番外編 春先の不審者 (2)
あの時なんで、なんで不審者だと思っている人物の後を追っかけたりした?!
そして腕を掴まれていた時ならまだしも、なんでおとなしくこの人に付いて、のこのこ宿泊先まで来てしまったんだ!
小さな頃から知らない人には付いていっては行けないと、口を酸っぱくして教えられていながら!
うっかりついて行って誘拐とか拉致とか監禁とかされたら、自力でなんとかしろよと。
身代金なんか払ったりしないぞ?兄ちゃん達は助けないからな?と脅迫めいた教えを受けておきながら!
何という体たらく!
途中で走って逃げなかった自分を、魔道具科の相方に”洗濯”してもらえ!
・・・・待て、それは命知らずというものだ、落ち着け~落ち着くんだクラウス!
命は大事にしろ!クラウス!
「突然こんな所に連れて来て申し訳ない。私は、シャーロック。シャーロック・サイ・ル・ファーガスという。君の名前は?」
「??!!」
ファーガス公爵家―――――――っっ?!
この国の王族に連なる公爵家―――――――っっ!!
何で、そんな人が平民の服格好でここにいるんだよ―――――――っっ!!
ダメだろ!
世話係の人間はどうした?!
警護の人間はどうした?!
従者という名前の緩衝材はどこにいるんだ?!
連れてこられた部屋のどこを見ても俺とこの人の2人だけしかいないじゃんか!
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!!
お、俺だって、一応候爵家の人間なんだ!四男だけど。
「失礼しました・・・・シャーロック様。私は、クラウス・タイ・ル・トルスと言います。」
「・・・・トルス候爵家の御子息だったのか・・・・・」
「はい、ですが、今はロガリア学院の一生徒に過ぎません。」
「そうか、私も今は公爵家を背負っての行動を取っている訳ではないので、あまり畏まらないでくれると有難い。」
「本当・・・ですか?」
「ああ。気軽に話してくれ。」
「後から・・・不敬罪適応なんてことは・・・・」
「しない。なんだ?過去にそんなことがあったりしたのか?けしからんな。」
よっしゃ!気軽に話しても不敬罪適応しない、言いましたね?!
言質取りましたよ――――――っ!
何でここまで警戒するかって?
公爵家は王族に連なる、王位継承権を返上した王弟だったり元王子だったり、稀に元王女に与えられる爵位。
王族・国に仕える貴族たる候爵家とは、近くて遠い爵位の差があるからだ。
「いえ、ないですが。」
「・・・・・・・・君、いい性格をしているな?」
「それは初耳です。」
失敬な、俺は慎重なだけだ。
見た目は甘めのマスクだけど中身はちびっと腹黒な同級生や、飄々とした態度でも人当たりが良さげの中身はやっぱりちびっと腹黒な魔道具科における相方と、断じて同類などではない。
同類ではないが・・・・・・・ほんのちょっと影響を受けているかもしれない、程度だ。
「で、俺をここに連れてきた理由は、さっきの彼女達、ですか?」
そう聞いた途端に、シャーロックさまの目に警戒の色が浮かんだ。
「・・・・そうなんだ、彼女たちとは、知り合いなんだな?」
「確かに彼女達の内3人は知り合いですが・・・亜麻色の髪の人は違います、知らないです。」
「え?・・・・・・・・そ、そうか。」
あれ?今、明らかにホッとしたよな?
え?聞きたいことってそれだけ?
たったそれだけのために、俺をここに連れてきたのか?
フローラ達のことが聞きたかったわけではない?
「「・・・・・・・・・・・」」
そんなこと、あの場で聞けばすむことじゃんか――――――っ!
相対するシャーロックさまは警戒を解き、目に見えてにこにこしているが、俺にとっては居た堪れないことに変わりはない。
この後どうしたらいいんだよ?・・・・もう、帰っちゃっても良いのか?
ドタドタドタドタドタ――――――――ッッ!!!
うるさいな。
部屋の外から廊下を乱暴に走る音が響いてくるが、なんだ一体?
ご近所の部屋の人の迷惑になるだろうが。
と思っていたら、この部屋の扉がバン!!とさっきよりも更に大きい音がして開いた。
「シャーロック様!!」
飛び込むように入ってきたのは、金髪で翠の瞳の青年だった。
今度は何だよ?!
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「シャーリー!!何で俺に黙って行っちゃうかな?!姿消しちゃうかな?行っちゃうにしても相談も全くなしってどういうことかな?どんだけ俺が心配したかわかってる?なぁ?分かってる?!あの子とのことはゆっくりやっていこうと、長期で構えていこうと決めたのに!全然進展がないのを憂いて、焦れて、我慢が効かなくなって、万が一にも儚くなっちゃったらどうしようって心と胃を痛めちゃったりする俺に配慮はないのか?ええ?!シャーリー!!」
「う?え?ケ、ケルト。君に黙って出てきたのは、悪かったと思ってる。だが、これは私の事で、東騎士団を辞めることについては、私の父上からも団長からも許可を頂いているんだ。」
「へ~?だから何?王都中央にいるってことは、遠くにいることに焦れて、ヴィヴィアンナのそばにいるつもりなんだろう?俺にも関係あるよね?ないなんて言わせないよ?!俺はヴィヴィアンナの兄だし、君とも友達だし、何より2人のことを家族から任されてるんだから!」
「だが、ここに来ることは決めてしまったし覆すつもりはなかったんだ。それを君に言ってもどうにも出来ないだろう?・・・・状況は、あとで手紙でも知らせようと・・・!」
「ふ、ふふふふふふ・・・・どうにも?どうにもできないって?甘くみないでほしいな。2人のことを家族から任されてるって言ったよね?そして、俺も覚悟を決めてるんだよ?結果がどうなろうとも、放置は出来ないんだ!」
「ケ、ケルト・・・?」
青年が突然部屋に入ってきたかと思いきや、挨拶するでもなく休む暇もなく、嵐のように捲し立てている。
内容は全く理解出来ないが、走り込んできた上に息継ぎもしないで、開口一番なっがいセリフを一息で言い切った!
何この人?!すげえっっ!!!
なんて一頻り感心していて気がついた。
あれ?これって、いつまで続くんですかね?
金髪の人がかなり怒っている様子なのは、一目瞭然。
でも俺には状況が、全然分からない。
っていうか、もしかして俺の存在には・・・気が付いてないのか?
それとも敢えて無視しているのか?空気扱い?用無し?まあ!酷い!
じゃあ・・・・・帰ってもいいかな?いいよな?
「あ、あの~・・・・盛り上がってる所大変申し訳ないのですが、お取り込み中に突入したようなので、俺、帰ってもいいっすか?」
「「!!」」
俺が声をかけた途端に、ぱたっと応酬が止まった。
今初めて、自分たちの他に人が居ることに気がついたみたいな、驚いた顔をして2人で同時にこっちを見ている。
やっぱりか!
金髪の人はともかく。
自分で連れて来ておいて、それはないんじゃないかな?シャーロックさま?
とはいえ、邪魔くさいのは決定っぽいので。
はぁ~っと息を吐いて座っていた椅子から、立ち上がった。
溜息も出ちゃうってもんだよな?
「では、失礼します。」
小さく礼をして、開けっ放しの状態の扉から出ていこうしたら、ガシっと肩を掴まれて椅子に戻された。
「ダメ、逃がさないよ?」
え?うそん。
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