115. もうすぐ春です (3)
115話目です。
ラフューリング王国の精霊の街を魔狼のイズモとイズモの父のサイ、そしてお隣さんの九尾の狐のクオは訪れている。
例によって例のごとく、精霊たちによる街の客人になるための試練?という名の歓迎の戦闘が繰り広げられたが、サイとクオを相手に四半刻と持たなかった。
ラヴェンター皇国では、クオは気ままに暮らしていたためにそれほど不満はない様子だったが、国での仕事が机上の物が主だったため体が鈍り気味であったサイは、短時間の戦闘に物足りなさを感じ少々イラついていた。
そこへ、この国の精霊の街の長キミドリの求婚をあっさり蹴ったマイカの事を聞くないなや後を追いかけ殺気と威圧を叩きつけ、身の程知らずと罵り、怯えるマイカに2度と精霊の街を訪れることを許さないと厳命した。(とサイは思っている)
マイカに文句を言ったことで溜飲を下げイラつきを解消し、意気揚々と精霊の街に戻ってきたサイを待っていたのは、冷気漂う息子イズモの瞳と言葉だった。
「父上、お帰りなさい。」
よく見れば項垂れて先刻会った時よりも、更に落ち込んでいるキミドリまで、正座している。
側近のチャチャまでも。
クオは、少し離れた所で傍観を決め込んでいる。
訳のわからない状況に、怒りを息子に向けるサイ。
「イズモ!キミドリ殿に何をさせているのだ?!」
「反省して貰ってます。それで?父上は、ここを出た後何をしてきたのですか?」
「私は人間の小娘に、如何にキミドリ殿に無礼を働いたのかを知らしめて・・・」
「父上、キミドリ様の隣へ、正座しなさい。」
サイの言葉を遮った。
「イズモ・・・!お前どうしたのだ?!キミドリ殿もチャチャも何故、こやつに従ったりしているのだ?!」
キミドリが俯きながら答える。
「反省を・・・しているのです・・・」
「何を反省しているのですか?!それがこの座り方とどういう関係があるのですか?」
「つべこべ言わずに人化して、正座しとけ!」
クオが離れた所から、魔術を放ち強制的にサイを人化させ、自分の尾をビョウンと伸ばして使いサイに足払いをかけ、正座させた。
更に正座を崩させないように尾で押さえつけている。
「ぐぬぬぬ・・・!クオ!貴様・・・!」
同じ褐色の肌に白い髪。
真っ青な瞳を怒りに染めたサイと冷たい輝きを放つイズモの目と目が交差する。
「父上、人間という種族について、どの位ご存知なんですか?」
「は?人間の事など知るわけがないだろう?!この国に来たのは初めてなのだから!」
「知識としてはどうですか?」
「知らん!この何やら屈辱的な格好を辞めさせろ!勿論、キミドリ殿とチャチャもだ!」
「キミドリ様とチャチャさんは、納得してその形で反省しているのですが?」
「・・・!何故だ!訳を言え!拘束を解け!クオ!」
怒りの視線を向けてくるサイに、肩を竦めて応じない。
「父上、人間という種族の平均寿命は・・・この国では60~70歳。頑張って生きても100歳が限界寿命なんですよ。」
「は?・・・・何だそれは?随分と短命だな?ラヴィンター皇国のエルフたちの寿命は大体300~500年だろうに・・・・」
ずいっとサイに顔を近づけるイズモ。
「では、そこで問題です。頑張って生きても100歳前後が寿命の人間に”200年経ったら結婚しましょう”と伝えたとして・・・・それは、可能だと思いますか?」
頑張っても寿命が100歳前後なら、200年たったら確実に墓の下だ。
ならば、200年後に婚姻などは、到底不可能だろう。
「・・・・・不可能だな・・・・」
「・・・・・では、その不可能な求婚の言葉を言われたら、どう、思うと思います?」
「・・・・・・・・・・・」
返答に詰まり眉間に皺を寄せる。
「1、冗談だと受け取る。
2、何かの試練。
3、遠まわしに嫌われている。
・・・・・どれだと思います?マイカさんは、”1の冗談だと受け取る”を選択したんです。かなり好意的な方だと俺は思います・・・まあ、その返しの言葉はちょっとアレですが。」
「・・・・・そうだな”お前が死んだら結婚してやろう言われた”と悪く解釈もしようと思えば出来るからな。」
「・・・・ええと、もしかして私は、しなくていい説教とかをしてきたのか?」
