126. 春がどこかにやってきた (4)
126話目です。
あああああああああああああああああ!!
って感じです。
何で、何で、なんで、ナンデ、あそこで泣いちゃうんだ、自分。
拗ねて、泣くなんて・・・・・子供か?!
・・・・・・・いや、子供なんだけども。
あれだよね。
将来的には、マイカ姉だってマイク兄だって、そのうち結婚するから今まで見たく可愛がってくれたり、付き合い方が多少なりともお相手優先になるのも分かっていたというか、覚悟はしていたんだけど。
実際は覚悟なんて出来てなかったことが、分かってしまった自分が情けないやら、恥ずかしいやら・・・!
でもそんな予兆とかも何にもない、予想もしていなかった方面から突然相手が現れて。
こっちが心の準備する間もないなんて、どういうこった?!
番い?番いシステムが悪いのか?!この憤りはどこに向ければ良いんだ!
・・・・・誰に言えば分からないけれど、小一時間くらい説教したい気分だ!
と、八つ当たりな思いでグルグルです。
「ヴィー・・・・なに悶えてんの?」
ぎゃわう!見られた!
憤怒とか羞恥とでごっちゃごちゃな感じで、ベッドの上をゴロゴロしていた所をイズモに見られてしまいました!
ごめん!今、返事出来ません!もう少し私に時間を下さい!
あの時ボロボロ泣き出した私を、ずっと尻尾で慰めてくれていたのはイズモだった。
諌めるでもなく、言葉で宥めるでもなく、ポンポンポンと子供をあやすようにしていてくれた。
あのままあそこにいるわけにもいかずに、私を背に乗せて王都中央の近くまで送ってくれた。
でも、私がイズモの尻尾を離さなかったので、人型になって家まで連れてきてくれたわけだ。
そこまでなら!そこまでだったなら!
ごめんね、迷惑かけた、ありがとうで済んだかもしれない。
まだグズっていた私は、イズモに魔狼に戻ってもらい、モフモフした毛皮に埋まって一晩過ごした。
子供どころか幼児か―――――――っっ?!
どんだけ、だだをこねたのか!
一晩経って、冷静さを取り戻した時の私の恥ずかしさは、半端ない!!
思わずベッドの上でノタウチ回ってしまうほどだ。
しかも現在進行形で!
「ヴィー?大丈夫か?まだ・・・・毛皮に埋まりたい?」
「!!」
何てことを言うんだ!イズモ!
心情的には埋まりたいけど!これ以上は、甘えられないよ!
「無理しなくてもいいぞ?ほら。」
イズモが魔狼の姿のまま横たわって、尻尾で自分のお腹辺りをポンポンと指し示してくる。
なんという誘惑!
真っ白いふっわふわの毛並みが、おいでおいでおいでと誘ってくる。
「おいで?」
「・・・・・」
ぽすっとな。
負けちゃいまいした。
よたよたとベッドを降りて、ぽてぽて歩いて、ふわふわの毛並みに埋もれてしまいました。
またしても、尻尾で体をぽんぽんされてます。
「・・・・大好きな人が、突然自分よりも大切な相手が現れて・・・行ってしまったら、寂しいよな。」
そんな事をポツリとイズモが言った。
「・・・・・」
ああ、そうか。
私は・・・・・・・寂しくなってしまったのか。
寂しくて、悔しかったのかもしれない。
「・・・・実はさ俺の母上にも”番い”現れちゃってさ、俺の前からいなくなった。その時俺はまだ小さくて訳がわからなくて泣きに泣いちゃってさ・・・・兄上や姉上がこうやって・・・ずっと、傍にいてくれたんだ。泣かなくなるまで。父上は・・・母上を死んだものとして今では位置づけてる。」
ポツポツと話す言葉をモフモフしながら聞く。
希な”番い”は彼の母親の身にも現れていたのか。
イズモも寂しい思いと悔しい思い、何故?どうしてと憤った経験があるんだね?
