135. 春がどこかにやってきた (13)
135話目です。
「ああ、それはな、リヴィオラを抱かせてもらおうと思ってきたんだ。」
と宣ったイザーク様の言葉があまりにも衝撃的で思考が停止してしまい、しばらく絶句状態に陥った。
すぐに誤解というか意味が違うのだと分かったけど。
そうだよ、いくらなんでもイザーク様が私をごにょごにょしたいなんて、思ったり言ったりするはずがないじゃないか!
ちょっと自分てば、自意識過剰~と反省したりした。
っていうか、そもそも私は現在中性なんだから無理じゃんと。
なので、その後の”抱っこさせてくれ”の言葉に、な~んだ”抱っこ”か!
そうかそうか”抱っこ”くらいなら、お安い御用だ別に構わないと了承してしまった。
そんな自分を殴ってやりたい!!
なんだって了承なんてしてしまったんだ!
”抱っこ”だって、超恥ずかしいことに変わりないじゃないか!!
気づけよ!自分!!
しかも頼んできたのは向こうなので、嫌なことはしなくてもいいよね?と思っていたのに。
拒否しきれなかった私を”抱っこ”しまくった後、満足した様子でクロウさんを伴って帰って行きました。
意味が分かんない。
14歳にもなって、抱っこされまくった私、リヴィオラのライフゲージは限りなくゼロに近い。
瀕死状態になった。(精神的に)
いやなら断ればいいじゃんと自分でも思うし、マイク兄にも言われたのだけど。
上から目線だったり命令形だったりしたら、間違いなく断固としてきっぱり拒否したと思う。
これはちょっとな~と拒否しようとすると、その度にイザーク様はあろう事か私の前に片膝をついて上目遣いに見つめてきて「だめか?」と小首を傾げるんですよ?!
普段の威圧的な強面が少しなりを潜めての、下から見上げる顔とか表情とか・・・!
何それ何それ何それ何それ?!
ひ き ょ う も の ――――――――っっ!!!
と叫びたくなるくらい、私の心臓を直撃してきた。
やばい。
鼻の奥がめっさ痛い。
鼻血が出そうです・・・・・!
私にとっては、まさに晴天の霹靂。
最初は偶然その仕草をしたのだろうけれど、私にとってもそんなことは初めてのことで、私自身がかなり動揺していて感情を抑えることが出来ず、顔から火が出そうなくらい赤面するのを止めることも隠すことも出来なかった・・・!不覚!(涙目)
イザーク様に下から見上げられたりされると、何故か強気に出れない事を自覚してしまった。
これは非常にまずいんじゃないかと思ったら、同時に本人にもそれを勘付かれるという失態を犯していた。
2回目からは、イザーク様ってば、わざとその仕草をしてるようだった。
なんという故意犯!
アザトイザークって呼んじゃうよ?!
分かっていて、何故回避出来ないのか?
それは単純に、動揺しすぎて冷静に対処方法を見つける暇がなかっただけなんだ!
”抱っこ”といっても種類があるらしいことを初めて知った。
・腕抱っこ
・肩抱っこ
・腰抱っこ
・膝抱っこ
・お姫様抱っこ
・肩乗せ
・肩車
・奥様運び 等々
後半2つは、抱っこですらないと私は主張します。
それを言ったら、肩乗せもそうだが。
何だ?奥様運びって?!罰ゲーム?何かの罰ゲームなのか?!
抱っこは抱っこでも、腰抱っこは無理だから!
それだけは!出来てもやっちゃダメだから!
あれは、本当に対象は幼児までだから!ふーふーふー!
失礼、取り乱してしまった。
うふふふふふ・・・そう、腰抱っこ!と奥様運び!だけは客観的にイタすぎることを強く主張し、ここだけはクロウさんとマイク兄にも参戦してもらって、辛うじて回避できた。
・・・・・・・・良かった・・・・!
肩乗せと肩車は、イザーク様+私の座高の関係で天井にブチあったってしまうという理由で却下だったが。
しかし、昔は専ら肩に俵担ぎで運ばれていたのに、何故イザーク様は”抱っこ”に拘っていたのか?
そして、”抱っこ”の対象に何故、私を選んだのか分からなかった。
理由を聞いても教えて貰えなかった。
イザーク様の、下からアングル回避方法を見つけておこうと、固く心に誓いました。(ここ重要!)
次回なんてない方が、私の心臓に優しいけれど!
