?!
まあ、客観的に見て何も手助けできないのにゾロゾロ列をなしていくのもあれだけど。
・・・・・それを考えれば、合理的って言えば合理的だよね。
本当に、全然、ロマンチックじゃない。お子ちゃまめ!
そして、だ。
草原狼 毛皮(5頭分) 大銅貨 3枚 X 5 = 15
尾(討伐証明) 大銅貨 1枚 X 5 = 5
ブラウンシープ 羊毛(48頭分) 大銅貨 3枚 X 48 = 144
ホワイトシープ 羊毛(15頭分) 大銀貨 1枚 X 15 = 15
ロガリア学院の実地訓練に提出したブラウンシープ12頭分を差し引いて、大銀貨4枚と大銅貨4枚ずつが配当金となりましたと。
細かな配当金内訳も一緒にもらいました。
別に疑ったりもしてなかったけど、律儀だなヴィー様。
って、幹事か―――――っ?!
半端な大銅貨6枚は、素材運搬代としてヴィー様へ加算された。そうだよね、いくら8人いても運べないよね?あんな大量の素材・・・容量拡張バッグとか作っちゃってるんだ~、さすがは魔道具科、さすがはファンタジーな世界。
配当された金額は日本円にすると4万4千円ほど、生命の危険とのかみ合いを考えてると安いのか高いのか妥当なのか悩むところだけど、ララは思わぬ収入が凄く嬉しかったらしい。
目がキラッキラ輝いていた。
青いスライムの魔石は、ロベルト様の強い要望で換金せずロベルト様の個人所有になったそうだ。
その代わりに素材の配当金はいらないとのことでした。
文句はないよ?倒したのはロベルト様だし、ボクたちは怯えていただけだもの。
どんどんどんどん大きくなっていくスライムに対処するわけでも、逃げるわけでもないあの時間。
あの恐怖は忘れんからな―――――――――――っっ!
実地訓練の期間が3日間と決まっているため、今日が最終日。
早めに終了したボクたちは、今日はお休みなのだそうだ。
ああ、だからララものんびり昼食を部屋でとっていたんだね?
「ねえ?ララ?ボクたちがお休みなら、ルーフェス様たちもお休みなわけだよね?しっかり寝て頭もスッキリしてるし、体の方は自分で治癒するから筋肉痛ともさよならしたよ?だから、ボクのことは気にせずに会いに行ってもいいんだよ?チャンスだよ?」
「ルーフェス様達は、今朝素材の配当金を私たちに配ったあとに、休みを利用して冒険者ギルドの仕事を受けに行きましたよ?」
「ルーフェス様たち?ルーフェス様と・・・どなたが?」
「ルーフェス様、ロベルト様、スイゲツ様、ヴィー様、の4人です。」
あの人たち、また王都中央の外に行ったの?
冒険者ギルドの仕事をしに?
あんだけ体を酷使した実地訓練終了翌日から休みもしないで、そんな事をしに外へ行っちゃう?!
どんだけ・・・・どんだけ!脳筋なの?!それとも守銭奴なのか?!
これってさ、こちらに関わる気が全くないってことだよね。
というか、もしかしたら気にしてもいないのではないだろうか?
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やめた。
お友達になって弟方面からお兄さまを紹介してもらうのなんて、こんな状況では絶対無理だ!
向こうは、ボクたちに恋愛的になんて興味は全然持ってないどころか友情すら・・・・ないんだろうなぁ。
これまでは乙女ゲームの世界なんだから、と思って生きてきた。
でも、これからは乙女ゲームの世界なんだから、と思って生きて行こうとすると人生詰んでしまう気がする。
前世でやっていた乙女ゲームと今のボクの名前とか学院とか符合が一致するものがいくつかあった。
それだけなんだ。ただそれだけで、乙女ゲームの様相なんて今はどこにも見当たらない。
攻略対象者とかは、名前が似てるだけで違っていた。
ヒロインに至ってはかすりもしてなかったしな。
やっと、わかった気がする。
似ているってことは、違うってことなんだ。
「・・・・・・・・・・・そうだよね。」
だからといって、全てを諦めるなんてしてやらないよ!
お兄さまたちには自分が社交界でデビューしてからの方が会える確率が高い。
直接会ってアプローチする方が望みがありそうだよね!
それに、お兄さまたちだけではなくて他にも目を向けてもいいんだ。
視野を敢えて狭める必要なんて、初めからなかったんだから。
ボクだって腐っても貴族だ、貴族令嬢なんだ、下地はあるのだ!
目指せ!立派な貴族的な淑女になって・・・・・・・・イケメンゲットだぜ!
あ、ララがルーフェス様へアタックするなら、応援するから言ってね?
