132. 春がどこかにやってきた (10)
132話目です。
ヴィーがウィステリア家のおっさん達にやらかして、当主に暇乞いしルーフェスの屋敷を出た後、俺ことクラウスとヴィーは王都中央に帰るために、近くの街で外街乗合馬車に乗ることにした。
しかし、帰りは歩いて王都中央に向かうつもりだったというヴィーの思考回路は、一体どうなっているのだ!
徒歩で帰るとして王都中央まで、いったい何日かかると思っているんだ!
外街乗合馬車で途中休憩2~3回を挟んだとして、時間にして最低約半日強はかかる。
1番早い始発の早朝出発に乗って行ったって、王都中央に着くのは昼も大分過ぎた頃だ。
午後出発の奴に乗ることになれば、途中の外街乗合の休憩所で1泊しなくてはならないから、良くて次の日の昼前に着くことになるのに!
とか思っていたら、今までのヴィーのほぼ移動手段は徒歩だった。
魔術とか自作の魔道具とかを使ってなのだろうが、基本は徒歩移動・・・もしかしたら走って、かもしれない。
徒歩で行くにしたってその日のうちに王都中央に着けるはずもないから、どこかで野営しなくちゃならない。
野営準備なんてしてきていないしな。
なのに準備もなし心の準備もなしでは・・・・はっきり言おう!
俺には、そんな芸当は無理です。
これでも一応貴族ではあるので、多少は武芸の心得はある。
鍛錬だって、毎日は出来ていないが・・・・それなりには・・・・やっているつもりだ。
運動不足で体がブヨブヨで体力もないでは、魔道具作製時に徹夜も出来ない。
魔道具作製は、最終的には根性と気力と体力が必要になるのだ!
魔道具作製は格闘技だ!・・・とまでは言わない、そうなるような魔道具作成も無きにしもあらずだ。
ヴィーの奴は、時々”普通”を著しく逸脱するところがあるが、それはもしかしてこのラフューリング王国の北区という他の東区・西区・王都中央の3区よりも過酷な環境の地区出身のせいなのか?(南区はまた別方向で過酷な地区なのだがここでは割愛しておく。)
北区については、土地の開墾などが進まないかなりの田舎で、極寒区とも呼ばれるほど寒いことぐらいしか知らない。
ロガリア学院に北区の者が学びに来ても、基礎科を修学したら帰ってしまう者が多いせいもある。
それは、北区の住民がほとんど平民だからかもしれない。
それを考えると、学院の専門科に進んだヴィーは、わりと特殊なのだろう。
外街乗合馬車に乗るのが人生2回目だとかで、随分と物珍しげにしていた。
特に馬車を引く魔力を持つ馬に興味津々な様子が、子供のようで微笑ましかった。
まあ・・・俺もヴィーも成人前ではあるので、本当に子供ではあるんだが。
学院で同じ魔道具科だということもあって、一緒に馬鹿なことをやったりと結構つるんでいることが多いが、普段は理性的な奴だという印象が強い。
・・・・・腹黒かったり、女タラシくさかったり、女タラシくさかったり!大事なことなので2回言いました!!俺が狙っているフローラを膝に乗っけたりするなぁ!彼女から乗ってきたとしても拒否してくれよ!フローラが傷つかないようにやんわり断ってくれよ!ってか、ぶっちゃけ羨ましいんだよ!畜生!!そこの場所変わってくれよ!!
はっ!落ち着け!落ち着くんだ!クラウス!!すーすーはーはーすーすーはーはー・・・・・
さてもとい、ヴィーは敵には容赦しなかったりするが実際はそれほど冷たい奴ではない、やんちゃな行動がたまに目につくが・・・・・基本的には理性的なんだろうと、思っている。
いや、思っていた。
あの時、急に馬車が止まってヴィーが様子を見に行き、何故か御者と共に馬車の中にいるように言われた。
その後に馬車ごと防御結界に包まれたが、何が起こったのか訳も分からずに、俺と御者には大丈夫だから出発するように促した。
だから、何が起こって解決して、何が大丈夫なんだってぇ話しなんだが。
あの時の黒いヴィーの様子に慄いてしまい、追求することも出来なかった。
何という体たらく!
その上、自分は野暮用が出来たと馬車を途中下車して、どこかへ行こうとしていたみたいだ。
「確かに俺じゃあ、頼りにならなかったかもしれないが・・・」
結局俺は1人で外街乗合の休憩所で1泊して、そこからまた昨日の外街乗合馬車に乗って王都中央を目指したわけだ。
あいつは、王都中央に帰って来ているのだろうか?
それとも、まだなのだろうか?
確かめようにも、ヴィーの借りている部屋の場所を知らないし、知っているスイゲツ達はまだルーフェスの家にいるのだろうから聞けないしで、もやもやしっぱなしだ。
このまま行けば、すでに王都中央の門が見えてきているので何事もなく、あと少しで王都中央に着く。
そう思って馬車の窓から顔を出して外を見ていたら、後方からもうもうと土煙が見えた。
何だ?あれは?
「御者さーん!何か後ろから来ますけどぉ―――っ!何かわかりますかぁ―――――――?」
俺の声に反応したのかどうか分からないが、御者が俺に応える前に馬が止まった。
「あー・・・何か来ますね~。人・・・みたいですけど。」
人?
あんなに土煙を上げて人が移動出来るのか?
どんどん土煙は近づいてきているよう・・・・って・・!
「えええええ―――――――――――――っっっ??!!」
ものすっげぇ怖い顔した人たちが、こっちに向かって走ってくるではありませんかぁぁ!!
何だ?!王都中央襲撃か?!門に常駐している警備兵は気づいているのか?!
と思って焦ってそちらに視線を向けてみれば、ぞろぞろと出てきて物珍しそうにしているだけだ。
って、暢気にみんなで見に来てんじゃねえよ!!
どどどどどどど・・・・!!
え?どどどどど?
って何?
3人しか俺には見えないけど、これって3人が走ってくる音じゃないよな?
そして、馬車に繋がれている馬が!馬が首をこちら側に向けて何やら威圧感を放っている!気がする!!
いや、警戒して緊張しているのかもしれない。
どっちにしても、こっちも怖ぇぇ!!
土煙がもうもうと立ち込めてはいるが、音はしなくなった。
しまった!怖くて目を瞑ってしまっていた。
恐る恐る目を開けてみると、先ほどの3人は門番と話しているところだった。
「・・・・・・」
何で、何事もなかったように普通に門番と話してるんだ!
怖がった俺が物凄く滑稽じゃないか!!
・・・・・・・超ビビってしまった俺が、めっさ恥ずかしい!!
よく見たら3人のうちの1人は、ルーフェスの兄貴のイザーク・ウィステリア様じゃないか?
あとの2人は・・・見たことがないな。
何だ、襲撃でも何でもなかったんだな。
・・・・・白い髪で褐色の肌の人は美丈夫だけど、イザークさまともう一人は普通にしてても顔怖いな。
それにしても、外街乗合馬車の馬・・・・・未だに警戒態勢を解いていない。
何で、あの3人を睨んでるんだ?




