134. 春がどこかにやってきた (12)
134話目です。
イザークがヴィーに会いたいとここ王都中央に来ているとマイクに言われ、先日ウィステリア家で強面髭面筋肉集団に洗濯魔術をかました件で何か言われるのかもしれないが、一応会うことを了承した。
北区を出てから、ロガリア学院などで何度か顔を見る機会はあっても、会話はしていない。
イザークは自分が2年程まえに数日一緒に過ごした”リヴィオラ”だと気づいていないと思っていた。 というか”ウィステリア家の嫁候補”としたはいいが、本人はとっくにそんなちっさい子のことなど忘れたものだと考えていた。
しかもそれも現在は、嫁候補とやらからは外れている。
それがまさかの”会いたい”発言。
自分のことをまだ覚えていたのかと、ヴィーは今更ながらにびっくりしていた。
「一人で会うわけじゃないから大丈夫だと思ったけど・・・やべ、ちょっと緊張してきた。」
マイクがイザーク達を呼びに言っている間は、これから人が訪ねてくるということもあってヴィーと人型のままのイズモは、他愛ない話しをしつつも緊張が解けないでいた。
柄にもなく緊張していた自分が哀れに思えてくる。
そんな状況がヴィーの前で繰り広げられている。
数人の気配が近づいて来たのに気づいたすぐ後に、バタバタと走る音が聞こえたと思ったらいきなり部屋の扉がバァン!と音を立てて内側に開いた。
ヴィーの部屋の扉は外開きなのに。
「息子―――――――――――――っっ!!」
「ち、父上っ?!おわぶっっ!!」
突然、人ん家の扉を壊し、ノックも応えもなしに入って叫んでイズモに突進して抱き潰さんばかりにぎゅうぎゅうと抱きしめた。
そこまでは・・・時刻が時刻なだけにご近所迷惑甚だしいが、それは後日ヴィーが謝罪するからいいとして・・・いや良くはないがやってしまったものは仕方がないので強引に良しとして。
白い髪と褐色の肌を持つ、一目でイズモと近しい血縁関係にあると分かる大柄な男が、抱きしめたままイズモの顔をベロベロベロベロ舐め回している。
大柄な男はイズモを”息子”と呼び、イズモは男を”父上”と呼んだ。
間違いなく彼らは親子なのだろう。
――――――――って、そんな事は今は問題ではない。
問題なのは”大柄な男が、抱きしめたままイズモの顔をベロベロベロベロ舐め回している”事だ。
イズモが魔狼なら父親も多分魔狼。
狼の姿なら、顔ぐらいベロベロされていても大丈夫。(多分)
再会できて嬉しんだね!微笑ましいね!で済む。(かもしれない)
だがしかし、現在2人は人型を取っている。
そのため、大人な男が少年の顔をベロベロベロベロ舐め回している、近親相姦的なBLなシュチュエーションにしか見えないのだ。
いつものことなのか諦め気味のイズモは、あまり抵抗していないし抗議の声もあげない。
そこは抵抗しろよ!抗議しろよ!諦めんな!
ここにいる人間がヴィーとマイクだけだったなら、またはガクとイザークだけだったなら魔狼親子のスキンシップとして普通に処理されるべき状況だ。多分ツッコミは必要だが。
(え~・・・?これって、この状況をどうすればいいのかな・・・?)
(顔を舐めるって、人がやると客観的に見ると、相当イタイ親子のスキンシップだよな・・・)
(何をしてるんだサイ殿!少しは周囲も気にしてください!!)