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一方、ヴィーたちは早朝に実地訓練時の素材を換金した配当金をララたちに渡して、冒険者ギルドの仕事を請け負い今は、南区に来ていた。
現在もロガリア学院の実地訓練中のために西区東区は避け、通常はあまり足を運ぶことのない南区の仕事を受けたためだ。
生活費・授業費など諸々の費用捻出のために、いつもは早々に実地訓練合格を目指して行動し冒険者ギルドの仕事へと繰り出すヴィーが、なぜ今回実地訓練初心者な学院留学生”ヴェクセル”と組み、実地訓練に参加したのかとスイゲツが、聞いた。
「パスカル先生達に頼まれたからだよ?」
ヴィーは簡潔に答えた。
「いや、だからね?カーライル魔術学院の子たちってさ、うちの実地訓練みたいなことしないから本当に初心者な可能性が高かったし、実際初心者だったでしょ?そんな子たちの面倒を見るのって・・・ヴィー的にはうんざりして避けたいことなんじゃないかな?っと思ったんだよね~。前のことがあるし、それを自分の担任の先生から頼まれたからってなんにも理由もなしに引き受けるとは思えないんだ、僕は。」
「そう言えばそうだよな・・・・本当だったら、俺たちの班だけで組む予定だったはずだからな。」
「確かに実地に関して、何にも知らない初心者で貴族な方たちも混じっていて、ひどく手がかかるだろうし、ものすっごく面倒だと思ったよ?」
ヴィーは物凄く正直に言った。
だがスイゲツ達はやっぱり、と気にしない。
「では、何故引き受けたんだ?」
「私1人で彼らと組むわけじゃないしスイゲツ達も一緒って聞いたのと、交換条件をのんでもらったからかな。」
「俺たちの時にはそんな提示はなかったぞ?実地訓練第1位の義務とか言われたからな。」
「ふ~ん・・・ロベルト様たちは実地訓練成績第1位の義務なんだね。でも私は成績1位じゃないしそんな義務はない、私自身が断ればそれで終わり。」
「でも引き受けた。で、交換条件?って何だ?報酬でも貰ったのか?」
「ふふふふふふ・・・・、ある意味報酬、かな?私の魔法陣の被験者になってもらうことを条件にしたんだ。」
「・・・・パスカル先生・・・・」
捨て身だな、と3人は思った。
「あ、パスカル先生だけじゃないよ?魔術科のリュート先生、騎士科のガユーザ先生、戦士科のダグラス先生もだよ?」
「「「なっ?!」」」
(な、なんて無謀なことを!!ガユーザ先生!!)
(い、命が惜しくないんですか?!リュート先生!!)
(ダ、ダグラス先生ともあろう人が何故?!)
魔道具科担当教諭のパスカルだけならまだしも、何故自分たちの科の担当教諭までそんな危険な事(危険だと決めつけている)な交換条件をのんだのかと驚愕して青褪める3人。この3人も大概失礼である。
しかし、ヴィーの洗濯魔術などで結構酷い目に合っているだけに、彼らだけを責めることは出来ない。
「パスカル先生はじめとする4人の先生から頼まれたんだ。ロベルト様たちの助っ人でもあったんだよ?私は。」
「はあ?俺たちの?」
「どういう事?」
「初心者は4人、スイゲツ達は3人。それに”ヴェクセル”側には女子もいたでしょ?先生たちの想定ではロベルト様たちは彼ら4人を庇いつつ戦闘をこなさなければならないかもと。もしかしたら、戦闘でパニックを起こした彼らを庇いながらかも。交換留学してきた彼らを万が一にも大怪我させたり死亡させるわけにはいかない、更にロベルト様たちの成績にも影響するから実地訓練の合格基準も目指さなければならない。そして、素材を一緒に行動している人数の合格基準金額分持ち帰らなければならない。」
「・・・・俺たちだけでは不安だったということか?」
「それもあったかもしれないけど・・・どっちかというと自分の生徒が心配だったんじゃないかな?・・・・・・・こちら側が指示したりお願いしたりしても困った行動を取る人、それも複数いる状況での実地訓練なんかルーフェス達は経験してる?まあ、実地訓練じゃなくてもいいけどさ。」
「・・・・・・・・・ない、な。」
「・・・・うん、今までは、僕たち3人か、ヴィーを入れて4人だったし。」
「それでか・・・・・俺たちは先生方にそれほどに心配をかけていたのだな・・・・」
「ふふっ、愛されちゃってるよね?ロベルト様たち。」
「「「うっ・・・・・・・・」」」
3人は自分たちの先生の心遣いに、妙に照れくさくなり言葉を詰まらせる。
ヴィーはそんな彼らを尻目にニコニコ・・・・にやにやしている。
「私にしたって、昨年のうんざりした経験がかわれてこんな事を頼まれるとは思ってなかったよ。いや~、経験したことって、どこで役に立つかわからないよね~?しかも、思ったほどの混乱も苦労もなかったし。”ヴェクセル”の人達も初心者なりに頑張ってくれて、不満とか文句もそれほど言わなかった・・・結果としては上々じゃない?」
「・・・・・そうだな。上々だ。」
「うん、そうだな。」
「・・・・・・・・で、交換条件の魔法陣って何?ヴィー?」
「あ、それ追求しちゃうんだ?う~ん・・・・えっとね、髭が永久に生えてこない魔法陣とか、脇とか脛とか胸とか腹とか背中とか腕とかのムダ毛の永久脱毛の魔法陣。」
「「「・・・・・・・・」」」
毛に関することばっかりじゃん。
・・・・・・・・・・頭とお股以外は、ツルッツルにしちゃうってことですね?先生たちの。
うっかり想像しそうになって、慌てて自分の想像力に3人はストップをかけた。
気持ち悪くなるところだった。危ない危ない。
しかし、それって成人男性としてどうなんだろう?泣いちゃわないだろうか?
と、スイゲツ、ロベルト、ルーフェスは複雑な心境に陥ったが、余計な事を言おうものなら自分たちにもお鉢が回って来るかもしれないと、怖くて口には出せなかった。
読了ありがとうございました!
この話の2年後設定で「理不尽な!?魔道具師。」の連載を始めました。よろしかったらこちらもどうぞ~。




