番外編 春先の不審者 (3)
椅子に座らせられた後、空いていた扉をバタンと閉められ更には鍵をかけられた。
向かいにどっかりと座った金髪の人が、俺の目を見据えてきた。
「改めまして、こんにちは、初めまして。俺は、ケルト・マイ・ル・ウォルンタス。そこにいるシャーロック様の友人だよ。それで?君は何故どうしてここにシャーロック様と一緒にいるんだい?」
ケルトさんとやらの剣呑な雰囲気の矛先が、俺に向かってきた。
訳が分からないのはこちらも同じなのに、なんて理不尽なんだ。
何か段々、腹が立ってきたな。
「どうも、名乗って頂き恐縮です。俺の名前はクラウス・タイ・ル・トルス。何でここにいるかをお尋ねですか?それはですね、俺が気がついたのが2,3日前ですが、こちらにいらっしゃるシャーロック様がこの街の噴水広場から1本向こうの通りを路地裏からずうっっと覗っていたのが気になって、毎日昼過ぎ頃から見てたんですよ。」
「「・・・・・・・」」
「あんまりそこから動く様子がないから、最初は何をしてるのかな?程度の気持ちでしたけど、何か不審な動きをしたり、俺の休みが終わるまで続いたら、街警備か王都中央騎士団に通報しようと思ってました。」
「「?!」」
「で、今日は珍しくそこから移動しようとしたので、つい後を追ったらすぐ戻ってきてしまって鉢合わせしたんです。その時に路地裏の脇を通り過ぎた4人連れの女の子がいて、知り合いが混じってたんでうっかり声を出したら、そのままシャーロック様にここに案内されて、彼女たちと知り合いかを問われました。なので、俺は、今ここにいる訳です。お分かりいただけましたでしょうか?ケルトさん?!」
おお、2人して盛大に引き攣った顔をして固まってる。
ははははは!ほぼ事実しか言ってないぞ?
通報しようと思ってたのも本当だし。
こっちの都合も考えないで振り回そうとしたしな!
「~~~~~~~シャーリー―――――――っっっ!!!」
「ケ、ケルト?!」
「君ってやつは!君ってやつは!もう!!ストーキング?ストーキングしてたのか?!あと少し遅かったら不審者としてとっつかまって、犯罪者になって!ヴィヴィアンナを見守るどころか、実家に強制送還だよ?!何やってるんだよ?!もう!!」
俺の言葉を聞いた途端にくるっとシャーロック様に向き直り、胸ぐらをつかんでガクガク揺らしながら状況を把握させようとしているケルトさん。
シャーロック様の頭が激しく前後にグラングランしてるけど・・・・聞こえてないんじゃないかな?それ。
「ケ、ケルト!落ち着いてくれ!あの子に何かあったらと思うと居ても立ってもいられなくて!だが!本当にただ見守っていただけなんだ!」
見守るとストーキング・・・傍から見ると紙一重なんだよなぁ。
何て思っていたら再びケルトさんが、こちらを物凄い形相で見て懇願してきた。
「クラウス君!すぐに通報しないでくれてありがとう!!そしてお願い!この後も通報しないでくれ!!シャーロック様がこんなことをしたのには、深い、深~い訳があるんだ!!それを話すから!どうか!お願い!通報しないで!知り合いの女の子たちに言ったりしないで!!頼む!!」
ケルトさんの必死さと形相の怖さに慄いて、話だけは聞くと頷いてしまった。
ヴィヴィアンナさんという亜麻色の髪の女の子はケルトさん家の末の妹で、シャーロック様とは幼馴染な位置にいるらしい。
ある些細なことがきっかけでシャーロック様が彼女に会う度に暴言を吐くようになり、それを彼女が気に病んで貴族籍を抜けるつもりで8年間近くを過ごし、成人を境に家を出てこの王都中央の治癒術院に勤めるようになった。
そのことを知ったシャーロック様が慌てて彼女の実家のウォルンタス男爵家に行ってみれば、家族も承知の上のことだった。
そこで暴言を吐くきっかけになったことさえも、何てことはないただの誤解だったことが判明し、更にシャーロック様を追い詰めた。(自業自得)
彼女との関係改善したくて前回王都中央に会いに来た時に、謝りに謝って文通出来るまでになった。
が、常にそばにいれる訳でも、有事の際にすぐに駆けつけることが出来ない状況にシャーロック様が焦れていた。しかも彼女にはロガリア学院に気になる異性がいるらしく、それがシャーロック様の焦燥感に拍車をかけて、所属していた騎士団までやめてしまい、現在ここにいる。
と、ケルトさんが涙し、時には憤りながら俺に話してくれた。
俺の感想?