何故、イズモの言葉がこんなにもストンと入ってくるのか?
状況は違うけど、私の気持ちを察してくれているからなのかな?
「ごめん・・・・私、甘えん坊だね。」
「・・・・・・いいじゃん、たまには。甘えん坊でも。」
「いいの?」
「・・・お前、14歳だったっけ?それなのに、一人暮らしなんだろ?頼りにしてた人が急に自分よりも大切な奴を見つけてそっちに行っちゃったら、寂しいのは当たり前だろが。」
「・・・・うん、ありがと。」
昨日よりは、大分落ち着いた気がする。
気持ちが落ち込み気味の時の温もりのあるモフモフは、癒し効果絶大だよね。
甘えたな状態ってことは、自分でも重々分かっているから、あともうちょっとだけ。
モフモフさせてくれ!
イズモのモフモフを堪能したまま寝入ってしまったその日の夕方に、マイク兄が訪ねてきた。
ウィステリア家に向けて王都中央を出たばっかりで、帰っているかどうか分からなかったが、一応来てみたらしい。
魔狼姿のイズモが私の部屋にいることに驚いたようだが、挨拶をしただけで深くは聞かなかった。
「あれ?えらく気分が沈みがちだね?ヴィー?」
「あーうん・・・・」
心配そうに聞いてくるマイク兄に、お茶を濁した返事しか返せない。
そこへ、イズモが爆弾発言をかました。
「ヴィーは失恋して傷心中だ。」
「?!」
ガバリとモフモフから体を起き上がらせて、咄嗟に声が出なかったので何を言うんだとイズモを睨んだ。
「失恋?・・・・・・・・何?マイカに恋人でもできちゃったか?」
「!?」
マイク兄からも思いがけない言葉が出た!
火が出そうなくらいに顔に熱が集まっているのがわかる。
失恋?!私が?マイカ姉に?!
「な、何・・・ど・・・!?」
「あーやっぱり、そうだったか~・・・・」
イズモが嘆息した。
「うっ?!」
「あれ?もしかして自覚なしだったのか?ヴィー?」
「・・・え!?・・・そ、なん・・・!!」
「何でってか?そりゃあ・・・マイカに対しては妙に素直だし。マイカに何かあったりした時の感情の振り幅がお前にしてはかなり大きいし。で、自分が今は中性で、将来的には男にもなれるんだと分かったら、やることも極端になり気味になってきただろ?」
「・・・・!!」
顔は物凄く熱いし、涙がまた出てきそうで、悔しいことに何も反論する言葉が出てこず俯くしかない。
体がプルプル震えてきた・・・。
何を言うんだ、し、失恋って!そんなこと!
「~~~~~~・・・・・」
自覚って何だ。
自覚って何だ。
自覚・・・・・・しても既に手遅れで、失恋じゃん。
失恋した後に、気がつくって最悪じゃないか。
・・・・・・・・・・・・・・・好きだなんて。
もう・・・・・撃沈だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・寝る。」
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さっきまでイズモと一緒に寝ていて起きたばかりなのに、ふて寝を決め込んでベッドに再び入り布団を頭から被ってしまったヴィーを眺めていたイズモとマイクは、今はそっとしておこうとテーブルのある台所に移動した。
心配そうに寝室に視線を送りながらも、そう言えば食事をしていないなぁなどと考えていたイズモに、マイクが話しかける。
「イズモも気がついてたのか?ヴィーがマイカの事姉以上に見てるって?」
「あ~・・・確信はなかったけど。何となく?姉弟子ってことだけじゃあ・・・・あんな事にならないかなぁっと。」
「あんな事?」
イズモは、昨日偶然マイカに会った時に、自分に同行していた自分ん家の隣に住むクオという魔獣に”番い”として認識され、びっくりしたのか敵わないと思ったのか不明だが逃走した。
その後をクオが追った。
