番外編 勘違い?乙女げーむ (5)
ちょっと間が空いてしまいました。
先日の実地訓練のカーライル魔術学院とロガリア学院のメンバーの顔合わせが行われた夜に、滞在している部屋に帰ると前触れなく女子トークを始めた。
突然のことに戸惑ってあわあわしている彼女から、仲良くなるには多少の強引さは必要!ってことで良いではないか良いではないかのふふふ・・・・な勢いで聞き出した。
ララが気にしてチラチラ見ていたのは、銀髪銀目の強面のルーフェス様でした!
何でも、勝手の違うロガリア学院内で何度か迷子になっていたり、困っている所に居合わせたりすると、ぶっきらぼうながらもその度に助けてくれたりしてくれたそうだ。
なにそれ王道!ルーフェス様ったらテライケメン!フラグ?フラグなの?フラグだよね?
ララからしてみれば吊り橋効果的なものなのだろうけど、それだって数を重ねれば気持ちが本物に昇華してもおかしくない。
男子からしてみれば庇護欲をそそられるよね?
不慣れな場所でオロオロしているかわゆい女の子が目に付き心配になる→危なっかしいなぁ→自分がついてないと心配だ!からのぉ!・・・・・恋愛へ発展!有りだと思う!
黙って何度も助けてくれる存在。
強面だけど目をそらさずちゃんと見てみれば、さすがは攻略対象。ルーフェス様は美形なのだ。一見怖そうに見えるから他の女子からは遠巻きにされるんだけどね!
強面な感じなのはララ的には平気なのかな?実は怖いの苦手なのでボク的にはちょっと遠慮したいが。
まぁ、ルーフェス様は朴念仁っぽいけど、懐けば頼れる大型ワンコ系!可愛いララとならお似合いだと思う!
真面目だから浮気もしないと思うよ!身分的にも平民同士で階級格差的な問題は起きないだろうし。
頑張れララ!この実地訓練を最大限有効に使って、ヒロインに負けないようにアピールしようね!
ボクも応援するよ!
ララにボクの方はどうなんだと聞かれたけど、萌え的な意味では攻略対象者な彼らは大いに気になるけど(お兄さん紹介してほしいし!)、恋愛的な意味で気になっている人はいなかったのでそう答えたら私ばっかり言わせてズルイ!とちょっと拗ねられた。
拗ねたララは超可愛かったので、思わず頭をなでなでしてしまったボクは悪くない。
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やってきました、実地訓練初日が!
頑張って、お子ちゃま攻略対象の好感度を上げるよ!
目指せ!恋愛未満お友達!お兄さま紹介イベント!!
実地訓練に参加するロガリア学院の生徒たちは慣れているはずなのに、どこか緊張気味に集合場所に整然とパーティごとに並んでいる。
この実地訓練は個人の成績にも直結するらしいのでそのせいかもしれない。
ともあれ集合時間は薄靄が開け始めた頃で、天気は上々。
今回の実地訓練合格条件は、東区西区で一人小銀貨1枚分の素材を獲得する事、もしくは東区西区にいる羊に似た動物の毛を1人小銀貨1枚分刈ること。(先生方は、なるべく羊に似た動物の毛を刈ることの方を推奨していた。何故?)
そして、驚いたことに実地訓練時の救護班には生徒の参加はない(ええ?どうしてよ?!ヒロイン全然関わって来れないじゃん!)というゲームにはない衝撃の状況にどうしてかと焦って聞いてみたら、お子ちゃま攻略対象の奴らに何言ってんの?という呆れ顔をされた。
「少々の怪我や切り傷くらいは、自分で対処しますよ?だって実地訓練ですから。」
しれっというヴィー様。
「先生方の所まで来て治療してもらうのは、自分たちで対処出来な状態の者だから、そこに不慣れな生徒を手伝いとは言え投入するなんてありえないよ~?」
あははは・・・とスイゲツ様。
「そこでも無理なら、王都中央の治癒術院に運ぶことになる。」
真面目な顔して付け加えるルーフェス様。
「まあ、先生方の所と学院間の伝令役なら・・・・生徒でもいるけどな。」
興味なさげにロベルト様。
伝令役のことなんか聞いてないよ!