・・・・・・怖いわぁ、何その恋愛中心的思考。
そりゃあ、好きな子が心配なのは分かるけれど、それで騎士団やめちゃうか?
ないわ~俺的には絶対ないわ~・・・・・・・・・・この後どうするつもりなんだろう?
公爵家とはいえ、三男なんだよ?家は継げないから騎士団に入ったんじゃないのか?
この王都中央で何をして生活していくつもりなんだ?
いくら、その好きな子との関係が改善したって、生活する基盤がなければすぐ破綻しそうなのは目に見えてる気がするのは・・俺だけ?もしかして、公爵家から仕送りでももらっていくつもりなのか?
それは、ちょっと、どうだろう?
「ケルトが説明したので概ね合っているが・・・・私は東騎士団を辞した形にはなったが、騎士団自体はやめるつもりはないぞ?王都中央騎士団への入り直すつもりだ。というか、先程東騎士団団長と父上の許可を取ったと言っただろう?王都中央騎士団への紹介状を書いていただいたんだが?」
「「・・・・・」」
この人、バカじゃなかったんだな、良かった。
何か雰囲気的にというか、言動から後先考えないで行動しちゃいそうな印象持ってたんだけど、こりゃ悪いことしたな・・・・いやまだしてない。侮っちゃった感有りありで申し訳ない。
っていうか、そうだよな!いくらなんでも仕事も決めないで盲目的に恋だけ追ってらんないよな?実際。
「そ、そうならそうと言ってくれよ――――――っ!俺、てっきりヴィヴィアンナの近くに居たいがために冒険者にでもなるのかと心配しちゃったじゃないか―――――っ!!」
結構しっかり今後のことを考えての行動だったことに安心したのか、苦笑いしながらもケルトさんの声が嬉しそうに変化した。
「私が自分が冒険者に向いていないことくらい分かっているが、そんなことが分からない程、君には私が愚か者だと思われていたのか?」
信用されていなかったのが、不服なのかこちらは若干不機嫌だ。
「だって!普段は冷静っぽいのに、ヴィヴィアンナのことになるとシャーリーは猪突猛進なところがあるから!ダッシュとパワーが違うから!!」
「うっ」
あ、シャーロック様が言葉を詰まらせた。
まあ、今までの騎士団の経歴を白紙に戻して、王都中央騎士団へ再入団するくらいには猪突猛進なんですよね?
だって、再入団するってことは、新入団員と同じ扱いから始めるってことでしょう?
十分突っ走ってるって。
「俺も、東騎士団長に紹介状を書いてもらいました!俺も王都中央騎士団へ再入団するつもりでここに来たんだ。ここなら、ヴィヴィアンナになにかあっても東騎士団にいるより対応しやすいし、シャーリーも頑張れるよな?ここからは本当にゆっくりだぞ?わかったか?」
「・・・・ああ。わかってるよ、ありがとう、ケルト。」
ケルトさん、これまでにもシャーロック様関係で色々苦労してきたんだなぁ、きっと。
ちょっと同情しちゃうな。
でも、もう心配も、通報もしなくて良いみたいだ。良かった良かった。
「ここなら、ヴィヴィアンナの気にしている奴の情報も手に入るよ。何より現役のロガリア学院の生徒と知り合いになれたんだしな。」
えっ?
何ですか?何で2人してにこにこして、俺を見てくるんですか?
「恥を忍んで、ここまでまるっと全部話したんだ。協力してくれないわけないよな?クラウス?」
「え?」
「嫌だなんで、言わないよな?クラウス(君)!」
「ええええええっっ??!!!!」
決定?!決定なのか?!
拒否権はないのか?!
やっぱり、事情なんて、聞かないでサクサク帰れば良かった・・・・・!!
番外編 春先の不審者 これにて完了です。
ご読了ありがとうございました。