****************
これはどう捉えるべきだろうかと、マイクは考えていた。
今までイザークはヴィーを”ウィステリア家の嫁候補”としてきてはいたようだが、積極的に関わることはなかった。
手紙を送ってくるわけでもなかった。
弟に会うついでにでも、ヴィーと会うわけでもなかった。
ヴィーがロガリア学院に入学したのを知らなかった・・・・わけじゃあ、ないよな。
ヴィーの家族のいる、北区の騎士団に所属しているわけだし。
更には親であるシェリルとも、知り合いだもんな。
去年のロガリア学院祭の時に諦めていないような事を言っていた割には、現在のヴィーを認識も把握もしていないようだった。
あの時は副騎士団長に会わせたくなくて、咄嗟に背中にヴィーと・・・・もう一人いたな・・・誰だっけ?を庇った形になったけど。
それにいきなり勝手に”ウィステリア家の嫁候補”にヴィーとマイカがされていたことに頭にきて、切れちゃったりしたけども。
後になって冷静になって考えてみると・・・・・・ちょっとこいつ、ヴィーのことを本当に”嫁候補”と、考えているのか?
もしかしてイザークはマイカ狙い?ヴィーは強面でも平気だからとついでになのか?ウィステリアはウィステリアでも、自分以外にヴィーをあてがおうしてる?とか、色々疑問に思っていた。
ロガリア学院でヴィーを見ても、ヴィーの冬期休暇の時に顔を合わせても、反応すらしていなかった。
それが”ウィステリア家の嫁候補”を外れた途端、わざわざ王都中央までヴィーに会いたいと出向いて来た。
ヴィーに会って、要求したのが”抱っこ”させて攻撃だったが。
一体何を考えているのか?
何をしたいのかがまるで分からない。
今更、なんで近づこうとするんだ?
一番気になるのは、ヴィーの反応だが・・・・・
相変わらず、あの手の強面筋肉に下手に出られると弱いよな。
俺もそろそろ、ちゃんと考えて行動しないと足元を掬われそうだ。
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「なあ、そろそろ俺と父上を放置したままにしないでくれよぉ~」
”抱っこ”されまくって羞恥の極みに震えているヴィーと考え込んでいるマイクに、未だ放置さっぱなしのイズモが情けない声をあげた。
イザークとガクは、既にヴィーの部屋を後にしていたが、その際、サイが壊したヴィーの部屋の扉を応急処置的にとはいえ、修繕していくという割と抜け目がない行動をイザークは取っていった。
「・・・・・・イズモのお父さん・・・・・えっと、サイさん?数日ぶりの再会が嬉しいのは分かりますが、そろそろイズモを離してあげてくださいませんか?」
まあ、そろそろいいかとマイクがサイに声をかけると、息子をスキンシップをして満足したらしいサイが漸く他に目を向けた。
しばらく自分がいるヴィーの部屋を不思議そうに見渡すと、徐にマイクの顔を見た。
すると、カッ!と目を見開いてマイクを凝視したかと思ったら、大声で叫んだ。
「何故こんなところにいるのだ?!小娘――――――――っっ??!!」
それを聞いたマイクは、空かさず部屋に物理・魔術防御結界を構築・展開・発動させ、ヴィーは遮音結界を構築・展開・発動させた。
「だぁれが、小娘だ――――――――――っっ!!そこに座りやがれ!正座だ!イズモの親父!!」
マイクは周りが見えていない行動を取り続けるサイに怒りを見せ、強制的に正座をさせ、説教に突入した。
人様のうちに訪ねてきて、ノックもせず応えも待たずに勝手に入って、更には家主に挨拶もせずに息子に問答無用に人目を憚らずベロベロ顔を舐めるスキンシップをし続けるとは非常識にも程がある。
自分たちはサイたちが魔狼であることは知っているが、イザークたちが知っているかどうかもわからないからフォローしようにも出来ない状態なのに、それを一切考慮しないのは如何なものか!
魔狼の姿であれば微笑ましいスキンシップであろうとも、今のサイたちは人型を取っている!その姿で先ほどのスキンシップはどう見えるのか考えろ!などなど・・・・・・など!
小一時間みっちり正座したまま、マイクに説教を受けたサイは正座のせいもあり、物理的にも精神的にもヘロヘロにな状態で謝った。
王都中央の雑多な匂いのせいで鼻があまり利いてないために、マイカとマイクを間違えての”小娘”発言だったが、それについても平身低頭で謝罪したのだった。
奥様運び・・・1992年から東部フィンランドで行われるようになった、世界選手権大会まで開かれている競技らしいです。