更にその後をイズモが追っていたが、途中で王都中央に向かっていたヴィーにイズモが捕獲され、何故マイカが逃げ、何故それをクオが追っているのかを話し、ヴィーも加わって後を追うことになった。
2人を見つけた時は暫く様子を見ていたが、見つめ合ったまま微動だにしない事に痺れを切らしたヴィーが”洗濯”魔術を放ち、我に返った2人に話しを聞いてみたのだが・・・・と経緯を順繰りに話した。
「今思い返してみると、クオさんには最初っから敵意剥き出しだったんだよなぁ・・・・”番い”がどういう状態になるのか説明はしてあったんだけど。マイカさんが少しでも拒否したら勝ち目はなくても戦うつもりでいるのが丸わかりだったし・・・・・ヴィーの奴、あんなに好戦的な性格じゃあないと思ってたから、もしかして、そうなのかなっと・・・・」
「へえ~そう?・・・まあ、確かに表面化してきたのは自分が中性で、望めば男性になれるとわかった頃からだからなんだよなぁ。最近ちょくちょくそういうマイカの恋愛的な?話しがあってさ。」
「そうなんですか?だからあんなに色々黒かったのか・・・・」
「本人無自覚っぽかたけどな、さっきまで。そっかぁ・・・・マイカに番いかぁ・・・ってあれ?魔獣?!」
自分の双子の姉のことなのに、結構大事なことに今更気づいて聞き返した。
「今気がついたんですか?人間にも”番い”みたいな運命の相手みたいなものってあるんですか?」
「・・・・・・聞いたことないけど。”魔獣の番い”って人間でもOKなの?」
「普通の魔獣にはないと思いますよ?高位の魔獣だから、人間でもOKなんじゃないですかね?今回のマイカさんの事を思えば・・・・”番い”を見つけることが出来る確率自体がものすっごく低いんで、本当のところは分かりませんが?」
「ちなみにそのクオさんとやらは・・・・何の魔獣なんだ?」
「銀色の毛色の九尾の狐ですよ?・・・・そう言えば自分で天狐って言ってましたね。」
「天狐?!神獣レベルじゃんか?!あれ?でも、天狐って尻尾4本じゃなかったか?9本持ってる天狐もいる?・・・・まあ、いいか!ということは、この世界には妖怪系の魔獣もいるのか?!ぬりかべとか小豆洗いとか目目連とか鎌イタチとか!!一反木綿とか?!麒麟とか白澤様とか?!」
「・・・・・・妖怪系の、って出てくる名前がヴィーと丸かぶりってどういう事っすかね?言っときますが知らないですよ?九尾のクオさんしか。ってか聞いてもいいですか?何で白澤だけ”様”づけなんですか?」
「天狐って1000年生きないとなれないんだよな?天狐がいるなら空狐もいるのかな・・・それにしても、マイカってば人外にはモテるんだな・・・・・」
「・・・・・スルーですか・・・・」
なんだ、この質問には答えてはいけない線引きでもあるのか?とも思ったがさして重要ではない。
まあ、いいかと思い直したイズモは、ずっと気になっていた事の方を聞いてみることにした。
「マイクさん、さっきからずっと気になってたことがあるんですけど・・・」
「何?」
「無自覚なヴィーにマイカさんに恋心を抱いてたのを自覚させて、失恋をも自覚させたのは何でなんですか?大切な姉弟子を取られて拗ねた状態でも問題なかった気がするんですけど・・・?」
「何言ってんだよ、ちゃんと恋心を持ってたって自覚しなきゃ、ちゃんと失恋出来ないだろ?」
「そうですか?そこまでしなくても良かった気が・・・・・・」
「だめだよ、ちゃんと区切りをつけないと次に進めないじゃないか。」
そう言うとマイクは、ずいっとイズモに顔を近づけて目を見据えて更に低い声で続けた。
「ヴィーが男になろうと女になろうと、このまま中性のままでいようと。たとえマイカに恋心を抱こうと、どっかの強面の筋肉野郎に憧れようとも。どんなに寄り道をしたとしても。最終的には・・・俺のものなんだよ。」




