128. 春がどこかにやってきた (6)
128話目です。
ウィステリア家の強面髭面筋肉集団に”洗濯”魔術での報復を終えたすぐ後に、マイカ姉を”番い”だというふざけた九尾の狐にそのままマイカ姉を掻っ攫われ、呆然として1日過ごした。
掻っ攫われたというのには、少し語弊があるかもしれない。
一応マイカ姉も納得して付いて行ったのだから。
でも私的には・・・・似たようなもんだ。
そうしたらイズモと、家に訪ねてきたマイク兄に私はマイカ姉に無自覚に恋をしていて、この出来事によって失恋したと自覚を促された流れになっている。
そっか、そーなんだぁー私はマイカ姉に恋をしていて、失恋しちゃってこんなに寂しいのかと、私も一度はそれでうっかり納得しかけて落ち込んじゃったよ。
だけど、どうもおかしい。
マイカ姉のことは本当に大好きだし、憧れてもいる。
それの恋人?となったクオという九尾の狐は、大変気に入らないのは確かなんだけど。
えーそりゃあもう、9本の尻尾を何本か削いでやりたいくらいには。
力の差があり過ぎて不可能なことは分かっているけど、思うくらいは自由だよ!
今、思い返してみると・・・・何で急に自分もマイカ姉に恋をしていたなんて思ったんだろう?
マイク兄とイズモに色々言われたのも、原因の一つかもしれない。
マイカ姉を取られたみたいな気持ちになって、すごく寂しくなったのは本当。
けどね、私はマイカ姉にキスしたいとかその他の性的欲求を覚えたことなんて・・・ないんだなこれが。
恋の全部が全部そこに直結するとは思わないけど、最終的にはやっぱりそういう所に行き着くと思うわけなんだな、恋って。
今までそういう欲求が自分の中で盛り上がってきたことは・・・・一度もない。
え?これって、私は初恋もまだってことになる?・・・・・そうかそうか、なるか。
か、枯れてるわけじゃないよね?多分・・・・じゃないかなぁ・・・・だったらいいな。
だったら・・・・・・・・・・・・そういうの、いつ来るのかな?私には。
もしかして、来ない?あーうん・・・・考えてもしょうがないかぁ、こればかりはねぇ・・・。
もしかして、あの時ダダ漏れしていたマイク兄の魔力のせい?
いやいやいやでも、いかに漏れた魔力に影響を受けるにしたって、あれは違うよね?
私が相当パニクっていて虚ろだったってことなんだろうなぁ・・・・理性がなかったというか疲れ果てていたというか。
それにしても、マイク兄の思惑は何だったんだろう?
まさかノリか?ノリなのか?
・・・・・良し、マイク兄が恋をした時には倍返ししてやろうじゃないか!
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ここは只今、薔薇の香りが充満するウィステリア家の客間です。
ヴィーがこの屋敷を辞したあとも、自分たちの状況に絶望しかかっている20人の強面髭面筋肉集団・・・・・長いなぁ、これ。
を慰めるでもなく放置したまま傍観すること1刻。
そろそろそれも飽きてきたんだけどなぁと、一応ルーフェスの父上のご当主様がいるので欠伸をルーフェスの影でしているのは、この僕、スイゲツ。
欠伸こそしてないけど、明らかに退屈そうな半目になっているロベルトは・・・・もしかして立ったまま寝ているかもしれない。
ルーフェスは、自分の家の事なので困った様子ではあるけれど、やっぱり口を挟めないみたいだ。
この状態だと、じゃあ僕たちはこれで!と退室できる雰囲気でもないし、どうしたもんだろう?
これからの女性に対する態度についてなら助言出来ても、以前にやらかしたことについては助言は出来ない。
だってウィステリア家の、一族全体のことになっちゃってるみたいだから口は出せないよね?
なんて、思っていたらそこへ休暇を取ってきたのか、イザーク様とガクさんという人が帰ってきた。
ご当主がこの客間にいるのを誰かに聞いて、旅装も解かずに挨拶に来たのだろうけど、入った途端に2人は顔を顰めて鼻を抑えた。
僕らはもう何だか慣れて麻痺したみたいになってるけど、薔薇臭いんですよね?分かります。
香ってるんじゃないよ、臭ってるんだよね。ってか、やっぱり臭い。
窓、開けたい、全開にしたい。
「父上、挨拶前で申し訳ないが、薔薇の香りがキツ過ぎます。窓開けます。」
おお!イザーク様!有無を言わさず実行ですね!