あれ?ちょっと待って、それって魔術とかでつるつるっと色々何とかなるもんじゃないの?
今回は、治癒術が使えるボクが一緒だからって思ってる・・・・わけじゃないか。
他の実地訓練参加者のパーティ全部に治癒術が使える人がいるとは聞いてないし。
ということは・・・・・本当の本当に多少の怪我なんかは先生になど頼っちゃダメで、下手したら大怪我をしたり、命の危機の可能性だってマジにあるってこと?
多少の怪我って、どの程度のこと言ってるの?!ねえ?
生徒たちへの建前とか鍛えるための方便とかじゃないってことなの?
何てスパルタでデンジャラスな教育方針なのロガリア学院!
ボク、学生に優しいカーライル魔術学院の生徒で本当に良かったぁ!
・・・・・・・・・・・・・・・なんで交換留学生になった?!ボク———っ?!
そのスパルタでデンジャラスな教育方針のロガリア学院の実地訓練に何故参加した?!
だ、大丈夫、大丈夫!落ち着け!ボク!今回1回だけだもん!
頑張れるよ!きっと!・・・・・・多分!
実地訓練の経験が全くないボクたちが一緒なんだからロガリア学院も憂慮してくれるよね?
ロベルト様たちだって多少は気を使ってくれるよね?!
なんて思っていた時期がボクにもありました。
ふふふふふ・・・・・・・・・・・・・・・・
何これ!マジきっついんですけど?!
今現在ボクたちは、休みなしで2時間近く東区を周りを警戒しながら歩いているところ。
足は痛いし、汗だくで気持ち悪いし、喉は渇くし・・・・!
ボクとララはか弱い女の子だし、ボクは一応貴族令嬢なのに!
もっと、こう、女性を気遣うことはないのか?女性にはこの荷物は重いでしょう?自分が持ちましょうか?とか!ずっと歩き通しで辛いでしょう?抱いていってあげましょうか?とか!!
いや、うん・・・・分かってる、分かってはいるんだよ。それじゃあ実地訓練の意味がないってことは。
でも、初めてで今回のみの参加だということを誰か考慮してくれないだろうか?
ここでわがまま男爵令嬢全開にしてわめいて言えば、もしかしたらこの状況を何とかしてくるかなぁ?とか思ってしまうほど辛くなってきてる。
決して歩く速度が早すぎるわけではないけど、荷物は重たいし、疲れてるし、目的地がどこと決まっている訳ではない状況がボクのヒットポイントをゴリゴリ削がれていく。
だから「そろそろ一度休憩しましょうか。」と言ってくれたヴィンセントことヴィー様のこの言葉が、まるで天からの救いのように思えてしまった。涙目。
「なかなか遭遇しないねぇ・・・・・シープに、というか他の魔獣にも遭遇しないなぁ・・・珍しい。」
「そうそうこちらの都合良く出てきてはくれないだろう?」
「こればっかりはな、気長に探さないとな。」
何本か木のある岩場のところで休憩しながらヴィー様が火を起こしてお湯を沸かし、紅茶を入れてくれた。疲れているから本当は砂糖なんかを入れて甘くして飲みたいなぁ。
カーライル魔術学院や自宅にいれば普通に用意されているのになぁ・・・・
「・・・・・・・」
ボクたちが疲れきってぼ~っと紅茶を飲んで休憩している最中、ロベルト様たちはこれからどう動くかを話し合っていた。
あれだけ動いたのに疲れも見せずに次の行動のための話し合いとか・・・・真面目よねぇ・・・・
しばらくすると、その会話が急にピタリと途絶えた。
「・・・・来たみたいだよ?」
「そうだね、数はざっと30ってとこかな?」
「・・・・・この動き方は・・・スライムではないな。」
「・・・随分とかたまって移動している・・・これはシープか?」
なんでそんな事が分かるの?
もしかして休んでいる間も索敵とやらの魔術を発動させてたとか?!
え?・・・・・4人とも?!何故そんなことをする必要が・・・・・・・・あ、そうか!
