番外編 勘違い?乙女げーむ (4)
「改めまして、”ヴェクセル”の皆さんと実地訓練で組みとなる、騎士科2年のロベルト・タイ・ル・フィルドです。よろしく。」
「改めて言う必要はないかもしれないけど、ここは敢えて言いますね?魔術科2年スイゲツ・ナイ・ル・ホルドです。よろしくね!」
「戦士科2年、ルーフェス・ウィステリアだ。よろしく。」
「3人ともわりと目立つ方だから、既に知っているかもしれないね。というか、魔術科中心に動いている彼らが君を知らないわけないよね?スイゲツ?案内役もしたのに・・・なぜ、改まって挨拶をしたのかな?」
「様式美です!」
「・・・・・・そうか。」
様式美って・・・・スイゲツ様ェ・・・・
いや、何を言いたいのかはわかるけど、ノリが軽すぎるよスイゲツ様。
リュート先生は一瞬何とも言えない表情をしたけれど、軽やかに切り替えようとしている。
慣れてるんですね?いつものことなんですね?さすが先生だ。
「それでですね・・・」
ゴンゴンゴンゴン!と乱暴に部屋の扉が叩かれた。
突然のことにギョッとしながらも、ノックに応えようとリュート先生が立ち上がりかけたが、先生が応える前に再び乱暴に扉が叩かれ・・・・・ずにバンっ!と開いた。
「すまん!リュート!遅れたか?」
そこには生徒らしき人物を脇に抱えた、汗だく疲労困憊気味の・・・・確か魔道具科2年の先生が肩で息を切らせながら立っていた。
「・・・・パスカル・・・君、それもしかして、無理やり眠らせて連れてきたのか?」
「おう!自分の魔道具製作に熱中している魔道具科クラスの生徒はこうでもしないとテコでも動かないからな!というか魔道具以外が見えなくなって、どうかすると学院長からの呼び出しすら頭からすっ飛んでしまう輩が・・・・時々いるんだ!いやあ、勉強熱心なのはいいが、困ったもんだよな?!俺の生徒は!」
リュート先生の顔が若干引きつった。
全然困ってないし、ニヨニヨ顔がセリフを裏切ってるよ、そして今さりげなく自分の生徒自慢したね・・・魔道具科の先生。
「パスカル・・・・詳細はまあ、この際置いておいてですね・・・・どうして彼を連れてきたんですか?」
「え?ロベルトたちと一緒に”ヴェクセル”の皆さんと実地訓練に参加が決まってるから、顔合わせに連れてきたんだが?」
「え?実地訓練に参加?クラウスがですか?」
「え?連れてきたのはクラウスじゃな・・・・・・・・・・あれ?」
魔道具科の先生・・・・パスカル先生が脇に抱えていたのは、金茶の髪のパスカル先生に良く似ている魔道具科のクラウス様だった。
クラウス様は細身だけどかなり身長が高かったはず、だから体重だって軽めではないはずなのにそれを脇に抱えてここまで運んでくるとは・・・・・!
一見そんな風には見えないけれど実は結構鍛えているの?
意外だな、見た目ひょろ長の魔道具科の先生なのに!
未だに抱えられているクラウス様の顔をちょっとのぞき見てみた。
これって眠ってるのかな?
何だか、目の下にクマがあって憔悴してて気を失っているようにも見えるんだけど大丈夫なの?と思って、チラっと視線をパスカル先生に向けた。
「「「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」」」
部屋の中にいる人の目がパスカル先生に集中している、皆無言。
パスカル先生は自分のしたことが信じられない様子で、それでも言葉を発した。
「ま、間違えてしまった・・・らしい。」
誤った相手に眠りの魔術かけたのに気づかず、そのまま拉致ってここまで抱えてきたのか・・・・ご苦労なことだ。でも、そうか、運んでくるのに一杯一杯だったんだね、きっと。
・・・・・・・・・・・・・・途中で気づけよ!
「パスカル先生ー、とりあえずソファに座らせて起こしますかー?」
「え?・・・・・このまま起こしたら俺がクラウスに怒られないかな・・・?間違えたことにクラウスが気づかないうちに戻してきちゃダメかな?」
パスカル先生ったら姑息!
「あはははは・・・・証拠隠滅ですか?僕たちは運ぶの手伝ったりしませんよ?」
スイゲツ様ってば冷たい!