僕も僕も!僕にも新鮮な空気を!
「イザーク様、僕もお手伝いします。」
僕の言葉に続き、ロベルトとルーフェスも窓を開ける作業に加わる。
ロベルトをよく見たら顔色が悪かった。
寝てたんじゃなくて、薔薇臭くて気持ち悪くなってたんだな、気づかずごめん・・・吐くなよ?
全開になった窓から、サァ―――――――ッっと、心地よい風が客間全体に行き渡り、充満するしていた薔薇の匂いが散っていく。
暫し部屋にいる全員で深呼吸、すーはーすーはーすーはー・・・・・
「「「ふ――――――――――~~~~・・・」」」
イザーク様は一息つくと、スタスタと騎士らしい動きでご当主の前に行き挨拶をしていた。
「お久しぶりです、父上。少し用事がありまして、北騎士団より休暇を頂きました。こちらにも長らくご無沙汰だと思いたち、ご挨拶だけでもと寄らせていただきました。」
「うむ、健勝そうで何よりだ。イザーク。」
本当に久しぶりなんだろうなぁ、ご当主さまはとても嬉しそうだ。
少しの間近況などを話し合っていたようだけど、そこにいる20人の事は丸無視なのかな?
あの人たちは、イザーク様に話しかけたそうにしているけど。
一緒にいるガクさんは、戸惑っている顔はしててもイザーク様の一歩後ろで控えているだけだし。
「ところで、あそこにいる者たちはどうしたんですか?父上?」
「ああ、うん・・・実はな・・・」
ああ、やっと!という感じに期待に満ちた目がイザーク様に集中する。
「マイカに対する失礼なら、ガクより聞いております。もう一人の嫁候補の者もそうでなくなった事も含めて。」
「そうか、実はな、ルーフェスの学院の友人にマイカ嬢の身内がいてな、当たり前のことだが今回の事に酷く憤っておられて・・・・まあ、仕返しをされただけのことだ。お前が気に病む必要は・・」
「大有りです、父上。」
「・・・・・そうか、そういえば、かの2人はお前が探してきた者たちだったな、すまん。」
「それだけではありません・・・・・・ルーフェス、ロベルト、スイゲツ・・・・・ヴィーは、その、かなり怒っていたか?」
「はい・・・かなり。」
「仕返しに用意周到な準備をするくらいには・・・・」
「でも、仕返しというか報復というか・・・をして、気はかなり済んだようでしたよ?」
「・・・・そうか、そうである事を願いたいな。俺もちょっとしでかしているしな・・・・」
「「「若もですか?!」」」
急に強面髭面・・・・もう、おっさん達でいいや、が会話に嬉々として参加してきた。
・・・・イザーク様が何かしでかしているとかは、結構意外だな。ロイナス様なら分かるけど。
「お前も・・とはどういうことだ?」
あ、おっさん達無視された。
「・・・・何度も顔を合わせているというのに、あの子がリヴィオラだと気づきもしなかったんです。」
「あの子?とは?」
イザーク様が誰の事を指して言っているのか、全然分かってないなご当主。
これって、髪とか目とかの基本的容姿の情報も把握していないのか、単に”ヴィー”が”リヴィオラ”に結びつかないだけなのか・・・・どっちだろうな?
というか、やっぱりイザーク様分かってなかったのか・・・・まあ、劇的に変わってるしなぁ・・・主に身長とか顔つきとかが。
だから小さいヴィーに数回しか会ってなかったら、分からなくても無理ないと思うな。
ヴィー自身だって名乗ってなかったし、小さかったヴィーは割と可愛くて女の子に見えたけど、今のヴィーは凛々しい少年って感じだものな。
「ねぇ?ルーフェス、お父上に言ってなかったの?ヴィーがもう1人のウィステリア家元嫁候補の”リヴィオラ”だって。」
「あー・・・そう言えば、マイカさんの身内で学院の友人の”ヴィー・ショーノ”としか手紙には書かなかったな。でも家名が同じだし、それでマイカさんの身内といえば・・・分かってるとばかり・・・」
「何?!あの子が”リヴィオラ”?!だ、だが・・・こう言っては何だが、少年にしか見えなかったが・・?」
ああ・・・情報伝達内容に穴があったってことか・・・・報連相って大事だよね!
って、穴どころか穴だらけだよ!報連相って大事だよね!大事なことだから2回言ったよ!
しばらく家にいないので1週間前後更新が止まります~。