休んでいる間こそ索敵して警戒しないと危ないんだと今さらながら気がついた。
30近い数の魔獣か獣が、今ボクたちのすぐ近くに来ているんだ。
これはただの恋愛的好感度上昇イベントなんかじゃない。
ちょっとでも気を緩めて油断していれば、それは死に至る確率が上がる。
本当に生命の危機と隣り合わせな実地訓練なんだ。
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戦闘経験とかの実戦などは、確かにボクたちカーライル魔術学院の生徒には足りない。
でも、この経験は戦闘でもないし、普通の冒険者でもないのではないだろうか?
腕が、手が、指が・・・・筋肉疲労でつりそうなんだけど!
休憩中にボクたちに近寄ってきたのは、ブラウンシープの群れだった。
今回の実地訓練時推奨対象だ!さあ、とっ捕まえて毛刈りか?
と思っていたら、何故か一頭のブラウンシープとヴィー様がじっと数十秒見つめ合ったあと、ヴィー様が徐に頷いた。
なんだなんだどうなってんだ?と困惑しているボクたちにヴィー様からこんな感じに指示が出た。
1.シープを2列に並ばせる(1人)。
2.シープの毛にブラシをかける(2人)。
3.シープの毛をハサミで刈る(2人)。
4、刈った毛を別の場所に移動させる(1人)。
残りの2人は休憩中(交代要員)。
何故パーティリーダーのロベルト様からの指示じゃないの?
え?ロベルト様はブラシ係に立候補ですか?すごく嬉しそうですね?楽しいのかな?シープのブラシかけ・・・・じゃあ、ボクもそれにしておきますか。
ところで数十秒間にあのブラウンシープとヴィー様の間にいったいどんな意思の疎通があったというのだろう?
人員配備が済むと、まるで流れ作業のごとくシープの毛を刈っていくボクたち。
頭の中のハテナマークを維持することも出来ないほど過酷なシープの毛刈りの一連作業。
ブラシかけて、毛を刈って、ブラシかけて、毛を刈って、ブラシかけて、毛を刈っての繰り返し。
いや実際休まず毛を刈り続けているのはヴィー様のみで、他はシープの様子を見計らって交代で休憩しているんだけど。
ちょっとでもブラシかけに不満があれば、シープにふんっと鼻で怒られ、毛刈りでミスってちょっとでも痛みを与えようものなら頭突きを食らう。
怖い怖い怖い、シープ超怖い。
最初は30頭ほどだったはず。
ふらふらの頭で目算してみても、既に処理したシープの数はとうに40頭は超えてる気がする・・・というか、ブラウンシープの中に白い毛のシープがいたのはどうしてだろう?
疲れて幻覚でもみているのかな~・・・・・これ、いつ終わるんだろう?
毛刈りが終了した。
そう・・・・・・やっと終わったんです!
もう、誰も口を開いていません。
最初嬉しそうにしていたロベルト様もスイゲツ様もルーフェス様も、カーライル組は言わずもがな。
一部を除いて汗だくドロドロのフラフラで身だしなみなど気にする気力もないほど疲労困憊。
結局何頭の毛刈りをしたのか、わかりませんでした。
そのシープの群れは夕日を背に清々しい風体で颯爽と去って行きました。
シープ―――――・・・カムバァァックゥゥ・・・・・絶対にしてくんなよぉぉぉぉ!!
もう、毛刈りは嫌だァァァ・・・・!!
そんなこんなで朝の勢いは何処へやらの面々をよそに、いい汗かいたな白い歯がキラリ程度の人が1人います。
ヴィー様です。
しかも、屍状態のボクたちを尻目に、刈ったシープの毛をまとめて魔術で洗濯していました。
ずっと、休みなしで毛刈りをしていたくせに何でそんな状態でいられるのかと・・・・!
気がついたら、次の日の朝でした。
あのまま寝落ちしてしまったようです。気絶とも言うかもしれない。
起きたものの、頭がぼ~っとしています。
働いてないな、これ。
すみません、起きているフリして、実はまだ寝ているのかもしれないボクの頭。
何だかいい匂いがしています。
「おはようございます。朝食が出来ました。皆で頂きましょう。」
朝から爽やか笑顔でヴィー様がおっしゃいました。
おいしゅうございました。
今まで食べた中で最高においしゅうございました・・・!