「えー・・・・・・・」
「起こしますよ。眠りの魔術を解術してください。」
可愛いお顔で、スイゲツ様容赦ない!・・・・・ちょっと素敵。ドキドキ。
「えー・・・・・・・」
スイゲツ様がクラウス様の様子を見つつ、にこにこしながら言っているがパスカル先生は躊躇している。
「えー・・・」じゃない!だらだらと収拾がつかないじゃないか!ヘタレめ!遅々として進まない状況にちょっとだけイラついて来てしまった。
そこへまたのんびりとした声が、ノックと共に部屋の外から聞こえてきた。
コンコンコンコン
「遅れてすみませーん!魔道具科のヴィーでーす。リュート先生いらっしゃいますかー?」
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「遅れて申し訳ありません。魔道具科2年のヴィー・ショーノです。ロベルト様たちと一緒に”ヴェクセル”の皆さんと実地訓練で組むことになってます。よろしくお願いいたします。」
落ち着いた微笑みで挨拶をする”ヴィンセント・ジョッグ”改め”ヴィー・ショーノ”。
ロベルト様、スイゲツ様、ルーフェス様ほど派手な美貌ではないけれど、それなりに凛々しく整った顔。
動きに合わせてサラサラと揺れる真っ直ぐな黒髪。
ゆるりと煌く黒い瞳。
いたいた、いたよ。こんなところに。
それにしても魔道具科?!
最初の頃に挨拶に行った時にはいなかったのは、ただ教室にいなかっただけ?
黒髪黒目の平民出身、冷静沈着な腹黒敬語キャラのヴィンセント・ジョッグ
黒髪黒目の平民出身、飄々とした・・・敬語キャラのヴィー・ショーノ
先程までの、焦燥感で自分の世界観が揺らぎそうになるほど心を痛めたボクに謝れ!
・・・・・いや、彼のせいではないのは、わかってるんだよ?
うん、わかってるわかってるわかってるわかってるんだけど、モヤっとするわ!
「とりあえず全員集まったようだな。では、実地訓練に向けての話し合いを始めようか。」
ダラダラになりそうな雰囲気をロベルト様の硬質な声が遮ったあと、ボクたちを交えたロガリア・カーライル混合組の実地訓練への向けての打ち合わせが始まった。
ロガリア・カーライル混合組のリーダーはロベルト様、これは当然かな。
戦闘隊形は前衛をロべルト様、ルーフェス様。後衛をスイゲツ様、ヴィー様。
移動基本隊列はリチャード様、ルドヴィク、ボクことナディア、ララを前衛・後衛の間に挟む形。
実地訓練の内容に関しては、当日でないと発表されないのでボクたちが戦闘するかどうかはわからない。でも、男子のリチャード様とルドヴィクは戦闘に参加したいようだ。
女子のボクとララはサポート要員として戦闘があっても非参加でよろしく。
荷物は基本各自で運搬管理し、諸々ある素材の剥ぎ取りとか食事の用意とか薪集めなどの役目は分担する。
実地訓練時の服装は、動きやすいもので・・・・華美だったり、ドレスだったりは厳禁らしい。
まあ・・・今回は護衛をしてもらうわけではないし、訓練なので仕方がない。
実地訓練には合格基準があり、それをクリアしないと不合格となる。
これには、ボクたちも準ずるらしいのだけど、非戦闘員であるボクとララの分はチーム全体で賄ってくれるようだ。それなら安心!
でもこれって、結構な負担だよね?・・・・成績上位の彼らの足手纏いにだけはならないようにしないと!つかえない女扱いは避けたいところだ!
好感度にも関わるし・・・いや、か弱さを押し出して、守ってあげたい感を出したほうがいいだろうか?悩みどころだね!
男子6人は実地訓練の打ち合わせを楽しそうに和気あいあいと詰めている。
ボクはちょっと飽きてきたよ~。
・・・・・・ララはどうかな?とチラっと隣を見てみたら、夢見る乙女のごとくぽ~っとなっていた。
その視線の先にいるのは、ルーフェス様とヴィー様。
こんなところに伏兵が?!
ヒロインの邪魔もしたくないけど、ララの恋路の邪魔も避けたいなぁ・・・・
ララのお目当ては銀髪銀目のルーフェス様?黒髪黒目のヴィー様?どっちなんだろう?
・・・・・これは今夜、女子トークしなければ!!