(リヴィオラの家の扉を壊してしまったのか・・・後で修繕しなくてはな。)
ヴィーとマイク、イザークとガクはそれぞれイズモとサイが魔狼だと分かっているが、お互い相手側がそれを知っているかどうかは分かっていないために、声には出せずそれぞれが心の中で困惑中だ。
若干1名は、困惑どころかそちらなど気づいてはいるが我関せず、別のことの気にしている。
「お久しぶりですね。イザーク様、クロウさん。お元気そうで何よりです。うちにはお酒はないのでお茶とお菓子くらいしかお出しできませんが、立ち話も何なのでお座りになられませんか?」
色々考えたが、これといっていい案が浮かばないヴィーはサイとイズモの姿を背に、にっこり笑ってイザークとクロウに何事もなかったように挨拶をして、お茶に誘うという強攻策に出た。
(((あれは放置することに決定したんだな・・・・)))
過剰な親子スキンシップ中の2人を、まるっとツルッと華麗にスルーすることにしたらしいヴィーに対して誰も反対の意思はなく、3人は何事もなかったように応じた。
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「リヴィオラ、大きくなったな、見違えてしまった。何度も顔を合わせていたのに気がつかないとは・・・すまなかったな。」
テーブルにお茶と菓子を並べて終わって、改めて相対した時一番最初にイザークがヴィーに謝罪した。 そんな事をいきなり謝られるとは思ってもみなかったヴィーは面食らってしまい慌てた。
「えっ?!いえいえ!実家でイザーク様にお会いした時から2年以上経ってますし、その間に大分身長が伸びて顔も変わったみたいなので、数日しか会ってない私が分からないのも当然かと思ってます。なので、謝ったりなさらないでください。」
「では、許してくれるか?」
「はい・・・というか、気にしてません。」
何度も自分と顔を合わせているのに眼中にも入れてもらえなかったと思っているイザークに、ちょっと拗ねた感情くらいは持っていたはずのヴィーだが”自分の祖父のような大きくて強面筋肉な厳つい人物に優しく下手に出られるとうっかり素直に言うことを聞いちゃう病”が発症しているようだ。
「そうか」と頷くと今度はイザークはマイクに顔を向け、頭を下げて謝罪した。
「うちの連中がマイカに対して失礼をやらかしたと親父から連絡を受けた、ここにいるガクからも話は聞いた。不快な思いをさせてしまい申し訳なかった。」
「あ~・・・俺に言われてもな・・・謝るんなら本人に言ってくれるか?」
「だが、身内としてマイクにも嫌な思いをさせてしまっただろう?」
「それに関しては、ヴィーがそっちの家で仕返ししてきたみたいだから、別にいいよ。」
「・・・・うっ・・・」
先日ウィステリア家の強面髭面筋肉集団にやらかしてきた事に対しては、後悔も謝るつもりもないヴィーだが、全く関係ないわけではないが、当事者ではないイザークからこんなふうに謝れるとちょっとバツが悪かった。
そろりとイザークの様子を伺いみると、視線に気がついたイザークは徐に手を伸ばしヴィーの頭を数回ぽんぽんとした後撫でた。
「~~~~」
昔、遊んでもらっていた時に良くこうやって撫でてもらったことを思い出してしまい、嬉しいやら懐かしいやらこそばゆいやらで、かぁっと頬が赤くなり、いつになくモジモジしてしまったヴィーは言葉が出ない。
そんなヴィーの様子を横目で見ながら今度はマイクがイザークに聞いた。
「それで?なんでまた、急にヴィーに会いにわざわざ王都中央まで来たんだ?」
「ああ、それはな、リヴィオラを抱かせてもらおうと思ってきたんだ。」
ど―――――――ん。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「わ、わわ、若様!!こ、こと・・!足り・・!ごほごほ!お、おおおお、落ち着いてください!!」
「お前が落ち着け。何だ?何かおかしい事を言ったか?」
「言葉が足りなさ過ぎます!ヴィーは赤児ではないのですから!そ、そんな言い方だと!べ、別の意味にと、捉えられかねません!もっと!ちゃんと!!」
「だから、落ち着けガク。言い方が悪かったのか?・・・・・・わかった。ヴィー。」
「!!ふぁいっ?!」
「”抱っこ”させてくれ。」
魔狼のサイとイズモは、只今絶賛放置中。