「説教・・・?もしや、言うだけじゃ飽き足らず攻撃をしてきたわけじゃないですよね?」
「!まさか!サイ殿!我が愛しのマイカに何か・・・?!」
「い、いや!文句・・・いや!説教だけだ!」
「具体的に父上はマイカさんに、何と言ってきたのですか?」
「『たかが矮小な人間の小娘の分際で身も程を弁えず!この国の精霊の街の長たるあの方の、次代が育つ200年後に結婚しようという真摯な求婚を、”やだな~!とても待ってられません~お断りします!”などという軽い言葉で蹴りおって!お前のような輩に精霊の街の客人たる資格はない!二度とあの街に近づくことはこの私が許さん!次に訪れようものなら私が八つ裂きにしてくれる!しかと覚えておくがいい!!判ったか?!努努忘れるでないぞォォォォォォ――――――――・・・・・』と。」
「馬鹿じゃねーの。」
「な、何と・・・マイカにそのような事を・・」
「はぁ~・・・・」
クオは呆れ、キミドリは顔を青褪め、チャチャは嘆息した。
イズモは怒っている。
「・・・・そうですか。キミドリ様の言葉だけなら、質の悪い冗談でしたと謝れば元の関係に近い状態まで修復可能だったかもしれないのに・・・父上は完璧に壊して来たんですね?」
「うっ!し、知らなかったのだ!人間が100年前後の寿命しかない短命な種族だとは!」
「その、よく知りもしない相手に、ちゃんと状況を把握せずに、暴言吐いてきたんですよね?」
自分のイラつきを、八つ当たりのような事をすることで解消しようとして、庇おうとした者を逆に窮地に追い込んでしまったことに申し訳なくなり謝罪した。
「・・・・うう・・・すまん、キミドリ殿。」
「・・・・いえ、私がうっかり、マイカが人間だという事を失念していた事が、そもそもの発端なのです。自分の気持ちのみで先走った・・・私の咎です・・・・・・・もう、二度とマイカには、会えないのですね・・・・・・・・・ああ・・・」
空気がどんどんどんどんと、どんよりしていく。
気のせいではなく、実際に部屋の空気が澱みだし、キミドリの髪が色が黒みを帯び、体の色もくすんできた。
「!?キ、キミドリ様!しっかりなさってくだされ!お気を確かに!!」
「ど、どうしたのだ?!キミドリ殿?!何かドロドロしだしたぞ?!」
サイがギョッとして正座を解いて飛び退こうするが、クオが押さえつけているので動けない。
キミドリの体が形を保っていられなくなったのか、徐々に粘り気を帯びたドロっとした液体に変化しつつあった。
「お気を確かに!キミドリ様!このままでは・・・元の宝石に戻られてしまいます!」
「・・・チャチャ・・・自分の愛する方を深く傷つけ・・・謝ることも出来ず、このまま・・会えなくなってしまうのなら・・元の・・ただの石に戻ってしまいたい・・・・」
ドロドロドロと体ばかりか、思考までネガティブになって行く。
「ま、待ってくだされ!キミドリ様!その石から1万年!叩き上げで精霊の街の長になるまでに力を付けた、これまでの努力を無に帰すおつもりか!!お願いです!儂も考えます!他にも何か方法があるはずです!どうか!どうか!諦めないで下され!!」
ただの石から生まれて、一万年の叩き上げ?!
キミドリ様、まさかの成り上がり精霊?!
というか、それって努力でどうにかなるものなのか?
思ってもいない方向へ展開している場に混乱しつつも、そんな事を考える。
いやいや、今はそんな事を考えている時ではないと頭を振るイズモ。
(マイカさんが普通?人間である事をうっかり忘れて、200年後に結婚しようなどと迂闊に言ってしまったキミドリ様に、ちょっと反省して貰いたかっただけなのに。
マイカさんとキミドリ様との仲を完全元通りとはいかないかもしれないが、関係修復の一助になろう、と一役かって出ようとも思っていた。
それなのにその前に、追い打ちを自分の父親が仕掛けてきてしまい、おそらくこの精霊の街には、もうマイカさんは自分からは来ないだろう。)
キミドリの体の溶解は留まらず、人型の形をどんどん失っていく。
もはや、綺麗な黄緑色はどこにも見当たらない。
所々黒ずんだ、濃い緑のドロドロとした物体Xっぽいものになっている。
「キミドリ様!キミドリ様――――――っっ!!」
それを為す術もなく、ただ見守る中、チャチャの声が響いていた。