ただの野菜スープと何故か懐かしく思える、柔らかなバターが染みる白いパンだけだったのに。
おばあさんにあげるから取っておくの~なんてボケは考えもつかずに完食しました。
お腹が満たされると、少し思考する余裕が出てくるもんです。
ふと周りを見渡してみると山と積まれていた昨日のシープの毛が見当たりません。
まさか、あれは夢?!あんなに苦労したのに!!夢だったというの?!
そんな!そんな殺生なぁぁぁ!!と号泣しそうになりました。
そうしたら、魔道具の拡張バッグなるものをヴィー様が所持していて、シープの毛はそこに収納してあるから安心してと宥められました。どうやら、恐慌を来しそうな酷く怯えた顔をしていたらしく頭までなでなでされてしまいました。気持ちよかったです。
ああ、ああ、良かった!
苦労の、努力の結晶が夢と潰えなくて・・・・!
ああ!気軽に購入していた物はこうして、見えない人々の苦労と努力によってボクたちのもとへ来ていたんだと感動さえ覚えました。数多の物も粗末に扱ってはいけないと・・・・実感しました!
王都中央への帰り道は、再び往路と同じ陣形を取って進みました。
その途中、草原狼やら青いスライムの集団やらと遭遇したらしい・・・・・良く覚えていません。
草原狼が6頭出たときに、リチャードとルドヴィクがビビって腰が引けて涙目になってる所で(何ヘタってんの?!やる気満々だったくせに!)、ララが危なげなく慣れた様子でナタを振り回して仕留めて返り血を浴びていたり、それをロベルト様たちがやるじゃないかと称賛したり、ヴィー様が手早く素材を剥ぎ取ったり(なんていうか物凄くグロイ)・・・・・覚えてません。
ララはいったいどこにナタなど仕込んでいたのか・・・・はっ!違う!覚えてません!
青いスライムが30匹くらい出た時は、ポヨンポヨンと全部が合体融合して大きくなるまで待って、ロベルト様が嬉々として炎の魔術を放って(なんていう名前かボクは知らない)消滅させてました。
スライムを消滅させたあとに残った15cmほどの水属性の魔石を嬉しそうにロベルト様が眺めてました・・・・そりゃあもう嬉しそうに・・・・!ゲームでは見たこともないほどの満面の笑みでした。
何で巨大になるまで待ってるの?!
普通のゲームでは最弱に分類されることが多いスライムが、どんどんどんどん巨大化していく青いスライム。
目の前の魔獣がいつ襲ってくるかわからない放置状態で待ってる間のボクたちの恐怖感をちょっとは気づいてよ!!
スイゲツ様もルーフェス様もヴィー様さえも!!しょうがないなぁ~みたいな呑気な雰囲気で傍観してるんじゃないよぉぉぉ!!怖いじゃんかぁぁぁぁ!!!!
この際、ララでもいいよ!さっさと殺っちゃって下さい―――――――――――っっっ!!!!
・・・・・・・・覚えてないことないよ!!
これでもかってほど、全部くっきりはっきり覚えてるよ!!
現実逃避もしたくなるってもんでしょ―――――――――――っっっ!!!
今更ながらに思った。
恋とかときめきとか全然ないんだけど!?
恋愛要素があまりにもなくて、無理やり盛り上がろうとしていた自分がオーバーラップしてくるよ。
虚しいというか、イタイというか。
そりゃあね、別の意味でのドキドキハラハラはいっぱいあったよ・・・・・主に生命の危機とか令嬢らしからぬ過酷な労働とか・・・・!!
めためたに疲れるし、どろどろに汚れるし、心は頻繁に折れるし、会話もロクにない上に生命の危機にあっても癒しも慰めもないって・・・・・・酷過ぎでしょう?!
ボクを転生させた神様に問いたい!
むしろ声を大にして問い詰めて問い詰めて、問い詰めつくしたい!!
何なんだよぉぉぉ!!!!これ!!どういうつもりなの?!
こんなの!こんなの!!乙女ゲームの世界じゃないよぉぉぉぉぉぉ!!




